隣町の衛兵に盗賊を引き渡すと、事情徴収を受け、休憩中を狙って盗賊に襲われた事や旅の女戦士に助太刀された事など、幾つかの情報を話した後、解放された。
本来ならば旅の女戦士に支払われる報酬であるが、盗賊を街まで連行した事で商人レオン達はそれなりの報酬を貰い、思わぬ臨時収入に困惑気味で商談予定の場所へと向かった。
「本当ならばあの女戦士殿が貰うべき報酬金だが、盗賊を運んだだけの我々が貰ってしまうのは心苦しいものだな・・・。」
「何言ってるのよ!商人ならここは素直に喜ぶべきよ!じゃないと女戦士様に失礼だわ!」
「ははは、パラミュに言われるとはな、私もまだまだか・・・。」
「そうそう、レオンおじさん気にしないの!これから商談なんでしょ?頑張らないと!」
「あぁ、そうだな・・・うむ、もうそろそろ目的地に着くし、気持ちを切り替えないとな。」
商談に訪れたのは雑貨店で、荷車一杯に乗せられた薬草や小麦粉などで、移動中に劣化した分の値引きや、劣化しなかった比較的品質の良い物の選別などが行われ、商談がまとまる頃には、日が傾いていた。
「まったく、お手柔らかにお願いしたいもんだねぇ、レオンさん。」
「はっはっは、お前さんとは長い付き合いじゃないかい、これからも末永くよろしく頼むよ!」
「あぁ、勿論さ、ここ最近この街付近も治安が悪い、今回はたまたま助けが入ったから何とかなったが、くれぐれも道中気を付けてほしい。」
「そうだな・・・。」
大人たちの会話を横目に、商談の様子を見ていた少女たちは雑談をしていた。
「初めてレオンおじさんの商取引見たけど、大したもんだねぇ・・。」
「まー仲の良い人だからこんな感じで纏まったけど、本当はもうちょっと長くなるんだよ?」
「え?だって見た感じ売り物に問題は無かったでしょ?そりゃ、多少劣化する品があったのは間違いないけど・・・。」
「ちっちっち、アリスちゃん甘いよ。ちょっと品質が悪かったら、他の商品もそんなもんだろうって、足元見てくる商人も居るんだから!」
「そうなの・・・まぁ、知らない町とかで取引するのは難しそうな気もするけど・・・。」
「お互いの事をまだ知らないときは、探り合いが基本だからね。信用できる人からの紹介でも、油断ならないんだから。」
「うーん・・・アタシにも出来るのかなぁ・・・ちょっと自信がなくなってきちゃったよ。」
(私も戦闘に関しては自信があるが、商取引と言うのには疎いものだからな・・・しかし、アリス、最初からあきらめるのはどうかと思うぞ?案外君の方が私よりも上手くやるかもしれんしな・・・。)
「やぁ、子供たち、待たせてしまったね。商取引は無事に終わったよ。」
「はい、とても勉強になりました!」
「ねーねー!暗くなるまでまだ少し時間あるから、アリスちゃんとお散歩してていいかな?」
「そうか?それじゃぁ、アリス、パラミュ、お小遣いを上げるからそれでお菓子でも買いなさいな。」
「えぇ!?そ・・・そんな、いえ、有難う御座います!」
「わぁい!お父さん大好き!」
アリスはパラミュと共に街を歩き、銅貨を払って旬の果物や、安物ながらお揃いの紐飾りを買ったり、街の各施設を見物したり楽しく充実した時間を過ごした。
「あ、アリスちゃん!ちょっと買い忘れたものがあるから、待っててね。」
「どうしたのパラミュ?ついて行くわよ。」
「んーんー?さっき立ち寄った場所だからつまらないかもよ?そうだ、宿泊予定の宿の前で待ち合わせしよ?」
「パラミュがそう言うならそうするけど・・・気を付けるんだよ?」
「アリスちゃんこそ!」
パラミュと分かれると、一人になったアリスはふとSSS(ソウルストレージシステム)に魔物素材を入れたままになっていることを思い出し、何処かに換金できないか思考を巡らせた。
(うーん・・・アタシみたいな子供が武具屋さんとかに魔物の皮とか売りに行ったら、どう考えてもおかしいし怪しまれるわよね?)
(気は進まないが、あの装備に着替えて変装してみてはどうだろうか?多少年齢もごまかせると思うが・・・。)
(に・・ニコルさん、あの格好だよ?どう見ても悪目立ちするでしょう?)
(ふむ、実はこんな事もあろうかと、盗賊からフードを失敬しておいたのでな?バトルドレスを隠すくらいなら可能だろう?)
