「これが改良した保存食か!何時ものパサパサしたやつよりも断然こっちの方がいいぜ!」
「少しばかり高いが、この味なら安いくらいだ!5つほど欲しい!」
アリスの一言がきっかけで新発売したドライフルーツ入りの保存食は、街を守る衛兵や冒険者たちに飛ぶように売れ、レオンの店は大盛況であった。
「えへへ!やったね!お父さん!」
「あぁ、アリスのお陰だよ。」
「ううん、レオンおじさんの料理の腕と発想力が良かったんだよ!」
「そうか、なら試食会の感想をくれた二人と俺とで全員の成果だな!」
「みんなの成果!そうだね!」
「そんなお前たちに御褒美を上げよう、ほれ、手を出しな!」
レオンが小銭入れを二人分手渡すと少女たちは無邪気に喜ぶ
「わーい!レオンおじさん有難うー!」
「何か買いに行こう!アリスちゃん!」
アリスとパラミュは店の裏口から出て行き、市場にお出かけする。
「ねぇねぇ!何買おっか!」
「前は紐飾りだったから、髪飾りなんてどうかな?」
「あ!それいいね!いこういこう!」
無邪気に走り回る少女たちを顔見知りの住民たちが微笑ましい目線で見つめており、門番が少女たちに新作の保存食がおいしかったと声をかけたり、のどかな雰囲気でゆったりと時間が過ぎていった。
「木製だけど綺麗な髪飾りだね!パラミュ!」
「うん!お揃いだね!アリスちゃん!」
「まだちょっとだけお小遣い残っているから、何かお八つ買いに行こうよ!」
「そうだね!そう言えば向こうで蜂蜜クルミ炒めが売っていた気が・・・。」
グルオオオオオオオン!!!!
突如、街の防壁の外から魔物の鳴き声が響き渡った。
「きゃっ!?い・・一体何?」
「防壁の外から聞こえたけど、魔物かな?」
鎧を着込んだ衛兵たちが何かを叫びながら、門の方向へと走って行く。
「何でこんな魔物がこんなところに!?」
「急げ!街の住民を避難させろ!門の近くには絶対に近寄らせるな!!」
良く見ると衛兵だけなく、冒険者と思われる軽装備の戦士たちも門の方向へと血相を変えて走って行くのが見える。
「あ・・・アリスちゃん、早く逃げよう!」
「うん、家に籠っていれば多分安全だと思うよ。」
「行こう!!」
アリスとパラミュは大急ぎでレオン宅へと向かう。
アリスは、途中でするりとパラミュの手を放し、パラミュが家に戻るのを見守ると、裏路地に置かれた木箱に隠れて、バトルドレスを装着する。
「変っ身っ!!」
木箱の中と言う狭い範囲だが、しっかりと変身ポーズを決める。
体育座りのままアリスの服が粒子と化し、ナノマシンが体を疑似的に成長させ、光の帯がインナー、上着、プロテクターの順に形成し、誰も見ていないと言うのに雌豹のポーズをしていた。
「くっ!!なんか虚しい!!」
(誰にも見られない事前提だろうにアリス)
(ああん!もういいよ!認識阻害チャフ全開で行くよ!)
アクチュエータで強化された脚部で、建物の壁を蹴りながら屋根の上まで登り、姿を隠しながら背の高い建物の上から、防壁の外の様子を伺う。
「ジャイアントファングといい、何かちょっとここら辺の生態系おかしくない?」
(同感だ、未来では絶滅寸前の保護動物であるが、この時代の武装で挑むとなると厄介な事この上ない。)
街を襲撃していたのは、肉食性の大型ワイバーン、雷鳴竜であった。
片方の翼膜はボロボロになっており、絶縁体の組織が傷ついたことで自身の電力で焦げ付き、だらりと片腕を下げている状態であった。
「凄いね・・・こうして見ると暇そうにしている衛兵さん達も相当な実力者なんだと思う。」
SSSから変装用のローブを取り出し、バトルドレスの上から着込むアリス。
(だが、あのままでは不味いぞ?怒り狂った雷鳴竜の放電力が高まっている。怒りで痛みが麻痺している以上、生命力が尽きるまで暴れる筈だ。)
「人が沢山倒れている・・・衛兵さんも、冒険者さん達も・・・許せない!!」
肩甲骨の間に取り付けられた小型パワーセルが眩い光を放ちながら、バトルドレスに魔力を循環させる。
腰に取り付けられたフライトユニットが緑色に輝き、粒子をまき散らしながらアリスはすっ飛び、防壁の戦いに乱入した。
グルオオオオォォォ!!?
