奇妙な感じがした、ずっとずっと昔から、ううん、それこそアタシが生まれる前から続いている様などこかむず痒い感覚。
畑仕事を終えて、家に帰る帰り道の途中眺める夕焼け空にうっすらと輝き始める星空を眺めている時、その感覚はより大きくなってくる。いつから始まったのか分からない、どこか焦点の定まらないぼんやりとした感覚を覚えたまま毎日を過ごし、アタシは12歳になっていた。
「おおぃ~~!アリス、そっちの方が終わったならそろそろ帰るぞー!」
「あ、うん!今行く!」
つい最近誕生日を迎えたアタシは、嫁いで村から出て行ってしまったお兄さんお姉さん達から、子供たちのまとめ役を継いで畑仕事を終わらせた後の子守をしている。
畑仕事の帰り道に拾ってきた野イチゴを子供たちに分けてあげたり、喧嘩の仲裁をしたりと、お姉ちゃん役は大変なんだけど、とてもやり甲斐があって毎日がとっても楽しい。
・・・そう、そんな毎日がこれからもずっとずっと続いていく、そう思っていたの・・・。
「それでね、お兄さんがね、隣町のお姉さんに告白したんだよ!」
「きゃー!」
「お兄ちゃんやるねぇ!」
「それでそれで!お兄さんも隣町のお姉さんも顔が真っ赤っかで声が裏返っていて面白かったんだよ!あははー!」
焚火を囲んで拾った木の実を串にさしてカリカリになるまで炙りながら子供たちの相手をしていると、どこか慌てたような足音と共にお父さんが走ってきた。何か叫んでいるみたい?
「アリス!お前たちも、早く逃げろ!」
「ふぇっ!?ちょ、どうしたのお父さん!?」
「盗賊だ!それもとんでもない規模の集団が村を襲っている!」
「そんな!・・・はっ、お・・・お母さんは!?」
「村長に知らせるために向かったはずだ、無事だと良いが・・・。」
アタシたちは、村の外へ逃げ出すために、通り道の家に片っ端から声をかけて一緒に逃げようとしたんだ。でも・・・。
「そんな・・・アリシア・・・村長・・・なんでこんな・・・。」
襲われている場所から離れた場所にあった村長さんの家は燃やされて焼き崩れていた。そして、争った跡が彼方此方にあって、盗賊の村のみんなの遺体が転がっていて・・・・お・・・お母さんと、村長さんもその中に・・・。
「い・・・いやぁ・・・嫌ぁぁ・・・。」
「くそっ!くそくそくそ!なんでだよ!なんでアリシアが!」
「みんな!畜生!外道どもがぁ!!」
盗賊団の規模はずっとずっと思っていたよりも大きくて、二手に分かれてアタシたちの逃げ道をふさぐように村を襲っていて、みんなで逃げつもりが逆に囲い込まれてしまっていた。
「お前らが最後のようだな?」
「大人しく奴隷になるんだなぁ?」
「じゃないと、こいつら見たいになっちまうぜぇ?ひはははぁ!!」
アタシたちと一緒に逃げようとしていた村人の中で、男の人達はこの惨劇で怒りに我を失ってしまったのか、農具や家の残骸とかを拾って盗賊たちに立ち向かっていった。
「俺の娘をよくも!」
「妻を返せ!!屑野郎どもがぁ!!」
でも、勝てるわけがなかった。だって盗賊は騎士様が持っている様な槍をもっていたんだもん・・・そしてお父さんも・・・。
「ぐあああああっ!!」
「お父さん!!」
「ごぼっ・・・にげ・・・逃げろぉ!子供たちを・・つれ・・・ぐふっ!!」
「い・・・いやぁぁ!!お父さんーーーー!!」
風を切る音、体に突き刺さる矢・・・お父さんが殺されて、悲鳴を上げたアタシは次の瞬間には子供たちと一緒に矢に射貫かれて地面に体を横たえていた。
