皇歴2009年 神聖ブリタニア帝国 ペンドラゴン皇宮
神聖ブリタニア帝国第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、現在母マリアンヌと共にインバル宮を訪れていた。
「母上。どうして今日は、インバル宮へ行かれるのですか?」
「今日は、ビスマルクに用があるの。用のついでにルルーシュに稽古でもつけて貰おうと思ってついて来て貰ったのよ」
「えっ」
マリアンヌの言ったことを理解するのにルルーシュは時間がかかった。
ビスマルクとは、帝国最強と言われるナイトオブワン『ビスマルク・ヴァルトシュタイン』の事だろうかと考える。ナイトオブワンに稽古をつけて貰うとは、一体どういう事だろう。まさかそう言う事だろうか。
ルルーシュは、自他共に認める運動音痴だ。体力の無い温室育ちの萌やしっ子である。弟のレレーナ・ヴィ・ブリタニアと妹のナナリー・ヴィ・ブリタニアは、母に似てその年にしては体力があり運動能力も才能もある。しかし兄であるルルーシュには、体力が無く運動能力も決して高いとは言えない。だがその代わりルルーシュは、弟や妹以上の頭脳を持ち合わせている。その為他の皇族の中でも将来は、有望であろうと思われ期待されているのだ。まぁそれが反ヴィ家の皇族貴族にとって反感を抱く一つの要因となっているのだが…。
そんなルルーシュにマリアンヌは、ビスマルクと稽古をせよと言っているのだ。ルルーシュは思う、僕は今日が命日となるかもしれないと。
「レナ、ナナリー。僕は、二人の幸せを何時迄も願っているよ」
ルルーシュは、此処にいない二人の弟妹への最後の言葉よろしく二人の将来を案じる言葉を呟く。
「…何言ってるの貴方?」
そんなルルーシュを見て首を傾げるマリアンヌ。
マリアンヌとしては、たかがビスマルクとの稽古。そんなに気にする事は無いと思っているんだが、それは元同僚であるから言えるという事に意識がいっていない。ナイトオブラウンズは、ブリタニアでは一種の憧れの存在なのだ。ルルーシュにしてもそれは同じで、最強の称号に憧れる人は万国共通で沢山いる。ただマリアンヌには、それが理解できなかったようだ…。
「ビスマルクと稽古などした暁には、僕は死んでしまっているのではないかと…」
「大丈夫よ!貴方お兄さんなんだからレナとナナリーを守れるくらい強くならなきゃ」
「それはそうですが…」
そんな事をルルーシュとマリアンヌが話していると、二人は目的の部屋に到着する。部屋をノックして許可を得ずに入室するマリアンヌ。それを見てそれで良いのかと驚いてしまい動けなくなっているルルーシュ。始めこそ突然の入室者に対して警戒をしていた部屋の主は、そんな二人を見て苦笑いを浮かべる。
「来たわよビスマルク」
「マリアンヌ様、まだ返事もしていないのに入室されたら間違って斬りかかってしまい兼ねませんので、せめて返事を待って頂けませんか?」
「あら、貴方に斬りかかられても避ける事ぐらい訳ないわ!」
「マリアンヌ様は、大丈夫でもルルーシュ殿下はそうはいかないでしょう」
「大丈夫よ、貴方がそんなミスをする筈ないですもの」
「…ご信頼頂き光栄です」
帝国最強と名高いビスマルクですら母上には形無しだ。それどころかビスマルクは、母上と話していると仕方ないと言うか達観している様な雰囲気を醸し出しながらどこか嬉しそうにしているんだよね。何でだろう?
「それでマリアンヌ様、本日はどのような用向きでございましょう」
「ルルーシュに稽古を付けて欲しいのよ」
ビスマルクが母上に訪問の理由を問うと母上は、あっけらかんに答える。そして母上の答えを聞くとビスマルクは僕の方へ視線を向ける。それは優しさのある視線ではなく、此方を探るような見極めるような視線だ。
「お、お願います。」
「あら、ルルーシュ。そんなに畏まらなくても良いのよ?ただのビスマルクよ?」
母上。ただのビスマルクは、帝国最強の騎士ビスマルク・ヴァルトシュタインですよね。何処に畏まらなくていい理由がありますか?ビスマルク相手にそんな自然体で居られるのは、帝国広しと言えど母上だけでしょう。
「マリアンヌ様。私はこれでも帝国最強の騎士“ナイトオブワン”ですよ?ルルーシュ殿下の為を思えば、先ずは基礎訓練を御自ら成された方がよろしいのでは?」
「ダメよ。まだナナリーも幼いし、レレーナの悪戯にも手を焼いているのよ」
いや母上。ナナリーの基本的な面倒は僕とレナが見ていますよ?レナが悪戯に夢中なのは事実だが、母上はむしろそれを後押ししていますよね!?
