セいしゅんらぶこメさぷりめント   作:負け狐

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他の面々が恋愛ムーブしている中


一人だけ黒幕ムーブするヒロインがいるらしい


その2

 まずは、とディスティニーランドにあるコースターの一つ、スペースユニバースマウンテンの列へと向かう。これとは別にブラックサンダーマウンテンとスプライドマウンテンというアトラクションもあり、ここマウンテンが無駄に多いなとどうでもいいことを思いながら八幡は流されるまま足を進める。そんな中、ふと先程密着していた二つのマウンテンに思いを馳せた。

 

「いかがわしいことを考えているわね」

「変な勘ぐりは寄せ。男子高校生がエロいことばかり考えていると思ったら大間違いだ」

 

 たとえば、と続け、暫しの間を開けた後世界平和とかなと返す八幡を見て、雪乃はやれやれと肩を竦めた。まず間違いなく世界平和は考えていないのだろう。とりあえず結論付け、それでと列に視線を向ける。

 

「二人乗りだけれど、あなたは由比ヶ浜さんとペアでいいかしら?」

「別に俺は誰でも……ああ、いや、葉山や戸部はパスだな」

「つまり女性陣とペアがいい、と。やっぱりあなた」

「違うっつってんだろ」

 

 ギャーギャーと騒がしい二人をよそに、残りの面々もさてどうするかと列を進みながら話をしている。まあとりあえず、といろはが隼人の隣へと陣取った。

 げ、と翔がそれに反応し優美子を見る。が、彼女は別段気にしていないようで予想通りと言わんばかりの表情のまま視線を後ろへと向けた。

 

「んじゃあーしは雪ノ下さんと乗るわ。いいかな?」

「ええ。……あなたが海老名さんとではなく私を選ぶというのならば、断る理由はどこにもないわ」

「なに話大きくしてるし。友達なんだし、別に気にしないってだけ」

 

 ふふっ、と笑う優美子と、それに笑い返す雪乃。それを見ながら、姫菜は一人目を細めて冷めた目をしていた。裏切ったなコノヤロー、と隠すことなくそれを口にした。

 

「あん? 何海老名、あーしと乗りたかった?」

「そうはっきり言われると何かあれだけど。でも乗るなら優美子か雪ノ下さんとかなーって思ってたんだよね」

「あら、それはごめんなさい。私大人気ね」

 

 困っちゃうわ、と一人笑う雪乃にちげーだろとツッコミを入れた優美子は、そうしながらもまあ諦めろと手をヒラヒラさせる。今のこの状況で残る選択肢は殆どない。むしろ一択と言ってもいいほどだ。八幡、結衣、そして翔。姫菜自身を加えたこの四人で二つペアを作る場合。

 

「あ、ユイと組んでかけはちにすれば」

「うぇ!? 俺ヒキタニくんとペア!?」

「何で驚くんだ、即断れよ」

 

 どこかソワソワしていた翔が、降って湧いたその回答を聞いて盛大にのけぞる。八幡が溜息混じりに呆れたような声を出した。

 勿論それを容認はしない。当事者の八幡は首を縦に振らない。が、翔ははっきりと断らないで少しだけ悩む素振りを見せた。

 

「おい戸部。だから断れって」

「いやー、でもさ。ここで俺が嫌だっつーと流れ的にヒキタニくんと海老名さんじゃん? それって、こう、なんつーの? ……いや俺何言っちゃってんだろ」

「本当に何言ってんだよ……」

 

 はぁ、と再度溜息を吐きながら、八幡はちらりと一人の少女の顔を見る。先程から見守るのみで口出しをしていない彼女を見る。翔の言っていたパターンの場合、彼は残った結衣と当然ペアになる。普段教室で集まって騒いでいる面々ではあるので、彼女にとっては別段問題はないだろう。

 そう思うのだが、流石に二人だけというのは。一瞬そんな言葉がよぎり、いや何言っちゃってんのと八幡も先程の翔のような思考に陥った。

 

「もしどうしても嫌なら、私が戸部くんと乗るわよ」

「え、なんかそれは嫌」

「……へぇ」

「ほう」

 

 八幡の悶えをよそに、向こうで話は進んでいく。雪乃がしょうがないと提案した案であったが、姫菜が無意識にぽろりと零してしまったそれを聞いて優美子と共にニヤリと笑う。姫菜自身も言ってから気付いたようで、ゆっくりと目を閉じそのまま俯いてしまった。

 

「うぇ!? 海老名さん!? 大丈夫? 気分悪いなら休んでても」

「……大丈夫大丈夫。ありがととべっち」

 

 それを見てあたふたと慌て出した翔を見たことで少しだけ気が紛れたのか、しょうがないなと彼女は苦笑する。いい感じにお膳立てされた感が否めないので気に入らないが、それを言ってしまえばそもそも最初からそうなので今更だ。大体気にし過ぎなのは自分だけで、当の本人はテンションがおかしい以外は普段通り。

 よし、と姫菜は頷いた。横を見て、相変わらず適当感醸し出してるなと可笑しくなった。

 

