アリスはレオンの店で働きつつ魔物が街に接近する原因を調査していた。
(ジャイアントファングに大型ワイバーンの接近、それ以外にも魔物が活性化している・・・全くもってきな臭い事この上ないな。)
(虫型ドローンの電撃針で神経を焼き切って小型の魔物を駆除しているけど、一向に減らないわね。)
(お陰で魔石集めは捗っているがな、小型の魔物の魔石の魔力なんて微々たるものだが、核と触媒さえ手に入れば高純度魔石など幾らでも合成できる。)
(宇宙に進出するまでその高純度魔石を巡って世界大戦が何度も起きているからね。ナノマシンを利用した高効率生体魔力生成法や恒星を利用した半永久機関が発明されていなかったら銀河連邦なんて存在していなかったのかも。)
(エネルギー問題は宇宙開拓期の頃に解決したと言うのに何世紀も戦争ばかりだ、どの時代も人間の面構えなんてそう変わらんよ。)
(魔物の誘導による都市攻撃・・・アタシが生きるこの時代にしては随分と先進的な考え方ね。)
(銀河連邦の辺境惑星でやるなら嫌がらせ程度だが、この時代では使い方次第では国家の存亡に関わる技術だ。僅かながら魔力の乱れも感じるな、何か仕掛けられているのかもしれん。)
アリスは、虫型ドローンで近隣をうろつく活性化した魔物を駆除しつつ、各種センサーを用いて周辺の調査を行っていた。
「あ、アリスちゃんまた居眠りしている!」
「・・・・・うん?いや、起きているよ?ちょっと考え事していたんだ。」
「お店の中で目をつぶったまま立っているとお客さんが気にするからやめておいた方が良いと思うわよ?」
「あはは、変な癖がついちゃったかもね?ごめんごめん。」
「考え事っていうけど、何か悩んでいる事があったら私に相談してね?アリスちゃんも色んなことが一度に起きて大変かもしれないけど、私がついているから!」
「有難うね、パラミュ。」
パラミュがアリスの事を心配していると、一機の虫型ドローンが再び魔物の接近を感知する。
(中型・・・と言ったところか、丁度近くに冒険者も居るし十分に対処可能だろう、これは彼らに任せるか。)
(本当にご苦労様よね、アタシは冒険者として生きるつもりは今のところないけれど、これから旅する事があった時は、魔物との戦闘も考えないといけないわね。)
(生命の溢れる良い星だ、空を飛んでも陸を歩いても何処にいても魔物と遭遇する事は避けられないだろうな、とは言え無意味な殺生はしないつもりだが・・・。)
(追い払っても襲い掛かってくるものに関しては、アタシも温情なんてかけないよ、好戦的な魔物ってば普通に悪意をむき出しにしてくるからね。)
(人間にも悪意の塊のような奴が居るんだ、魔物にも居るだろうよ。)
(昔遊んでくれた村のお兄さんもトカゲの怪物に毒を吹きかけられて、それが原因で死んじゃったからね。私自身や知り合いが襲われたら容赦しないんだから!)
アリスが脳内会話を繰り広げていると、横からパラミュがアリスの頬をつつく
「暇そうだねアリスちゃん、上の空って感じの顔しているよ。」
「だってお店の保存食売り切れしちゃった後は客足も疎らだし、大通りを眺めているだけじゃない、お店の掃除も終わっちゃったしやる事が無いって結構暇よね。」
「うーん、お父さんは追加の保存食を作りに行っちゃったし、どうしようかな?」
「あー・・・アタシのお小遣いで建て替えて良いから、干した果物を乾物屋さんで買ってきてくれないかな?在庫見る限りでは多分、果物入り保存食を店売りの分作れないと思うから、その内レオンおじさんから頼まれると思うし・・・。」
「へ?いつの間に調べたの?・・・・うーん、まぁいいや暇な時間に動かずに後から買い出しに出かけるのも時間が勿体ないし、行ってくるね。」
「はい、落とさないようにね?余った分はパラミュにあげるから。」
「え?いいの?えへへ、それじゃぁお八つでも買っちゃおうかな?アリスちゃんの分もね!」
パラミュが銀貨を受け取ると、パタパタと音を立てて店の裏口から出て行く
「さてと・・・動体センサーを起動しておいて・・・・後はドローンの直接操作に切り替えて・・・。」
アリスが目をつぶると、脳内に虫型ドローンのカメラの映像が映り、街の上空を旋回する様に景色が動く。
(魔力センサーのノイズが激しいのはどう考えても街周辺よね・・・何処に細工が仕掛けてあるんだろう?)
街を覆う防壁、街道外れの林、街を貫く一本の川、あらゆる場所を虫型ドローンが飛行するが場所の特定に時間がかかっていた。
(魔物が潜んでいそうな場所は粗方調べ尽くしたけど、それらしいものは無いわね・・・え?これは・・・。)
一機の虫型ドローンが街の中心部に聳え立つ塔に奇妙な魔力波を捕えた。
(これは守りの塔、天然高純度魔石の塊を動力とする結界発生装置だ。)
(むむむむ・・・凄いノイズ、間違いなくこの塔に何か仕掛けられているわね?)
