神様が自分を転生させると聞いた男は歓喜した。しかし、男の考える話とはちょっと違ったようだ。
 これは、神様転生における神との対話に始まり、対話に終わる話です。

※原作名リリカルなのはとなっていますが、会話の中で出てくるだけです。

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 この話は、オリ主と神との対話のみを書いたものです。
 原作名:リリカルなのはとありますが、原作キャラは一切登場しません。会話に出てくるのみです。
 また、神様転生と言うジャンルを好む人には不快に感じられる内容が含まれております。
 以上のことを把握した上で、読んでやってもいいと思う方はどうぞ、楽しんでいただければ幸いです。


テンプレオリ主と空気を読まない神様

「ええっと、次のは……君ね。転生させるからそこの台座に立て」

「はい?」

 

 気がついたら俺は変な所にいた。一言で言えば……白い部屋だ。端のほうに人一人が立てるくらいの台がある。

 まずあんたが何者なのか教えて欲しい。パッと見20代後半ほどの男性。なかなか整った顔立ちをした、第一印象としては男の色気とでも言うものを持つ男性的なイケメン(男の敵)だ。

 センスを疑う白い布切れを束ねたような服装ではなく、黒のスーツ辺りが似合いそうな男だと思う。

 が、そんな外見的な特徴よりも内面の方が意味不明だ。そもそも開口一番の言葉が『転生してもらう』ってどう言うことだ。コミュ障か。

 

「つまり……あれだ。俺は神でお前は死人。だからさっさと次の生を受けろ」

「うん。わけわからん」

 

 それで理解できる奴がいたら尊敬する。

 と、思いたいところだが実の所俺はこの状況を理解できてしまっている。

 神様、死んでいる、転生。このワードから導き出せる答えなど一つだろう。

 

「わけわからんが……つまり所謂一つの『神様転生』ってやつか?」

「まあ確かに俺は神様だし、これから転生してもらうから神様転生ではあるな。お前の言う所謂一つの神様転生とやらがどんな物なのかは知らんが」

 

 どんな物も何も、神様転生と言ったら一つしかないだろう。二次創作によくあるアレだよ。

 そう、俺は二次創作というものが好きだ。そして、神様転生はその中の一大派閥のことだ。

 まあ簡単に言えば、『何らかの理由で死んだ主人公がチート能力を貰って漫画アニメの世界に転生する』と言うお話である。

 それを踏まえて考えると――――

 

「もしかしてあんたのミスで俺死んだの?」

 

 これが『神様転生』において一番よくある理由だ。神が何らかのミスをした結果、本来死ぬはずのなかった主人公が死んでしまった。そこで、お詫びにチートをつけて蘇らせてくれるわけだ。

 同時に、その時は例え相手が神であっても高圧的に行くのは形式美である。

 そんな思いで話を振ってみたのだが、自称神は表情を歪めただけだった。これはアレだな、不快になった時の歪み方だ。

 

「……神がミスなんぞするか、阿呆」

 

 心底馬鹿にした様子で罵倒されました。残念ながら、俺は蔑まれて喜ぶ性質の持ち主ではないのだが。

 しかも、イケメン成人男性に罵られて喜ぶとか並みの変態男では難しい所業だ。

 あれ? おかしいな? これが神様転生であるのならば、俺はつまりオリ主であり、俺に都合のいいように進むはずなんだけど。

 

「なんでそんな結論に至ったのかわからんぞ……しょうがないから解説してやろう。つまりだ、お前はすでに死んでいる。だから、生まれ変わってもらうと言う話だ。輪廻転生と言えばわかるか? ……さて、今度こそ理解できたか、馬鹿?」

 

 阿呆の次は馬鹿ですか。一回殴ってやろうか。

 まあ、一生を見返しても喧嘩なんて経験のない俺にはハードルが高すぎるけれど。

 つーか、んなことは言われなくてももう把握しているよ。死んだ覚えがないけど。

 

「死因とか聞くなよ、そんなの一々把握してないし。質問がなければさっさと転生させるが、いいよな?」

 

 質問する前に拒否られたよ。いや、そんなことよりもまだ言ってないことが山ほどある。

 

「ちょっと待って。いくつか質問あるんだけど」

 

 俺がそう言うと、露骨に面倒くさいと言う態度で自称神が続きを促してきた。

 職務放棄かこの野郎。こんな全力で面倒くさがっているだけでもイケメンなら許されるんだろうな、きっと。

 

「えっと、転生するんだったら、能力特典とかないの? それに、どこに行くのかも聞いてないんだけど」

「能力? 才能があるかどうかかってことか? そんなの人それぞれだろ、俺に聞くな」

「いや、そう言うことじゃなくて……」

 

 俺が言う能力とは、運動神経がいいとか、物覚えがいいとかそう言う話ではない。

 どんな天才にも使えず、どんな秀才にも会得できない超能力的な話なのだ。漫画やアニメの能力とか。

 その辺りを懇切丁寧に神に聞いてみると、呆れ顔を120%くらい強めて返答してきた。

 

「なんで俺がお前に力なんて与えてやらなきゃいけないんだよ。大体神に直接強請(ねだ)るとか、どんだけ罰当たりで強欲なんだお前」

「能力くれないの!? てか、まだ何にも言ってないのに強欲って!」

 

 それはおかしいだろう。神様転生なのに神様が能力をくれないなんて何の意味がある。

 それに、ここは『僕は普通に平凡に生きたいだけなので、そんな大仰な能力はいりません』からの『なんと謙虚なやつだ。あんな良い奴は珍しい。ではこっそりとチートをプレゼントしよう』の流れだろうが。

 当然俺もそのつもりだったのに、なんで特典の話になる前から強欲呼ばわりされなきゃいけないんだ。

 

「いや、その考え方の時点で十二分に強欲だと思うぞ? 結局能力を手に入れる上に、人格まで褒め称えられる予定だったのかよ」

「え? もしかして心読まれた?」

「まあ、神だし」

 

 何でそこだけは神としての機能搭載してんだよぉ!

 そんなどうでもいい所よりも、素直に能力を付加する所をリスペクトしやがれ。

 そう、開幕一番に謝罪と共に土下座する神の。精神的にも物理的にもサンドバックになってくれる、オリ主のために何でもやる神を。

 

「しかも神を土下座させるつもりだったとか……。あまりにも要領を得ないから心を読んでみたが、ここまで図々しくも罰当たりな奴は珍しい」

「そんな所珍しがらないで! もっと美点を珍しがって!」

 

 そんな剥き出しのドン引き顔してないで、もっと見るべきところあるでしょ!

