蛇王龍、海賊になる。   作:初音MkIII

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結構麦わらの一味壊滅を期待する声が。
まあ是非もないね!

あ、本日二話目です。


ウォーターセブン⑧ 完

 外で麦わらの一味とガロアたちが戦っているとは露知らず、のんびりと食事を楽しむマデュラ。

 最初はフランキーも居たのだが、「食べ方が汚い」としてラヴィとハンコックに追い出された。

 故に、マデュラと席を共にしているのも彼女たちのみである。

 

 クック? 彼は遠慮しました。

 ちなみに料理は全てラヴィのお手製だ。

 

 

「あぐあぐ。なんか、外がうるさいね」

「もう、マデュラ。口が汚れてるじゃない。幾つか知らない“声”も聞こえるし、どこかのバカが暴れているんでしょ。ガロアに任せておけば大丈夫よ」

「わらわが見てこようか?」

「……ごくん。いや、いいや。もう食べ終わるから自分で見てくる」

 

 食べ方が汚いとしてフランキーを追い出した割に、肝心のマデュラも充分いろいろと汚しまくっているが、それに対して突っ込む勇者はいない。

 蛇王海賊団はマデュラ至上主義なのである。

 

 

「そういえば、フランキーって昔船大工だったんだってね」

「らしいわね。それが?」

「船作り、アイスバーグさんに協力するように頼んでおいた。で、船が完成したらウチのクルーになりたいんだってさ」

「ほう。良かったな、マデュラ。そなた、あやつの事を随分と気に入っているようじゃし」

「んふふ、まあねー」

「そ、そう。あいつ、仲間になるのね……。それまでにマデュラをあやせるようになっておかないと……」

「ラヴィ、何か言った?」

「ううん、なんでもないわ」

 

 

 フランキー、サラッと蛇王海賊団への加入が決定していた。

 まあ、船が完成するのは相当先になるだろうが。

 

 

 ……数分後、むふーと満足げに息を吐きながら、甲板に出るマデュラ。

 当然のようにラヴィとハンコックも一緒。

 

 

「……ありゃ、もう終わってる」

「んー? 最近、手配書で見たような気がするわね……誰だったかしら、あいつ」

 

 

 彼女たちが見たのは、何やら蒸気のような煙を噴き上げながら倒れている、麦わら帽子を被った男。

 その周囲にもマリモのような頭をした男と、金髪と黒いスーツが特徴的な男、そしてニコ・ロビンが、それぞれ倒れて……。

 

「あ。思い出した」

「む、知り合いか?」

「あんな奴ら居たっけ?」

「ラヴィもハンコックもいなかったから。アラバスタでばったり出会した、麦わらのルフィっていう海賊だよ」

「ああ、クロコダイルを倒したっていう。新聞じゃ海軍が倒した事になってたけど」

「……ああ、そういえばそんな事もあったか。そのせいで招集されたんじゃった」

 

 

 ポン、と両手を合わせるマデュラ。

 彼女から話を聞いたラヴィとハンコックも、ようやくルフィたちの事を思い出した様子。

 

 まあそれはさておき。

 

「なんかガロアたち随分と怒ってんね」

「勝手に殺しそうな勢いね、たしかに」

「いいのか?」

「んー。あの麦わら小僧、シャンクスの友達らしいんだよね。殺すなって言われてるんだよなぁ」

「うーん……とりあえず話を聞いてみたら? ただ喧嘩を売られたってだけじゃなさそうよ」

「そだね」

 

 

 ラヴィ曰く「鳥頭」なマデュラが、ルフィの事を覚えていた理由。

 それは単純に、シャンクスの友人だと聞かされていたからである。

 でなければ、そこら中にいる若い海賊の内の一人の事なんぞ覚えているわけが無い。

 

 

 とりあえず、たーんと船を飛び降り、着地。

 今にも死にそうなルフィが、まるで親の仇でも見るかのような目で必死に睨みつけてくるが、まるで意味がわからない。

 

 

「! マデュラ様!」

 

 ラヴィとハンコックを伴って現れたマデュラに気付いたガロアと自称“四天王”たちが、すぐさま跪く。

 そろそろ新しいパターンが欲しい頃だ。

 

「蛇王……龍……!!」

「貴様は黙っていろ」

「ごふっ!? えほっ、げほっ!! くそ……」

 

 

 余程のことがあったのか、何とか口を開いたルフィを容赦なく蹴りつけるガロア。

 気絶するルフィ。

 それを見て、マデュラは思った。

 

 この子、なんでこんな怒ってんの? と。

 

 

「ねえねえ。何があったの?」

「アンタらがこんなに怒るなんてよっぽどよね」

「食事をしていたマデュラの部屋にまで騒音が届いておったぞ」

「それは──」

 

