「近隣の村を襲撃した盗賊とは貴様らの事か!!」
「ぐぅ・・・何のことかわからんな・・・。」
「しらばっくれるな、村の焼け跡に貴様らの仲間の死体に同じ意匠の紋章が描かれた服や武具があるのだぞ?本拠地は何処にある?言え!言うんだ!」
「げああぁぁっ!!・・・が・・し・・・知らん!!」
商人レオンの馬車を襲った盗賊たちが、街の衛兵に尋問を受けている。
その様子を、小さな無人偵察機が撮影をしていた。
(・・・・口が堅いわね。ただのゴロツキとは思えない口の堅さだわ。)
(尋問・・・と言うよりも拷問の類だが、宇宙進出を果たした未来程設備が整っていないのに、これだけの事をするのか、この時代は・・・それにしても、拷問に対する訓練を行ったことのある人間なのかもしれんな・・・こやつは・・・。)
羽虫を模した上に、認識阻害チャフを使用した無人偵察機は、隣町の牢屋の鉄格子付近に着地し、上から眺めるように拷問を撮影し、リアルタイムでアリスの脳内に映像と音声を送信している。
「ねぇ、アリスちゃん聞いているの?・・・寝ちゃった?移動中の馬車の中でよく眠れるわね?」
「ん~~~?もう目的地に着いたのパラミュ?」
「もうっ!謎の女戦士様の話の続きをしていたのに聞いていなかったの!?盛り上がってきたのに!」
「いやぁ・・・盛り上がったも何も、話が元の場所に戻っていたじゃない、会いたかった人に会えて嬉しかったのは分かるけど、程よく切り上げてくれると有難いなぁ・・。」
「な・・・なによ、アリスちゃん!もう知らないんだから!ぷー!」
「こらこら、喧嘩はするな、もうそろそろ王都に着くぞ?準備をしておきなさい。」
「はい!レオンおじさん!」
「うー・・・はいわかりました。ぷぅ」
荷馬車から降りて、アリスとパラミュは大人に混じって隣町で詰め込んだ荷物を下ろしてレオンの店に運んだ。
「よいしょっと、へへへ・・・どう?力持ちでしょ?」
「小麦袋重そうだねー、落っことさない様に気を付けてね。」
「ふふん!これくらいへっちゃら・・・どえええぇぇ!!?」
「よっほっ!うんしょっと!」
パラミュは年相応の筋力なので、それ程多くの荷物を運べなかったが、アリスはちゃっかりアクチェーターグローブをはめて木箱を山積みにして運んでいた。
「む・・むむむぅ!ま・・・負けないんだから!ふんぎぎぎぎ!!」
「えっ!?ちょっ!パラミュ!それは無茶だよ!わぁっ!!」
「ふげぇー!」
パラミュはアリスと張り合って無理して大きな木箱を運ぼうとして、そのまま倒れた木箱の下敷きになってもがく事態になったが、騒ぎを聞きつけた大人たちが箱をどかしてパラミュは救出された。その際、アリスとパラミュそろってレオンに叱られることになった。
「うぅぅ・・・痛いよ、怒られちゃったよぉ・・・ぐすん。」
「んー・・・ちょっと調子に乗りすぎちゃったかも、とほほー」
(アリス・・・君は本当に懲りないな、我ながら呆れてしまうよ。)
(ニコルさんもノリノリでグローブ用意したでしょ、材料の魔石が隣町で手に入ったからと言って作業用手袋風にアクチェーターグローブをファブリケーションしちゃうんだもん。)
(ナノマシン強化されているからと言って、君の体はまだ子供だ、護身用にその程度のパワーアシスト道具は必要になってくるだろう。遊びに使わない事だな。)
「それにしても、アリスちゃんいつの間にそんなに鍛えたの?」
「農作業の手伝いをしていれば、これくらいにはなるよ。」
「えー?そうかなぁ・・・。」
「・・・・つい最近、死の淵をさまよったばかりだし、体の強さの重要性は身をもって理解したつもりだよ。」
「う゛・・・アリスちゃん、重い・・・重たすぎるよ・・・。」
パラミュが若干引いていると、レオンがやってくる。
「おぅい!子供たち、そろそろ夕食の時間だぞー!」
「うんわかった!今行くよー!」
「楽しみだね、パラミュ!」
商人をやっているレオン家族は、王都の中でも中流層に位置し、それなりに豊かな暮らしを享受している。
