ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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今回も短いです。


オラリオの歓楽街⑱.75

 時間は少々遡る。

 

 ベルを捕らえた【イシュタル・ファミリア】は、地上へ帰還して早々に領域(テリトリー)である歓楽街へ戻る。

 

 大型カーゴを運ぶ集団に他の冒険者や一般人達は当然目にしてるが、誰一人たりとも見て見ぬふりをするのみ。他派閥の冒険者達が何をしようとも、自分達が関わる訳にはいかないという理由で。

 

 歓楽街の本拠地(ホーム)『女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)』に着いた後、アイシャは(フリュネを除いた)戦闘娼婦(バーベラ)達に意識を失ってるベルを牢屋に閉じ込めておくよう指示を出した。彼女がイシュタルに報告しに行くのを見届けたフリュネは、大型カーゴに視線を移した瞬間にニヤリと気色悪い笑みを浮かべながら後を追おうとする。

 

 

 

「――と言う訳で、今は牢屋に放り込んでるよ」

 

「そうか。ご苦労だった、アイシャ」

 

 宮殿の大広間にある豪華な椅子に腰かけてるイシュタルは、アイシャからの報告を聞いた事で笑みを浮かべていた。

 

「それにしても、まさか【亡霊兎(ファントム・ラビット)】が、春姫の妖術を強制的に解除する手段を持っていたとは……」

 

 同時に驚愕もしていた。イシュタルの切り札である『階位昇華(レベルブースト)』を強制的に解除するなど余りにも予想外だから。

 

 それは当然、直接戦ったアイシャにも言える事だった。切り札を使えば何とか戦えると思っていた所、妙な魔法を使って解除された時は内心本気で焦っていたのだ。あのまま戦い続ければ、間違いなく自分はやられていただろうと確信している。

 

「しかし、そんな恐ろしい奴をよく捕らえる事が出来たな」

 

「あの坊やは実力があっても、精神(こころ)はまだまだ未熟だったよ」

 

 アイシャが一緒に同行していた【タケミカヅチ・ファミリア】を脅しの材料にした事を教えると、イシュタルは良い事を聞いたと言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

「成程、その手があったか。どうやら私は、【亡霊兎(ファントム・ラビット)】の実力ばかりに目が行き過ぎていたようだ」

 

 格上殺しの実力を持つベルの弱点が心理戦となれば、それを最も得意とするイシュタルにとっては大変好都合だった。

 

 ベルが此方の手元にいる以上、『魅了』を使って強制的に手駒にする予定だった。しかし、それだけで彼女の腹の虫が収まらない。以前のオークションで自分を虚仮にした恨みがある為、相応の報いを受けさせなければ気が済まないのだ。

 

 そんな折、【亡霊兎(ファントム・ラビット)】の弱点が判明した瞬間に彼女は画策する。本拠地(ホーム)にいる【ヘスティア・ファミリア】を捕らえ、完全に此方の主導権を握ろうと。

 

 アイシャの時は単なるハッタリだけで済ませていたが、イシュタルは違う。もしベルが拒否した瞬間、捕らえたヘスティアを送還(ころす)だけでなく、眷族達を本気で皆殺しにするつもりでいる。

 

「アイシャ。儀式が終わり次第【ヘスティア・ファミリア】の本拠地(ホーム)にいるヘスティアと、その眷族達を全員捕らえてこい」

 

「急にどうしたんだい? そんなの後回しでも良いだろうに」

 

 突然の命令にアイシャは困惑するも、イシュタルがやろうとしてる事をすぐに察した。自分と違って、本気でベルを脅す為の材料に使うつもりだと。

 

「確か儀式が終わった後、【フレイヤ・ファミリア】に総攻撃を仕掛けるんじゃなかったのかい?」

 

「その前の準備運動だ。私の眷族(こども)達が『階位昇華(レベルブースト)』で強くなっても、奴等と戦う前に一度身体を慣らしておく必要がある。お前も最初はそうだったろう?」

 

「……まぁ、確かに」

 

 イシュタルの言い分に納得するアマゾネス。

 

 初めて『階位昇華(レベルブースト)』で強化された時、凄まじい高揚感を得ていた。だがその反面、レベルを一段階ランクアップした事で感覚のズレが起きるだけでなく、下手をすれば能力(ステイタス)暴走の危険性がある。それを身を以て経験してるアイシャは、【フレイヤ・ファミリア】と全面戦争前の慣らしをした方が良いのではないかと危惧するも、美神がまさか【ヘスティア・ファミリア】を練習台にするとは予想外だったが。

 

「でも他派閥を襲撃したとなれば、ギルドも流石に黙ってない筈だよ」

 

「歓楽街(こちら)に損害を与えた【亡霊兎(ファントム・ラビット)】やヘスティア達に落とし前を付けさせた、と言う適当な理由を叩きつければ問題無い」

 

 ギルドが歓楽街に手を出せない事情があるのをイシュタルは知っている。五年前にあった件で明確な証拠を掴まない限り、絶対に動かないと確信しているのだ。加えて【ヘスティア・ファミリア】はベルがいたからこそ迂闊に手が出せない派閥でも、彼を此方で捕えれば一気に弱体化する。

 

 つい最近改宗(コンバージョン)した別の眷族達がいても、所詮は【亡霊兎(ファントム・ラビット)】の力目当てで入団しただけの有象無象に過ぎない。『Lv.1』から『Lv.3』に昇格(ランクアップ)した女小人族(パルゥム)は多少警戒すべきかもしれないが、アイシャも含めた『Lv.3』の戦闘娼婦(バーベラ)達の前では雑魚同然となる故、恐れる必要など一切無いとイシュタルはそう結論している。

 

 多くの派閥や商人、そしてギルドは【イシュタル・ファミリア】に膝を屈している。更にはオラリオの経済を支える重要な派閥でもある為、都市最大派閥と称される【ロキ・ファミリア】ですら迂闊に手を出す事が出来ない。

 

 その実績があるからこそイシュタルは絶対の自信を持っており、ベルや【ヘスティア・ファミリア】も自分に逆らう事無く屈すると確信していた。

 

(そう上手く行くと良いんだけど)

 

 然して問題無いと楽観視するイシュタルに対し、アイシャは途轍もない不安感が過っていた。

 

 数ヵ月前に振興したばかりの派閥とは言え、【ヘスティア・ファミリア】はとんでもない急成長をしている。【亡霊兎(ファントム・ラビット)】が大活躍したからと言えばそれまでになるが。

 

(今更だけど、何か引っ掛かるんだよねぇ)

 

 ベルが心理戦に弱いとは言え、あそこまで素直に投降の姿勢を見せた事にアイシャは疑問を抱いていた。

 

 以前に歓楽街で見せた姿を消すスキルを使えば【タケミカヅチ・ファミリア】と合流出来た筈なのに、何故それをやらなかったのだろうか。

 

(まさかとは思うけど、あの坊や――)

 

 アイシャが推測を立てている中、突如大広間にある扉が慌ただしく開く。

 

「大変だ! フリュネの奴、【亡霊兎(ファントム・ラビット)】を勝手に連れて姿を消したよ!」

 

「何だって!」

 

 焦りながら報告をする戦闘娼婦(バーベラ)に、予想外な展開に起きてしまった事でアイシャも途端に慌てるのは無理もなかった。

 

「フリュネめ、余計な真似を……」

 

 アイシャと違って慌てた様子を見せないイシュタルだが、命令無視の独断行動をするフリュネに眉を潜めていた。

 

 その後、『女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)』にいる娼婦達が大急ぎで探し始める。




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