燃え残った村の廃墟から、鍋や包丁、弓や農作業用フォークなど拾い集め、背嚢にしまい込み、王都ウォーテリアへ向かうアリス。
時々行商人が通る道を辿り、自分がまだ小さい頃何度か行ったことがある王都への道のりを思い出しながら盗賊の残党や魔物が現れないか警戒しながら歩き続けた。
「村から離れるなんていつぶりだろう?農作業に追われて一日があっという間に終わっちゃうけど、こうして王都への道を歩いていると、何だか探検しているみたいで楽しいな・・・。」
(・・・・こんなことが起こらなければ、もっと楽しい気分になっていたんだろうな。お父さん、お母さん・・・アタシ、王都でも頑張るから。)
「自然がそのままの形で残されている、綺麗・・・遠い未来では管理していないと植物が枯れちゃう星もあったけど、今アタシが見ている光景はとっても貴重なものなんだろうなぁ。」
(私が生まれた星では、殆ど機械化されていた上に、植物も後から植えたものだからな・・・定着できる種類の植物なんぞサボテンくらいだったよ。)
「あ・・・そろそろ森を抜けるかも、峡谷が見えてきたよ。」
森の木々の数が急にまばらになり、視界が一気に広がる。
峡谷の間には沢が流れており、ちょろちょろと小さな水しぶきを上げながら水が流れているのが解る。
「大昔は大きな川が流れていて、その風化作用で峡谷が出来上がったって王都の本で読んだことあるなぁ、今の今まで忘れていたし、そもそも前のアタシは意味すら理解していなかったんだろうけど・・・。」
(やはりアタシはニコルさんなんだ・・・ふむ、だが覚えていた知識を生かせない辺り私はアリスでもあるのだろう。)
峡谷を歩いていると、太い蔦の様なものが飛び出してきてアリスの前に立ちふさがった!
「うそっ・・・エメラルドヴァイパー・・・大人でも丸腰じゃ死人が出る魔物じゃ・・・なんで街道にこんなのが出てくるのよっ!!」
フシャアアアアアア!!
以前のアリスならばそのまま丸のみにされていたであろう、しかし反射的に背負っていた農作業用フォークを構え、エメラルドヴァイパーの毒牙を弾き、無防備な首を押さえつけると、調理用兼ね護身用の包丁を眉間に突き立て絶命させる。
「あぁ、びっくりした・・・本当だったらアタシあのまま毒にやられて丸呑みされていたんだろうなぁ・・・やだっ、今になって震えが来た。」
(まぁ、あんな生き物に後れを取る訳がないだろうな。)
「確かこの蛇の毒腺は鏃に使えたし、皮は需要があるみたいだし、お肉もあっさりして美味しいんだっけ?ちょっと重そうだけど持っていけなくはない・・・のかな?」
エメラルドヴァイパーを解体し、背嚢にどうやってしまい込もうか、迷っていると、血の臭いに誘われたのか砂に潜っていた巨大な甲殻類が突如現れ鋏を振り上げながら突進してくる。
「げぇぇっ!?アイゼンクラブ!?こんな水の少ない場所に居るのぉぉ!?」
(あれでは農作業用フォークすら歯が立たない・・・むっ?・・な・・・何故杖がある事を忘れていた?)
「SSS起動!クアッド・クラウン!!」
エメラルドヴァイパーの肉片を投げつけ、アイゼンクラブの気をそらせた隙に、亜空間から機械仕掛けの杖を取り出し、ガシャンという音と共に先端が4つに分かれ、先端に魔力が円を書き青白いパルスを迸らせる。
「ポイントストライク!!」
魔力を圧縮し、矢のように射出するごく単純な魔法・・・それが、クアッド・クラウンの力によって極限まで威力が高められていた。
旧世紀に盛んに使用されたライフル銃に匹敵する威力のエネルギー弾が、アイゼンクラブの鉄を含んだキチン層を容赦なく貫いた。
破裂音と共に、甲殻が粉砕され、盛大に破片と体液をまき散らしながらアイゼンクラブは沈黙する。
「よくよく考えると、そもそも背嚢なんて使わずに、SSSに荷物をしまい込んでいれば良かったんじゃ・・・・はぁ、魔物に襲われたのは不運だけど、これを全部売り払えば当分は食べるものに困らないかも。」
(機転が回らないな・・・・本当に・・・昔の私ならば、襲い掛かってくる前に仕留めただろうし、そもそも襲われないようなルートを通って街を目指すが・・・それも何故か今は思いつかん。)
「流石に飛行デバイスで王都まで飛んでいったら大騒ぎだし、この服装じゃデバイス使えないし・・・あの装備に着替えたまま街に降り立ったりしたら・・。」
ぞわぞわと、体の産毛を逆立たせながら身震いをするアリス。
魔物の素材をSSSにしまい込むと、再び峡谷を歩き始める・・・しかし、彼女は妙な予感を感じていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・はぁ、なんでこう嫌な予感ばかり的中しちゃうんだろう?」
グルルルル・・ゴルルルルルル・・フス・・フシュルルルル!!
