ある異世界に存在する魔力の源であるジュエル。それを狙う侵略者とその世界の住人の戦いは侵略者の勝利に終わり、生き残った異世界の住人はジュエルを手に命からがら逃げ出すことに成功する。
次元の狭間へと逃げ、彼らから見ての異世界である地球へと助けを求める住人。それはジュエルの力を使って戦う事が出来る、魔法少女と呼ばれる存在に賭けての事だった。

一方地球に住むごく普通の女子高生小野小尋。
これはジュエルに選ばれた少女の戦いの物語。

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異世界の妖精に魔法少女に任命されたので物理で頑張っていきます

「うわー!!!」

 

 地球とは別位相に存在するどこかの異世界。そこのある城に悲鳴が響く。

 剣や槍で武装した戦士なのだろう者――おおまかな姿は地球の人間と変わりないが、その背中には羽が生えており、まるで妖精を思わせる――がまるで塵のように、妖精の身の丈の数倍もある、熊にごつごつとして毒々しい色をした鉱物をくっつけたような怪物に吹き飛ばされてしまう。

 また別の場所では別の妖精兵士がやはり巨大な犬に同じような鉱物をくっつけたような怪物に牙を剥かれ、槍による抵抗のかいもなく噛み砕かれる。

 

「ククク……死にたくなければ大人しくしな! 諦めてジュエルを差し出せば早死にしなくて済むぜ! ハーッハッハッハッハ!」

 

 その怪物を指揮しているのだろう、まるで狼男を思わせる外見の化け物がそんな怒声を浴びせながら高笑いをするのであった。

 

 

 

 

 そんな襲撃を受けている最中、ある部屋の中。年老いた壮年の男性と七人の若い少年少女はそこで何かを話し合っていた。

 

「こ、国王、このままでは……」

 

「う、ぬ……だがジュエルを渡せばこの世界だけではない……他の世界までも危機に陥れかねん。例え我らの命と引き換えにしてでも、ジュエルは守り切らねば……」

 

 若い少年の言葉に、国王と呼ばれた老人がそう漏らす。その後ろにある宝物庫は開かれ、国宝として語り継いでいた聖剣や名槍を世界の危機だからと放出しているが、その抵抗も現状を見れば無意味に終わっている。

 そしてその宝物庫の最奥には赤、青、黄、緑、桃、白、黒に輝く七つの宝石がふわりふわりと浮かんでいた。

 

「かくなる上は……ジュエルそのものを別の世界に送るしかない!」

 

「しかし国王! そんな事をしたら……」

 

 少年とは別の年若い少女が叫ぶ。敵の狙いはジュエルと呼ばれるこの宝石、それがなくなれば自分達の命はない。しかし国王はそんなことは分かっていると頷いていた。

 

「うむ、分かっておる。しかしある異世界には魔法で戦う勇気ある少女達、魔法少女と呼ばれる存在がいるという……このジュエルは魔法の源、その者達にジュエルを託せばその世界を守れるかもしれん……」

 

 自分達が助かるのは無理だとしても、他の世界を助ける事は諦めない。そう言外に言う国王は、その少年少女含めてこの場にいる七人の子供達を見た。

 

「お前達に命令を告げる……ジュエルを持って異世界に行き、勇気と魔法を信じる心を持つ者にジュエルを託すのだ!」

 

 叫び、宝物庫の奥に立って呪文を唱える国王、その目の前に異空間が出来上がる。

 異世界への道であるそれを見るともはやそれ以外に方法はないと悟ったか、少年少女は口々に「はい!」と答えるとそれぞれ宝石を持って異空間へと飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

「ここかぁ!」

 

「ぬぅ……」

 

 狼男が宝物庫へと飛び込んできたのはその僅かな後、国王が異空間を閉じる事が間に合わないほどの僅かな時だった。

 もしも異空間を閉じていれば、相手は追跡できなくなる事は無いが少なくともそれを大幅に遅れさせることはできたはず。たったそれだけの不運だった。

 

「なるほど、逃げたか」

 

 狼男はすぐさまそれを察すると抵抗しようと呪文を唱えていた国王を蹴り飛ばして沈黙させる。

 

「おい、俺はこのジジイに少し聞きたいことがある。お前達は先に行ってジュエルを探しておけ」

 

