俺はフショウの高橋だ 作:後味のらーな
【杉元一派:釧路】
「『当たり前だ。見ろ、どう見ても2人共腰から下が無い』」
「「………………」」
「そう言ったのを聞いた後、俺は今度こそ気絶した。本当あの人冗談下手だよな。あははは」
どう解釈したものか、複雑な含みのある沈黙がしばらく漂った。
「………杉元」
「はは、ははは…………ははは」
「杉元、それが本当なら」
「はーあ………ひひ、ははは!!!」
喉を鳴らし続ける杉元を不審に思って、谷垣が声をかける。しかし杉元は俯き加減になっていた顔をクワと上げて、声をさらに大きくするのだった。
ヤケクソのような態度に尾形は額に青筋を浮かべていた。
「もういい。笑うな、谷垣黙らせろ」
「ひははは!!!うえーーん!」
「だめだ……笑いながら泣いてる」
「よしよし杉本、怖かったんだなぁ?もう大丈夫だからなぁ?」
「さすがに怖かったぁ」
「わかったわかった、明日大好きなオソマを朝から探しに行こうな。きっと綺麗な鹿のオソマと出会える」
「ひ~~んありがとぉアシリパさん。でもウンコはいいや別に好きじゃないし」
「そうかそうか~。よ~しよし」
「ひーーーん」
「……」
「おい何見てんだ尾形。殺すぞ」
尾形はもう杉元に視線を向けるようなことはしなかった。「ハハッ」と乾いた笑みが漏れ出た。酒がだいぶ入ったこともあり、なおさら杉元は尾形の態度が鼻につく。
「なんだよお前。俺の怯える姿がそんなにおかしいのか」
「ダメだぞ尾形~。いらない喧嘩は売っちゃいけないんだぞ~?ん~?」
「話を鵜呑みにするお前の姿が滑稽でなぁ」
「尾形ぁ~?」
「んだと」
その時だった。
パン!パアアン!突如、源次郎のシャツが険悪な空気に耐えかねて悲鳴をあげた。
「おあっ…ボタンがぁあ!」
源次郎の豊満な胸がさらけだされる。
幸い、いきなり弾け飛んだ谷垣のシャツのボタンは四方に跳ねたが誰にも当たらなかった。一瞬全員の気が「なぜ?」とボタンを見つめることで冷静になる。
「そりゃ一杯食わされたんだろ、あの詐欺師に」
「どういうことだ尾形?」
アシリパが尋ねると、目を伏せつつ尾形は酒に手をそえて続けた。
「どういうことも何も、あからさまに嘘じゃねぇか。死んだ奴が見える?ハハァ、脅かしたつもりなんだろ。嘘にいとまがなくて結構なことだ」
「あのな、あの人は兵役前は祖母の仕事を手伝ってた。つまり、その、霊感ってやつがあってもおかしくないだろ」
「その祖母の仕事自体、インチキだったんだろ」
尾形は谷垣の方へ一瞥くれると、杉元にあらたまって言う。
「お前は知らんだろうが、ヤツは聯隊内で祖母の話を何人かに触れ回っていて、その話を聞いた奴の中には神戸の肥鵯を知っている者がいた。そいつは『肥鵯なんて荒地に人が住んでいるわけない』と言っていたぞ。民家どころか空き家もない。在るといえば、」
「あ、あると言えば?」
「墓地ぐらい、だとさ」
「「「………」」」
「墓地で女と夜中に語らう?アホらしい。おおかた、田舎者には分かるまいと盛って話をしたんだろう。ツラツラ嘘が吐けるとは、さすがホラ吹きの血が流れてるだけある」
そこまでまくし立ててたところで、ぐいと尾形は酒を喉に流す。「そもそも」と声に苛立ちをにじませて言った。
「幽霊に縁がないと言ったのは奴だ、縁がないなら見えるはずない」
「おい尾形」
とめどなく流れる嫌味をそのままに尾形の酒は進みつづけていた、アシリパが止めるまでは。
「……」
「お前タカハシと何かあったのか?」
手を止めた尾形を、他三人はじっと見つめていた。アシリパが言った。
「やけにタカハシに厳しい。お前、何かあっただろう」
「……いいや?なにもない」
ただ、と付け足して尾形はまた、ぐいと酒をあおいだ。
「虫唾が走るほど嫌いなだけさ」
笑みを浮かべる彼に誰もなにも物を言えず、「それは見ればわかる」と心で呟くのみであった。