かなり距離があるが、王都が見える位置に騎士団も苦戦するという大型魔獣が、のっしのっしと我が物顔で街道を闊歩していた。
あちら側も既に、アリスを捉えておりその瞳は彼女を餌としか認識していない様だった。
「・・・もう頭にきた、装備瞬間装着機能・・・・バトルドレス展開・・・へ・・・へ・・へーぇぇぇんしんっ!!」
アリスの服は解けるように粒子化して消え去り、ナノマシンの群体が彼女の体を大人に近づけるように擬体を形成し、体が偽りの成長を終えるか終えないかのタイミングで包帯状に連結したナノマシン群は体に巻き付きながら、下着と上着、部分的なプロテクターに変化し、アリスは杖を構えたポーズをとる。
「悪党はお仕置きよっ!・・・・・・はぇっ!?アタシ何言っちゃってんのっ!?」
大型の魔物は、アリスの奇妙な仕草や叫び声に反応し、縄張りを犯す侵入者と判断し、巨大な頭部から牙を剥きだしにして突っ込んでくる。
「だから神経に介入するなと言っている、妙なポーズを付けさせおってからにぃ!!」
幸い杖を構えたポーズだったが故に、直ぐに攻撃に移れたので魔力チャージと照準を付けることが出来た。
「チャンバー内圧力よし!フォースブラスター!!」
遥か未来で主流となっている遠距離武器の基本兵装、小型化した光学粒子砲フォースブラスターは、弾速・威力共に申し分なく、ポイントストライクの比ではない高威力の魔光の束が大型魔獣、ジャイアントファングの胸部を破壊し、そのまま脊髄を焼け焦がしながら光は雲の上まで貫いた。
「村を滅ぼされたと思ったら、滅多に出会わないはずの魔物にこうもタイミングよく・・・いや、悪く遭遇するなんて、アタシ、ニコルさんと混ざって生き返った事で人生の運を全部使い果たしちゃった?」
「ま・・・まぁ、取りあえずジャイアントファングは全身が高級品みたいなものだし、これもSSSに仕舞い込んじゃえば、ちょっとした財産かも?」
(問題は売りつけるコネが無い事よね・・・どうしようかな?)
アリスはバトルドレスを解除しながら、クアッド・クラウンのレーザーメスを起動して、ジャイアントファングの解体作業を始める。
「ジャイアントファングは大物ね・・・ジャイアントキリング~・・・なんちゃって・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
(・・・・・・・・・・。)
(すまんな、アリス・・・君が何を言っているのか分からない)
「なんていうか、ごめんなさい。」
アリスもニコルも解体はあまり慣れておらず、血抜きがうまくできず大まかにブロックで切り分けた後、SSSに格納する。
「ふぅ、流石に日が暮れそうだ・・・しかし、あの妙なポーズと台詞は一体なんだったのだろうか?」
(ああも、ポージング機能が発動されては戦闘の時に命取りになるよ、のんきに自己紹介している様な敵も居るわけないんだし、いつでも戦えるように身構えていないと・・・。)
(ふむ・・・しかし、以前のポーズとはまた違っていた様にも思える・・・・クアッド・クラウンの内蔵AIに状況を判断して、それに見合った隙の無いポージングをさせているのだろうか?無意味なことを人にやらせる割に妙なところで律儀なのだな・・・?)
「・・・はぁ、もうどっちでもいいや、王都はもう目の前だし、早く向かおう!」
アリスは魔物に連続で遭遇しつつも、なんとか街に到着する。
(街の衛兵さんは、村が襲撃されたことを聞くと血相を変えてお城に向かって走って行って、取りあえず門は通してくれたけど、これからどうしよう?)
