蛇王龍、海賊になる。   作:初音MkIII

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大変長らくお待たせしました。
シャボンディ諸島編が半年前……半年……?
そんな前だったっけ……と愕然としています。
私の体感的には精々一ヶ月前ぐらいなんですけど。
最近日が経つのが早すぎてビビっております。


インペルダウン①

 

 

 ──カウントダウン開始。蛇王龍がインペルダウンに侵入するまで、あと一時間──

 

 

 蛇王海賊艦隊二十番艦、トレーニングシップにて。

 

 

 

「ウオオォァァァア!!」

「キシ、キシキシキシ……! 甘いわァ!!」

「うわっ!?」

 

 

 早速吹き飛ぶ、三刀流の剣士ロロノア・ゾロ。

 同時に、彼が持つ刀が転がり落ちる。

 

 それを目で追うは、本日のゾロの模擬戦相手を務めるモンスターズ隊員、“鎌蟹”ギザミ。

 懸賞金は4億3000万ベリーだ。

 

 尚、彼は部分的に両腕のみ変身して、刀のように振るう変則的な二刀流……二バサミ流? の剣士である。

 剣士のくせに刀は持ってないのかって?

 

 

 

 マデュラに全部食われたんだよ、察しろ。

 バルドのように我らが姫様のお眼鏡にかなう程の名刀は、持っていなかったのだろう。哀れなり。

 

 

「そぅら小僧!! へばっている暇はないぞ! さっさと貴様の刀を拾ってこぬか!」

「言われなくても分かってらァ!! クソ、本当にどいつもこいつも強ェな……自信無くすぜ」

「早くせんかァ!!」

「あァ、今行く!」

 

 

 ギロリと忌々しそうにゾロを睨むギザミ。

 ワノ国の侍を真似たちょんまげヘアーを不機嫌そうに揺らす彼だが、その理由は実に大人気ないものであった。

 

 

 ゾロが持って“いた”刀は、三刀流と言われるだけあって全部で三つ。

 

 彼の魂であり、今は亡き親友の形見でもある名刀、和道一文字。

 海賊王が死んだ街で魅入られた妖刀、三代鬼徹。

 そして、三代鬼徹が売られていた店の主に気に入られ、ゾロへと譲られた刀、雪走だ。

 

 

 だが。

 シャボンディ諸島を出た直後、ゾロからの献上品である黒刀“秋水”を片手にマデュラが現れ、「チャンバラごっこ」と称してゾロをボッコボコにした挙句、なんと雪走を真っ二つにして、残骸を食べてしまった。

 

 

 

 これにはゾロもあんぐりと口を開けて呆けた。

 バルドが持っていた刀を食べたとは聞いていたが、まさか本当に食うとは。しかも自分(ゾロ)の物を。

 

 

 当然、ゾロは抗議した。

 そりゃもう抗議した。

 自分は三刀流の剣士であり、刀が三本無いと落ち着かないのだ、と。

 食べたならてめェが責任持って代わりのモンよこしやがれ、と。

 

 

 この言い分にはさすがにいくらなんでも図々しすぎるとモンスターズの面々が怒り、立ち上がろう、としたのだが……。

 

 

 

「ん、めんご。じゃあ余ってるからこれあげる」

「……これは?」

「私の抜け殻を素材にして作らせた刀。本当はマスターにあげようと思ってたんだけど、忘れてた。ま、パオちゃんあげたからマスターはもういいかなって」

「なん……!? なんてモンよこすんだお前!?」

「いらないの?」

「いらないとは言ってねェ!!」

「面倒くさいなお前」

 

 

 このように、あっさりとマデュラがゾロに謝り、あろう事か彼女の抜け殻などというとんでもない素材で鍛え上げられたバケモノウェポンを譲ってしまったのだ。

 

 

 これがどれだけとんでもないか。

 何せ、マデュラ自身が愛用する蛇帝剣レヴリマデュラも同じ素材で作られており、位列にして最上大業物は間違いない、という代物なのだ。

 

 

 

 当然、ギザミを含むモンスターズの面々は拗ねた。

 剣士も剣士以外も、そんなマリモに譲るぐらいならば自分が欲しかった、と。

 

 

 それに対するマデュラの返事は「だって誰もちょうだいとか言ってこなかったし。言ってたらあげたのに」との事であった。

 

 

 ガッデム!!