 

 ガロア曰く、理由はよく分からないが、海岸で麦わらの一味が待ち構えていたらしく、「仲間をボロボロにしたマデュラをぶっ飛ばしに来た」と、ドストレートに喧嘩を売ってきたらしい。

 

 それを聞いて、マデュラは思った。

 

 

 ……何の話?? と。

 マデュラはこんらんした。

 

 

 尚。

 

「……はぁ? ガロア。アンタ、なんでさっさとコイツら殺さないわけ? 舐めてんの?」

「お、落ち着くのじゃラヴィ!!」

「うっさいハンコック!! 落ち着いていられるわけないでしょ!!」

「……こ、これから殺そうと思っていたところだ」

「遅いつってんのよ木偶の坊! そんなんだからアンタはいつまで経っても四龍王の末席なのよ!」 

「ストレートに酷いな、そなた」

 

 

 グチグチと日々お説教をしつつも、マデュラの事が大好きなラヴィが激怒し、行動が遅い! とガロアの事をボロクソに言い始めた。

 あまりの剣幕に、自称“四天王”たちがズリズリとこっそり逃げている。飛び火してきたら何をされるかわかったものではないのだ。

 

 普段は暴走しがちなクルーたちを抑えに回るラヴィだが、それだけに、彼女が怒った時の危険性は半端ではない。

 マデュラに匹敵する巨体に変身するとあって、破壊の規模が凄まじいのだ。

 

 

「まあまあ、落ち着いてよラヴィ。可愛い顔にシワができちゃうよ」

「う、うるさいわね!! 大体、なんで肝心のアンタがそんなに冷静なのよ、マデュラ!! 喧嘩売られてんのよ!?」

「こんな小猿に喧嘩売られたぐらいで怒ってどうするのさ。今日の私は紳士的なんだ、運が良かったな」

「……軍艦を蹴散らして、正義の門を破壊したのが余程爽快だったんじゃな……」

 

 

 可愛いと言われて、ちょっと機嫌を良くするラヴィ。

 

 そして、非常に珍しい事に今日は紳士的らしいマデュラ。明日にはきっとワガママ姫に戻っている、というのは言わないが吉である。

 

 

「でも──」

「「ん??」」

「海賊なんだし、ケジメはつけなくちゃね。シャンクスはまあどうにかこうにか説得する」

「では……?」

「ガロア。そいつ、殺していいよ」

「……承知しました、マデュラ様!」

「ちっ。なんでアタシじゃなくてガロアなのよ」

 

 

 船長から直々に許可が出たことにより、ボロクソに貶されて正直へこんでいたガロアが復活。

 イキイキとした顔で、気絶しているルフィに狙いを定めた。

 

 そして──。

 

 

「ま、まて……待ってくれ……」

「「ん?」」

 

 

 ガロアが、ルフィの頭を踏み潰す……その寸前。

 何者かに制止され、とりあえずピタリとガロアの足が止まった。

 

 声の主の正体は、倒れていたはずのマリモであった。

 

 

「おれたちが負けちまった以上、船長であるルフィの命を取るってのは分かる。だが、どうかここは……おれの命で勘弁してもらいてェ……!!」

「…………」

「何を世迷いごとを。安心しろ、貴様もすぐに後を追う事になる」

「都合の良すぎる話よね。アンタ自身もそう思うでしょ、えーと……刀三本の人」

 

 

 この人の名前、なんだっけ……。

 必死に思い出すマデュラ。

 印象が薄すぎて全く覚えていない。

 

「お前、名前は?」

「おれは……ロロノア・ゾロ……。いずれ、世界最強の大剣豪になる男の首を取れるんだ。悪い話じゃ、ねェはずだ……!」

「へえ、ミホークに勝つつもりなの? あいつ、たぶんガロアよりも強いよ?」

「マデュラ様っ!?」

「マデュラの言う通りでしょ。あの人、四皇並みに強いし」

 

 

 ロロノア・ゾロ。

 その名を確かに刻むマデュラ。

 こういう、覚悟の決まった男は嫌いではない。

 

 地味にガロアが「ミホークより弱い」という言葉にショックを受けているが、華麗にスルー。

 

 

「おれは大剣豪になる男だ……それは、絶対に曲げねえ!!」

「……ふーん。ま、この麦わら小僧みたいなのは、自分が死ぬより仲間を失う方がキツイだろうし、ちょうどいいかな」

「……!! じゃあ……!」

 

 

 パァッと顔を明るくするゾロ。

 自分が死ぬというのにこんな顔ができるあたり、どうやら本気らしい。

 