 怪物達にそう指示し、異世界に向かうのを見届けると狼男は国王を見てペロリと舌なめずりをする。

 

「この世界の連中は歯ごたえがなかったからなぁ……とっとと次の世界を見たいんだ。さっさと話してもらうぜぇ」

 

 

 

 

 

「ふんふんふーん」

 

 2019年9月1日。本来日本ではこの日から新学期が始まるのだが、今日は日曜日のため実質夏休み最終日。一人の少女が買い物袋片手に街中を歩いていた。

 黒色の髪を後ろで三つ編みにしており、眼鏡をかけた姿は垢抜けない女子高生という印象を与え、調子を抜けた鼻歌を歌いながら歩く姿は完全に買い物の帰り道という日常の風景である。

 しかしその日常の風景は、それに似つかわしくないドガァンという破壊音でまさしく崩壊する。

 

「え……な、なにあれ……」

 

 少女がぽかんとした顔で呟く。日常の風景に似つかわしくない破壊音、それを出した正体もまさしく日常の風景に似つかわしくない。まるで熊のような怪物だったのだから。

 その熊怪物は巨大な両腕をぶんぶんと振り回して道端にある自動販売機や街灯を破壊、近くにいた人達は恐怖してその怪物から逃げ出していた。

 

「何してんだ、お嬢ちゃん! あんたも早く逃げろ!!」

 

「えっあっ、はい!」

 

 思わずぽかんとしてしまっていた少女も逃げていた群衆の一人の声で我に返り、逃げようと足を後ろに向ける。

 

「だっひゃー!? なんだよこれー! なんで異世界に渡った途端身体が縮んじまったんだよー!?」

 

「え?」

 

 しかしその時そんな叫び声が聞こえ、思わず彼女は逃げようとした足を止めてしまう。

 再び熊怪物へと目を向けると、それはよく見れば無軌道に腕を振り回しているのではなくまるで近くにいる虫を捕まえようとしているような変な動きをしており、しかもさらによく見ればその腕が狙う先の空中では何かがキラキラと輝いていた。

 

「……宝石?」

 

「うひゃっ! なんとか逃げれた……ってのわー!?」

 

 宝石が空を飛んでいる。そんな訳の分からない事が少女の頭の中を走った途端、その宝石の輝きと変な声が少女に向かってきたかと思うとごっちんっとぶつかってしまう。

 

「あいたっ!?」

 

「あいてっ! って悪い、慌ててて……」

 

「あ、いえ、こちらこそ……」

 

 宝石とぶつかって小さな悲鳴を上げる少女と宝石。その宝石が慌てて謝罪の声を出すと少女も反射的に謝罪の声を出す。が、そこで彼女はおかしい事に気づく。

 そもそも宝石が空を飛んで喋るだけでもおかしいのだが、よく見れば飛んでいるのも喋っているのも宝石ではない。

 

「……妖精?」

 

 とても小さく、少女の両手に乗せられるくらいのサイズだろう白く輝く宝石を身体全体で支えるような体躯の羽の生えた少年。一般的な語彙で表すならばそれはまさしく妖精の姿だった。

 

「よーせい? なんのこったい? それよりあんた、あいつの狙いはこのジュエルだ! 俺から離れてとっとと逃げ――」

 

 しかしその妖精少年は不思議そうな顔をして呆けた声を出していた。しかしすぐに我に返ると少女に逃げるように叫ぶ。だがその時彼の持っていた白い宝石が突然強い輝きを放ち始め、それを見た妖精少年がぎょっとした顔で宝石を見る。

 

「ジュエルが反応してる……ってこたぁ、あんたがまほーしょーじょってやつか!?」

 

「ま、え、いきなりなに?」

 

「ええい説明は後だ! あんた名前はなんてんだ!?」

 

「え、えっと、小尋……」

 

「小尋! 頼む、俺達に力を貸してくれ!」

 

 呆けた少女――小尋に対し妖精少年が頭を下げて白い宝石を彼女に押し付ける。小尋が思わず受け取った時、その宝石が微かな光を放ち始めた。

 

「そのジュエルは魔法の源。認めた相手の心に反応し、魔法の力、戦う力を与えてくれるって伝説があるんだ!」

 

「変身アイテムってことね?」

 

「よく分かんねーが多分そういうことだ! その石に願いを込めろ!」

 

「うん、分かった」

 

