装備瞬間装着機能を使って内部データにあった子供用の装備を装着してみたが、通常は目視困難なほどの一瞬で行われるものが、多少動体視力が良い者なら全過程を見ることが出来る程度に遅くなっていた。つまり肌の露出時間が長いのだ。
「ひ・・・人が居なくて・・・良かった。本当に」
(アリスは元より流石の私も羞恥心が抑えられんぞこれは・・・だが、装飾過多であるものの、銀河連邦兵の制服と共通点があるな。)
「ホログラム起動。」
今の自分の姿のホログラムを映して服装を確認する。
「アクチュエータグローブに、バリアフィールド素子、飛行ユニットに、認識阻害チャフ・各種補助デバイスを確認・・・想像していたよりもまともね・・・。」
(自分の子供を少しでも優秀にしたい富裕層の親は、遺伝子操作兵程でもないにせよ、元から持っている因子をナノマシンを用いて厳選して受精卵を作ることもあるが、遺伝子操作兵とは別物だ・・・。流石に自分の子供を兵士にする様な事はなかったはず。ではこの装備は一体何だというのだ?)
「ちょっと前のアタシだったら、普通に可愛いと思うデザインなんだけどなぁ・・・あれ?良く見るとサインが書いてある。」
(ディ・・ア・・ナ?ディアナ博士か!)
ディアナ博士・・・・遺伝子工学の母とされ、遺伝子操作兵の生みの親であり、そのほか様々な発明をし、銀河連邦発足前の宇宙開拓期に大きく影響を与えた人物である。
(確か、一昔前の児童用アニメーション・・・ジャンルは魔法少女もの・・・だったか?彼女が重度の魔法少女フリークなのは知られていたが、マジックデバイスにこんなイースターエッグを仕込んでいたとは・・・。)
「しかもシステムの大分深い部分に食い込んでいるし・・・って事は未来の兵隊さんの武器1つにつき、漏れなく魔法少女装備のデーターが入っているって事なんじゃ・・・。」
少女は草の陰で親指を突き立てているディアナ博士の幻影を見た気がした。
「しかし、何だろう?装備を変えた程度で髪の毛の色まで変わるの事ってあるのかな?アタシ金髪だけど、毛先の部分が微妙に赤く染まっている気が・・す・・・る?」
「!!!セルフスキャンを実行!体内ナノマシン率を確認!」
クアッド・クラウンのホログラムモニターには体組織ナノマシン置換率75%と表示されていた。
「切り落された腕が元に戻っていて、胸の風穴が塞がっていた時点で気づくべきだった・・・。」
もう殆ど人間をやめていた。それだけならまだ良いが、この時代にはまだ存在していないナノマシンが持ち込まれてしまったのだ。体組織の剥離などでナノマシンが自然界に放出されてはどの様な影響を与えるか分からない。
大抵は水と空気に分解されるのだが、未来でも衛星軌道上からの広範囲スキャンで動作不良を起こしたナノマシンが放出されていないか監視がされていたのである。
「管理施設も工場もないこの時代でナノマシンの自然界放出は可能な限り避けた方が良いか?いや、私が生きている限りどうしようもないか・・・。」
(それにアタシまた死にたくないし)
「しかし、毛先が赤くグラデーションがかったり身長が微妙に伸びている様に見えるのは一体何故だ?スキャンデータの詳細を更に・・・・む?」
デバイスのモニターのプライベート欄が微妙にバグっていた。
遺伝子情報はニコルのものとは違う真人間・・・すなわち純血種であり、遺伝子操作された形跡がない。なのにも関わらず、魂の質はニコルそのものである。
肉体の方が間違っているのか、魂の質の方が間違いなのか本来想定されていない事態に内蔵コンピューターは盛大に動作不良を起こしているのである。
(まずい、アリスの肉体を私・・・ニコルに近づけようと何かやらかしているな?私が赤毛だったから・・・だから毛先が変質しているのか?)
