ひたすら書いてる実験場   作:ナルヴィク

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先輩と後輩と無口ちゃん

 大きな大きなスケッチブック。

 それに私は文字を書く。

 それしか私にはできないないから。

 それしか私にはもう繋がりがないから。

 それが私の唯一の手段だから。

 だから私は――

 

  ■

 

 失語症と言われる病気がある。

 種類がいつかあるけれど、ブローカー失語症の場合は会話は理解できるけど、うまく話せなくなる。

 失声症。これはストレス――精神的な原因の場合は心因性失声症と呼ばれたりする。

 これらは原因が何かで色々違うため、一概にどれが辛いかなんて言えないのだけど、どちらにしてもコミュニケーションは当事者は難しいのだろうなと感じてしまう。

「…………」

 部活の一室の片隅でスケッチブックを広げて、本を読んでいる人がいた。

 通称無口さん。

 彼女は喋らない。

 原因が何かは僕は知らないのだけど――無口さんが話したくないらしい――彼女はスケッチブックに文字を書いて僕達と話す。

 だが大抵の場合、彼女は何か一人でやっているし、文芸部自体に来るのもまれだ。

 どちらかというと、無理矢理入れられたといった方がいい。

 結構安直な考えのもと、入部した記憶がある。

 もっとも部活自体が人数がいないと廃部という話だったし、その人数合わせ的なところもあったのだろう。この辺のやり取りは僕は良く分かっていない。先輩ならばこの辺も詳しいとは思うけれど。

 正直に言うのであれば――無口さんは何を感がえてるのか良く分からない。

 別に嫌いとかそういうのではなく、どうしたら良いのか分からないといった方が正しい。

 きっかけがあればと思うのだけど、無口さん自体がそれほど部活にこないし、ふらっと来て、ふらっと帰る猫みたいな所がある。

 大した活動なんてないから別に良いんだけどね。

「ふー……やっと終わった」

 何処か疲れた様子で先輩が部室に来る。

「ん? 無口ちゃんだー」

『……おはようございます』

「はい。おはよう」

 スケッチブックを捲って、文字を表す。

 どうやら一定の文字はすでに書いてあるらしく、大体はこんな感じで彼女は会話をする。

「珍しいわね。無口ちゃん、何かあった?」

 無邪気に先輩は話しかける。

『別に特にないです。ただ何となく』

「あらそう? いつでも来てね」

『気が向いたら』

 それって来ない人のセリフなんじゃないかな……。

 しかしそれはそれとして相変わらず、先輩は怖気づかないというか、何処までもやる事が早い。

「で……後輩君」

「はい? なんですか?」

「もう一人のは?」

「ああ、彼ですか。彼なら今飲み物買いに行ってますよ」

「相変わらず彼は無口ちゃんの事好きねぇ……」

『そんなんじゃないです』

「またまたー」

 彼――というのは今この場にいない人であって、無口ちゃんの幼馴染だ。

 大抵は彼と無口ちゃんはセットで動いてるし、通訳と言われてたりしてる。

 というのも無口ちゃんが部室に来たのだって、二人一緒だったし。

 ただまぁ、何というか、やってることがパシリというか……無口ちゃんの世話係というか。

 もっとも二人の関係の話だからそれをどうこう言っても仕方がないのだけれど。

「買ってきましたよ」

『おかえり』

「お、来たわね。彼氏が」

「いやぁ……」

『違います』

「すげぇ。バッサリだ」

 あまりの切れ味で、否定された彼氏君が落ち込んでる。

 外からみているだけだと彼氏彼女の関係に見えなくないのだけれど、毎回こうなる。

 ただ彼氏君の動きだけみてると、好意はあるようなのだけどね。

『はやく。飲み物』

「ああ、はい」

 ペラっと捲って彼氏君に見せると、飲み物を無口ちゃんに渡す。

「いやぁ……若いって良いわね」

「先輩も若いでしょ」

「ふふふ。それはそうよ。でもほら、こういったのはまた別じゃない」

「ああ……なら先輩も彼氏を作ればいいんじゃないですかね」

「彼氏かー」椅子に座りながら先輩は天井を仰ぐ。「昔いたんだけねー。ただ直ぐに別れちゃったわ。付いてけないって言われた」

「あー……」

「何その言葉」

 仮定の話ではあるのだけど、先輩が部活でのノリで常に生きているとすれば、それは大変だろうなと思う。

 彼氏となればなおの事で、このハイテンションと理不尽に付き合わないといけないし。

「きっと……いい人が現れますよ。ええ、いつかは知らないですけど」

「それって来ないってことじゃない?」

「それは僕にはなんとも」

「チクショー! なんでこんな可憐な美少女に彼氏ができないんだー!」

 そういう所じゃないだろうか。

 あと自分で美少女っていうのか。

『……あの人何やってるの?』

「さぁ?」

「先輩、二人にすら呆れられてますよ」

「うわーん! なんか二人にやられると余計ダメージでかいー! 後輩君は別にいい」

「大分失礼なんですけど」

 何故だ。その評価の撤回を求める。

「先輩、諦めましょうよ」

「後輩君なんて、一生その竿が使われなければいいんだ!」

「先輩、汚いです。あと何気に酷い事いいますね」

 多分、こういう所が余計駄目なんじゃないかなぁ。

 ……ああ、そうだ。そういえば彼氏彼女で思い出した。

「そうだ。彼氏君」

「はい? なんでしょう?」

「映画のチケットいる? 実は丁度もらったんだけどペアって使わないからさ」

「ああ、良いですね。貰います」

『……なんのチケット?』

「どうやらドラマが映画化したやつみたいですね」

『……いつ行く?』

「今週の休みにでも行きますか?」

 うーんこの差。

 隣ではさっきまで竿だとか言っていた人と比べると明らかに違うなぁ。

「……後輩君」

「……なんですか先輩?」

「なんで私を誘わないのよ! この流れなら私を誘う流れでしょ!」

「えぇ……」

 どういう流れだそれは。

 そんな流れにいつなったんですかね。

 あなた机に突っ伏して文句言ってただけじゃないですか。

「あの……チケット」

「別にいいから。どうせいつもの発作だから」

「発作じゃないしー」不貞腐れながら「だってほら傷ついた美少女が目の前にいるのよ? 彼氏欲しいっていってる人間がいるのよ? だったら誘うチャンスじゃない」

「それって見方変えると僕が先輩を狙っているって事になるんですけど……」

「ふふ……狙ってみる?」

「あ、遠慮しておきます」

「後輩君の扱いが酷い……」

 だって考えて欲しい。

 この暴君に常に付き合っていたら僕はもたない。

 僕はそこまで活動的ではないのだ。

 とはいえ――このままだと拗ねるんだろうなぁ。

「じゃ、そうですね。今度遊びに行きますか。赤さん達も含めて」

「お、良いわね! 行きましょう! 二人も一緒に!」

『いく……?』

「せっかくだし、お邪魔しようか」

 二人も来るようだ。

 それなら赤さんにも後で連絡をしておいた方がいいだろう。

「あ、後輩君。赤さんに今連絡したから」

 スマホをみながら先輩がいう。

 この行動力だけは凄いんだけどなぁ。

 動きが早すぎる。

「じゃあ、また詳しいことは後でね!」

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