 説明を受けた小尋は短く頷くと宝石を両手で握りしめ、願いを込める。すると宝石から放たれる光がどんどん強くなり、ついには彼女の身体をも覆うような光へとなっていた。

 

「……ん?」

 

 妖精少年が怪訝な声を漏らす。小尋が握った宝石が変化した。それは間違いない。

 しかしそれは魔法というイメージとはどうにもずれがあるように見受けられる長方形で武骨なもの。機械的なレバーやボタンが取り付けられているが、それはベルトのバックルにもよく似ていた。

 

「……」

 

 怪訝な表情の妖精を置いて小尋はバックルを見て何か得心尽いたように頷き、熊怪物を睨むように見る。

 妖精を狙っていたはずなのに、どういうわけだかまるで話の邪魔をしないように不自然なまでに襲ってこなかった怪物。しかしそれの狙いがあの妖精やこの宝石なのは話の流れからなんとなく分かる。

 しかも小尋が暢気に説明を受けている間に熊怪物以外に犬のような怪物やゴリラのような怪物まで集合している。あんな小さな妖精があんなものに囲まれたら命はない、と小尋は直感した。と同時に彼女の頭に一つの決意が浮かび上がる。

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「いくわよ」

 

 バックルを腰の前に当てるとバックルからベルトが伸び、腰を一回転してバックルに戻って小尋の腰に巻きつく形になる。そのまま右手でバックルの右手側につけられたレバーを握り、レバーを引いた。

 

――Stand by

 

 ベルトからそんな電子音声が流れる。同時に小尋はいつの間にか右手に握っていた、宝石が変化した一枚のカードをまるで見せつけるように天高く掲げた。

 天から降り注ぐ太陽の光がカードに反射してまるで世界に届くようなきらめきを発し、それはバックル上部に出来ている二本の隙間の内、小尋から見て奥の方のカードを差し込むような形をした隙間へと勢いよく差し込まれる。

 

――Change mode

 

 再び電子音声が流れる。続けて小尋は握りしめた左拳を己の心臓に重ねるように持っていき、右手でレバーを握った。

 

「変身!」

――Change Rise style

 

 叫び、同時にレバーを押し込む。三度電子音声が聞こえ、そう思うと天から一筋の光が差し込んで小尋を照らし出した。その光が同時に彼女の身体を包み、やがて彼女の姿さえも見えなくなるような濃い光になったかと思うと数秒と経たずに光が弾け飛ぶ。

 すると小尋の姿が完全に変わってしまっていた。とはいっても異形になったわけではない、シルエットは人間そのままだ。しかし彼女の身体は白銀色でどこか近未来的な雰囲気も漂う武骨な装甲や色合いもあってまさしく白虎を思わせるフルフェイスヘルメットに包まれ、心なしかその装甲から予想できる小尋の体格自体も男性のものへとなっているような気すらしていた。

 味方である妖精少年どころか敵らしい熊怪物さえも小尋の姿に呆然としたような格好でフリーズしてしまっている。それはまさに予想とは違うと言いたげな、例えるなら本格カレー店でカレーを頼んだはずがラーメンが出てきたような、魔法少女もののアニメを見ていたはずが突然特撮ヒーローが出てきたような困惑の空気だった。

 

「え、と、あれがまほーしょーじょってやつなのか?」

 

 妖精少年が困惑、怪物達もどうするべきなのかと顔を見合わせたりうめき声を上げる。

 

「妖精よ、ここは私が引き受ける! 下がっていろ!!」

 

 しかし小尋の先ほどまでの女性らしい言葉とは似ても似つかない凜とした、声色そのものも武骨な男性然としてどこかヒーローめいた声を聞くと妖精少年はそれに従って下がり始め、彼女の言葉を聞いた熊怪物達も困惑から立ち直って待つのは終わりだとばかりに遠吠えを上げる。

 

「さあ、いくぞ!」

 

 怪物が遠吠えを上げて一斉に小尋に襲い掛かる。それに対し小尋も拳を構えて怪物の群れへと突撃していった。

 

「グオオオォォォォッ!!!」

 

 熊怪物が丸太のように太い両腕を振り上げ、小尋目掛けて振り下ろす。だが小尋はそれをクロスした両腕で受け止めると力を込めて足を踏み込み、両腕を振るって相手の両腕を押し返すとがら空きになった腹に照準を定めた。