 

「美点って思われてもな……。これと言ってないだろ、お前」

「んなこたない! 他にももっと美点があるはずだよ! よく見てよ!」

「見ろったってなぁ……趣味とか特技とか何かないの?」

 

 頭掻きながらいかにもどうでもいいという様子で、この職務放棄神は俺の長所を聞いてきた。

 何だおい、神ならそのくらい知っておけよ。面接かこの野郎。

 

「んっと……、アニメとか漫画とか好きだ」

「……まあ、好きなものがあるのは良い事だな。それのどの辺りが神直々に能力を渡すほどの美点なのかはわからんがな」

 

 結局俺がオタクだって暴露されただけじゃねーか。オリ主が生前はオタクだったなんて、珍しい話じゃないけど。

 それに、確かに俺はオタクだが、それ以外にも何か平均以上のものがあるはずだ。今は思いつかないけど。

 そもそも、転生先の世界についてすらまだ知らないのになんだこれ。無礼すぎだろ神。

 

「俺から見ればこれ以上ないくらいにお前が無礼だがな。少しは敬えよ、神だぞ」

「あーはい。そうですね。敬うので心を読むの止めてくれません?」

「そんなこと言ってる時点で敬ってないのが丸分かりだけどな……。まあいい、お前の心を見てるとそれだけで気分が悪くなるしな」

 

 本当に失礼な奴だな。心読むの実際に止めたのか試してみるか。

 バカ! アホ! ドジ! マヌケ! いいからさっさと俺にチートよこしやがれ! いや、ホントに。お詫びじゃないんだったら、気まぐれでもお遊びでもいいからさ。

 

「何をだまっとる? とりあえず不愉快な視線を感じるが」

「いえ、別に」

 

 どうやら本当に心を読むのは止めてくれたらしい。この全国の転生オリ主に喧嘩を売っているような駄神は。

 大体、転生神と言えば白髪の老人か妙齢の美女、もしくはロリっ娘と相場が決まっていると言うのに……本当にダメな奴だよ、コイツは。

 そもそも、好みの女じゃなければ神の価値なんてチート発生装置でしかないって事を理解してるのか?

 優しさを褒め称え、俺の気分を良くする事すらできないんだったら、せめて死んだ鬱憤を晴らすためのサンドバックにくらいなって欲しい物だ。そして、ボコボコにされた挙句に好きなチートをプレゼントしてくれ。

 だと言うのに、ヨボヨボの爺さん相手ならともかく、いかにも強そうな若い男じゃ怖くて暴力に訴えるとか無理じゃねぇかよ。本当に神としてダメだコイツ。

 

「じゃあもういいな? さっさと転生してくれ。まだ後が(つか)えてんだよ」

「いやいやいや! まだ何にもかなってないでしょ!」

 

 このまま終わられてたまるかっての。神様転生はオリ主を最強にする為に存在してるんだよ?

 今終わったら、何の為に“神様”なんて正体不明な存在出てきたのか分からないじゃないか。

 

「お願いだから能力くださいよ~。土下座でもサンドバックでもやりますから~」

「いきなりなんだよ……気持ち悪い……」

 

 こうなれば、本来神がやるべきことをやってでも能力を得てやる。そんな思いで卑屈に下手に出てみたのだが、あっさり否定されてしまった。

 と言うか、ボソっと言ったとは言え聞こえたぞ、気持ち悪いって。オリ主をヨイショする以外に神に価値なんてないってのに……チェンジとか効かないかなぁ……。

 

「だーかーらー、何で神たる俺がたかが一人の人間のために力を分けてやらなきゃならないんだよ?」

「そこはほら、実はあなたのミスで死んだんだからそのお詫びとか、世界を救う英雄として選んだとか、単なる気まぐれとかいろいろあるでしょ!」

「……何度も言うように、神はミスなんてせんのだ。大抵のことはできるからな。正確な表現ではないが……全知全能だと思えばよい。だから、何かあったとしても後出しで対処するくらい簡単な話なのだ」

 

 今度は先ほどとは違い、割と本気で残念な子を見るような哀れみの視線と共にさっきよりも詳しい説明がついてきた。

 これはアレだろうか、先ほどの説明では理解できなかったのかと本気で哀れまれたのだろうか。

 ……おいコラ、神様のミスを寛大な心で許し、哀れむのはオリ主の仕事だぞ。なに神がオリ主を哀れんでんだよ。

 てか、知ろうと思えば何でも知れる全知全能なのに俺の長所を聞くって事はアレか? 俺の美点なんて知りたくもないってことか、全知全能にも手に負えない無能だって言いたいのかコラ。

 

「それにな、世界を救うとか……頭大丈夫か? 身の程をわきまえろ。もし世界が危機に瀕してたとしてもお前には頼まん、自分でやる」

 

 そんな本末転倒な事言わないでよ。神が自分で動くことはないなんて、太古の昔からのルールじゃん。

 

「そもそも、仮に、何度も言うが仮に俺自身は動けないから誰かに託すとしてもだ、何で何の力も持たない人間に頼まねばならんのだ? 俺が自分で動くことができないと言う状況下で、俺が一から十までお膳立てしてやらねば何もできない人間に頼ると言うのはどう言う状況なんだよ? 誰かに頼るのならば、初めから特異な力を持った現地の英雄に任せると思うぞ」

「グッ……!? えっと、ほら、神々のルールで下界に神が干渉してはならないとかそんな感じの……」

「神々のルールって……どこの誰が神を律することができるんだ……。この世もあの世も全部ひっくるめた上での最頂点だぞ……」

 

 呆れ顔が哀れみ顔に進化し、ついには無表情になってしまった。なんだよ、その面倒くさい奴はスルーするのが一番だ的な反応は。

 

「じゃああれだ、因果律がどうのこうので神の力を下界で振るうと大変なことになるから転生者に任せるとか……」

「まず因果律の意味分かってるのか? 話の内容が繋がっていないと思うのだが。……まあそれはどうでもいい。お前の言う『転生者』と言うのが、神が力を分け与えた人間であると解釈するが、それでいいか?」

「……うん。それで多分いい」

「じゃあ続ける。お前の話を纏めるとだ、神である俺が下界で力を振るうと何らかの問題が生じるってことだな?」

「そうそう」

 

 お約束だよね。神が直接動くと世界に影響を与えてしまうってやつは。

 だから俺に力をくれよ。

 

「で、だ。その前提が仮に真実だとすれば、もちろん実際にそんなことはないわけだが真実だとすればだ、それ転生者が力を使っても結局同じことだろ? その転生者の力だって俺の、神の力なんだから」

「んなことはない! 転生者の力は転生者自身のものだ!」

 

 それはアレか? オリ主は結局借り物の力しか持ってないとかそう言う事を言いたいわけか?

 それはチートオリ主に絶対言ってはいけないことだ。最強オリ主の無双に感情移入して気分よくなっている所に、別にオリ主自身は何にも凄くないとか冷めるだろぉが!

 

「盗人猛々しいとでも言えばいいのか? 最初に確認しただろうが、『転生者とは神に力を恵んでもらった人間である』ってよ。世界を救う為に貸し与えられた力を平然と自分のものだとか言うなよ」

「いいや違うね! 一度渡された力は永遠に転生者のものだ! そもそも、渡された力を本人の努力で成長させるケースだってあるだろうがよ! そんな本人の努力まで否定すんのかテメェ!?」

「何を怒っておるのだ? 本当に神を敬う気持ちがないんだな、お前。まあ人間の礼儀作法などどうでもいいから無視するが、確かに人間が成長することはあるだろうな。しかしだ、成長しようが進化しようが根っこは神の力だ。どこまで行っても神の力が発動すること自体は変わらんだろう。前提として、神の力を下界で振るってはならないと言うものがある以上、神の力を植えつけた人間もまた下界で力を使わせるわけにはいかないよな。後は……そうだな、成長によって得た力は例外とするのだとしてもだ、そもそも成長しようにもまず訓練のために恵んでやった力を使う必要があるだろう? 成長する事自体が前提に反してるだろうが。それにな、根本的に転生者を世界に送り込む時点で下界に干渉してるだろ」

 

 神の馬鹿は一気に捲くし立ててきた。五月蝿(うるさ)いから黙ってろと言わんばかりのマシンガントークであったが、しかし認めはせんぞ。

 