農家生まれのアリスは、畑で見つかる食用芋虫やバッタなどを捕まえては内臓を穿り出して火で炙ってお八つにしていたが、レオン宅では川魚の塩焼きが振舞われた。
「川魚なんて久しぶりに食べたよー!しかも塩がふんだんにかけられていて美味しかったー!」
「アリスちゃん村で一体何食べていたの・・・。」
「え?ツチモグリとかクサカジリとかを串にさして火で炙って・・・・。」
「ああ、アリスちゃんの村って川とか池とか奥の方に行かないと無いからね・・・でも、それって釣り餌用の虫なんじゃ・・・。」
「そんな事は無いぞパラミュ?俺がまだ独立したばかりの頃は、ひもじい思いをしたことだって数えきれないほどある。そんな時は、そう言う食べれる虫や木の実とかを拾って食べて飢えをしのいだもんだ。」
「げげ・・・お父さん、虫を食べていたの?」
「あぁ、そのお陰で食あたりの怖さと言うのも知っている。いいか?幾ら飢えても、火を通せるなら火を通した方が絶対に良い!特に肉と魚はな!」
「レオンおじさん・・・魚の食あたりで良く生きてたね。お腹に穴空かなかった?」
「危うくな、旅の薬師のばあさんに虫下しを貰ってなかったら俺はその時死んで、妻と結婚していなかったしパラミュも生まれていなかった。」
「有難う旅のおばあちゃん!」
「それと、それらの虫はそのまま食べるよりも、近くに川や池があるなら釣り餌にしてしまった方が結果的に腹が膨れる。釣り竿は兎も角、釣り糸と釣り針だけはいつも持っておけよ。」
「うぅん・・・独立商人って大変なんだなぁ、アタシ本当に商人になれるのかなぁ?」
「まぁ、後継ぎのパラミュは兎も角アリスはお手伝いだからな、将来に何になるかは自分で決めなさい、何だったら商人の護衛剣士になっても良い。」
「ちょ、ちょっと!私は反対よ!アリスちゃんにこれ以上怖い思いさせたくないんだから!」
「パラミュ・・・。」
「冗談だよ、まぁアリス、君の好きなように生きなさい。その年で中々力持ちみたいだから、案外剣士とか兵士とかに向いているんじゃないかと思う事もあるが、そのまま商人や他の職を目指しても良いよ。」
「はい、よく考えておきます。」
「アリスちゃん・・・。」
「今はレオンさんのお手伝いをしておくよ、まだまだ覚える事は、いっぱいあるし!」
「ねぇ、アリスちゃん、私の相棒になってくれると嬉しいんだ。二人でお店を経営するの、きっと楽しいと思うよ?」
「ごめんパラミュ、アタシの人生なんだ、今はまだちょっと決めることが出来ないの。でも、それも悪くないと思っているから、その時はよろしくね!」
「アリスちゃん・・・うん、わかった!私が独立商人になってもアリスちゃんがいつでも来れるようにしておくから!」
(・・・・・村を滅ぼした奴らの裏で糸を引いている奴を見つけ出して、ぎゃふんと言わせてやるんだから、それにパラミュを巻き込む訳には行かないし・・・。)
(我々が死の淵から蘇った時、魔力暴走で証拠品ごと木っ端微塵にしてしまったが、あの盗賊の装備は荒くれ物が装備するには上質すぎる・・・裏組織どころか、下手をすると国が付いているかもしれぬ。)
(でも、困ったわね・・・隣町の衛兵さん、加減を間違えちゃったみたい・・・。)
一方、隣町の牢屋の盗賊は度重なる拷問に意識が朦朧とし、まともにしゃべる事は出来なくなっていた。
「あぐあぉ・・・えげげ・・・へぎ・・・。」
「くっ、やりすぎてしまったか、くたばるのは時間の問題だな。」
「ただの盗賊かと思っていだが、これはもしかすると思っていたよりも重大なことが裏で起きているのかもしれん・・・。」
(バイタルサインが低下しているな、死ぬのも時間の問題・・・人道的、確実性の低さもあって、あまり使いたくない手段だったが、高出力スキャンを試してみるか?)
(人道的?冗談、アタシ達の村を焼き払った奴らの仲間よ?拷問で吐かないなら脳みそ吸い取るだけ!!)