 

「オラオラオラオラオラ!!!」

 

「グオアアアァァァァッ!?」

 

 両拳をまるでガトリングから撃ち出される弾丸の如く熊怪物の腹に叩き込み、熊怪物の悲鳴を聞きながら最後にアッパーを叩き込んで吹き飛ばす。

 熊怪物は数メートル宙に浮かんで地面に叩き付けられ、別の数体の怪物を巻き込んで倒れた熊怪物は巻き込んで押し潰した別の小型怪物諸共消滅した。

 

「ん、なんだ?……ククク、なるほど。あれがあのジジイが言っていた、ジュエルに選ばれた魔法少女というやつか」

 

「うひゃーすっげー! まほーしょーじょってのは魔法を使って戦うのかと思ったけど。戦士に近いのかなー?」

 

 尋問を終えて追いついてきたのだろう狼男は何故だか血に塗れている爪をぺろりと舐めながら目の前の光景を分析。妖精少年も小尋の後ろで歓声を上げる。

 しかし小尋は妖精少年の歓声やそもそも気づいてもいない狼男の分析も気にすることなく目の前に広がる怪物の集団を見据えていた。

 

「素手で戦うのは危険そうだな」

 

 冷静に状況を分析し、右手側のレバーを引く。また「Stand by」という電子音声が聞こえ、同時に小尋は再びどこからともなく右手にカードを握ると今度は小尋から見て手前側の長い、まるでカードリーダーのような隙間へカードを通して読み込ませる。

 

――Weapon mode

 

「来い! 私の剣!」

――Slash Wing Sword

 

 カードが読み込まれると共に流れる電子音声と、小尋が掛け声と共にレバーをまた押し込む。やはり流れる電子音声と共に天から光が降り注いで小尋が掲げた右手に集まり、その光がまるで翼のような鍔を持つ剣に変化した。

 ヒュンヒュンと二、三度振るって納得いったのか構えを取り、再び小尋は怪物の集団へと駆け出した。

 

「ハアアアァァァァッ!」

 

 目の前の犬に鉱物がついたような怪物を振り下ろした剣で斬り捨て、その隙をついたように跳びかかってきた犬怪物の牙をその口に剣を入れて噛ませるように振ってガード、犬怪物の腹に蹴りを入れて怯ませた隙をついて剣を抜き、犬怪物を串刺しにする。

 そこに再び後ろから今度はゴリラ怪物が両腕を振り上げるが、小尋はそれを予期していたのか振り返りながらその勢いを利用して相手の胴目掛けて剣を一閃。その一発だけでゴリラ怪物は消滅する。しかしまだ小尋を取り囲む怪物は数多く存在する。

 

「一体一体片づけていてもキリがないか……」

 

 思わずそんなボヤキが口から出るが、それならそれで戦いようはある。小尋はそう言わんばかりに剣を左手に移すとまた右手側のレバーを引く。もう慣れた「Stand by」という待機音声を聞きながら今度は左側上部に設置されたボタンを押す。

 

――Finish mode

 

 ベルトからまた別の電子音声が流れ、小尋はさっき翼のような鍔を持つ剣を生成させたカードをカードリーダーに読み込ませて右手側のレバーを押し込んだ。

 

――Finish Wing Sword

 

 電子音声が聞こえてくると共に剣にエネルギーが集中し、それが光となって刃を包みさらに膨張。巨大な光の大剣へと姿を変える。

 

「せやああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 その大剣を小尋は気合と共に横薙ぎに一閃。その刃を受けた怪物の集団は一斉に塵へと姿を変えて消滅し、大剣を構成していた光と共に翼のような鍔を持つ剣も消滅した。

 

「ククク、魔法少女もなかなかやるようだな」

 

 すると今まで高みの見物を決め込んでいたリーダーの狼男がクククと笑いながら小尋の前に数メートル程度の距離を取って立つ。小尋も突然現れた新たな敵に対し、消えた剣には拘泥せず拳を構え直した。

 

「だが!――」

「!」

 

 その叫びと同時に狼男の姿が消え、そう思った瞬間目の前に狼男が現れて左拳を叩き込んでくる。咄嗟に右腕で防いだがその一発だけで小尋の身体が後ろへと押され、ずざざざっと地面を滑ってどうにか止まる。

 

「ぜりゃあっ!」

 