フライトユニットの推進力と、アクチュエータレッグの合わせ技で急降下ドロップキックを雷鳴竜の頭部に直撃させ、地面に頭をめり込ませると、今度は腕のアクチェーターに魔力を集中させ目にも止まらぬ連続パンチを繰り出し雷鳴竜の頭殻を粉々に粉砕する。
「な・・・何だあの娘は!?」
「つ・・・強ええ!」
アリスはSSSから部分的にクアッドクラウンを展開し、4つに分かれた杖の先端が亜空間から飛び出た状態で、エネルギーを圧縮して臨界状態にする。
「焼き切る!!フォースブレイド!!!」
高熱の魔力ガスバーナーともいえる、光剣が雷鳴竜の片腕を切り落とし、声にならない声を上げると、雷鳴竜は前のめりに倒れもがく。
「何だかわからないが、チャンスだ!」
「奴に止めを刺すぞ!突っ込め!」
戦闘に参加していた冒険者や衛兵が、それぞれの武器を持って雷鳴竜に躍りかかる。
「っ!!?みんな離れて!!」
アリスが周りに警告をすると同時に、雷鳴竜の口が大きく開かれ、喉の奥にプラズマ化した大気が揺らめいていた。
(もう部分展開などやっていられんな・・・致し方あるまい!!)
SSSの亜空間から先端だけ出していたクアッドクラウンを取り出し、アリスは流れるような動作で、魔力チャージをして、雷鳴竜の口に標準を合わせる。
「フォースブラスター!!!」
遠い未来、人が持てるように軽量小型化したスタンダードな光学粒子砲、その威力は今までの携帯火器を過去のものにし、他のデバイスと組み合わせる事で宇宙戦闘機の撃墜すらも可能とした。
その未来の光学兵器と、大型ワイバーンのブレスが交差し、眩い閃光が辺りを包み込む。
ほんの僅かにレーザーと電撃ブレスが干渉した後、貫通力の高いフォースブラスターがブレスの中心を貫き、雷鳴竜の口から後頭部を焼け焦がして絶命させる。
「し・・・死ぬかと思った。」
「ブレス攻撃をまともに食らっていたら全滅していたぞ?」
「しかし、ワイバーンのブレスを正面から受け止める攻撃魔法なんて聞いたことも無いぞ?」
不意に、一陣の風が吹き、バトルドレスを隠すためのローブが捲れてほんの一瞬アリスの素顔が見える。
「何だあの装備は・・・魔法の鎧・・か?」
「ドレスの様にも見えるぞ・・・。」
「美しい・・。」
(あぁ、不味いわねこれ・・・。)
(フライトユニットから送り出される気流の流れも関係しているな、切っておけば良かったよ。)
「みんな無事で何よりね。それじゃぁ私はこれで!!」
アリスの握り拳が輝くと同時に黄金の粒子がまき散らされ、近くにいた者たちの視界を奪う。
「ぬう!?・・・一体何だったんだ今のは?」
「相当な美人さんだった筈だが、顔が思い出せない・・・。」
「金髪で先端が赤熱する様な赤色の髪の毛って、そんな色の人間が居るのか?」
「只者ではない・・・だが、装備を見る限り高貴な血を引く者なのかもしれないな。」
「彼女は一体・・・。」
認識阻害チャフとフライトユニットを駆使して人の気配のない路地裏に逃げ込むと、変身を解除して元の姿に戻るアリス。
「もう、折角のショッピングが台無しじゃないの!」
(そういう問題でもないぞ、アリス・・・それよりも大型の魔物がこうも街に連続で出現したのがおかしい。)
(うん・・昨日の偵察飛行では、この周辺には危険そうな魔物なんて影も無かったのに・・・。)
(奴が飛行可能な魔物だったというのもあるぞ?だが、近くの狩場になりそうな森ではなく、真っすぐにこの街に向かって飛んできた事こそが問題だ。)
(何か妙にきな臭いわね・・・どうせろくでもない事なんだろうけど・・・。)
アリスがレオン宅に戻ると、パラミュとレオンにしこたま怒られて涙目になるのであった。
それから暫くお出かけ禁止令を受け、レオンの手伝いや店番を担当する事になったのであった。
「あ・・いらっしゃいませー!」
赤毛の若い冒険者が、きょろきょろ首を動かし店の売り物を物色していると、アリスと目が合う。
「おう、お嬢ちゃん父ちゃんのお手伝いかい?」
「んーん、アタシはレオンさんの娘じゃないよ?お店の娘のパラミュと友達で、昔からお世話になっている人たちなの!」
「へぇ、友達の家のお手伝いをしているのかぁ、偉いなぁ・・・ところで、君とどっかで会ったっけ?」
「んー・・・初対面の筈だけど、確かに何処かで会った気が・・・。」
(アリス、雷鳴竜の戦闘に加わっていた冒険者の一人だ。あの時あそこにいた奴だぞ?)