「もうこの辺でいいか? とにかくお前に力なんて与える理由がないんだよ。気まぐれに力を与えるってことならありえないとは言わないがな。残念ながら、今の俺の気分はお前に理由もなく力をくれてやる気分ではない」

「いやまて! なんかあるだろ、俺に力を渡す理由が。そうじゃなかったら神が転生させるなんて条件で出てくるわけがない! いやそれ以前に神がチートを渡すことを渋るなよ! これと言った理由なんてなくてもほいほい特典チートを寄こしてこその神だろぉが!」

「何を言っとるんだ、お前? お前の望むチートという力がどんなもんなのか知りたくもないが、しかし強力な能力と言うのは多くのものを傷つけるものだ。それを意味もなく配るとか、そんな死の商人のような真似をするほど俺は落ちぶれていないぞ?」

 

 クソが。余計なこと考えずにチート寄こせばいいって言ってんだっての。なにごちゃごちゃと喋ってんだ神の癖に。チートくれの返答はわかった一択なんだっての。交渉事はその後の、能力は三つまでとか言われてからなんだっての。なんで能力すら貰えずにグダグダ問答せにゃならんのだ。

 もはや最初のころの態度がやる気充実していたかのように錯覚してしまうレベルの面倒くさいオーラ放ちやがって。

 

「じゃあアレだ、他の転生者が問題を起こすから俺が止めに行くってのはどうだ? これならチートを渡す十分な理由だろうが」

「そもそも他の転生者なんて者がいない。それに、転生者を作ったことが問題になったのにその対策として転生者を作るなんて学習能力のない馬鹿しかやらんだろう。どう考えても被害が二倍になるだけだろうな。……百歩譲って、人格的に十全の信頼をおける実績ある英雄かね、頼むのならば」

「もっと作りやがれ! そして俺を信用しろ! ……じゃあよ、複数人のチート転生者を作って競わせるゲームってのはどうだよ? 面白そうだろ? だからやれ。そして俺には特別に強力な力をよこせ」

「だから俺は死の商人でも邪神でもないって。仮にやったとしてもだ、何でお前だけ贔屓しないといけないんだ? ゲームというのならば、公平にしなければ意味がないだろう」

「だァァァ!! もういいッ!」

 

 この駄神、マジでチート渡す気ないのか!? 神様転生なのに? チートを渡さない神とか何の価値があるんだ……。いらないと言っているのに最強チートをサービスしてこその神だっての。

 だいたい、神様転生なんて死んだことをコンマ一秒で受け入れて、転生するなら能力くれって所までは流れ作業だろうが。個性なんて要求する能力の内容くらいだろうが。それが、なんで能力要求が通らないなんてことになるんだ。俺オリ主になるんだよな? 不遇すぎるぞ。

 

「大体さ、お前は何でそんなに俺の力が欲しいんだ? 当たり前だが、人間がそのような特殊な能力を持っていないのは至極普通の話なんだぞ?」

「それは……その、平穏な暮らしを送る為に……」

「言わんでもわかってると思うが、世の中の平穏な暮らしを送っている人間の人生の大半は、そんな能力を必要としない。目的が平穏な人生だというのならば、不要だと言っておく」

 

 マジでウゼェ! そんな常識を子供に教えるような態度で喋んじゃねーよ。

 コイツはアレか、『なんでこのコンビニで働きたいの?』とか聞いてくるバイトの面接官かおい。んなもん金が欲しいからに決まってんだろーが。そんで、家から近かったからとか楽そうだったからとかそのくらいしか理由なんぞないっての。わかりきってるだろうが。

 チートをオリ主が欲しがる理由もそれと同じだっての! チートがあれば人生楽そうになるし、優越感に浸れるくらいだっての。お手軽に安全に無双できるからだっての。

 ……まあ、俺は違うけどね。なんかあった時の保険として欲しいだけで、実際に自分から殴りかかろうとか考えてないけどね。

 

「そもそもだ。分不相応な力を持った者が、どんな末路を辿るかなんて全知全能でなくともわかることだろう。お前の世界の歴史を振り返るだけで十分と言えるほどにな。仮にお前の言うように俺にお前の死の責任があったとしても、お前への罪悪感や贖罪と言う気持ちがあったとしてもだ、だからこそお前を含めたお前の周りの全てを不幸にするであろう絶大な力なんて与えるわけには行かないと言うものだ。もっとも、例え神が人を殺した所で罪悪感も贖罪もありえないがな。なんと言っても、神だから」

「お前最低だな! 人の命を何だと思ってやがる! それに、どんなチートを渡されようが問題なく使いこなせるのがチートなの! 能力暴走とか起こして大災害なんてことにはならないのがチートなの! どんなデメリットも無視して、都合の良い部分だけを抽出したのがチートなの!」

「いや、俺の言う末路ってのはそんな物理的な問題ではなく、心の問題なんだが……。まあいいか、人の命なんぞ俺にとってはどうでもいいとだけ言っておく」

 

 この野郎、開き直りやがった。心の問題とか、コイツ教師か何かかウザイな。訳わかんないこと言うんじゃねーよ。

 てか、どうでもいいとか言うんだったら余計なこと考えずにチート寄こしやがれ。どうでもいいんだから深く考えんなよ!

 ……ふう、一回落ち着け。とにかく、この駄神は神の癖にオリ主の要求を呑まない超弩級の馬鹿であると言うことはもうわかった。

 ここは一つ、オリ主らしく説教で改心させて言うことを聞かせるしか――――

 

「大体よ、人の命を何だと思っているんだと言うのなら、むしろお前こそなんだと思っているんだ? 俺もこうして輪廻の管理をして長いが、お前のように神に願いを叶えてもらいたいなんて図々しい考えを持った奴らの要求は、大概『生き返らせて欲しい』だったぞ? 無論聞き入れるなんてことはありえないが、しかしお前のように自分の命をあっさりと諦めると言うことはなかったな。蘇生を願わない奴らは『神と話すなんて恐れ多い』とか『命とは一つだから価値がある。死したと言うのならば、受け入れるべき』みたいな理由だったな。珍しいタイプとしては、俺が信仰する神ではない紛い物の神だと言って攻撃してきた馬鹿もいたが……まあいずれにしても、お前のように自分の人生をなんとも考えずに強力な力に執着するようなことはなかったな」

 

 そこで一旦言葉を切って、この駄神は俺の顔を見つめながら少し考えてから改めて口を開いた。

 

「……さて、改めて聞くが、お前にとって命とは何なのだ? 特異な力、強力な能力、そんなもので代用が効いてしまう程度のものなのか?」

「オリ主に説教すんじゃねェェェ!!」

 

 何なのコイツ? 説教はオリ主の専売特許だぞコラァッ!