「ぐぅっ! がっ!?」

 

 だが続けて右飛び回し蹴りが叩き込まれ、今度は左腕でガードするが着地と同時に放ってきた左ストレートは防御が間に合わずにくらってしまい吹き飛ばされてしまう。

 地面に叩き付けられつつもゴロゴロと地面を転がってどうにかダメージを軽減する小尋を見て狼男は再びクククと笑みを漏らした。

 

「遅いな。俺のスピードにはついてこれまい」

 

 タンッタンッとまるでボクシングのようにステップを踏む狼男。何かの格闘技の心得でもあるのか、と小尋も分析しながら立ち上がり、拳を構え直す。

 

「何度やっても同じだ!!」

 

 その言葉と共に再び狼男の姿が消え、そう思うと目の前に出現して拳が振るわれる。どうにか受け止めるが続けて蹴りを入れられたり、反撃しようとしてもそれを察知しているのか素早く距離を取るヒット&アウェイに持ち込まれれば素手の小尋ではどうしようもなく、しかし新しく武器を出す隙を与えてくれる相手でもなかった。

 相手のスピードにはついていけず、武器を出す暇はない。つまりは八方塞がりだ。

 

「それでも……退くわけにはいかない」

 

 だが諦めるという選択肢はない。相手の狙いは自分の持つ宝石、そしてあの妖精少年も自分が一掃した怪物から逃げるのが精一杯だった。それより明らかに強いあの狼男が相手では恐らく逃げきれまい。そしてなにより、自分が諦めたらこの怪物はもしかしたら街を襲う可能性がある。街だけではない、それはこの街に住む全ての人を襲うということだ。

 そんなことヒーローとして許すわけにはいかない。小尋はその思いだけで拳を構えていた。

 

 

 

 

 

「おらぁっ!!!」

 

「ぐああっ!!」

 

 戦いはそれから数十分にも及び、ついに狼男の右ストレートがガードが崩れた小尋の顔面を捉える。

 フルフェイスヘルメットを被っているため顔自体にダメージはないものの、その威力によって吹き飛ばされた小尋は転がってのダメージ軽減すら出来ずに地面をバウンドする。傷だらけの装甲がバチバチと紫電を鳴らし、これ以上のダメージは限界だと訴えていた。

 

「ククク、ジュエルを託した魔法少女とやらも所詮はこの程度か……」

 

 一思いにトドメを刺せばいいものをわざわざ嬲り殺しにしている様子の狼男は嗜虐的な笑みを浮かべて、小尋から一瞬目を逸らして妖精少年を確認する。その目は絶望に染まっており、小尋を倒せばこれ以上の抵抗はないだろうと彼に確信させた。

 

「安心しろ!!」

 

「ん?」

 

 しかしその絶望を感じ取ったのか小尋が声を張り上げた。

 

「君は私が守る! それがヒーローの役目だ!!」

 

 立ち上がり、拳を振り上げて声を張り上げる。ヘルメットで顔は見えないものの、彼女からは満面の笑顔を浮かべているのだと確信できるような希望の光が見え、それを受けた妖精少年の目から僅かに絶望が消える。

 

(チッ……そろそろトドメといくか)

 

 それを見た狼男も舌打ちを叩き、聖女にトドメを刺して希望を取り戻した妖精少年に再び絶望を味わわせてやろうと嗜虐的な笑みを浮かべて小尋を見る。

 

――Stand by

 

 その小尋は狼男が目を離していた隙をついてレバーを引き、右手には一枚のカードを握っていた。

 

「! させるか!!」

 

 それを意味することを瞬間的に理解した狼男が走り出す。読み込ませるカードをベルトに当てるよりもそのカードを持つ右腕を殴り飛ばす方が早く、彼女の最後の希望であるカードが手から離れるのを見て狼男はニヤリと笑った。

 

「かかった!」

 

「!?」

 

 しかし小尋はむしろそれが予想通りだといわんばかりに声を上げ、左手で狼男が先程小尋の右腕を殴った、狼男の右腕を取る。

 

「な、くそ! 離しやがれ!?」

 

「無論、離してやるとも」

 

 がむしゃらに暴れる狼男だが力だと強化された小尋の方が強いのか、逆に右手でも狼男の身体を掴むと持ち上げる。

 

「せいやっ!!」

 

「どわー!?」

 