「マリアンヌ様、貴方がレレーナ殿下の悪戯に助言をしている事は、このビスマルクの耳にも届いておりますぞ」
「あら、何の事かしら?」
母上、流石です。ビスマルクに睨まれて微笑みで返すなんて、僕には出来そうにありません。そしてビスマルク、母上に微笑まれて頬染めるのはどういう事だ…。
「…はぁ。仕方有りませんな、このビスマルクがルルーシュ殿下だけでも一人前の男に仕上げてご覧に入れます!!!」
何故かビスマルクが訓練にヤル気になった。なってしまった。どうしよう、僕は明日生きていられるだろうか…。
あとビスマルク…レナも可愛いけど男の子だからね。はぁ。
この後、ビスマルクに日頃のレナや母上の悪戯の鬱憤を晴らすかのような猛特訓をさせられ、心身共に疲れ切ったのは言うまでもない。
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皇歴2017年 エリア11(旧日本国) トウキョウ アッシュフォード学園
アリエスの悲劇が起きて俺とナナリーが、レナと引き離され日本へ来てから7年が経過した。この7年間色々な事があった。
日本へ来てすぐに親友とも言うべき存在、日本国最後の総理大臣“枢木ゲンブ”の一人息子“枢木スザク”と出会い、そして戦争によって引き離された。最初は嫌な奴で暴力的な奴だと思っていたが、共に過ごす内に真っ直ぐで優しく相手を思いやる事の出来る奴である事が分かり距離が縮まった。目と足を不自由にしているナナリーにも嫌な顔一つせずに良くしてくれて、信用のできる奴だと思った。
だけど俺の祖国である神聖ブリタニア帝国が日本へ宣戦布告を行い、日本は1年も保たずに降伏する事となった。その際にスザクの父枢木ゲンブが自決した。俺とスザクとナナリーの3人で戦火の中を逃げ延びていたのだが途中でスザクと引き離される事になり、俺とナナリーは
今の俺には、最愛の妹一人守るのもアッシュフォードの力を頼らざるを得ない。もう一人の最愛の弟に至っては、アリエスの悲劇以降会う事も叶わず守ってやる事はおろか一緒に遊んだり食事をしたりすると言った些細な事もしてやれない。それどころか弟は、俺とナナリーがエリア11・日本で生きている事すら知らないだろう。兄として本当に申し訳ないと思っている。唯一レナが自分で生きている事だけが救いだ。側によく分からない奴を置いている事は別だが…。
自分が弱い事を痛感させられる現実に嫌気が差すが、それでもナナリーだけは何としても俺が守ると決めている。例えそれ以外の全てを賭けたとしても、ナナリーだけは俺が守る。守れなかったレナの分まで俺が…。
「ルルーシュ!黄昏てないで早く決めてちょうだい!!」
突如俺にそう言ってきたのは、俺とナナリーを保護しているアッシュフォード家のご令嬢であり私立アッシュフォード学園高等部生徒会会長である“ミレイ・アッシュフォード”その人である。煌びやかなブロンドヘアに青い瞳、豊満かつ健康的な肉体を持つ、100人の男に聞けば全員が美女であると答えるであろう美貌を持つ女性。彼女の明るく愉快で先の読めない発想は、俺の日陰暮らしで憂鬱とした思考を転換してくれる。その上俺を元皇族と知ってなお、生徒会副会長として扱き使う彼女の物怖じしない性格は確かに俺の精神を助けてくれている。
だが––––––––––––––––
「…会長。これどう見てもお見合い写真ですよね?しかも会長ではなく、俺へのお見合い写真ですよね?貴族令嬢ばかりですし」
「そうよ!あんたの将来の伴侶を決める写真集よ!」
「会長!俺は公式的には死んでいる事になっているのに、お見合いなんて出来るはずないじゃないですか!?」
「勿論分かっているわよ!でも何時迄もここには居られないでしょう?あんたもう高2よ!?あと1年で卒業する事になるじゃない。お祖父ちゃんだってもう歳だし、うちの親はあんたの事教えられてないし…。」
「…まさかルーベンの体調でも悪いのか?」