(よく思い出すんだアリス、街に何度か訪れたことがあるのだろう?顔見知りの一人や二人見かける筈だ・・・。)
(そんなこと言われましてもねぇ・・・基本的にアタシたち村の外に出る事って滅多にないからなぁ・・・。)
首都ウォーテリアの商店街を歩いていると、どこか聞き覚えのある声で店の商品を値切る少女を見かけた。
「えぇ~その薬・・・街の中でも生えている雑草同然の薬草が材料でしょー!?なんでそんなに高いのよー!」
「こらこら人聞きの悪い事を言うな嬢ちゃん、触媒と反応させる魔石が最近値上がりしちゃってて、これでも切り詰めているんだよ。」
「ぶー、でも品質にしても効能にしても見た感じ良くて中級品でしょ?加工の手間を考えてもせいぜいこれくらいでしょ?」
雑貨店の店主と話している少女は、銅貨を幾つか差し出し、緑色の液体が入った陶器の小瓶を指差す。
「まったく、せめてもう1枚くらい払ってくれても良いものなのに・・・お父さんに似てきたなあ君は・・・。」
「へっへっへぇー!有難う御座いまーす!」
「・・・あら、パラミュじゃない?久しぶりね。アリスよ?」
アリスが後ろから少女に話しかけると、はっとした表情で少女は後ろを振り向いた。
「え・・・えっえっ!?あ・・アリスちゃん!?なんで王都に!!?」
(行商人の娘・・・パラミュか、アリスの記憶では時々農具や作物の種子などを取引していた父親についてきて、村の子供に混じり遊んでいたな。)
「うん、私ね・・・独りぼっちになっちゃったの。」
「・・・・話を聞かせて貰っても良いかしら?」
パラミュに村が盗賊の襲撃を受けて壊滅し、命からがら逃げてきたことを伝えると、パラミュは口を押え顔を青ざめさせ、瞳から涙がにじみやがてポロポロとこぼし始めた。
「そ・・・そんな、村のみんなが・・・アリシアおばさんもトムおじさんも・・・死んじゃったなんて・・・。」
「逃げる途中、矢で射抜かれちゃったけど、何とか盗賊をまいたの・・・魔物にも襲われたりしたしね。」
「アリスちゃん・・・本当に、本当に良く無事で・・・。」
赤く薄汚れた服を部分的にはだけさせて矢で射抜かれた場所の治療痕をパラミュに見せて盗賊に襲われた事が事実だと証明させた。なお、覚醒した直後に傷はあらかた治療された後なので、街に入る直前でファブリケーション機能とナノマシンを使って服と傷を生々しく偽装しただけであるが・・・。
「当たり所が良かったのか、腕のどこかが動かないって事は無かったんだけど、血の臭いに誘われたのか魔物が集まってきてね。もう逃げるしかなかったの」
「アリスちゃん!!」
「ちょ・・ちょっとパラミュ!?」
パラミュは涙と鼻水でぐしゅぐしゅになった状態でアリスに抱き着いた。アリスも困った様な顔をしていたが、やがてアリス自身も堪え切れなくなり静かに涙を流しながらパラミュを抱きしめた。
「アリスちゃん・・・村の事は・・・村の事は残念だったけど、私がいるから、だから安心して・・・ね?」
「うん・・・有難う・・パラミュ。」
パラミュが落ち着くと、アリスも服の端で涙を拭いて気持ちを切り替える。
「そうだ、パラミュ、この街に襲われる途中魔物に襲われたって言ったでしょ?」
「あ・・・・確かに、アリスちゃん良く無事だったね?」
「逃げている最中、魔物同士の喧嘩と遭遇しちゃってね。その時こんなの拾ったんだけど・・・。」
背嚢に入れておいたジャイアントファングの剣歯を取り出すとパラミュに差し出した。
「いやぁ、おっきな魔物が鉄っぽい蟹に噛みついてね。歯がぽっきり折れちゃったから、こっそり拾ってきちゃったの、何かに使えないかな?」
勿論全て嘘である。道中で銀河連邦兵の体術や魔導兵器で容赦なく全て撃破したので完全無傷のまま堂々と街まで徒歩で王都に辿り着いたのである。
「じゃ・・・ジャイアントファングの・・・牙・・・。」
(おい、いかんぞアリス・・。)
「ふぇ?パラミュ?」
パラミュは顔を青ざめさせたり真顔になったり、ふつふつと怒りをためて赤くなったりと忙しく表情を変化させていった。
「な・・なんて危ないことしてんのアリスちゃーーん!!」
「あば・・あばばばば!ゆ・・揺らさないでー!!?」
「ちなみに、この牙!大銀貨で取引される貴重品!くれるってんなら父さんに言ってアリスちゃんに相応の代価を払うわ!でも、女の子がそんなの拾いに行ったり、無警戒に街中で見せつけちゃ危ないでしょう!!」
「あ・・う・・ご・・ごめん・・なさい?」
「もうやだ、この子どれだけ死にかけてるのよ・・・もう・・・もう決めたんだから!」
「パラミュ?」
「提案があるの、うちの所で働きなさい!!」
「え・・・ええええぇぇっ!?」
王都の市場で少女の叫びが響き渡る。