ひたすら書いてる実験場   作:ナルヴィク

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先輩と後輩と赤さん

 今日も今日とて部室で本を読んでいた。

 基本的に文芸部の活動はこれといってない。

 大抵の場合は本を読んでそれの感想をいうか、もしくはあっても文化祭とかそれの時に何か作る程度だ。

 ただ本を読んでいればいい。そういった意味でいえばこれほど気楽な部活はないだろう。

 それにここには基本的には人はこない。

 そもそも用事自体が発生しないのだから、人が来るはずがない。

 

「よぉ……」

「赤さんじゃないですか」

 

 そんな扉が――珍しく開いた。

 開いたのは先輩ではない。

 そこにいたのは赤さんだ。

 曰く――気に入らないから教師を病院送りにした。

 曰く――不良五人を一人で半殺しにした。

 曰く――歩いた後には赤い跡がつく。

 そういった意味で、赤さんと呼ばれている人だった。

 ハッキリ言ってしまえばそれはけしていい名前ではない。陰口の部類だし、口に出すべきものじゃない。

 けれど本人が赤でいいというのだから仕方がない。

 キョロキョロと教室を見回すと赤いポニーテールを揺らしながら赤さんは僕の隣に座る。

 

「なぁ……その、あいつは?」

「あいつ……ああ、先輩ですか。先輩まだ来てないですね」

「そっか……そっか」

 

 頷くと、赤さんはこちらを見て

 

「な、なあ。今何読んでるんだ?」

「ああ、これですか?」そういって表紙を見せる。「これです。中身はファンタジーですかね? ライトノベルなので赤さんも読みやすいといえば読みやすいとは思いますよ。もっとも中身まで気に入るかは分かりませんけど」

「お、おう」

「それとも何かまた本を持っていきます?」

「あ、いや、その……そうだ。この間借りた奴返すよ」

 

 そういって赤さんは前に貸した本を返してくる。

 カバーに包まれた本をしまいながら、中身は何だったかと思う。

 赤さんは今まで小説とか読んだことがないっていってたから、軽めの奴だった筈だ。

 

「どうでした?」

「うん……面白かったよ。なんつーか……感動した」

「なら良かった」

「おう」

 

 うん。面白かったのなら何よりだ。

 やっぱり合う合わないは存在するし、出来る事ならば面白い方が良いに決まってる。

 

「なぁ……その」居心地が悪そうに体を揺らしながら赤さんは言う。「前にも言ったんだけどよ。だ、誰にもいうなよ。その、私がこういうの読んでるって」

「ええ。言わないですよ」

「なら良いんだよけど。キャラじゃないからさ」

 

 僕は全くそうは思わないのだけど、赤さんは自分がこういったのを読んでいる事を知られるのを恥ずかしがる。

 別に誰が何を読むとか、そんなのは自由だと思うし、恥ずかしい事ではないと思うだけれど。

 ただ――学校の噂とか自分がどう思わているかというは赤さんの耳にも届いているから、そのせいもあって、気にしているのだろう。

 逆にこういった趣味があるという事が分かれば、学校生活自体は楽になるのではないのかなって思うのだけれど。

 とはいえ……こればかりは本人の気持ちだってあることだ。僕が無理矢理どうこうすることじゃない。

 

「で、なんだけど」

「はい? なんですか?」

「あのよ――今度……」

 

 僕が本を閉まっている間に、赤さんは体をこちらへ向けて、言いにくそうに「こ……その……」という。

 

「……?」

「こ、今度――わ、わわわ」

「先輩がきたぞー!」

 

 ガラガラー! ドガシャーン!

 勢いよく開けたのは今の今までいなかった先輩だ。

 

「あれ、赤さんじゃん。来てたの?」

「て、ててててめぇ! お、お前な! お前な!」

「お、おおお!?」

「お前! 本当、お前! タイミング悪いんだよ!」

「お、おおう。なんか良く分からないけど、ごめん」

「うー……! 知らんわ!」

「えー! なんで!」

 

 一気に場が騒がしくなった。

 「ゆーるーしーてー」「あー! 纏わりつくなよ!」「赤さん、もしかしてシャンプ―変えた? なんかいい匂いするー」「やめろ! 嗅ぐな」「赤さーん!」「犬かお前は!」

 先輩が赤さんに飛びつき、まるで子供の様にまとわりついている。

 それを赤さんが離そうとしているが、どこから力が出てるのか先輩は赤さんから離れない。

 それどころかまるで楽しそうにしている。

 やっぱり先輩って理不尽だな。

 僕だったらあんな風にできない。

 

「あーほら先輩。赤さんから離れて」

「ちぇー」

「はぁ……はぁ……」

「赤さんお疲れさまです……」

「本当疲れた……」

 

 赤さんから先輩を引きはがして、先輩をそこら辺に置くと――扱いが雑だって言われたけど気にしない――赤さんに手を貸して立ち上がらせる。

 みれば色々と埃とかが付いてる。髪の毛もぐちゃぐちゃだ。

 叩いて埃をとっていると、

 

「ふぅ……堪能した。やっぱり女の子の匂いって良いわね」

「うーんこの暴君」

「暴君じゃないわ! 可愛がってるのよ!」

 

 何処からその自信が出るのか不思議でならない。

 欲望に忠実というか、素直というか。

 きっと考えるというプロセスが先輩には無いのだろう。行動に直結しているに違いない。

 

「さて、今日は赤さんも来たし、どうせなら遊びに行きましょうか!」

「……部活は?」

「どうせ本読んでるだけだし、それなら別の場所でもできるでしょ」

「部長がそれでいいのか」

「部長だからいいの。遊ぶ時とやる時にメリハリつければ!」

 

 偉そうな事を言っているけれど、これはただ遊びたいだけだな。

 いつものパターンというか、野生生物というか。

 

「って事らしいんですけど、赤さんどうしますか? あ、先輩の事は気にしなくてもいいですよ」

「行く」

「即決ですか」

「なんだよ。悪いのかよ」

「あ、いやそうではなく……きっと先輩に色々されるんじゃないかなって」

「何よ! 色々はしないわよ! ただ赤さんが可愛いから可愛いってやるだけで」

 

 この信用性ゼロの言葉から読み取れるのは、色々なんかやるって事じゃないかな。

 

「はぁ……」

 

 ほら見てよ。赤さんがため息ついちゃったよ。

 

「よーし! じゃあ先ずはカラオケ行きましょう!」

 

 そういってさっき開けた扉から先輩が廊下に出る。

 何しに部活に来たんだあの人。

 

「……じゃあ、行きましょうか」

「そうだな……」

「ほら! 行くわよ!」

 

 廊下から顔をこちらに出して、先輩が急かしてくる。

 まぁ……こんな日があっても良いんだろう。

 少なくとも退屈はしないのだから。

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