 大体、命なんてどうでもいいという奴に命の価値とか言われたくないっての。そんな無表情から見下すような表情に変えたってなんとも思わねーぞこの野郎。

 

「そう怒るな。もちろん答える必要はないぞ? 心底どうでもいいからな、お前の死生観なんて」

「わざわざ口にすんじゃねーよ! 言われんでもわかってるっての!」

 

 隠す気もないとかそう言うことか。心中で格好つけたところであっさり暴露とか本当に嫌がらせかよ。

 こうなったら意地でもチートを入手してやる。何かないか? こんな神の責務を放棄するような奴でもチートを渡さないといけない理由は……。

 

「そう言えば、俺はどんな世界に転生することになるんだ?」

 

 その世界によってはチートが必要と言う理屈を通せるかもしれない。

 リリなのか? ネギまか? ゼロ魔か? それともオリ異世界か? いずれにしても、危険を訴えて、自衛能力の必要性を認めさせる。その上で悲劇の回避を望めば断ることなどできないはず……。

 

「ん? どんなと言われてもな……そうだな、地球とほとんど変わらない世界でどうだ? お前の言う平穏な生活を送るには十分適した世界だ。まあ日本で暮らすのと同程度危険はあるかもしれんが、しかしその程度だから大丈夫だろう。安心したか?」

「クソの役にもたたねーチョイスすんなァァァ!!」

 

 何だその転生する意味すら見出せない世界は。それじゃあどんなチート得た所で無双できないじゃん! 

 せめて超能力者を生み出す町があるとか、負ければ世界が滅びる闇のゲームをやってたりとかそう言うところをチョイスしろよ! お前本当に神様転生の神様かぁ!?

 

「何を怒鳴っているのだ? お前の目的は平穏に生きることなのだろう? 争いも戦いも人の世で生きる以上は存在するが、普通に生活する分には事故や病気でもしない限り天寿を全うするはずだ。よかったな、あの世界なら妙な能力なしでも十分生きられるぞ」

「平穏に生きるなんて言葉を真に受けんなァ! オリ主ってのは、平凡を望みながらも事件に巻き込まれていくもんなんだよ! それを事件すら存在しないモブ世界に送ろうとか脳みそついてんのかテメエェ!」

 

 はぁはぁ……。さっきから叫び続けたせいでちょっと疲れてきたぞ。

 大体、平凡や平和を望んだオリ主が本当に平々凡々な人生送るとかありえねーんだよ。平凡を望みながらも、周りの奴らのせいで非日常に巻き込まれるんだよ。自分からは何もしなくても、ただ面倒くさがっているだけで活躍するための舞台が用意されているものなんだよ。

 それをこの馬鹿神は……それじゃ可愛いヒロインでハーレム作ることもできないし、気にいらない悪役を血祭りにした上で、しかしそんなことは俺がやりたかったのではなく巻き込まれただけなんだって言えねーじゃねーか!

 ……あ、もちろん俺は違うけどね。本当に厄介ごとには関わり合いになりたくないし、女とか興味ないからね。そこんとこ間違えないでね。

 

「さっきからうるさいな……。じゃあお前はどんな世界に行きたいんだよ? 平穏な暮らしが理想なら、あの世界以上の場所はそうないと思うが」

「えっと……そうだね、アレだよアレ。そう本当に何もない世界じゃなくて、魔法とか超能力とかがある世界に行きたいんだよ。こう、いろいろわかっている漫画とかに酷似した世界とかが理想だね」

「漫画の世界ねぇ。そんなことしても無意味だと思うが……まあもちろん不可能ではないし、別に断る理由もないから構わんぞ。じゃあ、どんな世界がいいんだ?」

 

 ん? そうだな……。

 

「やっぱ定番で“魔法少女リリカルなのは”かな。二次ではとにかく数があるからな、展開予想とか楽にできるし」

「何を言っているんだ? そんな無意味な話を……まあいい、これだな。類似世界に転生させるのは可能だが、本当にそれでいいのか?」

「今回は随分あっさり聞き入れてくれるんだな」

 

 どうも全知全能能力を発揮してリリなのについての情報や、似たような世界の算出を行ったらしい。

 またあれこれと余計なことばかり言って俺の言うこと聞かないかと思ってたんだけど、随分素直だな。

 ようやく転生神としての自覚が出てきたのかな。やっぱりオリ主の言うことに一々口を挟まないのは転生神のマナーだよね。

 

「まあお前がどんな所に転生しようが関係ないからな。いい加減口やかましく騒がれるのもうっとおしいし、そのくらい聞き入れてやるよ」

「そりゃどーも。……それでな、あの世界ではジュエルシード事件や闇の書事件、それにJS事件が起こる訳だから、何かしらのチートがないとやっていけないんだ。いやもちろん俺は極力原作に関わりたくないし、平穏に暮らしたいだけでちょっと魔法とか使ってみたいだけなんだけどね。ただ巻き込まれたときのことを考えると、手ごろな魔法の才能とか、何らかの能力を……」

「それがわかっているのに何故この世界を選ぶのだ……? まあ安心しろ、そんな問題ごとに巻き込まれたくないと言うのなら、事件の起こる時間軸よりも千年くらい昔に転生させてやる。もちろん地球以外の次元世界にな。文明も問題なく発展している世界なら問題あるまい?」

「大有りじゃボケェ!!」

 

 千年前とか、不老不死系のチートでも貰えないと打つ手なしじゃねーか!

 しかも、原作千年前にそこそこの文明を持っている世界ってだけじゃあ、本当に千年生きたとしても原作に関われるかわからんくらいに関係希薄じゃねーかよ。

 結局さっきのモブ世界とほとんど変わってねぇ!

 

「そう言う余計なことしなくていいから。原作キャラと同年代で海鳴市に生を受けていいから。原作に関わらない努力とかオリ主の仕事だから。神様はチートと環境だけ用意すればそれでいいから」

「結局お前は何がしたいのだ? 言ってることが支離滅裂だぞ」

 

 本当に訳がわからないと言いたげな顔で疑問を投げかけてくるクソ神。マジでわからないのか、それともわかってて嫌がらせしているのか。

 どっちにしても、この神がクソのカスであることは間違いないが。

 ああ、全世界のチートオリ主達よ、俺に話のわかる神様を分けてくれ……。

 

「結局お前は何がしたいんだよ? 平穏に幸せな人生を送りたいわけじゃあないんだな? いい加減にしないと適当な世界に突っ込むぞ」

「おい、逆ギレかよ」

 

 満足に転生神の仕事も果たせないくせに何をイラついた声を出しているんだ。この状況でイラついて殺気とか出していいのはどう考えても俺だろう。

 ああ……傲慢なキャラや、理想ばかりで何もできないキャラに殺気とかぶつけて黙らせたい……。何で転生神相手に割りと本気で殺意持たなきゃいけないんだ……。こんなプロローグにしか出番のないモブキャラ同然の奴に……。

 

「はぁ……。逆ギレって……むしろ、お前にここまで付き合っている俺はかなりの御人好しならぬ、御神好しだと思うがな」

「戯言はいいから、もうはっきり言ってやろうかこのKY。原作に関わるかもしれないが、場合によっては関わらずにすむ程度の距離感で、もし原作に関わったら問題なくむそ……自衛できるくらいの能力。これが俺の望みだよ。理解したらさっさとやれ」

「お前は本当に、神を何だとおもっとるんだ?」

 

 役立たず意外になんかあんのかよ。てか、ここまでオリ主に言わせんな。本心では平和を望んでいるのに、しかし周りがそれを許してくれない悲劇の主人公だからこそ格好良いんだよ。

 これじゃあまるで、原作に関わりたくてしょうがない踏み台転生者じゃないか。誰かの踏み台になるとか冗談じゃねーぞ。あくまでクールに、助けてやる側の人間だからな、俺は。

 さあ、ここまで言ってやったんだからさっさとチートを――――

 

「話がループするようで実に面倒くさいんだが、俺は理由も意味もなく人間に分不相応な力を与えるつもりはない。妥協して、リクエストした世界に転生させるだけだ」

「役にたたねぇにもほどがあるぞ、おい」

 

 本当になんで出てきたんだよコイツ。このままだと本当に話がループして、永遠にこの馬鹿と顔を付き合わせる破目になる。

 とりあえずリリなの原作に関わるだけならなんとかなりそうだが、しかしチートなしのオリ主じゃあ日常ギャグくらいにしか出番がないぞ。

 クールに無双するモテモテの最強オリ主どころか、基本三枚目のギャグキャラにされてしまう……。

 せめて、リンカーコアだけでもあれば修行して最強になれるかもしれないけど……チートなしじゃあ、地球人にリンカーコアがある確率って宝くじよりもシビアだからなぁ。この際、御神流だけで我慢するか?

