午前の授業の終わりを知らせるチャイムが教室に響き渡る。
それは同時に昼休みの始まりの知らせでもあるのだから少し不思議だ。
「はい、今日の授業はここまでですね」
社会を担当するその先生は黒板に書く手を止めてチョークを置く。
まだ終わっていないとはいえクラスメイトの皆の雰囲気も少しほっとしたものになるのも当然だと思う。
「犬吠埼さん、号令を」
「あっ、はい! 起立、礼、神樹様に拝」
今日の日直の樹ちゃんの合図にそって皆でいつもの挨拶をする。
幼稚園の頃から神樹様への挨拶は欠かさず行わされてきたので自分としてはいつもの事で。
でも、
それにしても神樹様かぁ……
『どうしたのですか、奏音さん? 神樹様のことで何か気になる事でも?』
いや、ひなた姉は神樹様の声を聞く巫女だったんだよね?
『はい、頻度は多くなかったですけど神樹様からの神託は何度かありました』
実際、その神託ってどんな感じなのかなって。
神樹様の声を直接聞くことの出来るテレパシーみたいなの? それとも何か未来の情景を見せられるの?
『そう言えばタマ達もどうなのか聞いたことはなかったぞ。教えてくれ、ひなた!』
『そうですね……イメージが送られてくるって感じですね』
それって結構ふんわりしたものなの? それとも謎解き系?
『それならふんわり系ですね。それを私達巫女が解釈するといった感じになります』
成る程……つまりふわふわした神託を巫女さんがふわふわ解釈をする。
うん、これ以上は頭がパンクしそう。
でも可笑しい、普段はもう少し頭もまともに働くはずなのに。
『いや、それは奏音が空腹だからだと思うのだが……』
あっ……昼御飯食べるの忘れてた。
通りで頭が少しふわふわしてるんだ。
『でしたら続きは食べ終わってからにしましょうか。樹さん達も一緒に食べたがっていますよ?』
それは大変だ、と思って自分の机の上を見てみると既に自分の弁当が広げられていた。
もしかして……
『えへへ、私が広げといたんだ。奏音くんがすぐに食べれるようにと思って』
そっかぁ、また
準備してくれたのは嬉しいけど、
はーい、って言う友奈姉の声を耳にしながら周りを見る。
樹ちゃんをはじめに良く一緒に昼御飯を食べるクラスメイトの子達が集まっており、既に食べ始めていた。
「奏音くん、お昼食べよう?」
「そうだね、樹ちゃん」
家の人に作ってもらった弁当を開ける。
その中身は見た目からして美味しいと思わせるような盛り付けがされていた。
ふりかけのかけられたご飯に卵焼きや唐揚げ、ソーセージといったおかずにドレッシングのかかったサラダなんかがあった。
「頂きます」
軽く手を合わせてからその中でまず最初に卵焼きの一つを箸でとって口に運ぶ。
甘味が効いた感じが好きな自分としては文句なしの出来で美味しい。
出汁巻きも嫌いではないけどやっぱり甘めの方が好きだ。
そんな風に食べていると幾つかの視線を感じたので、そっちに目を向ける。
何人かがこっちに向けて期待の視線を向けていた。
「奏音、何時も通りお願い!」
「えっと、交換だよね? ちょっと待ってて」
開けていなかったもう一つの弁当の蓋を開けて皆の近くに置く。
開けた弁当から皆がそれぞれ思い思いのおかずを取っていく。
この為に少し無理を言って多めに作ってもらっているけど、やっぱり皆が美味しそうに食べているのを見ると自分で作ったわけではないが嬉しくなる。
「ん~、やっぱ奏音の弁当は美味しいな! あっ、おかずを置いていくぞ」
「そうね、私も置いていくわ。あと卵焼き美味しかったわよ、ありがとう」
そして何より楽しいのが交換で貰ったおかずを食べることだと思う。
味の好みに合わないことも有るけど、其々の家の家庭の味の一端を楽しめるのが良い。
あっ、この煮物結構美味しいな。むむむ……このハンバーグも良いかも。
『なるほどなるほど、奏音さんはそういう味付けもお好みと……』
なんて風に昼御飯を食べているとくいっ、と制服の袖が掴まれる。
そちらの方に顔を向けると樹ちゃんが少し緊張した様子でこちらを見ていた。
「あっ、あの……」
「どうしたの樹ちゃん」
「こ、これ……を……うぅ……」
『こ、これは……もしかしてのもしかしてだよ、タマっち先輩!』
『ええい、一旦落ち着きタマえ杏!』
頑張って、球子姉。こうなった杏姉は大変だけど、抑えられるのはあなただけだから。
なんて二人の会話を聞いている間に緊張が解けたのか、自分に向かって小さめのタッパーを渡してきた。
えっと、それってもしかして……
「こ、これを……良かったら、食べて貰えます……か?」
『樹ちゃん、可愛い……!』
うん、杏姉は少し静かにしてて。
◆◆◆
私、犬吠埼樹は今までで一番緊張しています。
きっかけは奏音くんと一緒にお昼を食べるようになった時のことで、あの時はお姉ちゃんに作ってもらったお弁当のおかずと交換することになって。
奏音くんは美味しいと言って、喜んでくれたのが嬉しかった。
それが何度か続いたある時、こう思いました。
私も何か奏音くんに作ってあげたいなって。
でも私一人じゃ何も作れないから。
それでお姉ちゃんや勇者部の先輩の皆さんに協力してもらって、漸く作れたのがこのタッパーに入っている肉じゃが。
「うん、勿論良いよ……へぇ、肉じゃがなんだ」
「う、うん」
何度も失敗して作り直して、それでやっとお姉ちゃんからOK貰えたやつだから不味くはないはずだけど。
友達に何かを作って渡すのがこんなに緊張するなんて思ってもみなかった。
「じゃあ、頂きます」
そう言って奏音くんは形の崩れたジャガイモを口に入れる。
緊張で胸がドキドキして喉がからからになってしまいそうで。
奏音くんの口から味がどうか聞くまでの時間がとても長く感じられて。
そして……
「うん、美味しいよ樹ちゃん」
えっ、喜んでもらえた……? 嘘じゃないよね……?