「・・・でも、これはこれでちょっとおしゃれかも・・?」
(いやいや、そうではなくて・・・取りあえず元の服に戻そう。)
不思議なことに、魔法少女風の装備を解除する時だけは一瞬で終わった。そのことに少女は深いため息をつくのであった。
「服をほぼ一瞬で着替えることが出来るのはこの時代では大きなアドバンテージだが、装備装着時間を無意味に伸ばし神経に電気信号を与えて強制的にポーズをつけさせることで余計な隙を作るのはやはり関心できんな・・・それが使う機会が無い無駄なデータだとしても。」
(おや?)
「髪の毛の色が元の色に戻っている・・・それに、身長もちょっと縮んでいるみたいな・・・?」
少女は首をかしげるが、ふと思い当たることがあった。
(確か魔法少女ものの中には、変身した後、大人の体になるタイプのものもあったな・・・・つまり、ナノマシンで若干体積がかさ上げされているな?)
「擬体と同化して肉体を一時的に成長したように見せかける・・・大体こんな仕組みなんだろうな、それでアタシとニコルさんが微妙に混じったよな体になると」
「はぁ、迂闊に使えないなぁ、この装備・・・そもそもアタシが生きているこの時代で着るには違和感のある服しかないし、一体どうすれば・・・・・・あっ」
クアッド・クラウンのデバイスを検索して、ファブリケーション機能の欄を押し、ボロボロになっていた元の服をスキャン・修復し、木綿で作られた服は新品同様になった。
「今の今までこの機能忘れていたよ・・・アタシに引っ張られてニコルさんも微妙にお間抜けになっちゃっているんじゃ・・・。」
どちらも自分の事なので、やるせない気持ちになった少女は再びため息をついた。
「・・・・村のみんなを弔わないと、そして領主様に報告しなきゃ」
少女は念のためにクアッド・クラウンの機能を使って村人の蘇生を試みたが既に手遅れで彼らが戻ってくることはなかった。
盗賊の死体は焼却魔法で消し炭にし、村人の遺体は丁寧に整えた後、土葬したのち短寿命の分解用ナノマシンを散布した。
(理論上は暴走は起こさず、空気と水に分解するナノマシンだ。信頼性は高いとみてよいだろう・・・。)
「・・・・・・・。」
(安らかに・・眠ってくれ・・・遠い未来では、幾らでも人の死は見てきたし、友人も多く失ってきた・・・だと言うのに感情の制御ができぬ。)
「っ・・・・ぐすっ・・・・。」
(ううん、違うよ・・・混ざる前のアタシだったら、泣きわめいて泣き散らしてここから離れるなんて事もしなかった筈だし、むしろこんなに悲しいのに思いっきり泣くことが出来ないの。)
「ふ・・あ・・うぅ・・・ぐすっ・・ひぐっ・・・。」
(混ざったことで混乱しているのもあったの、でも・・・見ようとしていなかった、現実逃避をしていた・・・お父さんとお母さんを失ったことを認めたくなかった。)
「う・・・くっ・・・ふーっ・・ふーっ・・・くぅ・・。」
(両親と村の皆を殺して、村をこんな姿にした奴らをアタシ許さない!・・・それに、装備がやたらと充実していたのが気になる・・・裏に居る奴も引きずり出してやるんだからっ!!)
少女はその内側に静かな炎を灯して、弔いを終わらせた後、周辺の警戒や使えそうなものが残っていないか確認を行い、破壊された村の門をくぐり王都へ目指した。
「村娘のアタシにとっても、未来人でこの時代の歴史に詳しくないニコルさんにとっても、未知の世界・・・・悲しくても苦しくても・・・絶望の底に沈んでもその先は容赦なく続いて行く・・・まだ、始まったばっかりよ。」
「あぁ、この時代に二度目の生を受けたアタシと私だ。きっと何かしらの意味あってこうなる資質を得たんだろう。」
(・・・まともな人生は送れないだろうけど、生きていくんだ。この世界で)
ふと、振り返ると村の跡地は随分と小さくなっていた。
(さよなら・・・アタシの生まれ故郷・・・。)
少女は、ウォーテリア王国王都に向けて歩き出した。