(うん、言葉に出す前に理解はしていたよ、貴方はアタシ自身なんだから、もう・・・しょうがないなぁ、認識阻害チャフは最大出力で使うからね。)
アリスは、路地裏に隠れ、小型センサーで周囲に気配や反応が無い事を確認すると、バトルドレスを展開した。
アリスの体が15~16歳程度の肉体に疑似的に成長すると、ナノマシンが光の帯を形成し、アリスの裸体に巻き付きインナーから上着、プロテクターなどを形作り、銀河連邦兵の制服を魔法少女風にアレンジしたバトルドレス姿に変身した。
「SSS起動・・・うぇぇ、ローブと言うよりもボロ布じゃん、男臭いし非衛生的だわ。ファブリケーション機能で補修しようかな・・・。」
魂に作られた亜空間から、戦利品のローブを取り出すと、思っていたよりも状態の悪いボロ布にげんなりとした表情をするアリス。
クアッド・クラウンの先端が4つに分かれ、先端から分子配列操作ビームが照射され、ボロ布のローブは、しっかりとした布地の清潔なローブに生まれ変わった。
「ふふん、こっそり緩衝材として箱の隙間を埋めていたパルプ材も材料に使ったから布地も少しだけ分厚くなったよ。冒険者装備として違和感ないわ!」
(君もちゃっかりしているじゃないか、まぁ、女の子にあんなものを着せるのはよろしくないから良いんじゃないか?)
早速新品になったローブを着込んで、魔物素材が売れる場所を通行人に尋ねると、怪訝な顔をされながらも、冒険者ギルドへ売れば良いと言われ、そのまま冒険者ギルドの建物へと入って行く。
「どうも、いらっしゃいませ、冒険者ギルドへの加入ですか?」
「いえ、魔物の素材を売りたいのですが、窓口はこちらで宜しいのでしょうか?」
「魔物の素材・・・ですか、どの様な品を売ってくださるのでしょうか?」
「エメラルドヴァイパーの肉や皮などです。」
ローブの中でSSSを起動して、亜空間からエメラルドヴァイパーの素材を取り出し、テーブルの上に並べて行く。
「これは・・・大物ですね、鮮度も高いですし、これ程状態の良いものは中々お目にかかれません。」
「あぁ、いや、この街に来る道中に襲われてましてね、護身用の短剣が偶然眉間に当たって運よく狩れたのです。」
「そうだったんですか、毒の牙が刺さらなくて良かったですね。」
成人男性を丸呑みに出来そうな大きさのエメラルドヴァイパーの皮を見て冒険者ギルドがざわつく。
「本当に運が良かったわ。何かが間違っていたら今頃この大蛇の腹の中でした。」
「皮・肉・毒腺を含む毒牙・内蔵、すべて買い取りまして、大銀貨9枚になります。」
「そんな大金で良いのですか?」
「エメラルドヴァイパーの素材の需要は高いですからね。特に皮は武具や服に使われる高級品です。色くらい付けさせてくださいな。」
「有難う御座います。助かりますよ。」
魔物の素材が思ったよりも高く売れたアリスは、ほくほく顔で冒険者ギルドを後にする。
(エメラルドヴァイパーの素材が高く売れて良かったわ、一度にまとめてアイゼンクラブやジャイアントファングの素材を売ったら怪しまれそうだから、他の街で換金しないと・・・。)
(ナノマシンで凍結処理をしているが、SSSの亜空間の内部では時間は止まっているからな・・・腐ったり劣化する心配はないが、容量も限られているし、余計な荷物は持たないに越した事は無い。)
(ニコルさんの時代なら、魔物の素材よりも更に丈夫な合成繊維が開発されているからね・・・このバトルドレスもそうなんだけど。)
(まぁ、ファブリケーション機能で何時でも合成可能ではあるが、素材無しでは幾らクアッド・クラウンMkⅣでも作ることは出来ん、ナノマシンで構成されているバトルドレスも杖の中に格納されているナノマシンの分しか製造できないからな・・・。)
「どこを見て歩いているんだクソガキがぁ!!!」
「きゃぁぁっ!?」
(!今の声は・・・パラミュ!?)