 そしてそのまま上空へと投げ上げた。

 

「いくら素早くても狼。陸上動物である以上、空中なら身動き取れまい!」

 

 言葉通り、投げ上げられた狼男は足をじたばたさせているが動くことすら出来ていない。

 そこで狼男は悟った。今まで一方的にやられていたのは演技、わざとボロボロになってこちらを油断させ、武器を取り出そうとわざと隙を見せてそれを阻止しようとしてカードを狙ってくる自分を捕まえるための罠だったのだと。

 

――Finish mode

 

 小尋はベルトの必殺技発動ボタンを押し、カードを読み込むことなくそのままレバーを押し込む。

 

――Finish Rise style

 

「はぁっ!!」

 

 今度はエネルギーが小尋を覆う装甲の全身へと行きわたり、彼女は自分が投げ上げた狼男よりも高く大ジャンプ。狼男を見下ろしながら空中でくるりと一回転をする。その回転が終わった時、彼女は右足を狼男に向けた跳び蹴りのポーズを取っていた。

 

「くそ、くそくそくそっ!!」

 

 そのまま勢いをつけてこちら目掛けて急降下してくる小尋を見た狼男もじたばたと暴れるが、その蹴りから逃れるすべはなく、せめてもの抵抗で身体を丸めて防御姿勢を取る。

 

「セイヤーッ!!!」

 

「ぐあああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 しかしそんな防御でその蹴りを防げることはなく、狼男は空中で断末魔の悲鳴を上げながら地面へと蹴り落とされた。小尋も上手く着地をして立ち直し、妖精少年に向けて右手を掲げる。

 

「大・勝・利!!」

 

 そして自らの勝利を宣言した後、先ほど自らが蹴り落とした狼男へと駆け寄った。

 狼男は既に抵抗も出来ない程にボロボロになっており、小尋が無防備に駆け寄ってきても指一本動かさない。狼男は自分のすぐ横で膝を折った小尋を見るとクククッと笑みを見せた。

 

「ク、ククク……魔法少女の力はこれほどのものか……」

 

「あいにく、私は魔法少女ではない。私は小野(おの)小尋(こひろ)……ヒーローだ!」

 

 狼男の言葉にどこかずれた、しかし彼女にとっては大事な台詞を言い残す。その言葉に狼男は衝撃を受けたのか目を見開いた後、再びクククッと笑った。

 

「そうか、ヒーローか。それはいい……ならヒーロー、お前に一つだけ教えてやろう」

 

「なに?」

 

 まるで冥途の土産――今回死ぬのは彼なのだろうから少し表現としては間違いがあるだろう――のように狼男は小尋に語り掛ける。

 

「俺は所詮、奴らのいる世界を絶望に染める中で奴を追いこの世界にやってきただけの先兵に過ぎん。魔法少女、いやヒーローであるお前が俺を倒したと知れば奴らはお前を狙ってくるだろうさ……俺如きを倒していい気になるなよ」

 

「……ありがとう、名も知らぬ狼男。その忠告、ありがたく受け取っておく」

 

「ククク……敵に礼を言われることになるとは思わなかった……クーッハッハッハッハッハッ!!!」

 

 彼からすれば自分よりも強い敵が小尋を狙うという死に際の悪あがき、というよりも脅しのつもりだったのだろう。しかし小尋は全く動じずにむしろ忠告としてお礼を返しており、その言葉が意外だったのか狼男はそう言うと高笑いを残して黒色の粒子となって消滅。小尋も狼男の消滅を確認すると立ち直して妖精少年の方に歩いていった。

 

「妖精よ、大丈夫だったか?」

 

「あ、ああ、おう……」

 

 小尋の言葉に曖昧に頷く妖精少年。彼からすれば小尋は変身とやらをした瞬間すっかりキャラが変わっており、それについていけないが故の困惑なのだろう。

 すると辺りがざわめき始め、それを聞いた小尋が辺りを見回す。危険がなくなったのに気づいて戻ってきたのだろう通行人や通報を受けてきたのだろう警察、そして取材に来たのだろう報道陣が押しかけ始めていた。

 

「む、このままではまずいな……妖精よ、話は静かなところでいいかな?」

 

「お、おう。ってうわっ!?」

 

 小尋がそう確認を取り、妖精少年が了解。すると小尋は自分の両掌で彼を守るように包み込む。

 