どうやら街を覆う結界発生装置に何らかの細工が施されている可能性があった。
店番を任されているので、身動きが取れないのがもどかしいが、現時点で危険な魔物は付近に存在しないことが分かっているので、大人しくパラミュが戻るまで店番を続けることにした。
そして閉店後、日が傾いたころ、ひっそりと裏路地で変身しバトルドレスを展開すると、ステルスフィールドで透明化しフライトユニットを起動して守りの塔へと飛翔する。
(ほぉ、これが旧世代の結界発生装置か・・・ふむ、火薬式の榴弾砲程度なら数発は耐えられるか、だが貫通力の高い光学兵器では気休めにもならんな。)
(ニコルさんと混ざる前のアタシだったら、凄く頼もしく感じてただろううなぁ・・・今だともうちょっと改良できそうなところが見えて少し歯痒いわね。)
守りの塔に侵入すると、動きを感知するセンサーの様な魔方陣が設置されており、これに引っ掛かるとワイヤーを突風で回転させ鳴子が盛大に鳴り響き衛兵に異常を知らせる原始的な仕掛けが施されていたが、アリスが手をかざすと魔方陣の光は弱まり、一時的停止状態になる。
(この程度の魔方陣なら工具も必要ないな、さて妙な魔力波を放っている仕掛けは何処にあるかな?)
「あ、魔銀ペーパーだ・・。」
アリスが何気なく結界発生用魔方陣の回路の上に張り付けられていた魔銀ペーパーを引きはがすと、一瞬魔方陣が明滅した後、奇妙な魔力波は収まった。
(ははぁん?不自然だと思っていたけど、やっぱりこれが原因だったのね?)
(殆ど何も考えていなかっただろうに君は・・・しかし、回路を編み込む設備もないのに良くもまぁ、こんな面積にこれだけの魔術回路を刻めるものだな?)
(ところどころ短絡があるから、虫眼鏡か何かで覗きながら回路を刻んだのかもね?魔術回路用プリンターがあれば何分もかからないけど、これを人間の手で刻むとなると途方もない時間と努力が必要ね。)
(ほぉ、魔物の気配が遠のいて行く・・・成程、これは魔物に縄張りが荒らされたと勘違いさせる魔力波を発生させる魔術回路の様だな?原始的ながらかなり合理的な魔術式だ。)
(未来知識があるからこそ、そう感じるんだろうけど多分、この時代の中でも最先端の魔術式だと思うわ、大体工場もないのに貴重な魔銀を態々ペーパーに加工する手間がかかっていて、精密な回路がこの小さな面積に刻み込まれているというのもそんじゃそこらの独立魔術師じゃ出来ないもの・・・。)
アリスは魔銀ペーパーを丸めて、クアッドクラウンのスキャナーに潜らせるとホログラムに解析結果が表示され、魔銀ペーパーの物質組成などが書かれている項目に目を通した。
(微量の希少金属を確認・・・うーん、魔銀ペーパーに含まれる不純物でこの数値って、やっぱりこれの材料になる鉱物の産出される場所がかなり絞り込めるんだけど・・・・例によってあの国が関わっていたのね。)
(放っておくのはかえって悪手だな、本格的に例の国の調査を進めておく必要がありそうだ。)
(怪我の功名と言うか、この誘導装置のお陰で大分魔物素材が集まったし、それで偵察機を作れるようになったのは嬉しい誤算ね。)
(高高度偵察機の燃料も大分集まったし、後は制作に取り掛かるだけか、ドローン製造の過程で出た魔物素材の端材はバイオリアクターで分解して高純度魔石の足しにしてしまおう。)
「さて、そろそろパラミュが心配し始めるころだからさっさと抜けよう。後は、音を鳴らす魔方陣を元に戻して置かないとね。」
フライトユニットの合成風が守りの塔周辺の大気をかき回して、アリスはレオンの商店方面へと飛んで行った。
案の定、アリスを探してパラミュが店の周りをうろついていたので、動体センサーで近くに人がいないか確認して変身を解除し、何気ない顔で大通りを歩きながらパラミュの居るところに向かう。
「あ、アリスちゃん何処に行っていたの?お夕飯が出来るからお父さんが呼んで来いって頼まれて、いつの間にかアリスちゃん居なくなっているし・・・。」
「ごめんごめん、レオンおじさんとパラミュが何となく疲れてそうだから薬草茶になりそうな薬草を摘みに行っていたんだ。」
事前に用意してあった薬草を見せるアリス。
「あぁ、公園の近くに生えている奴ね、有難うアリスちゃん!香りが良いからこのハーブ好きなんだ!」
「レオンさんを待たせるのも悪いから、早く行こう!」
「うん、アリスちゃん!」
二人の少女が家に戻ると、既に小さなテーブルには干し肉をふやかせた野菜スープが湯気を放って置かれており、レオンは少女たちに手を洗うように指示した。
「おう、戻ったか?手を洗った後、ご飯にするよ。」
「はーい!アリスちゃんがお茶になりそうな薬草を拾ってきてくれたんだよ!」
「本当は一度乾燥させたかったけど、生の奴はそれはそれで味が違うから、もう刻んでおこうかな?」
「ほほう?夕食に薬草茶が追加されたか、少し遅くなったが悪くないか、アリス!有難うな!」
王都に住むとある商人の家族の団欒は暖かなものであった。しかし、その裏でアリスは近いうちに騒乱の原因にして親と村の仇である国、エンヴィリアへの本格的な調査する事を決めるのであった。
(空いている時間を見つけて大型ドローンの制作に取り掛からないと、魔物誘導回路が撤去されたことに気づくまでにまだ時間がかかる筈だから、それまで大きな動きは無い筈・・・。)
(だが、時間は有限だぞアリス?急ぐ必要も無いが、あんまり悠長に構えているとエンヴィリアを動かす事になる。奴らが動く前に対策をしておかなければ君の村と同じような犠牲が出てしまうのだ、さっさと片をつけてしまおう。)
密かな決意を胸に秘めつつ、今日も少女たちの夜は更けて行く。