牢屋の鉄格子の上に止まっていた羽虫型偵察機は飛び立ち、死にかけの盗賊のうなじに止まると針を打ちこみ針の先端から高出力の魔力波を放出し、脳の構造をスキャンした。
「あげ・・・あぎいぃぃえぇっぃぃぃぃ!!うぇいぃぃぃぃ!!!」
「な・・・何だ!?どうしたんた!!?」
突如盗賊が苦しみ始め、奇声を発したと思うと白目をむいて口から唾液を垂らして痙攣する。
余りの出来事に衛兵たちは動揺し、盗賊の顔に手をかざしたり頬を叩いたりするが、一向に目を覚まさず、衛兵たちの表情は一気に険しくなった。
「証拠隠滅のために何者かがこいつの息の根を止めたのか?」
「自害の可能性もあるぞ?とは言っても、所持物は全て押収したはずだが・・・。」
(くっ・・・フィードバックが激しくて頭痛が・・・でも、なるほどね。あの国が関わっていたなんて・・・。)
(っ痛・・・確か歴史上、一回ウォーテリア帝国に滅ぼされた後、散り散りになり各地で裏組織を作りウォーテリア等の大国の繁栄を邪魔した国だったか・・・・。)
(・・・宇宙進出前の惑星ウォルトスで何度も行われた世界大戦の遠因も、かの民族の暗躍が関係していたんじゃないかって歴史学者の間で議論されていたけど、今思えばそれは正しいかもしれないわね。)
(ウォーテリア帝国がまだ王国と言う事は、かの国も大した規模では無い筈・・・何にせよ、衛兵たちに伝えておいた方が良いか・・・。)
高出力スキャン用のスキャナー針を首筋に打ち込まれた盗賊の死体は、再び痙攣し始めると、顎をがくがくと震わせながら、辛うじて言葉と聞き取れる奇声を上げた。
「へが・・あぎょ・・・ごぉ・・・いいいいいいいぃぃぃぃ!!!」
「っ!?なんだ!!?」
「え・・・えんび・・えンぶィリアぁぁあいぃ!・・・ばんじゃい!!・・・・けぇ・・・。」
白目をむいて果てていたと思った盗賊は、急に眼を零れ落ちんばかりに見開き、涎をまき散らしながら何か叫ぶと、今度は口や耳から煙を出し、穴と言う穴から黒く濁った血を垂れ流し、今度こそ息絶えた。
「な・・・何が起きたんだ?」
「こ・・こいつは今何をしゃべったんだ?」
「えんべりあ、万歳?・・・まて、えんべりあ・・えんべりあ・・・?」
「まさか、エンヴィリアか!?」
(謀と恨の国・・・・エンヴィリア・・・自分たちの周りに栄えた者がいることが許せない国・・・。)
(在りもしない事をでっちあげて人々の恨みを醸造する民、自分たちが加害者のくせに彼らの中ではいつの間にか自分たちが被害者になっている思考の持ち主・・・。)
(メディアの発達した未来でも、辺境惑星でコミュニティを作っては人々を騙し、恨みつらみのない星同士を争わせて荒廃させる・・・・まさに疫病神)
(私が製造される40年ほど前くらいにやっと根切りが終わったらしいが、その爪痕は私達が遺伝子操作兵として各星々を回っている頃も、残っていた。荒野の星々は、寒々しい光景だったよ。)
「この盗賊を操っていた魔術師がミスでも犯したのだろうか?それとも、我々を誘導するために?」
「だが、エンヴィリアだぞ?国境付近で嫌がらせの常習犯じゃないか、あり得なくは無い筈・・・。」
「とにかく、この情報を上の方に伝えなければな、伝令を出そう。」
(う・・・ぐぅ・・・高出力スキャンの構造解析データのインストールって、ここまで反動くるものだっけ?)
(ぬぅ・・・一応言っておくが、バトルドレスやクアッドクラウン含めて、未来の魔道具は基本的に私、ニコル専用に調節されている、特に肉体に直接介入するものは正常に動作するか未知数なところがあるな・・・。)
(あんまりやり続けると体に良くなさそうね・・・・。)
アリスが眉間にしわを寄せながら頭を押さえていると、横から心配したパラミュがアリスの背中をさする。
「アリスちゃんどうしたの?なんか顔色悪いけど・・・。」
「え?ううん、ちょっと眩暈がしただけ・・・ごめんなさいレオンおじさん、アタシ・・・ちょっと先に休んでますね。」
「風邪でもひいたのかいアリス?慣れない移動で無理が祟ったんだろう、しっかりと直しておきなさい。」
「はいぃー・・・。」
(尻尾はちゃんと掴んだよ、どうしてくれようかしら?)
(怒りや恨みに囚われすぎるなよアリス、だが・・・もし、かの国が将来に禍根を残すならば、根切りすら厭わない・・・。)
(分かっているわ、偉大な力の行使には相応の責任が伴うってことを!)
アリスは静かな怒りを滾らせながら、今後の方針を考える。
責任を取るべき者に責任を取らせ、時と場合によっては機械仕掛けの破壊の杖の力を解放させることも視野に入れ、慎重に調査を進めることにした。