「そ、そこの貴方! ここで一体何が!? 貴方は一体何者なんですか!?」

 

 マスコミのインタビュアーらしき女性が小尋向けて叫ぶように問う。それに対し小尋は妖精少年を両手で包み隠しながら彼女の方を向いた。

 

「通りすがりのヒーローだ。では私は急いでいるのでこれで……さらばだ!」

 

 そう言い残し、足に力を込めてジャンプ。たったそれだけで小尋の身体は近くにあるビルの屋上まで上がり、そのまま彼女はビルの上を飛び移るようにその場を去り、人気のない所にやってくると足を止める。

 

「ここまで来れば大丈夫だろう……」

 

 とりあえず一安心、と呟いて小尋はベルトのレバーを引く。「Stand by」という電子音声を聞いてからベルト左側の下部にある、今まで一度も触らなかったボタンを押した。

 

――Eject

 

 そんな電子音声と共に変身用のカードが排出され、小尋はカードを抜き取ってからレバーを押し込む。

 

――Sleep mode

 

 その電子音声を最後に彼女の身体を光が包み込み、ボロボロになっていた装甲は光となって消滅。彼女は生身の人間の姿に戻るとふぅと息を吐いた。

 

「いやー、びっくりしたー」

 

「そりゃこっちの台詞だっての。なんかキャラ変わってなかったかお前」

 

 息を吐いて声を出す彼女の声はさっきまでの武骨な声ではなく女性らしいものに戻っており、彼女の言葉を聞いた妖精少年が呆れ声を出す。それに小尋があははっと照れたように笑い声を零した。

 

「お恥ずかしい、ちょっと憧れのヒーローになれてテンションがおかしくなっちゃって」

 

「ヒーロー? お前まほーしょーじょじゃなかったのか?」

 

「ん~……私魔法少女より特撮ヒーローが好きだから……」

 

「とくさつひーろー?」

 

 妖精少年はそこでやっと勘違いに気づくが、次に小尋の妙にずれた返答の一部に疑問を持った言葉を出す。するとその言葉を聞いた小尋は眼鏡とその奥に隠れた瞳をキランッと輝かせた。

 

「なになに、特撮ヒーローに興味ある? だったら今日新しいライダーが始まったところだし、録画してるから見せたげるよ!」

 

「え……え?」

 

「そうと決まればしゅっぱーつ!」

 

「え、ちょ……えー!?」

 

 早口でまくしたてて妖精少年を家に連れ帰る小尋と困惑のまま叫ぶ妖精少年。

 

 これは特撮ヒーローをこよなく愛する少女――小野小尋と、その相棒的なポジションになってしまった妖精少年の物語である。




令和最初の仮面ライダー、仮面ライダーゼロワン放送開始おめでとうございます!(挨拶)

というわけで初めましての方は初めまして。こんにちはの方はこんにちは、カイナと申します。ご読了ありがとうございました。

本作は先週、平成最後の仮面ライダーこと仮面ライダージオウが終わった後にふと「特撮ヒーローが大好きな女の子が魔法少女やプリキュア的なシチュエーションの中、変身=特撮ヒーローと認識して魔法少女どころか仮面ライダーみたいな感じに変身して戦う」的な小説を思いついたので、ノリと勢いのまま一週間足らずで書き上げました。全ては仮面ライダーゼロワン放送開始と同時に投稿するため。(笑)
……ここに初めて投稿するオリジナル小説がこんな仮面ライダーパロみたいな悪ノリ小説でいいんだろうか?(汗)

ちなみにその他にもジュエルに選ばれた魔法少女として「見た目は超強面で不愛想&屈強な体格でクラスメイトから恐れられているが、実は幼稚園くらいの年齢の妹の影響で魔法少女アニメをこよなく愛する、ジュエルに選ばれた事により外見は魔法の力で超美少女になって王道魔法少女を演じている、小尋のクラスメイトの男子」という「硬派な特撮ヒーローを演じる女の子」と「可愛い魔法少女を演じる男の子」のダブル主人公ネタも予定していたんですが流れや尺の都合上没になりました。

まあそんな感じで、一番最初にも言いましたが、これノリと勢いのままに書き上げたので続きはありません。何か複数のジュエルや一緒に逃げた妖精とか続きそうなものはあるんですが続きません。(断言)
こんな短編ですがご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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