俺はフショウの高橋だ   作:後味のらーな

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後日、誤字脱字等修正します。物語の流れも、少々いじります。終始意味不明な文章で戸惑われるかと思いますが、しばらくお待ちください。申し訳ありません。

【追加】
編集の為、一定期間一部のみ公開します。すみません。


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【第七師団:小樽の兵舎】

 

 

もうじき朝日が昇る。俺は今日も寝ることができなかった。

最近まで一晩中起きて病院の不寝番をしていたものだから、横になるだけで目は冴えたまま夜を過ごす。

寝返りを打ち、逆側の寝台へ向くと隣の寝台で眠る二階堂の顔があった。

 

「………」

 

パパパラッ!パパラッ!パパラパパ!

じっと見つめていた最中、喇叭(ラッパ)の音が響き、部屋の皆がそれぞれ目を覚ましていく。俺も同じく朝の支度をするが、視界の端の男はただひとり動く気配はない。

 

「……二階堂、朝だぞ」

 

「う〜〜」

 

返ってくるのは言葉ともならない声だけだ。

寝不足なのだろう。夜になると少しうなされており、所謂幻肢痛というのが原因だ。幻肢痛は無くしたはずの足が痛いと感じる病らしい。左小指を削いだ俺でさえ痛いのだから、二階堂の痛みは計り知れない。痛みに耐えられる二階堂を尊敬する。

 

「朝の点呼が始まるぞ。起きるんだ二階堂」

 

せめて何か力になればという思いで、介助係の延長のようにまだ俺は世話を焼いていた。ただ、以前と決定的に違うところは自分がやりたくてやっている、ということだ。

 

「高橋うるさいッ」

 

「分かった静かにしよう、だからとりあえず起き上がれ」

 

「できない!」

 

俺は無言で二階堂を上半身を起き上がらせ、着ていたものを取り替えてやる。朝から義手を動かすのは、他人が思うより苦痛に違いない。

 

「ゆっくりやって高橋」

 

「分かった、分かったから目を開けろ」

 

「眠いもん」

 

二階堂は目をつぶったままだ。どこを見て俺に文句を言っているのか分かりかねるが、この際じっとしてくれてるならそれでいい。

 

「おい………二階堂寝るな」

 

「………………」

 

うなだれた頭に上から声をかける。

かがんで靴を履かせるが、力の入らない脚は思うように動いてはくれなかった。

 

「上官殿がいらっしゃる前に着替えよう。いそげ二階堂」

 

「……」

 

だめだ、やりにくい。やっぱり目を覚まさせたほうがいい。

そもそも頑なにその場を動こうとしないので、俺にできる事も限られてくる。服を着せ、靴も履かせた。あとは股引(ズボン)を履かせるのみ。

かくなる上は、強制的に目覚めさせるしかない。

 

「二階堂、こんな話がある」

 

見下ろす形になるが、俺はできるだけ穏やかに、そして興味を引くよう演技かかった声で語りかけた。

 

「ある街に怖いもの知らずで有名な男がいたそうだ。そして男が住む隣の街には、恐ろしい者が住み着くと噂される無人の屋敷があったんだ。男はもちろん行ってみたかったが、肝心の場所が分からんものだから、屋敷の場所を知る友人を誘って行くことにした。友人は幽霊が見えるそうで強く男を止めたが、男はなおさら面白がった。そんな時友人が言ったんだ」

 

「……」

 

「『廃墟、いついこう?』『はい今日いこう』」

 

「……………………」

 

「………………………」

 

「…………………………」

 

「………………………………」

 

俺と二階堂はただ静かに見つめ合っていた。

しかしながら依然として、二階堂が腰をあげる気配はない。

もう一声か。

 

「それでな、その男と友人はその日の夜に屋敷へ向かった。屋敷は案の定、人の寄り付かないボロ屋となっていた。男はさらに面白がったんだが、幽霊の見える友人は顔を青くして言ったんだ」

 

「………………」

 

「『なんか違和感ない?』『難解、わかんない』」

 

 

「…………………」

 

「………………………」

 

「……………………………」

 

「………そして男と友人はその屋敷に」

 

「もういい」

 