 

「どうしても何かしらの神の加護が欲しいと言うのならば、その価値を示せ。祝福を与えるに相応しいだけの価値をな」

 

 このダメ神、なんか偉そうに上からモノを言い始めたぞ。相応しいだけの価値? それがあるからここに呼んだんだろうが。その辺の理由は神サイドで考えとけよ。

 とは言え、それじゃあこの職務怠慢転生神は納得しないんだろうな。ここは路線変更でいくか。

 

「……なのはたちを助けたいんだ。高町なのはは、本来平和な人生を歩むはずだったのに、ただ膨大な魔力を持っているというだけで危険な戦場に向かわされてしまう。フェイト・テスタロッサも、本当は凄く良い子なのに偽りの愛情に騙されて戦いの場に連れて行かれる。八神はやてに関してはもっと酷い。偶々闇の書に選ばれたと言うだけで何の罪もないのに殺されかける上に、大切な家族を失った挙句、被害者でありながら罪を償うと言う名目で、管理局によって子供なのに働かされるんだ」

 

 俺は感情たっぷりに、哀れな少女達を救うためにと言う気持ちを前面に出して語った。

 いくらこの神が愚鈍で役に立たないとは言え、罪無き少女を救う為に力が要ると言われれば断ることはあるまい。ましてや、これは俺の心の底からの本心なのだからどれだけ疑り深いといっても関係ない。

 だと言うのに、この神呆れ度100%と言う感じの表情である。なんでだよ。

 

「……ちなみに聞くが、俺がさっき“魔法少女リリカルなのは”に関する知識を仕入れたのはわかっているか?」

「ん? ああ、さっきやってたな」

 

 それがどうしたんだ? なにやらため息を()いているが。

 

「よくそれがわかっていてそんな戯言を口にできたな。それでなんとかなると本気で思ったのか?」

「な! いったい何が戯言だと言うんだ!」

 

 俺の話には嘘も誤りも無いぞ! この神、いったい何が言いたいんだ?

 

「ったく。まずお前が力を求めるのはその三人を救うためだと言うんだな?」

「だから、さっきからそう言ってるだろ」

「さっきまでは自衛のためとか言っていた気がするがな。関わり合いになりたくないとも。……まあそれよりも、その三人のことだが……一言で言えば余計なお世話だろ」

「あ゛?」

 

 俺の優しさ溢れる正義感を、言うに事欠いて余計なお世話だと? いったいどう言うつもりだこのクズ神。

 

「まず高町なのはに関してだが……どんな道に進むかなど、法に反していると言わん限りは本人の自由だろ。それが平和な喫茶店の店員だろうが、戦士であろうがな。神ならばともかく、無関係の他人がアレコレ言う話ではない。それが洗脳された等の理由があり、本人の意思ではないと言うのならば口を挟むのもわからんでもないがな」

「いや……まさにそれだろ! 管理局によってなのはは洗脳されてんだ! 凄い魔力があるなんておだてられて、戦場の怖さも知らずに誘い込まれたんだよ! だから俺が――――」

 

 そこまで言ったところで、神は俺の話をさえぎって話し始めた。

 

「お前に戦場の何がわかるのか疑問だが、それは置いておこう。まず管理局に洗脳されたと言う話だが、根拠がないな。仮に戦力として自分の手の中に入れておこうとあること無いこと吹き込んだ人間がいるとして、しかしそれを止める人間はいなかったと? 高町なのはには良識と常識、そして非常識までよく理解している家族がいるにも拘らず? 相手のためならば、手を上げる覚悟まである親友がいるにも拘らず? 彼らは何もせずに、ただ高町なのはが騙されていくのを黙ってみていたと?」

「そ、それは……その、地球の家族が見ていない管理世界で教育を……」

「少なくとも正式入局するまでは、高町なのはは地球在住だったのだろう? そもそも、そんな洗脳教育によって常識を歪めるような組織に一時的だろうが預けるわけが無いのは、間違いあるまい。それともお前は、娘や妹、親友が意図的に歪められているのにも気がつかないほどに彼らが愚かであったと言うのか?」

「ぐぬぅ……」

 

 この神野郎……。くだらないことをベラベラと!

 結局危ない世界になのはが行ったのは間違いない事実なんだよ! 現実的に考えて、女の子が戦場に行こうとかありえないだろ。認めろよ、くそっ!

 

「次はフェイト・テスタロッサか。偽りの愛情と言うのは実のと言うべきかは疑問だが、母であるプレシア・テスタロッサのことか? それとも養子に引き取ったハラオウン一家のことか? まあ、どちらにしても他人が口出しすべきことではあるまい」

「何でだよ! プレシアなんて、思いっきりフェイトを騙して犯罪の手駒にしてるんだぞ! それに、リンディだって管理局員としてこき使ってるじゃないか!」

「リンディ・ハラオウンに関しては先ほどの言葉を繰り返そう。どんな道に進むのも、本人の自由だ。もしフェイト・テスタロッサが望まぬ道に無理やり進ませたのだとしたら、周りが黙ってはおらん。そして、確かにプレシア・テスタロッサはフェイト・テスタロッサにとっては偽りの記憶を利用したな。しかし、この話はあくまでも“神たる俺が力を行使してまで介入すべき話であるか”だと言うことを忘れるな」

 

 神は、俺を上から見下ろすようにそう言った。

 

「ど、どう言うことだよ?」

「つまりだ、プレシアの問題は俺が手を出さずとも解決しているだろうが。結果的には母を失った悲しみを背負うこととなるフェイト・テスタロッサではあるが、いずれ誰もが背負う悲しみだ。重要なのは、その後立ち直れるかだろう? 母を失ったとしても、新たに家族を得、親友を得て前に進んだ以上余計な手出しは無用と言うものだ」

「最終的にプレシア死んでるだろうが! 俺がチートで助けてやればいいだろ! まだ九歳の女の子だぞ!」

「言ったはずだ、俺にとって人間の命などどうでもいいとな。子供が親を失った、と言う程度の条件では俺が力を使う理由には弱すぎる。さすがに、もっと不幸な人間がいるのだから、お前に不幸を感じる資格はないなどと言う馬鹿げた理屈を掲げるつもりは無いが、な。まあそう言った条件を考えないとしてもだ、仮にプレシア・テスタロッサを助けた所で無意味だろう」

 

 コイツは鬼か、この人でなし! て言うか、親が死ぬのを防ぐのが無意味ってどう言うことだこの野郎。

 

「なんでだよ! プレシアが助かればフェイトだって喜ぶだろ!」

 

 俺はそんな思いでこの邪悪神に訴えたが、しかし俺の言葉などまるで聞き入れるつもりが無いというように言葉を続ける。

 