「いいよとべっち、一緒に乗ろか」

「マジで!?」

 

 いやっほー、と乗る前から最高潮に達した翔を見て、一行はやれやれと苦笑した。この調子で最後まで持つのだろうかと笑った。

 

「それはそれとして。葉山先輩はペアがわたしで良かったんですか?」

「雪乃ちゃん以外なら誰でもいいからね。――あ、いや、誤解しないでくれ、そういう意味ではなくて」

「ぷっ……。何でそんな慌ててるんですか葉山先輩、かわいい」

「……はは、俺をそんな評価する女子はいろはくらいだよ」

「三浦先輩はどうなんです?」

「優美子は、まあ、うん」

 

 言葉を濁して視線を逸らしたのを見て、いろはは確信する。あ、これ既に言われているな、と。ぷくーと頬を膨らませると、彼女はそのまま隼人の腕に抱きついた。いきなりどうしたんだ、と目を見開く彼に向かい、いろはがにんまりと笑みを浮かべる。

 

「今日はわたしが葉山先輩の隣なんですから。わたし一色に染め上げてみせます」

「はは。まあ、お手柔らかに」

「嫌です」

 

 笑顔でそんなことを言われ、隼人は頬を掻きながら少し照れくさくなったのか視線を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 戸部翔は死んだ。比喩表現である。思いの外スリルがあった、とワイワイしている面々とは違い、彼は大分ダメージを食らったらしい。

 

「ふぇぇぇ……」

「大丈夫か、いろは」

「葉山せんぱぁい……いや、意外と、思ったより」

「あ、本気なのか」

 

 訂正、ダメージを食らったのはそこそこいた。いろはがこれ幸いと隼人にしなだれかかるが、その実状態自体は本物なので彼女の挑戦はそこで終わる。とはいえ、そのまま支えられ進むことになったので結果オーライといったところか。

 ちなみにふらついているのはもう一人。

 

「お前ほんっと完璧なのは見た目だけだな」

「……好きに言いなさい」

 

 ふらついている雪乃を見ながら、八幡は溜息を吐く。優美子と結衣が買ってきたジュースを受け取った彼女は、それをコクコクと飲んで深呼吸をした。

 

「ごめんなさい、少し人混みに当てられたかもしれないわ」

「物は言いようだな」

「ええそうね、比企谷くん。口は災いの元よ」

 

 調子を取り戻してきたのか、雪乃が鋭い眼光で八幡を睨む。それを受けた彼はビクリと反応し、しかし精一杯の虚勢を張った。勝手に言ってろ、と言葉を返した。

 そうして向かった先はパンさんのバンブーファイト。勿論即座に全回復した雪乃がぐるりと一行を見渡し、そこで少しだけ思考を巡らせるように目を閉じた。当たり前のように彼女のその行動を見て八幡と隼人が警戒態勢を取る。何してんの、という結衣の視線が少しだけ痛かった。

 

「これは二人以上でも乗れるのだけれど。さて、どうするの?」

 

 何がどうするなのか。質問の意図がよく分からず怪訝な表情を浮かべる八幡に対し、その発言で瞬時に顔を引き攣らせたのは隼人であった。ここには陽乃さんはいないのに、という謎の呪文を唱え始める。

 

「おい葉山、それはどういう意味だ。何であの人がいないと問題なんだよ。普通逆だろ」

「……ああ、普通はな。だが、これに限っては違う」

 

 完全に覚悟を決めた男の顔をし始めた隼人を見て、一体何が起こるのかと八幡も顔をこわばらせた。そんな二人を見て、否、正確には隼人を見て、雪乃はニコリと笑みを浮かべる。

 

「大丈夫よ隼人くん。今日はあなたは関係ないわ」

「あ、そうなのか。じゃあ」

「おい待て葉山。迷うことなく俺を見捨てただろ」

「比企谷。俺はな、自分が大事だ」

「キメ顔で何最低なこと言ってんだよ爽やかスポーツマン」

 

 八幡の抗議などなんのその、隼人はそう言うと一歩下がり他の面々に混ざり始めた。このアトラクションは三人で乗れるらしいので、先程のように悩む必要はある意味ない。

 

「んじゃあーしは……」

「一緒に乗ります?」

「ん? いいの一色」

「懐の大きいところを見せると好感度上がると思いません?」

「言わなきゃ上がったんじゃない?」

 

 そう言って笑った優美子は、んじゃそういうことで、と隼人の隣に立つ。そうして出来上がった三人が先頭でライドへと乗り込んだ。

 ならば次は、と姫菜が結衣を見る。どうやらあっちは大変そうだし、と彼女に述べると、そうだね、と意外にもあっけらかんとした返事がきた。

 

「あれ、いいのユイ?」

「ゆきのんだし、多分大丈夫。こっちは三人で行こっか」

「お、おう? 俺はいいけど……」

 

 ちらりと向こうを見る。そうなると残るのは二人。つまりはペアでアトラクションに向かうわけで。

 

「いいの?」

「ん? ゆきのんだからね」

「おおぅ、信頼厚いな」

 

