今日も文芸部は静かだった。
特に先輩が何かを読んでいる時は大抵の場合は静かだ。
もっともそれは読んでいる最中はと注略が付く。
赤さんもいるが、赤さんは今日は漫画を読んでいる。
漫画自体は部室にある奴だし、特に誰ものものっていう訳でもない。
僕が持ってきたのもあるけれど、先輩が持ってきたものもあるし、昔の部員が置いていったのも存在する。とはいえその全てある訳ではない。
「うーん……」
先輩がスマホからら顔を上げて唸る。
「後輩君……」
「なんでしょう」
また何かあるらしい。
「転生したらどうしたい?」
「転生ですか……」
どうやら先輩は今回はweb小説でも読んでいたようだ。
「……転生ってなんだ?」
赤さんが、漫画から顔を上げていう。
「赤さんはweb小説は読まないんでしたっけ。転生物っていうのはweb小説で流行ってるジャンルの一つですね。トラックにひかれたら別の世界に転生していたとか」
「……面白いのかそれ?」
「んー人によってはじゃないですかね? ただweb小説では流行っているという面から考えると少なくとも需要はあると思いますよ」
「そうね。転生物っていっても色々ジャンル違うしねー。実際は転生しなくてもいいというか、あれは一種の舞台装置にすぎないし。テンプレートの一種類よね」
「ふーん。で、その転生したらどうしたいって事か」
「そう。思ったのよ。自分が転生したらどうしたいのかって」
「はぁ……因みに先輩はどうしたいんですか?」
「そりゃもうあれよ。ちやほやされたい」
「どストレートだなぁ」
身も蓋もないともいう。
「お前、ちやほやされたかったのか?」
「え、赤さんされたくないの?」
「想像つかねぇ……」
赤さんは今の現状が真逆といっても良いから、それは確かに想像つかないのかもしれない。
どちらかというと腫物扱いであるし。
「まーそこまで深く考えないで。ただほら新しい人生になったら、どうなりたいかっていう程度の認識でいいわよ」
「そうですね……ちなみに世界設定は?」
「……ファンタジーで」
「今考えるの面倒だなって思ったでしょ」
「思ってないわよー」
絶対に思ったよこの人。
ただファンタジーか。仮定として考えるのであるならば、魔法とかそんな感じであるだろう。
けれど生活水準はどうなんだろうか。今の小説だと魔法の力とかなんかで何とかなるのだろうけれど、それが現代の生活と同じとはいえるとは思えない。
エンターテインメントの面から考えると、よっぽど夢中になる事がないと厳しいような気がする。
少なくとも魔法に夢中になるかと言われたら、正直そこまで夢中になりそうにない。
「んー……転生はしたくないなぁ」
「前提を崩すのやめない? お話にならないでしょ!」
「でも先輩、考えてみてくださいよ。仮にファンタジーとして、モンスターがいる、魔法があるとかで、生活する事自体に一杯一杯だったら楽しくないと思いませんか? それに僕は転生したからといってその生活に慣れるとは思わないんですよ」
「後輩君。そこまで考えなくてもいいから。もっと気楽に。というか生活臭出すのやめよう」
「ちなみにどういうのがあるんだ?」
「簡単に言うと今の知識と記憶をもって向こうの世界でその知識を使ってドヤる」
間違ってないけど、言い方が酷い。
「じゃあ、転生したとして凄い力を得るまでは条件としてつけましょうか」
「うーん。ならそうですね。僕なら商売しますかね」
「お、後輩君は商人ルートか」
「お金という概念とかその辺があればですけどね。少なくとも冒険とかきったはったするより可能性ありそうですしね」
「うんうん。ならそのまま大金持ちルートで」
「赤さんは?」
「あー……良く分からねぇけど、今のままの自分がそのままで、力とかがなんかあるっていうのか?」
「そうそう。そしてモンスターとかいるの。魔法とかもあるし」
「うーん……何ができるんだ?」
「そうねー。ダンジョンとかあれば、そこで金を稼いだり、あとは奴隷を得たり」
「奴隷!?」
「あるのよ。そういうやつが」
「……ずいぶんと殺伐としてるんだな」
「多分赤さんが考えてるのとはちょっと違うかもしれませんね。奴隷といっても大体主人公と一緒にいるのはいい扱いされたりしますよ。主人公=現代人のモラルだったりするので、仲間扱いみたいな」
「ああ……でも意外だな。そんな奴隷とか出てくるんだな」
赤さんは小説を読まないから、そこのイメージがだいぶズレがあるのだろう。
けれど確かに先ほどの説明からするとちょっと想像できないのかもしれない。
「じゃあ、なんか……体力で解決できそうな奴で」
「なら赤さんは冒険者ね! ダンジョンとかこもったりするやつ」
「よくわかんねーからそれでいい」
「じゃあ、私はお姫様で! それでちやほやされるわ」
「暴君の間違いでは?」
「誰が暴君よ。こんなに可憐なのに」
性格からみてもいいところ我儘な姫だろう。
少なくともちやほやより、面倒な姫扱いが落としどころじゃないだろうか。
「見てなさいよ。私が国を発展させてやるから」
「先輩がやると崩壊の方が先だと思いますけど」
勢いで行動して、その先に待っているのは財政破綻とかいう落ちじゃないだろうか。
「ふふん。私ならできる! 理由なんてないけれど」
「どこからその自信は来るんですかね。根拠がないじゃないですか……」
「細かいことなんていいのよ。そして後輩君は私が拾い上げてあげるわ。赤さんは私の騎士ね」
「騎士……」「泥船は嫌だなぁ」
「……あんたら」
赤さんと僕が嫌そうに言うと、先輩が不満げにこちらをみてくる。
でも考えてほしい。
今でも振り回されているというに、そんな先輩が権力をもったらどうなるかを。
少なくとも無茶苦茶にされるのだけは間違いないだろう。
しかも権力を持っているというから質が悪い。
「もー! なんであんたらは夢がないの!」
「だってなぁ……」「ねぇ……」
赤さんと顔を合わせて言葉を吐く。
むしろ先輩の妄想の方が不思議である。
いや、水をさしているのは自分でも分かるのだけれど。
「あんたらはもっと夢とロマンを持ちなさい! てか私をちやほやしろ!」
「子供か」
やっぱりいつもの先輩だった。というか最後に本音もれてるじゃないですか。
かまってほしいだけじゃないのかこれ。
「ふん! まぁいいわ! じゃあこれからあんたらに私がロマンを与えてやるから!」
前向きすぎる。
こういった部分は素直に凄いとは思う。
本当、先輩のこういったパワーってどこから出てくるのか。
「よし! じゃあそろそろ帰りましょうか!」
雑談をしていると、確かにそろそろ良い時間ではあった。
「そしてこのままどっか行きましょう! あと勉強しましょう!」
「あ、私はかえ――」
「駄目よ。赤さん、あなたは特に駄目よ。ただでさえ学校にあまりこないんだから」
「いやでもよぉ……」
「勉強みてあげるから」
「……わかったよ」
逃げられないと分かったのか、観念した赤さんは落ち込んだ様子で肩をおとす。
先輩は言う事が無茶苦茶だし、理不尽の権化ではあるけれど、やるといったらやるからなぁ。
これで理不尽がなくなれば素直に凄いと言えるのだけれど、それも含めての先輩だからそれは無理だろう。
「じゃ、行きましょうか」
「……あれ? もしかして自然と僕も勘定に入ってますかね?」
「え? 当たり前でしょ。後輩は先輩の言葉に従うものよ」
……やっぱり暴君の間違いでしょこれ。
この後無茶苦茶勉強した。