「分かった。お前に免じてこいつらの命だけは勘弁してあげる。でも、もう心が折れてそうだけどね」

「すまねェ……恩に着る……!!」

「よろしいのですか、マデュラ様?」

「うん。ここまで言われて、そんな事知るかっていうのはちょっとね」

「……はぁ。まったく、この子の悪い癖が……」

「まあ、良いではないか。こやつのこういうところは、わらわは割と好きじゃぞ」

 

 

 驚きのあまり固まるガロア。

 やれやれだわ、と肩を竦めるラヴィ。

 静かに微笑むハンコック。

 

 ふらふらの身体で勢いよく頭を下げるゾロ。

 

 

 

 が。

 マデュラが次に放った言葉で全員が固まる。

 

 

「じゃ、お前は私のものって事で。ゾロ、ウチのクルーになれ」

「「は??」」

 

 

 まさかの勧誘である。

 まさかの、勧誘である……!

 

 

「嫌なら全員殺して行くよ」

「はァ!? なんだそりゃ!! 悪魔かてめェ!!」

「マデュラ様……」

「ああ、諦めなさいゾロとやら……。こうなったらもう誰にも止められないわ……」

「余程気に入ったようじゃな……」

 

 混乱するゾロ。

 思わず遠い目をするラヴィたち。

 ゾロの暴言を咎める余裕すらない。

 

 

「ミホークが剣士に負けるところ見てみたいし」

「それが本音かァ!!」

 

「さーて、出航の準備しなきゃね。フランキーを送り届けて、アイスバーグ氏にも挨拶しておかなくちゃ」

「……そうだな。ところでハンコック。お前、いつまで付いてくるつもりだ?」

「む? ああ、言っていなかったか。わらわも蛇王海賊団に加入する事になったのじゃ」

「何、そうなのか?」

「うむ。妹たちは傘下として、アマゾン・リリーの守りに回ってもらう。蛇王海賊団のナワバリに手を出すバカはおらんじゃろうが、念の為な」

「なるほど。では、これからよろしく頼む」

「こちらこそ」

 

 

 ゾロを放置し、この場から離れていくラヴィたち。

 ハンコックも、妹たちに事情を説明するためガロアを連れて去っていく。

 

 誰も、ゾロが拒否するとは思っていない。

 彼が拒否できないと分かっているからだ。

 

 

「よろしくね、ゾロ」

「待て!! ルフィの元から離れるんなら、海賊をやる理由はねェんだよ、おれは!」

「そんなん知らんもん。お前は私の部下になると私が決めたんだから」

「暴君かお前!?」

 

 

 結局、「嫌なら麦わら小僧たち殺すよ?」と笑顔で脅してくるマデュラに屈し、ゾロも蛇王海賊団に加入する事となった。

 一応身分的には捕虜扱いではあるのだが、たとえルフィが殴り込んできても返す気などさらさらないだろう。

 

 

 そして、何やら緊張している様子のフランキーをアイスバーグに押し付け、呆けた顔の彼らを放置して蛇王海賊団はウォーターセブンを後にした。

 

 海賊船、よろしくね! と念押しする事も忘れずに。

 電伝虫を通じて連絡を取り合えるようになっており、船が完成したらアイスバーグからマデュラに連絡が来る手筈である。

 

 

「ンマー……何の因果か、またお前と船を作る事になっちまったな、バカンキー」

「へっ、うるせェよ。それより、マデュラさん直々の注文なんだ。下手なモン作ったらおれたち死ぬぞ?」

「……分かってる。あいつが言うには、“魔の三角地帯”に島サイズの海賊船があるらしいな。そいつを奪って持ってくるから、参考にして……だとよ」

「らしいなァ。どこの誰が作ったのかは知らねえが、おれたちも負けてらんねえだろ、バカバーグ。いっちょドデカい船を作ってマデュラさんを驚かせてやろうぜ! ……実はおれがあの“宝樹アダム”を持ってるって言やァどうするよ?」

「ンマー! 本当か!?」

「がっはっはっは! おうよ!!」

 

 

 

 アイスバーグとフランキーが、仲良くこんなやり取りをしていたとか、いないとか。

 

 

 ここは水の都、ウォーターセブン。

 世界政府御用達の造船会社、ガレーラカンパニーが拠点を構える「造船の島」である──。

 

 

 

 ──全くの余談だが、造船所に高々と掲げられた蛇王海賊団の海賊旗の恩恵か、島に侵入する不埒な輩が激減したらしい。




そんなわけで、ルフィにとっては死ぬより辛いであろう「相棒ゾロを奪われる」という結末になりました。

サニー号の材料である宝樹アダムもマデュラの船に使われるので、サニー号フラグも自動的に消滅。
麦わらの一味は壊滅こそしませんでしたが、実質海賊としてはやっていけない状態。
少なくとも当面の間は復帰できないでしょう。

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