中々戻らないアリスを心配して探しに来たのだろうか?パラミュが冒険者ギルド付近でガラの悪い冒険者に絡まれていた。
「てめぇ、この野郎、高い酒だったのに落としちまっただろうが?どう弁償してくれるんだ?あぁん!?」
「ひ・・・ご・・ごめんなさ・・。」
「ごめんなさいで済む話じゃねぇだろ?金が払えないってんなら、その安っぽい服でも売って金の足しにでもすればいいだろう?おらぁ!」
パラミュの服を脱がせようと掴みかかった冒険者に声をかける。
「ちょっと!子供に何てことしているの、大人げない!」
「あぁ?あんだテメェは?俺はこのガキに教育してやっているんだ、外野はすっこんでな!」
「安物の酒をわざと落として、街中で女の子の服を脱がそうとするなんて犯罪行為にもほどがあるわ!弱い者いじめしか出来ない男は惨めね。」
「んだとぉ?ぶっ殺されてぇのかっ・・・・。」
「正当防衛だ。」
アリスにつかみかかろうとした男は、ローブを投げつけられて視界を奪われた後、魔力を込めたアクチェーターグローブのボディブローを食らいもんどりを打ち、追い打ちに振り下ろされた拳骨を頭部に打ち込まれ意識を刈り取られる。
「げはぁっ!?・・・げひっ・・。」
ローブを脱いだアリスのバトルドレス姿に野次馬たちはざわつく
「な・・なんだあの格好は?鎧?魔法の鎧か?」
「どこかの貴族のお忍びかしら?綺麗な髪の毛・・。」
「あの若さでとんでもない動きしやがる、只者じゃねぇ!」
(アリス・・・ローブを脱いだのは間違いだったぞ?)
(あはは・・えーっと?どうしよっか?)
「あ・・あのっ!!」
「え?パラ・・・いや、君、大丈夫かな?」
「はいっ!平気です!!あのっ!一つお聞きしてよろしいでしょうか!?」
「その金と赤い色の混じった髪・・・もしかして、街に来る途中、私たちの馬車を盗賊から守ってくれた戦士様とは貴女の事でしょうか!?」
「あぁえと、その・・・うん、そうかな?」
「わぁっ!!あの時怖くて気を失っていたから、お礼を言えなくて、あの・・命の恩人と、是非お会いしたいと思っておりました!」
「いや、君たちが無事ならそれでいいんだよ。」
「そんな、あの・・お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「えぇ、いや私は名乗るほどの者では・・・・。」
「騒ぎを起こしている奴は一体どこのどいつだ?牢屋にぶち込んでやる。」
騒ぎを聞きつけた衛兵が駆け付けてくると、派手な格好をしているアリスに目を向ける。
「そこの倒れている男は何だ?お前さんがやったのか?」
「えぇ・・。」
「ち・・・違うんです!戦士様は私を助けるために酔っぱらいを倒してくれたんです!」
「そうだとしても、街中で騒ぎを起こされては困るんだ、その男からは後で話を聞くから、あんたもついてくるんだな。」
事の成り行きを見ていた野次馬たちからブーイングが飛ぶが、衛兵は意に介さずアリスを連れて行こうとした。
「申し訳ないけど、私は多忙なんだ、それじゃっ!!」
アリスの拳から黄金色の粒子が迸り、目がくらまんばかりの光が辺りを包み込んだと思うと、少女の姿は忽然と消え去っていた。
「ぐっ・・・逃げられたか・・・?・・・まずいな、彼女の顔を忘れてしまったぞ?」
「女戦士様・・・ううん、髪の毛の色くらいしか思い出せない・・・なんで?」
現場に残ったパラミュは、衛兵に事情徴収されると、目撃者多数で冒険者の男は牢屋行きとなり、パラミュは無事に解放され、宿の前に立っていたアリスと合流する。
「パラミュ、宿の前で待ち合わせじゃなかったの?」
「そ・・・それは、こっちの台詞だよアリスちゃん!アリスちゃんがなかなか戻ってこないから・・・その・・・。」
「探しに行ってくれたんだ?うーん、入れ違いになっちゃったのかな?ごめんごめん。」
「ううん、いいの。アリスちゃんを探しに勝手に動いた私が悪いんだし・・・。」
「それじゃぁ、レオンおじさんも心配しているし、早く宿に入ろう?明日も早いし、しっかり休まないと!」
その後、アリスは寝るまでパラミュから命の恩人の女戦士様と出会った自慢話を聞かされ、何とも言えない気分で眠りについた。
帰り道の馬車の中でもパラミュの女戦士様自慢は止まらない。
「盗賊を倒してくれたのに、街の中でゴロツキに絡まれた時も助けてくれたの!」
「パラミュぅ、もうその話聞いた・・・。」
「あぁ、金と赤の髪・・・神々しい鎧姿、二度も助けてくれるなんて・・・運命を感じちゃうわ!」
(うぅ・・・なんでこうなっちゃったんだろう?)
(アリス・・・今回ばかりは君の自業自得だったぞ?まぁ、止めない私も私だが・・・。)
「はぁ・・・またお会いできないかしら・・・?」
心の英雄に恋い焦がれるパラミュの話は止まらない・・・・揺れの酷い馬車の中でさえ眠気に抗えなくなったアリスが体を横たえるにはさほど時間はかからなかった。