「まあ確かに、一時的にならフェイト・テスタロッサは喜ぶだろうな。だが、その後はどうなる? フェイト・テスタロッサを、自分の本当の娘であるアリシア・テスタロッサの、出来損ないのコピーとしか思っていないプレシア・テスタロッサが優しく受け入れるなどと言うことになると思うのか? 結局、母に娘として受け入れてもらえない痛みを、娘を蘇らせることに失敗した絶望を、どちらも強く味わうことになるだけだろうな。まあそれでも時間さえあればお互いの距離を縮めることはできるかもしれないが、プレシア・テスタロッサは世界破壊未遂の重罪人にして重病人だ。その時間すらない」

 

 いかにも正しいことを言っているように神は語った。しかし、もちろんオリ主である俺がそんなくだらない話を認めるわけにはいかない。

 

「じゃあその時間を得るチートを、それにアリシア蘇生を行えるチートを使えば解決だろ!」

「お前は本格的に馬鹿か? 人を蘇らせることはありえないと先ほど言っただろうが。そもそも死者蘇生を是とするのならば、お前自身が蘇ればよいだろうが。無論、それは不可能ではないが、不可なのだがな。……それはそれとして、仮に体を完治させたのならば、罪に関してはどうする? 罪を握りつぶすのか? ……そんな悪徳に、神が協力すると思うのかこの馬鹿者が!」

 

 なんか怒鳴られた。俺が何をしたと言うんだ。何もしてないだろ、勝手に想像して勝手にきれてんじゃねーっての。

 てか、転生オリ主が転生することなく蘇生するとかタブー中のタブーだろ。プロローグで完結するぞ。

 

「それに、例え蘇らせたとしても変わらん。本当に代用品としての意味を消失したからと言って、フェイト・テスタロッサを一個人として認めるなんて都合のいい話があると思うのか? 娘を取り戻し、狂気から解き放たれた後で、自らを母と慕ってくれた少女を傷つけた痛みを無視できるか? そんな変わり果てた母の姿を見たアリシア・テスタロッサが、何も疑問に思わず以前のように母を母と思えるか? 愛娘に拒絶されたプレシア・テスタロッサはどんな思いを抱くのか? ……とまあ、このように少し考えただけでも問題があることくらい分かるだろう」

「……マイナス思考過ぎだろ。もっと単純にハッピーエンドがあるかもしれないじゃん」

「……どのような?」

「……助けてくれてありがとう、これからは家族仲良く暮らしますでおしまいになるとか」

「児童向けの絵本ならそれでもいいがな。お前が次の生を歩む世界の、現実の話なのだぞ? そんな浅い考えで神の心を動かそうと思うことそのものが傲慢極まりないな」

 

 誰が傲慢だ。結局さっきから否定してばっかで代案一つもなしに偉そうに。

 代案も出さずに否定しかしないやつはダメなんだぞ、クソ野郎。

 

「……もっとも、今上げた例には重大な穴がある。人を救う為に力を欲すると言う言葉が真実ならば、見逃すはずも無い穴がな」

「な、何だよそれ?」

 

 いきなり無表情になって、諭すように神は口を開いた。もはや先ほどの怒りが演技だったのではないかと言うような、まるで無機物でも見ているかのような感情の無い目だ。

 ……正直、ちょっと怖い。

 

「まあ、言われなければわからないのならば関係の無い話だ。お前の心中など今更覗く気も無ければ、知るつもりも無いが、しかしそんなことをしなくともわかるというものだ。……あるいはこんな簡単なこともわからない底なしの馬鹿と言うだけかもしれんが、まあどちらにしろ同じだな。そんな馬鹿に絶大な力など、危なすぎてとても渡せん。まあ、正確に言えば、お前の頭のできははっきり言って無関係なのだが」

「わけわかんねぇ……」

 

 結局はぐらかしてるだけじゃないのか? 神とか言っても結局はそんなもんか。

 思わせぶりなことを言って、俺の要求を煙に巻こうって魂胆か?

 

「最後に八神はやてだが……まだ語る必要はあるか? すでに、お前の言う不幸な少女を救うなどと言う理由が成り立たないことはわかったと思うが。言っていることが的外れなのは無論、そもそも無関係の他人が無責任に首を突っ込むために神が協力することは無いと言うことも合わせて理解しろ」

「いいやまだだね。俺は、なのはやフェイトに干渉する必要が無いなんて認めてないし、はやてのことだって手を出す必要があると思ってる。それに無責任に首を突っ込むつもりなんて無い。最後までしっかりフォローすれば問題ないだろ」

「結局無関係で無責任なことには変わりないと思うがね。しかしお前は本当に神の言うことを認めんのだな」

「当たり前だ。俺は間違ってないんだからな」

 

 そうだ、俺は間違ってない。原作の三人娘は救うべき存在なんだ。

 

「じゃあ八神はやてについてだが……一つ聞こう。お前は仮に神の力を受け取ったとして、彼女のために何をするつもりなんだ?」

「え? えっと……車椅子生活は大変だろうし、小さな子供が一人で生きていくのは大変だろうから……家族になる、とか」

「……つまり、お前の望む力は“無関係の他人を家族であると誤認させる洗脳能力”と言うことか?」

「いやいや! そんなことは言ってないよ!?」

 

 人の言葉を歪曲するなよ。誰がそんな洗脳能力をくれなんて言ったんだ。

 

「じゃあどうやって無関係の人間が家族になるんだ? それ以前に、彼女には放って置いても家族ができるだろう」

「そりゃそうだが……ヴォルケンが出てくるまでは一人暮らしになるだろ! だから俺が側にいてやれば寂しさも無くなる――」

「先ほど言った“穴”だが……本気で理解できないらしいな。八神はやてが家族を失ってから守護騎士が現れるまでの寂しさを埋める――などと言い出すとは」

 

 やっぱり呆れ顔で神は俺の言葉を遮った。さっきからコイツは何を言っているんだ?

 

「まあ、いい。特殊能力により精神操作を行うと言うのでないのならば、俺に能力を強請(ねだ)る必要は無いな。せいぜい頑張ってくれ」

「いやいやいや! まだ肝心な話が残っているだろ! 闇の書の呪いに対抗するためのチートだよ!」

 

 俺はひらひらと手を振っている神の言葉を慌てて否定する。

 闇の書完成後に現れるリィンフォースに打ち勝つ力。そして、その後の闇の書の闇を完全破壊して、リィンフォースが消滅する必要の無い結末を作り出さねば……。そのためのチートは必要不可欠だろう。

 

「ふぅ……。じゃあそのチートとやらの内容はなんなんだ? 八神はやてのためにお前が望む力とはいったいなんだ?」

「うーん……そうだな……。なのはやフェイトのこともあるし……やっぱり汎用性の高い能力だよな……」

 

 ようやくチートの内容の話に移行した。ここまで実に長かったが……ようやく本題に入ったというところか。

 ここは慎重に考える必要があるな。ココこそがもっとも重要なポイントだ。

 

「やっぱりとりあえず魔導師としての才能は必須だよな……。ランクはS~SSくらいで十分か。SSSランクって言うと踏み台転生者の気がするし。後は固有の特殊能力だけど……有名所で言えば無限の剣製とか王の財宝とかか? しかしアレはなんとなく踏み台のイメージがあるしな……。ちょっと捻ってマイナーな物の方がいいよな……万華鏡写輪眼は……割とありきたりか。じゃあ輪廻眼でどうだ? アレなら魔力対応にしてもらえば吸収から死者蘇生まで万能スキルだし。うん、これがいいかな。あの漫画好きだし。いっそ登場する術全部ってのもいいなぁ。ただそこまでやると踏み台にされちゃうかもしれないし……」

「いつまでごちゃごちゃ言ってるんだ?」

 

 うるさいな。ここが一番重要な所なんだからゆっくり考えさせろよ。

 

「大体もし能力を渡すとして、どんな能力で何をやるのかを聞いただけだぞ? 別に能力をやるとは一言もいっとらん」

「え?」

 

 ぬか喜びさせられただけかよ、このクソ野郎。紛らわしいんだよ、クソッ!

