蛇王龍、海賊になる。   作:初音MkIII

1 / 46
思い立ってしまったので投稿。
いつまで続くかわがんね。
アイスボーンにダラ・アマデュラが出てくれる事を祈って……。実際、あのグラフィックだと超映えると思うんですよねー。

テンポよくサクサク進めます。


序章①

 偉大なる航路を挟む魔境、凪の帯。

 超大型の海王類が多く棲むこの海に、古のとある冒険家が「千剣山」と名付けた巨大な山が佇む島があった。

 

 そこに潜むは余所ではお目にかかれない、とても珍しい……しかし非常に凶悪で、海王類から逃れるように稀に漂着してくる人間全てを食い散らかす、大勢のモンスターたち。

 

 そんな凶悪なモンスターたちも、何故だか「千剣山」には決して足を踏み入れない。

 その理由は──。

 

 

 

 

 

 

 オオォオォオォッ!!

 

 

 

 

 ──おぞましい咆哮が響き、島を、そして空を揺らす。

 不運にもたまたま上空を通りかかっていた哀れなニュース・クーがその命を散らし、新聞を咥えたままぼとりと落ちた。

 

 ただの咆哮で命を奪うという規格外の存在。

 その存在こそが「千剣山」の主であり、島に棲む猛獣たちが決して足を踏み入れない理由である。

 

 

 そんな、千剣山の頂きにて。

 

 

「やったぜ、新聞ゲット。えーと、なになに……? ふんふむ、ふむふむ。あ、新しい手配書。保管しておかなくちゃ」

 

 

 もしもこの光景を人間が見れば、誰もが「ありえない」と目を疑うだろう。

 おぞましい怪物が住まうはずの天剣山の頂きで、事もあろうにとても可愛らしい女の子が鼻歌を奏でながらニュース・クーの死骸を漁り、盗んだ新聞を読んでいるのだから。

 

 おまけに、新聞を読んだ後は口から青白い光線のような極太の何かを吐き出し、新聞もろともニュース・クーの死骸をこんがりと焼いてしまった。

 たまたま通りかかっただけなのに、底無しに不運なニュース・クーである。

 

 

「焼き鳥ンめえ」

 

 

 

 彼女の名は、マデュラ。

 偉大なる航路の外では実在を疑われている海の秘宝、「悪魔の実」を口にした動物系の能力者である。

 

 ヘビヘビの実、幻獣種。

 モデル、“ダラ・アマデュラ”。

 

 

 かつてこの島に上陸し、マデュラが記憶する限りは唯一生きて島から出る事ができた老人が言うには、そういう名前の悪魔の実だったらしい。

 

 

 シルバーズ・レイリー。

 基本的に人間を見るのは死体がデフォであるマデュラにとって、唯一といってもいい「友人」であり、同時にこの世界の様々な知識を授けてくれた「恩人」でもある。

 というのも、彼女はこの島に来るまでの記憶が無く、ふと目を覚ませばこの千剣山の頂きにポツンと一人で横になっていたのだ。尚、その時には既に悪魔の実の能力者となった後であり、マデュラ自身何故か能力の使い方が分かっていた。

 こればかりはさしものレイリーも首を傾げていたが、彼が言うには何らかのショックで記憶を失っているのだろう、とのこと。まあ、両親だのなんだのと今更言われても、知識としては知っていても実感は全く無いので、記憶を取り戻そうなどとは欠片も思っていない。

 

 

 ……さて。

 哀れな焼き鳥を食べ終わったマデュラは、何を思ったかトコトコと歩いて千剣山を下っていくではないか。

 先も述べた通り、この島は非常に凶悪な猛獣たちで溢れ返っている。

 

 

 いくら悪魔の実の能力者と言えど、見た目からして十代に入るか入らないか……どうあがいても十代前半程の歳だろうマデュラでは、千剣山を下るのは自殺行為と思える。

 

 

 が、しかし。

 

 

 

「じー」

「キャウ!? キャウンキャウン!!」

「……撫でたかっただけなのに、逃げられちゃった」

 

 

 

 早速遭遇した巨大な狼のような猛獣をマデュラがじっと見つめると、猛獣は犬っころのような悲鳴を上げ、尻尾を巻いて逃げていった。まんま犬である。

 

 

 わんこを撫でたかったマデュラは、思わずしょんぼりと肩を落とす。

 

 

 このように、どうやら猛獣たちはマデュラを“ダラ・アマデュラそのもの”として認識しているらしく、例え巨大な「獣型」に変身していなくても、マデュラを見ると一目散に逃げていくのだ。

 