私が現実だと理解できない間にも奏音くんはニンジンやお肉、白滝を食べていく。
漸く私がそれを現実だと理解できた頃には奏音くんは既に食べ終わっており、渡したタッパーを返してきた。
「どの具も良い感じで出汁がしみてて良かったよ、ありがとう」
「良かったぁ……」
嬉しくて嬉しくて、ついつい顔がにやけそうになるのを何とか抑える。
後でお姉ちゃんと友奈さん達にも上手くいったよ、って知らせないと。
何て思っていると奏音くんは私の顔をじっと見て何かを呟く。
「────」
「奏音くん、今なんて……」
「ああ、ごめん樹ちゃん。何でもないんだ、いや本当に」
そう言って奏音くんは少し恥ずかしげに顔をそらす。
えっと、奏音くんは何を言ったのかな……?
◆◆◆
『しかし随分あの娘とイチャイチャしてたわね』
「いや、イチャイチャって……自分と樹ちゃんはあくまで友達だよ」
『そう……まあ、あなた達がそういうなら良いけど』
あの後、皆で昼食を食べ終わってまだ午後の授業まで時間があったから彼らに断りを入れて一人屋上にいた。
今は他に人もいないから千景姉と口に出して会話している。
「ねえ、ところでひなた姉。さっきの話の続きだけど」
『そう言えばそうでしたね、でもどうして巫女について聞きたいと思ったのですか?』
「いやさ、樹達の部活って
それは今までは敢えて聞くことを避けていた話題。
でも、もうこれ以上目を逸らしてはいけない気がしてきたから聞く。
「それって若葉姉達の言っていた勇者だよね?」
『そう……だな、まだ端末が起動していない以上勇者候補とでも呼ぶべきだが』
『ですが若葉ちゃん、あの中に
「そっか……」
この空が、いやこの
どれだけ自分が何かを思っても勇者でない自分では何も出来なくて。
だから……
「ねえ、皆」
『どうしたの?』
「もし、もし樹ちゃん達が本当に勇者になって戦うことになったら……」
『うん』
「その時は手助けしてあげて」
静まる皆の声。
忘れがちだけど皆は既に過去の人間で、このお願いもただの我が儘に過ぎなくて。
叶うはずもない傲慢な想いに過ぎないのに。
『私は樹海化した世界では何も出来ませんから私では答えられません。なので若葉ちゃん、お願いします』
『ああ、そうだな。奏音、お前も分かっているように私達は既に過去の人間。直接的な干渉は不可能だ』
「うん」
『それでも出来る限りは何とかしてみよう』
『あいつらの事はタマに任せタマえ!』
『そうですね、私も奏音さんと樹ちゃんの恋模様を眺めていたいので』
『任せて、奏音くん! 私にとって樹ちゃん達はある意味で後輩だから』
『あなたのお陰で高嶋さんとこうして話せているから……その恩返し位はするわ』
「ありがとう、皆」
やっぱ自分は恵まれている、と改めて思った。
こんなにも強い人達に支えられていることの有り難さを強く実感した昼休みだった。
これほぼ日常ものであって恋愛系にするつもりはないはずなんですが……
まあ、そのうちタグが変わっていたらそう言うことだと思ってください。
後、奏音くんは絶対に勇者には変身しません。
唯一の男性勇者何て事にはならないので。
三話は正直いつ投稿出来るか分からないですけど頑張りたいです。