 

 

 バケモノたちは嘆いた。

 

 

 

 まあ、そんなこんなで未だに、ラッキーボーイなゾロはギザミたちから睨まれているというわけだ。

 大人気ない、実に大人気ない。

 

 

「……重い」

「ふん。刀は最強でも振るう貴様が弱くてはな。宝の持ち腐れだ、拙者によこせ」

「いやなこった。つーか下手な事したら蛇王龍の奴が怒るじゃねえか。自殺なら他所でやってくれ」

「ぐぬ……たしかに……」

 

 

 

 マデュラからゾロへと譲られた場面にたまたま通りかかったジエンによって、名刀“白蛇”と命名されたバケモノウェポンを眺め、右手にかかるその重さを噛み締めるゾロ。

 

 最上大業物に相当する刀、白蛇。

 刀身、柄、鍔、全てがその名の通りに真っ白な、乱れ刃の美しい姿を持つ。

 しかして熟達した剣士が振るえば海をも真っ二つにする、抜群の……抜群すぎる切れ味を誇る。

 

 さすがに、今のゾロではそこまでの事はできないが。

 

 

 

「そういえば、今日はラヴィたち四龍王を見ねえな。どうしたんだ?」

「む? ああ、貴様はあの時寝ていたか。ラヴィ様たちは今──」

 

 

 

 

 

 ──大監獄インペルダウン、正面入口──

 

 

 

 

 

 世界中の凶悪犯たちを収容する大監獄、インペルダウン。

 過酷な拷問によって日夜囚人たちの悲鳴が響くこの地獄は、今。

 

 

 

「ふぁ~……これで終わりかい? 白ひげ対策にガッチリ軍艦で囲ってたまでは予想通りだったが、数が思いの外少なかったな。こんなんじゃ眠くなっちまうよ……」

「まったくだ。これではマデュラ様が来る前に全て終わってしまうのではないか?」

「そりゃ勘弁。ま、のんびり行きましょうや」

「ああ、そうだな」

 

 

 

 火拳のエースがマリンフォードへと護送される前に、インペルダウンそのものが白ひげから襲われる、という事態に備えて待機していた軍艦たち。

 

 

 バスターコールの戦力をも超える“正義”は、しかし。

 圧倒的な力……蛇王海賊団が誇る四龍王の襲来というまさかの悲劇の前に屈し、全てが海中に没した。

 

 

 

「だそうだけど、副船長?」

「……マゼランやLEVEL6の囚人たちを生かしてさえおけば問題はなかろう。しかし、ラヴィ。マゼランに匹敵するという“雨のシリュウ”なる男はどこへ行った? 絶対に迎撃に出てくると言っていたのはお前だろう」

「うぐっ。こ、こっちが聞きたいわよ!! あいつならマデュラも多少なり喜んでくれると思うんだけど……」

「シリュウが三分もたないに500ベリー賭ける」

「どうかしら。シリュウ看守長がちょっとでもマデュラの気を引けたら、時間かけて嬲りそうじゃない?」

「最低でも大将全員は連れてこないと話にならん」

「……まあ、たしかに。だけど本当にどこへ行ったのかしら? とりあえずインペルダウンの中に侵入しましょうか」

「ああ、了解した。ゾラ、ガロア。行くぞ」

「あいあいっと」

「念の為トラップの類には気をつけろ。どうせ海楼石がたんまり仕込んであるんだ」

「ま、そうね」

 

 

 インペルダウン地表部、四龍王襲来により壊滅。

 出向中の海軍戦力、全滅につき脱落。

 

 

 

 ──蛇王龍がインペルダウンに侵入するまで、あと三十分──

 

 

 

 インペルダウン内部、LEVEL1にて。

 