 非常に小柄で可愛らしい少女を見て、巨大な猛獣たちがマッハで逃げていく姿はいっそシュールですらある。

 

 

 まあ、食糧に困るという意味では笑っている場合ではないのだが。

 獣型に変身すれば、マデュラから逃げられる者など存在しないので問題ない。

 マデュラ本人は知らないが、実は海賊王の右腕であったあのレイリーですらも、年老いたとはいえ、獣型に変身したマデュラと対峙すれば死を悟った程だ。

 

 

 ちなみに、生き延びるために必死だったレイリーからのトレーニングを数年に渡って受けた甲斐あって、今のマデュラは完全にダラ・アマデュラの力を制御下に置いている。

 

 更に、本来は偉大なる航路の後半でやっと身につけるはずの力、“覇気”もレイリーから教わっており、ものっそ硬くなる上こちらの位置をすぐに察知してくるダラ・アマデュラ、という本家ダラ・アマデュラを知るものが聞けば「ふざけんな!!」と絶叫したくなる事ウケアイな、理不尽の権化と化していたりする。

 

 

 

 さて、そんな彼女だがいったいどこへ向かっているのか?

 バッフフーン♪ と機嫌良さそうに鼻歌を奏でながら歩く猛獣たちにマッハで逃げられ、その度にしょんぼりし。時折獣型に変身して鬱憤を晴らしながら進む先。

 

 

 そこにあったのは──。

 

 

「よーし、今日で完成させちゃうぞー」

 

 

 無表情でふんすと鼻息を荒らげるマデュラ。

 視線の先には、今にも動き出しそうな「船」が浮かんでいた。

 

 

 そう。

 彼女は海に向かっていたのだ。

 

 そして、ここにある船こそが、かつてレイリーが乗ってきた物であり、寝ぼけて変身してしまったマデュラにうっかり叩き潰された物なのである。

 

 レイリーは能力者のマデュラがこの島を出られるようにとあえてこの船を修復はせず、逐一航海術や海賊船についてレクチャーしながらイカダを作り、島から出ていったのだ。五秒後には早速海王類に粉砕されていたが。

 

 残されたマデュラは、レイリーの教えを反芻しながら船の残骸を修復していき、今日。ようやっと修理が終わる目処が立った。

 それ即ち、彼女がもはや故郷ともいえるこの島を出て、広大な大海原に飛び出す日がやってきたという事を意味する。

 

 

 ──同時に、世界中の人々がダラ・アマデュラの脅威に晒される事をも意味するのだが、それはとりあえず置いておこう。物語が始まらなくなる。

 

 

 

 

 数時間後……。

 

 

 

 お昼時の空腹に耐えかねて変身し、哀れにも近くにいた適当な猛獣をもぐもぐと食べながら、マデュラは目を輝かせていた。バカでかいダラ・アマデュラ姿のままで。

 当たり前だが、このナリでもあくまで能力によるものなので喋れるし知能もある。ちょっぴり凶暴にはなるし、宇宙から凶星が降ってきたりはするが。

 

 

「やったぜ私。おつかれ私」

 

 

 

 あまりにも巨大なその姿から見ると、あまりにも頼りない……というかもはや豆粒大な船だが、人型に戻れば充分すぎるほど広い。

 

 苦節一年。

 時折うっかり粉砕してしまうため、なかなか時間がかかったが、遂に彼女はやり遂げたのだ。

 

 

 尚、仮に海の上で変身しようものなら、問答無用で海にドボンである。

 ダラ・アマデュラの体重に耐えられる船があってたまるか。

 

 

「……そう考えると、私って海賊志望なのに海上戦向いてないかも」

 

 

 シュルシュルと人型に戻りながら、一人呟く。

 人獣型ならば問題は無いのだが、獣型はあまりにも巨大すぎて変身できる場所が限られる。

 海上とかどうあがいても無理である。

 

 

 その事をしっかりと脳に刻み、いざ大海原へーとハイテンションに漕ぎ出すマデュラ。

 尚、いつの間にか表情筋が死んでいたのでハイテンションと言いつつ無表情、かつ小さめな声だ。

 

 

 初めて会う人間には「儚げな美少女、もしくは美幼女」として認識される事だろう。レイリーが聞けば大爆笑間違いなしである。

 

 

 

「あばー」

 

 

 

 せっかく修復した船でワクワクしながら海に出たマデュラだったが、かつてのレイリーのように五秒後には海王類に船を粉砕されてしまった。

 

 

 

 そして──。

 

 

 

 