「ええと・・・大きな魔物が暴れている時に、避難する途中ですれ違ったかも?」
「あぁ、そっか、うんそうだなぁ・・・いや、一瞬彼女にそっくりだと思ったんだが、嬢ちゃんまだちっこいしなぁ。」
「うげ・・・あ、いや・・・彼女って誰の事ですか?」
「んあ?この前の戦いのときに滅茶苦茶強い女戦士が現れてな、人間の動きとは思えない速さと怪力でワイバーンをぼっこぼこにぶちのめしたんだが、金髪っぽかった事以外すっかり顔を忘れちまって・・・嬢ちゃんに姉妹っているかい?」
「いえ、一人っ子です。」
「そっか、あの時は目に焼き付いちまって・・・正直惚れちまってなぁ、しかし惚れた相手の顔を忘れちまうと言うのも申し訳ないというか、残念と言うか・・・うん?嬢ちゃん何か顔赤くないか?」
「はぇ!?・・い・・いや、何でも無いです!み・・見つかると良いです・・ねっ?」
(声が裏返っているぞアリス、耐性の無い娘だな・・全く)
「おや、アンソニー君じゃないか、また薬の補充かい?」
「おう、レオンさん!いい子を雇ったな!」
「ははは、娘のパラミュの親友でな、諸事情でうちの店で働かせているんだ。」
「あぁ、うんと・・よ・・・よろしくおねがいしまーす?」
(全く、暫く使い物にならないなこれは、ふぅん?まぁ顔つきは整ってはいるが、少々子供っぽいな?)
(ちょっと、ニコルさん失礼じゃないの?)
(まぁ、年はそこまで離れてい無さそうだし、知り合いから始めてみないかね?)
(始めてみないかって何よ!?あぁもう知らないんだから!ニコルさんの馬鹿ッ!)
アリスとニコルは頭の中で、漫才を繰り広げつつも、体は店番としての対応をしていた。実に器用である。
(ふふふっ、アリス・・・私は内臓の殆どを循環器系強化や予備のエナジーパック等に交換していたのだ。家庭を持っても子供は持てない)
(ニコルさん・・・。)
(我々の当面の目的は、歴史に干渉しかねない事だ。実行する前に自分の人生をよく考えて置くべきだな。)
(わかっているよ・・・あと、相手と自分の髪の毛1本あればニコルさんでも子供作れたんじゃない?)
(いや、自分の体で産むことは出来んだろう、宇宙に進出して宇宙線被曝が増え、生殖能力を失った人間が多すぎるから試験管ベビー技術が発達したのであって、自然分娩が出来るなら未来でもそうしているぞ?)
(そうかなぁ、お腹痛いのは嫌かも・・・。)
(贅沢な奴だな・・・まぁ良く考えて置け。)
もう一人の自分と問答を続けているうちに、冒険者アンソニーは目的の薬と新作の携帯食料を購入して去っていた。
その後しばらくして、街を襲撃した大型ワイバーンの遺骸は、冒険者ギルドや町の有力者に渡り、雷鳴竜素材を求める者たちが増え市場が賑やかになったという。
レオンの店は直接的に雷鳴竜素材の利益にあやかれなかったが、活性化した市場の雰囲気で財布のひもが緩くなった冒険者たちに、新作の携帯食料が売れるのであった。