 

「そもそもな、お前言われてから考えるって、アレだけ言っといてその実何にも考えてなかったのかよ」

「いや、そんなことは無い。彼女らを幸せにする方法ならちゃんと考えてるに決まってるだろ。ただよりよいものを考えようとしただけで――」

「じゃあさっさとその方法を述べよ。ぐずぐずするな」

 

 偉そうにしやがって、この駄神が。

 そこまで言うのであれば聞かせてやろう。俺がオリ主として歩む予定の道筋をな!

 

「まずはやてに関しては、お互いに一人で暮らしているんだから一緒に住もうと言うことにするわけだな。その後――」

「ちょっと待て。いったいどうしてお前は一人暮らしなんだ?」

「え? もしかして家族いるパターンなの? それならそうと先に言えよ」

「いや……これから生まれるんだから親くらいいるだろ。お前は木の股から産まれる予定だったのか? ……ある意味自分を理解しているとも言えるか……」

 

 またドン引き顔になったと思ったらなにやら納得している駄神。一人で何をやっとるんだ?

 まあいい。それならそれで別のパターンを使うまでだ。

 

「じゃあ家族になるのではなく家族に迎え入れよう。一人で暮らしている女の子に同情しない両親と言うことはまず無いだろうしな」

「……家族が増えると言うのはそんなに簡単な話ではないと思うが……。まだ見ぬ両親への無茶振りもさることながら、八神はやて本人の了承が得られるとはまず思えんが……まあ、いい。ここで口を挟むとまた話が二転三転するだろうしな……このまま最後まで続けさせるか……」

 

 なにやら頭痛でも感じているように頭に手をやりながらもごもごと言っている神。

 何言ってるのかは聞こえないけど、人の話はちゃんと聞けよ、本当にマナーの悪い奴だ。

 

「そんで、ヴォルケンが現れてしばらくは普通に生活だな。やっぱり絆を深めるには時間が必要だよね」

「四人……いや、三人と一匹か? そんな大所帯を纏めて引き取らせるつもりなのか……。資金に関しては八神はやて経由で何とかなるだろうが……それでも絶対無理だろう……」

「原作開始って言うのかな? 蒐集が始まったら俺もその手伝いをする。当然自分のリンカーコアも提供するべきだな、できる限り早くはやてを楽にしてやりたいし」

「だから神に頼るのになんでそんな悠長なんだ……。もっと手っ取り早く直接の原因を叩く方が早いし確実だろう……。本当に悲劇の回避を望むと言うのならば、何よりも事件が起こらないように行動するべきだと言うのもわからんのか……」

 

 さっきから何をごちゃごちゃ言ってるんだろう? 声が小さくてよく聞こえないけど。

 アレかな、ようやく俺の優しさを理解して感動してるのかな?

 

「そんで重要なのは管理局だよな、やっぱり。放っておくとはやて達を犯罪者として強制労働させるんだから。蒐集中に現れる時に適度にボコって、全てが終わった時にいい様にされないための情報を入手すべきだな」

「八神はやてはともかく……その話で言えばお前と守護騎士は否定しようの無い犯罪者なのだが……。八神はやて本人にしても、家族の咎を自らも背負うと決めたのは自分の意思なのだが……。それ以前に、暴力で弱みを握ると言う言葉に何か疑問はないのか……」

「そして、クリスマスの決戦だ。はやてがプログラムに干渉するまでの時間稼ぎはなのは達と協力して戦う。闇の書の闇との戦いでも、まあ管理局にデカイ顔をされないように立ち回りつつな。はやてを凍結封印なんて許せることではないし」

「結局クリスマスまでかかるのか……。しかも、プログラム制御は八神はやて任せで、高町なのはたちも普通に戦闘参加って……お前の存在価値はどこにあるんだよ……。と言うか、お前は時空管理局に何の恨みがあるのだ……。管理局法においても八神はやての凍結封印は違法だよ……」

 

 フフン。どうやら感動ここに極まりと言う所の様だな、体が震え始めたよ。

 俺の完璧すぎる計画に恐れ入ったようだな。だが、本番はここからだよ。

 

「闇の書の闇撃破だけど、ここはアルカンシェルに頼りたくは無いな。俺のチート能力で完全消滅させて、リィンフォースに影響が出ないようにすべきだな。そのための専用能力……特定の指定した部分だけを完全破壊できるタイプの能力とかかな」

「結局そこは()頼りなのか……。本当にお前の存在価値はどこにあるのだ……。どうせ()に頼るのならば、そんな大事件が起こる前に解決しろよ……。ついでに、リィンフォースではなくリインフォースだよ……」

「とまあ、この辺りが俺の計画だな。管理局には釘を刺しておけるし、八神家も俺の家族として幸せに暮らすこともできる。なのはやフェイトも、うまく管理局を牽制して入局なんてさせられないようにすれば万事解決だ。……ついでに、三脳を殺しておけば不安要素もなくなるでしょ」

 

 俺の理想とする青写真を語り終えたその時、俯いていた神はゆっくりと顔を上げた。そして、何か葛藤するように口をあけたり閉じたりを繰り返した。

 いったい何なのかと眉をひそめる俺だが、こちらが声をかける前に神は大きなため息を一つ吐いた後ゆっくりと口を開いた。

 

「あー、よくわかった。とてもよくわかった。お前に理性的な対話なんて求めた俺が間違っていたんだと言う事がよくわかった。神にミスはないといったが訂正しよう、今まさに俺はミスを犯していたようだ」

「……何が言いたいんだ?」

 

 言葉からはとても好意的なものは感じられない。しかし、ではいったい何を言いたいのかはさっぱりわからない。

 俺の話に責められるべき場所など無いはずだ。ではいったいこの駄神は何に怒っているのだろうか。

 

「つまりだ、お前の望むような力をくれてやろうと言うことだ。お前に言葉で理解させようとしても時間の無駄だと言うことがよくわかったからな、条件付で願いを叶えてやるからさっさと次の生を受けろ。俺の前から消えうせろ」

「おお! ついに俺にチートを渡す気になったのか! ……ところで、条件って何?」

 

 ようやく望む言葉を引き出すことができた。口が悪いのは相変わらずだけど。

 やはり俺の考えたストーリーは完璧だったんだな! この職務怠慢神を働かせるくらいには。まさしく非の打ち所の無いハッピーエンドなんだから当然だけど。

 ただ気になるのは条件付という言葉。この期に及んでいったい何を望む気なんだ?

 

「なあに、極簡単なものだ。一言で言えば、発動条件だな」

「発動条件?」

 

 つまり、何らかのデメリットが付加されるってことか?