 一人驚愕している翔をよそに、じゃあそういうことでと姫菜が歩みを進める。じゃあ行くね、という彼女の言葉に、雪乃はええと頷いた。

 そして、彼女と八幡が残された。

 

「さあ、行きましょう比企谷くん。あなたにパンさんの何たるかをじっくりとレクチャーしてあげるわ」

「……こういうのって、真のファンは静かに鑑賞とかするもんじゃねぇの」

「ええ。本来ならば一人で、全身にパンさんを感じるのが楽しみ方なのだけれど。他の人がいるのならばまた違った方法もあるの」

 

 ふ、と雪乃が笑う。そのまま八幡の手を万力のような勢いで握り締めると、彼を引きずりライドへと向かう。

 

「え? ちょっと待て、お前何でこんな力あるわけ!? おかしいだろ、普段の雪ノ下ゆきのんもっと華奢だろ!?」

「教えてあげるわ比企谷くん。これが、パンさんの力よ」

「何言ってんのお前!?」

 

 その後、比企谷八幡は、アトラクションの流れに沿って超スピードラーニングでパンダのパンさんを頭に叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 

「……ヒッキー」

「お、おう。どうした?」

「いや、大丈夫かなって」

「あいつのパンさん愛嘗めてたわ……」

 

 キャラクターショップ内で体力を回復する少年が一人。その名は比企谷八幡。ちなみに信じて送り出した彼氏がパンさんに染められてしまった少女は由比ヶ浜結衣といった。

 あの流れでこのグッズは精神的にどうなのだろうと彼は思わないでもなかったが、しかし意外にも色々と理解させられたせいで並んでいるそれらに妙な親近感が湧いている。これで嫌いになってしまっては本末転倒だから、ということなのだろう。ある意味恐ろしい。

 

「そういや他の連中は」

「ヒッキーがダウンしてるからお昼買ってくるって」

「あー……悪いことしたな」

「ううん。何か隼人くんが『最初はゆっくりと正気を取り戻させなければいけない』とか真面目な顔で言ってたし」

「お、おう。……あいつ既に体験してたのか」

 

 それでもパンさんのアトラクションに乗るのだから、やはりそれそのものはトラウマになっていたりするわけではないのだろう。パンさんに雪乃が加わるとアウトというわけだ。

 まあそういうことなら、とショップのグッズを適当に見て回る。小町にお土産を買わないとな、と彼らしいことを思ったのだ。

 

「んー、どんなんがいいかな?」

「まだ見て回るし、かさばらないものがいいか」

「別に預けられるからその辺は気にしないで良くない?」

「あー、そうか。んじゃ、ぬいぐるみでも」

 

 クリスマス仕様になっているパンさんを一つ手に取る。どうせならこういうやつか、と言いながら値札を見て、一回り小さいタイプにチョイスを変えた。

 それをレジへと持っていく途中、ふとそれが目に入る。こういうテーマパークでお約束の、そこのキャラを模したカチューシャ。犬だったり猫だったり、そしてパンダだったりとバリエーション豊かなそれは、買って装備した時点で明らかに浮かれているであろうことを感じさせる一品で。

 

「どしたのヒッキー」

「うぉ! あ、いや、別になんでも」

「ん? あ、それ可愛くない?」

 

 八幡の視線の先を追っていった結衣がそれを手に取る。頭にはめると、どうかな、と彼に向かって笑みを浮かべた。少し垂れ気味の犬耳カチューシャが、彼女にマッチしてとても可愛らしい。

 が、勿論八幡がそんなことを素直に言うはずもなし。まあ、いいんじゃないか。という当たり障りのない言葉でそれを濁した。

 

「よし、じゃあヒッキーにはこれだ!」

「何で俺に――」

 

 問答無用、と結衣が八幡の頭にパンダ耳を装着させる。思った以上にアンバランスなそれを見て、彼女は耐えきれず吹き出した。

 

「さっさと買って行くぞ」

「ごめんごめん。あ、でもこれは買おうかな」

 

 自身の頭についている犬耳を指でピコピコとさせる。その仕草がまるで本物の犬のようで、八幡も思わず笑ってしまった。

 そっちだって笑ってるじゃん、と結衣がむくれる。これはお前のとは違うやつだと悪びれずに言い放った八幡は、そのまま彼女の頭のそれを外してレジへと向かった。

 

「あ」

「欲しいんだろ?」

「……いいの?」

「……ま、たまにはな」

 

 その代わり金がないからしばらく寄り道しないぞ。そんなことを振り向かずに述べた八幡を見て、結衣は満面の笑みで分かったと返事をする。そのまま買い物を済ませ、ぬいぐるみは袋に入れ、預かり所へと。

 そして、もう一つの方は。

 

「えっへへ」

「何笑ってんだ、気持ち悪い」

「酷くない!? ていうかこのやり取り最近割とやってない!?」

 

 そう言いながら彼に寄り添う彼女の頭に、ちょこんと乗っかっていた。

 

 




何かバカップルっぽくない?

ぽくないな、よし

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