「いえそんな事は無いわ」
ならどうして今お見合いの写真なんて持ってくるんだ。俺は結婚するつもりなんて無いのに。ナナリーを側で支え守って行くつもりなのにどうして。うん、断固として拒否だ!拒否一択だ!!!とするとどうやってこのお見合い写真攻撃を収めるかだが、下手に断り続けるとお見合い写真がナナリーの下へ行く事になるかも知れない。それを防ぎながら俺への写真攻撃をやめさせるには…。
そもそも何故こんな事が始まったのか、考えられる事は幾つか思いつくが、情報が足りない。
「ほら眉間にシワが寄ってる」
そう言ってミレイは俺の額を人差し指で突いてきた。
「そんなに難しく考えなくても良いわ。お祖父ちゃん曰く、これはあんたとナナリーとアッシュフォードの為らしいよ」
「俺とナナリーとアッシュフォードの為?」
確かにお見合いが成立すれば、アッシュフォードは俺とナナリーを隠し続ける必要がなくなりその上で結婚先の貴族に俺を紹介したという恩を着せる事ができる。俺は日の光の下堂々と力を発揮出来るようになり、かつ貴族の後ろ盾を得る事で政治的な駒になるリスクを避ける事が出来る。だがナナリーには、いったいどんなメリットがある。俺が公の場に姿を現せば、必然的にナナリーも連れて行かれるだろう。貴族の後ろ盾が、俺と俺の結婚相手の二つだけではナナリーをあの皇帝から守る事は出来ないだろう。それではダメだ。
これの一体何処がナナリーの為だと言うのだ!?
「ルルーシュ。貴方何か勘違いしてるんじゃ無い?」
「勘違い?」
「お祖父ちゃんが、貴方と結婚させたいのは私よ!私!ミレイ・アッシュフォードよ!」
俺と会長?
「貴方が下手に公に復帰させたら、うちは貴方の生存を知っていながらそれを故意に隠蔽した事になるのよ?そんなリスクのある事をうちは望まないわ。だから私と貴方を結婚させたいのよ」
「なら何でこんなお見合い写真を…」
「結婚相手くらい自分で選びたいでしょ?」
「そう言うことか…」
ルーベンとしては、アッシュフォードが俺とナナリーの生存を隠蔽した事を隠しておきたい。だが何時迄も俺とナナリーを囲うのも限界がある。自分が死んだ後の事を考えて、俺をアッシュフォードに取り込もうと言う算段なのだろうと考えをつけた。だからわざと俺が嫌がりそうな貴族との縁談を多く持ってきて、俺が全てを拒否した後にミレイとの婚約を提示するつもりだったのだろう。そうすれば俺が妥協してミレイと婚約すると考えたのかもしれない。
俺としては、何時迄もアッシュフォードに囲われているつもりは無いのだがルーベンはそれを知らないのだ。それにルーベンとしては、レナとの関係もある。
レナは、今やオデュッセウスやシュナイゼル、ギネヴィア、コーネリアなどそうそうたる面々と共に名を連ねる次期皇帝候補の一人なのだ。俺やナナリーのことで、レナの機嫌を損ねたくは無いのだろう。ただでさえアリエスの悲劇以降アッシュフォードとヴィ家は疎遠になっているのだから。だが、俺やナナリーを使えばレナに取り入れるかも知れない。ルーベンならいざ知らず、ミレイの両親の技量では俺たち兄妹を利用せずにレナに近づくのは無理だ。その為に俺とミレイを婚姻させヴィ家との繋がりを確かなものにしたいのだろう。
「ルーベンは、そんなにレナとの関係を重視しているのか?」
「レレーナ殿下?私はそこまでは聞いていないわねぇ。殿下の話は1年ほど前に本国で開催された戦勝祝賀会でお会いした時くらいよ?」
「あぁ、E.U.侵攻作戦の祝賀パーティーか」
「そう!それ!流石に軍人に文官、貴族院議員、貴族、大企業の重役なんかが一杯来てたわ。流石次期皇帝候補って言う感じね。まぁ本人は、挨拶もそこそこに三人掛けのソファーで横になってゲームしてたけど」
何をやっているんだレナ…。まぁだが、元気にやっているようで何よりだ。