「お、お、お頭ぁー!! ……なんか可愛い幼女が釣れたぁー!!」

「はぁ? あぁ、マジだな」

 

 

 

 

 船を壊された怒りでうっかり獣型に変身したマデュラは、極大のブレスで憎き海王類を抹殺し、そのまま重力に従って海に落ちていった。

 そして人型に戻って流れ流され、運良く(?)“最弱の海”とも言われる東の海に入り、そこを根城にしていたとある海賊団……シャンクス一味の幹部、ヤソップによって釣り上げられた、という次第である。

 

 

 

 目覚めたマデュラからそれを聞いたシャンクスたちは……。

 

 

 

「「ぶわっはっはっはっ!!」」

「む。笑うな」

「いやいや、悪い悪い。だってよお前、そりゃねえだろう!!」

「そうそう! おめーみてえなちんちくりんが凪の帯にある島に住んでて、船作って旅に出たァ!? 笑い話にしかならねえよそんな作り話!」

「……本当なのに。レイリーに聞けばわかるよ」

「あ? レイリー?」

 

 

 

 見た目だけなら非常に愛らしいマデュラだ。

 そんな彼女がそんな修羅の島を支配し、住んでいたなどとは、さすがのシャンクスたちも信じられるわけがなかった。

 

 しかし、レイリーの名を聞いた途端、シャンクスの目の色が変わる。

 

 

「待て。レイリーって、シルバーズ・レイリーの事か? どうしてお前が副船長の事を知ってる」

「友達だから。あ、どこか広い島に降ろしてくれれば変身してみせるけど?」

「……ふむ」

 

 

 内心では「ふくせんちょう??」と首を傾げるマデュラだが、それをおくびにも出さず、信用してもらうために変身してみせる事を提案する。

 

 

 

 そして……。

 シャンクスはそれを受けた。

 

 

 受けて、しまった。

 

 

 

 とある無人島に停泊し、ニヤニヤと笑う船員たちが見守る中、マデュラが変身する──。

 

 

 

 

「「………………」」

 

 

「どう? 信じてもらえた?」

 

 

 

 

 

 圧倒的、圧倒的巨体。

 口をぽかんと開ける赤髪海賊団一同。

 

 対して、異常な巨体に似合わぬ可愛い声で返事を求めるマデュラ。

 

 

 

「「すいませんでした」」

 

 

 

 赤髪海賊団、渾身の土下座。

 こんな化け物を笑っていたとか、いくら歴戦の大海賊たる彼らと言えど、肝が冷えるものがある。

 

 

 

 そんな感じでシャンクスたちと仲良くなったマデュラは、とりあえず彼らの船に乗せてもらって偉大なる航路に入り、適当な島に降りてまずはしっかりとした船を買うための資金を集める事となった。

 

 

 

 要するに。

 

 

 

「頼むぞマデュラいやマジで俺たちだけは狙わないでくれお願いします」

「当たり前。友達でしょ」

「「ほっ……」」

 

 

 

 四皇の一角にして意外と庶民的な感覚を持つシャンクス、および赤髪海賊団。

 蛇王龍との敵対ルートを回避。

 

 

 マデュラは、シャンクスの右腕であるベックマンの提案に従い、しばらく賞金首を潰し回って海賊活動のための資金集めを開始する事に。

 

 

 

 賞金稼ぎ“蛇王龍”爆誕の瞬間である。

 尚、活動開始当初は賞金稼ぎと認識されなかったせいで、海軍からなかなか賞金を受け取れず(懸賞金の代理受け取りは許可できない、と言って突き返された)、致し方なく海軍本部に出向き変身してみせる事でようやく認められた。

 

 まあ、人型の時は可憐な幼女なので当然の反応だが。

 幼女がR指定なグチャグチャ死体と化した凶悪な賞金首を突きつけながら「お金ちょうだい」と言ってきたからと言って、「ああこの子は賞金稼ぎなんだな」と正しく認識できる人間がこの世にどれ程いるというのか。

 

 小さな女の子にあこぎな事をさせている悪質な賞金稼ぎが居る、と考えるのが自然だろう。

 

 

 

 そして、九年後──。

 

 




シャンクスたちはちびルフィと別れて新世界に戻る最中に主人公と出会った感じです。
どうやらシャンクスはあの時点で既に四皇だったようなので、ダラ・アマデュラとも戦えそうな気がしますが、何せ武装色の覇気で硬くなる巨体の化け物という無理ゲーなので、ビビっても仕方ない。

主人公の悪魔の実は、リュウリュウの実と迷ったんですがダラちゃんはどうみてもヘビなので、ヘビヘビの実にしました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。