二階堂はそう言うと、腰元までしか履けていなかったを自らあげて、再び俺の目を見た。

 

「もういいから」

 

「なんでもう一度言う?」

 

二階堂は俺をじっと見つめる。しかし、いくらその目を見続けようと、二階堂が訴えようとすることは何も読み取れない。

俺は様子をうかがいつつ、尋ねた。

 

「面白く……なかったか?」

 

「面白くねぇよ」

 

食い気味に二階堂が答えた。

たまにだが、今のように二階堂の言動が洋平と重なることがある。もちろん二階堂が双子で似ているのも当たり前だ、というのは理解している。

しかし二階堂兄弟を見分ける際、『幼いかどうか』で判断していた俺は、そこが曖昧になるといよいよどちらが死んでいるのかが分からなくなってしまう。それが非常に厄介だった。

 

「今回は不発、ということか。次は別の話を用意ておく」

 

「いらない」

 

横を向いた二階堂は、さっきまでのゴネようが嘘のようにテキパキと身支度を整え始めた。

後ろから「本当、もういいよ」と他の兵士達が声をあげる。「遠慮せず」と、振り返ると「冗談じゃない」と真剣に訴える同室の男たち。

俺だって冗談で言ってないと、ムキになりかけたのだが、そうこうしているうちに部屋の外から上官殿が巡回する足音が聞こえてきた。

点呼の際、内務班の現状報告は上等兵の仕事だ。

俺はあらかた部屋を見回して、各自の状態を目視で確認する。

 

 

「ちょっとまて二階堂」

 

「……なに?」

 

呼び止めると、二階堂は迷惑そうに振り向いた。

俺はすっかり口うるさい世話焼き係と思われているらしい。

 

「ボタンが掛け違えている。こんな大胆に着崩して点呼に出るな」

 

「そういう高橋こそ、襟がおれてる」

 

「なんだと」

 

俺は近く足音を気に留めつつ、二階堂の目線に合わせてかがむ。中腰の姿勢で俺は二階堂のボタンを、二階堂は俺の襟を直した。

慣れたもので、というのもこういう場面が最近多い。そしてその度に毎回俺は思う。

 

「こうしていると……」

 

言いかけて言葉を飲んだ。

自分の言いかけた言葉がいかに無神経か、気づいてはいるのだ。ボタンはすでに整っている。

 

「なに?」

 

「いや、なんでもない」

 

「なんだよ」

 

興味をなくしたのか、それっきり二階堂は俺に問うこともなかった。

言わなくていい。

独り言のように呟く。

 

「ほんとになんでもない」

 

一瞬でも、重なった。ババァと過ごした流浪の旅で、ババァが俺の世話を焼く。その姿が今の自分にも重なった気がした。つまり、あの頃の俺が二階堂に重なって見えたのだ。

「こうしていると身内のようだ」

言うだけ虚しいので、死んでも言わない。

 

「気をつけ!」

 

古参の伍長殿の号令により、廊下に向く形で一列に並ぶ。

俺は列の端に立つ。

今週の週番下士官、伍長殿へ員数を報告し、一連の点呼は済んだ。

ただ、去り際に伍長殿がサッとひとこと声を潜めて告げた。

 

「高橋上等兵、お前何かやったな」

 

「何かとは?」

 

伍長殿はなにやら顔に焦り滲ませて、続く言葉も早口である。

 

「少尉がお怒りだ。食後すぐ、少尉の将校室に来るようにと」

 

「鯉登少尉が?」

 

「昨日も一昨日も少尉に呼び出されておるではないか、お前大丈夫か?」

 

大丈夫か、とはどういう意味の大丈夫なのか。

たしかに俺は少尉に突き飛ばされたあの日以来、連日将校室に呼ばれている。しかし将校室でやることと言えば、雑務をこなしたり、清掃に徹するのが主だ。

少尉によれば、『徹底的に掃除しろ、それが罰だ』とのことなので俺は将校室をまんべんなく掃き、拭き、ゴミを処分した。何度か厳しく掃除不足の箇所を叱られはしたが、少尉の物を壊すなどの目立った失態はなかった。

もちろん少尉の大切なものを捨てたなど、なかったはずだ。

 

「大丈夫です」

 

俺は深く頷いた。

 

 

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