 使うと寿命が縮むとか、体調が崩れるとか。まあそう言うタイプは嫌いじゃないけど、自分で持つんだったら使いたい放題のほうがいいんだけどな……。

 

「言うだけ無駄だが、一応説明しておくか。まず、能力を使おうと思った際に、それが私利私欲に基づくものならば発動しない。本心から他者の救済……簡単に言えば、“人助け”の為に使おうと思った場合のみ発動することができる」

「え? ……え!?」

 

 どゆこと? 人助け限定能力って。つまり、誰かの為にって状況以外じゃ使えないってこと? そりゃちょっと不便だよ……。

 

「加えて、罪の無い者を傷つけることもできない。罪の判定に関してはその世界に定められる法律を基準とする。つまり、悪人以外には攻撃不可と言うことだ」

「ふ、ふうん……。まあ当然だよね、うん。俺も善人を攻撃するつもりはないし……」

「もちろん、お前が気にいらないと言う理由でも攻撃できないぞ。お前がどう思っているのかは判定に無関係であるからな。まあ素手で殴りかかる分には知ったことではないが、俺から譲渡された能力では絶対に不可能だ」

 

 それは気に食わないと言う理由で俺が罪無き人間を傷つけると言いたいのか? そんなことするわけ無いだろう、考えるまでも無く。

 俺は原作に出てくる悪人や、その他対峙することになるかもしれない犯罪者くらいにしか攻撃するつもりは無い。地球へ不法入国……入世界か? ……まあいいや。とにかく無断で地球にやって来た上に自分達のルールを押し付ける侵略者もどきや、変身魔法を使って女湯に覗きに入った獣を退治するのは合法だよな、うん。

 

「これはさすがに言うまでもないことだろうが、たとえ罪人が相手であっても過剰な攻撃は禁止だ。拘束すればそれでお終い、それ以上のことはできん」

「それって必要な時にさえ殺すことができないってことか? それはさすがにまずいだろ。世の中、殺しておかないとより大きな被害が出ることがわかりきっている奴だっているんだから」

「もしそう判断すべき相手だとしても、それは司法の場で決めることだ。生かしておくだけで危険だと言うのならば、そう判断されるだろう。個人の価値観で殺すべき相手とそれ以外を分けるのは危険な思想だな」

 

 また神の癖に面倒くさいことを……。時には相手を殺す覚悟を決める必要だってあるはずだ。世の中、理想だけでは救うことなどできないのだから……!

 

「大体、罪人であるからといって傷つけてもよいと言うのはどうなんだ? 救済という目的上、他者を害する生物への攻撃は許可するしかないが……それでも可能な限り殺害は避けるべきだろう。命の価値なんて偉そうに語るのならばな。まして、殺すべき者とそうでない者の判断基準がお前一人の独断と偏見ではなぁ。第三者の視点で見れば、ただの無差別殺人鬼だろうに」

「いや……そこは俺を信じろよ……」

 

 何で俺の価値観で判断すれば無差別殺人鬼になると決め付けとるんだこのアホ神は。その手の倫理観は全部オリ主任せでいいって……。

 

「お前の人格なんて無関係だ。それに、だ。お前が言ったんだろうが『神のせいで死んだ人間には償いをすべきだ』とな。俺は確かに偶々俺の力で人の命が失われてもなんとも思わんが、さすがに直接俺が力を与えた為に無関係な者が死ぬと言うのは目覚めが悪い。何の罪も無い者を殺す手助けをしてしまう……それは間違いなく俺のミスだ。神のミスで死んだのならば償うべきだと考えているお前にとっても当然のことだろ? 俺の介入により死者が出ないように最大限の配慮をするのは」

「いや……だったら死者蘇生系のチートを! もし誰かを殺したとしても蘇らせればいいだろ!」

「何度も言わせるな。死者の蘇生は認めない。それを許すのならば、今ここで蘇ることだってできるんだぞ?」

「……それはいい」

 

 ここで転生せずに蘇生するとかは……ない。完全にありえない。どう考えてもそれは違う。

 ……ああ、そうか。拘束せずに戦い続ければいいのか。それなら問題ないよな。

 

「わかった。条件を飲む。それでチートだけど――――」

 

 ついにチート能力の交渉に移ることができた。俺は思いつく限りのオリ主に相応しい能力を俺は神に願う。

 その度に『だから死者蘇生を可能にする能力はダメだ』とか『そんな殺人以外の使い道がない能力では一生発動せんぞ?』とかいちゃもんつけられたが、何とか俺好みのチートを貰える事となった。

 

「――――じゃあそれでいいんだな? 本当に変わった奴だ。さっさとそこの台座に乗れ。転生させるから」

「わかった。……足元に落とし穴じゃないんだな?」

「地獄行きにして欲しいのならそれでもいいぞ。正直、今はそれで何の問題もないと思っているしな。……輪廻転生とはかなり精細な作業なのだ。ちゃんと手順を踏まねばできぬほどにな」

「ふーん。まあいいや、そこはそんなに拘る所じゃないし」

 

 とにかく時間を無駄にしてくれたこのクソ神を罵倒しながら転生するのも悪くは無いが、やっぱり落とし穴に落とされるのは嫌だし構わないだろう。俺は、そんなことを考えながら部屋の隅においてある何やら不思議な模様が描かれている台座に乗った。

 そして、俺の準備が整ったことを確認した神はなにやら呟いた。呪文だろうか?

 おそらくその推論は間違っていない。足元の台座が光りだしたのがその証拠だ。いよいよ俺のチートオリ主としての人生が始まる。そう、この俺……俺って誰だ? あれ? 俺は何をしようとしてたんだ? あれ?

 

「おい……何だこれ? 俺はいったいどうなっているんだ? 体が……消える? あれ?」

「ああ、今はお前の人格情報を来世のお前の体に適合できるように変えているんだ。早い話が、お前という人間を一度白紙に戻しているんだな」

「ふざけるな! そんなの転生じゃない! 消えたくない!」

 

 キエル! キエル! キエル!

 俺と言う人間を構成していた全てが消えていく……。なんなんだ、こんなの転生じゃない! 意味が無い!

 

「え? 何を言っているんだ? お前の中では、産まれた後に前世のことをはっきりと覚えてるのが常識なのか? 常軌を逸した精神力の持ち主が偶に消えきらずに転生することはあるが……お前じゃ無理だろ」

「フザケルナッ! オレハコンナノノゾンデナイ! ヤメロッ!」

「望む望まないは無関係だ。最初に言ったろうが、お前はもう死んだのだ。死者は次の生を受ける時には無垢なる魂へと生まれ変わる……当たり前のことだろ」

 

 何の問題もないように神は語る。これ以上に問題のあることがあるか! こんなことなら自意識をそのまま保つのをチートにすべきだった!

 逃げ出そうにも、台座の光が俺を捕らえて放さない。そうこうしている内に、手が、足が、体が組みかえられていく。そうして俺は、完全に俺ではない誰かへと変わっていった……。

 

「はい、終了。無事に転生したな。まったく、手間をかけさせてくれる……。にしても、いったいアイツは何故特殊能力なんて望んだのかね? 何度も言ったろうに、こんなことをやっても無関係だし、無意味だとな。まず間違いなく、一生自分の中にある俺の力に気がつかないだろうし……突発的に大量殺人やられても困るから、一応保険はかけたけども。……まあ、世の中変わり者はいるって事か。じゃあ次の奴、転生させるからそこの台座に――――」

 

 




 どうでしたかね? 作者が神様転生を見る度に思っている疑問等を形にしたものなのですが。
 この話に出てきたオリ主と神様、どちらが正しいのかは皆様の判断にお任せします。
 では、最後まで読んでいただきありがとうございました。


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