「あーあー、餓鬼は殺さずに売り払う筈だったろうに?」
「あぁ悪い悪い、ギャーギャーうるさいんでつい・・・な?」
「おっ?一番年上っぽい奴がまだ生きているな?」
アタシの一本に束ねた髪を引っ張って盗賊がアタシを引き起こす。
「運が良かったなぁ?いや、死ねなかっただけ運が悪いのか?」
「う・・ぐぅ・・・。」
「当たり所が良かったのか死ぬ様な傷ではない、だが、お前は今日から奴隷なんだよぉ、死ぬまで道具みたいに使いつぶされるのさぁ!」
「だ・・・誰が・・・お断り・・・よぉ!」
肩に刺さっていた矢を引き抜いて、アタシは盗賊の鎧の隙間、首に矢を突き立てた。
「げぇぇぇぇ!!?」
でも、鎧と兜の隙間が思っていたよりもあいてなくて、あまり深く刺さらなかった。盗賊を怒らせただけだった・・・。
「このクソガキがぁぁ!!」
「あ・・・が・・けはっ・・・・・。」
冷やりとした感覚、矢を握りしめていた腕を切り落とされ、胸を貫く剣、体中の血が腕の切断面と胸から噴き出して、どんどん体が冷たくなっていく・・・アタシ、ここで死ぬんだ。
「おいおい、油断するからこうなるんだよ。」
「なんだと!?くそっ!痛てぇ・・・このガキが・・・。」
「結局全員殺しちまったじゃねぇか・・・あーあー、親分にどう言い訳すれば・・・。」
死んじゃう・・・嫌・・・そんなの・・・絶対嫌!
村がなくなっちゃう、みんなが死んじゃう、アタシ死にたくない・・そんなの嫌ぁ!!
「な・・・なんだ!?」
「一体なにがおこ・・・ぎゃぁぁぁ!!!」
村を滅ぼされ、両親を殺され、ついに少女自身もその命を失おうとしていた時、眩い閃光と共に少女の体が発光し、膨大な魔力が破壊力を伴った暴風を発生させ、その周囲のものを全て蹂躙した。
建物はなぎ倒され、盗賊たちは魔力流やそれに吹き飛ばされた破片に巻き込まれ、その効果範囲内の生物は絶命した。
光が治まると、少女は体を横たえ、そこに動くものは居なくなった。
それからどれほど時がたったのだろうか?
少女が再び目を覚ますと、ぼんやりとした目で周囲を見渡す。
「アタシは・・・私は一体・・・?」
ずっとむかしから感じていた焦点の定まらない感覚、そしてそれはアタシと言う自我にも及んでいた。私はアタシだった筈、アタシは私で・・・いや、一体何を言っているのだろうか?
「確かにあの時、命を失っていたはず・・・。」
心臓を貫かれて死んだはず・・・・強力な魔法兵器の爆発に巻き込まれて死んだはず・・・。
アタシは・・・私は・・一体・・・。
「・・・・・これは?」
気が付けば片手に杖の様なモノを握りしめていた・・・でも、その腕は切り落とされた利き腕の方で、胸にも穴が開いていて・・・?あれ?
傷が、塞がっている・・・切り落とされた筈の腕も体にくっついていて、見たことも無い・・・でも、凄く見覚えのある杖があって・・・。
「みんな・・・みんな居なくなっちゃった・・・村もみんなも・・・盗賊たちも・・・。」
アリス・・・それは私の名前だった筈、でもそれが私の事だとすると、とてもおかしな事だ。それでも不確かで確かな、そうどこか焦点のずれたむず痒い感覚を覚えるのだ。
ニコル、聞いたことも無い知らない人の名前、でもアタシはずっと昔から知っている筈・・・でもそれはアタシの事じゃない、昔はアタシがそこに立っていた気がするけど、アタシはこの村で生まれて・・・一体・・・一体私は・・・アタシは・・・。
一体何者なんだ?