 

 

 

「なんだ……? こころなしか、ブルゴリどもがハデに怯えてやがる気が……。こいつは普通じゃねえ。少し、様子見するか……? いやいやっ! 今こそハデに脱獄のチャンスなのでは!?」

 

 

 

 とある大海賊を除き、ただ一人の侵入者も脱獄者も許したことの無い大監獄、インペルダウン。

 

 絶えず囚人たちの悲鳴が響くこの地獄の通路……即ち、牢の外をコソコソと歩く囚人服の男がいた。

 

 

 元ロジャー海賊団見習い、“道化のバギー”。

 懸賞金1500万ベリー。

 

 

 あのシャンクスと腐れ縁で、彼と同じく海賊王の船に乗っていたという凄まじい経歴の持ち主ではあるが、それがまるで嘘のように弱く、しかしそれを自覚しているが故に“最弱の海”たる東の海で活動していた海賊だ。

 

 実際、あの麦わらのルフィに対する逆恨みで偉大なる航路に進出した結果がこのザマなのだ。

 うっかり海軍に捕まり、能力者である事すらも把握されずにLEVEL1に投獄され、それを好機と見て脱獄を試みた……というのが彼の現状なわけだが……。

 

 

 

「ん……? な、なーんかハデにイヤな予感……」

 

 

 ギギギ、とぎこちない動きで騒音の因に振り向くバギー。

 

 そこには、「こんにちは! 死ね!!」とばかりに大斧を振りかぶる、独特の衣装を纏った青いゴリラ……インペルダウンで飼われている海の格闘家、ブルゴリの姿が。

 

 

「のぉぉぉぉおう!?」

 

 

 間一髪でそれを避け、走るバギー。

 バギーのド派手に大脱獄は始まったばかりなのだ。

 クライマックスを迎える前にバッドエンドなどあってはならない。

 

 

 いや、バギーは悪魔の実を食べたバラバラ人間なので斬られても別に死にやしないんだけども。

 

 

「ちくしょぉおおおおお!! もうバレたのかよ! 何がいけなかったんだ!? 監視電伝虫には映らないように気をつけてたってのによォ!!」

 

 

「ギャハハハ!! 見ろ、バギーの野郎もう見つかってやがる!」

「へっ、だからおれたちも出せって言ったんだ!!」

「薄情なアイツにバチが当たったんだな!」

「おら行け、殺せー!! ギャハハハ!!」

 

 

 囚人仲間たちの汚らしいヤジに内心で文句を返しつつ、必死に走るバギー。

 ド派手な赤っ鼻がチャームポイントの彼は、果たしてマデュラに気に入られて生き延びるのか。はたまた「誰お前。邪魔」と無慈悲に消されるのか。

 

 

 

 

 そして、ようやく地表部の悲劇に気付いた看守の声がインペルダウン中に響く。

 

 

 

『ッ!? か、各フロアに伝達!! インペルダウンの地表部分が焼失、及び蛇王海賊団の艦隊の一部を確認!! す、既に四龍王と思しき四人組が侵入しています!? 署長、指示、指示を……うわあぁぁぁぁあ!?』

『ハァイ♪ インペルダウンの皆、聞こえてる? 蛇王海賊団最高幹部、四龍王が一人、ラヴィよ。LEVEL1の看守室は既にアタシたちが占拠したわ。直にマデュラも来るから、よろしくね!』

 

 

「な、なんだ!? ブルゴリたちが、ハデに凍りやがった……ってぶぅーーーッ!!」

「……なんだ、この変なのは」

 

 

「し、ししし……熾凍龍~~~!?!? て、てめぇらまさか……このインペルダウンをドハデに潰しに来たのか!?」

 

 

 

 

 大監獄、インペルダウン。

 最期の地獄が、始まった。

 

 

 

 

 ──蛇王龍がインペルダウンに侵入するまで、あと二十分──





※モモンガさんはエニエス・ロビーで大怪我して、マリンフォードの病院で寝込んでいるので無事です。

 怪我の功名……ッ!!

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