数年前に意識を取り戻して直ぐに、ボワルセル士官学校へ入学し2年で飛び級卒業をして話題になった。11歳の子供が士官学校を卒業した事もそうだが、何より士官学校で多くの伝説を残して有名であった。上級生の傾きかけていた実家を救済しその上級生と友人になってあげたり、自身に対抗心を持った大貴族の子弟がKMFで事故を起こしそうになった際にコックピットから救助したり、同級生一同に渾名を貰い敬意を持って接せられてたりと、あの子は本当によくやっている。
「あんた本当にブラコンシスコンよね。殿下の話はそんな可愛いものじゃ無いでしょ!士官学校のタチの悪い上級生の実家の企業の株を買い占めて上級生を下僕のように扱ったとか、ヴィ家と敵対していた大貴族の子弟とのKMF模擬戦で相手をコックピットから引きずり出したりとか、同級生全員から
「え!?」
「え!?じゃないわよ!あんた普段クール系のイケメンキャラを装っていながら、弟妹に関する事になるとボケキャラになるのは何なの!?」
「やだなぁ会長。俺は、レナとナナリーの事でボケた事など一度もありませんよ」
「無自覚なのね…。」
なぜか呆れられたような眼差しで此方を見てくるミレイ。一体なんなんだ。
「…そう言えば、レレーナ殿下と言えば自分のした悪戯を他人のせいにするのが上手だって噂を聞いたのだけれど」
「あぁ、レナにはそういった才能があったからな。実際それで俺やナナリーに対して嫌がらせをしていた貴族たちの婚約が破談になったり、取引が中止されたり、直接命を狙ったりと色々起こしていたが、結局ビスマルク以外にはバレていなかったよ」
「寧ろナイトオブワンにしか気付かれなかったのが凄いわ」
そうレナにはそういった才能があった。その才能があったからこそあの皇帝の直属の機関である“機密情報局”へ入局できたのだろう。正直レナがあの男の直属の部下となったのは業腹だ。しかしレナがその才能を持ってあの帝国の中で生きていけている事は嬉しく思う。それに最近では、軍属にもなったようでエリア総督を任せられるようになったのであの子の事を知る機会が増えたのは僥倖だった。と言っても機情局の副長官と兼任で総督の方は、代理執政官を置いてほぼ一任しているようだが…。
「道理であれだけの功績を残せるはずね。それだけの才能があればアゼルバイジャン侵攻作戦からE.U.侵攻作戦なんかも出来るわけね」
「…そうですね。弟が戦地に身を置いているのは複雑ですが、あの子が上手くやれている様で安心しています」
俺がそう言うと対面の席に座っていたミレイは「そう」と言い、酷く穏やかな優しい笑みを浮かべていた。不覚にも一瞬見ほれてしまった。
「じゃぁ早くお見合い写真見ちゃいましょ!」
「何が「じゃぁ」なんですか、全く。」
俺は、ミレイにせっつかれていそいそとお見合い写真を開いては閉じ開いては閉じといった作業を繰り返す。なんでこんなに多くお見合い写真が送られてくるんだ。俺はそんな事を考えながらミレイと共にお見合い写真を処理していく。
この時俺は知らなかった。
この大量のお見合い写真を送ってきているのがルーベンではなく本国に居る愛する弟からである事を。愛する弟は、俺とナナリーが生きている事を最初から知っていた事を。そしてこの後、緑の髪をした少女や赤毛の少女などと関わって俺の婚約話が大事になるなど…。
俺は知らなかった。
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「レレーナ殿下、また兄君にお見合い写真ですか…」
「ルーベン、僕は兄様に幸せになって欲しいんだよ。だからこうやって良い縁を繋いで貰おうと」
「御自分の所に来ている縁談を流しているだけでは?」
「…ふふ」
「はぁ」
次回『バトルオブブリテン』
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今後ともよろしくお願いします!!!
予約設定をし忘れていて予定日を超えてしまい申し訳ありません。