前作からちょっと時間が空いてしまいましたが無事出来ました。
読んでくださると嬉しいです。
ショートカットの似合う5つ子姉妹の長女、中野一花。
自分の夢の為、妹達と離れることを考えていたが家庭教師の上杉風太郎との交流の中で彼に惹かれていき今はまだ妹達と生活を続けている。
自分が長女ということもあり、昔から妹達に色んなことを譲ってきた。大好きな妹達に譲ることは嫌ではないし苦でもない。風太郎にも言われたが、どうやら自分には貢ぎ癖があるようで、気分が良くなると他人に何かを買い与えたくなる。妹達に譲ることが貢ぐことになるのかはちょっと怪しいが。そもそも大抵のことは5人バラバラになるので譲ることすら珍しい。
一花「なーんで今回に限って、全員被っちゃうかなー」
大きく背伸びをしながら1人呟く。
そう、今は全員が上杉風太郎の事を狙っている。
彼への想いは1人1人違うかもしれないが狙っていることには変わりない。
そして今回ばかりは長女だとしても妹達には譲りたくない。
むしろ長女だから譲ってくれてもいいのではないか、とたまに考えるくらいだ。
一花「みんな意思が硬くて驚いたしなー。こんな身近に強敵が4人もいるなんて思ってもいなかったよ……」
恋の道をただ全力で一直線に突き進んでいる二乃。
今までの奥手な性格から素直になって想いを表現している三玖。
裏表無しに正面から付き合える四葉。
自らの進む道を見つけ彼と共に進もうとしてる五月。
妹達はそれぞれの気持ちを胸に秘めている。今はまだ恋じゃないのかもしれない。しかし今胸の中にある気持ちはいずれ彼に対する恋になるだろう。
一花「このままじゃ取られちゃうかなー……何か私もフータロー君に1回アタックしなきゃかな?」
彼との勉強会も自分の仕事で疎かになりがちなので妹達より多くアタックしなければ勝ち目なんてない。彼からしたら5人から同時に迫られているのだ。少しでも距離を詰めておくに越したことはない。
一花「でも何をしてあげればフータロー君は意識してくれるかな〜。というよりそもそも意識されてるのかな?普段の態度からは意識されてるようには見えないからな〜。うーん、男の子を意識させるのってこんなに難しいのか……」
昔から周りの男子からはちやほやされてきた。妹達も同じだ。5つ子なのだから当たり前かもしれないが。
だがそのせいもあり、自分達に興味を示さない男子なんてほとんどいなかった。こちらから意識させようなんて考えたこともなかった。
一花「こうして改めて考えると……フータロー君、強敵だなぁ」
おもむろに近くにあった雑誌を手に取る。
一花「へぇ、最近は色んなお店がオープンしてるな〜」
都市部で新たにオープンする店の特集がされていた。
一旦風太郎へのアタックの仕方を考えるのを中断してパラパラとページをめくっていく。
一花「っ!こういうの、もしかしたら良いかもしれないね〜。善は急げだね。足りない物ありそうだしちょっと買い物行ってこよっと」
風太郎「……たく、いきなり呼び出しして何の用なんだ?」
休日に風太郎は自宅から家庭教師をしている中野家の5つ子が暮らしている家に足を運んでいた。普段ならメールが来てもすぐに断るの2文字で片付けるのだが今回はそうはいかなかった。
風太郎「一花の奴……まだあの写真消してなかったのか」
一花から送られてきたメールには一花に膝枕されている自分の写真が添付されていた。
しかも本文には断ったら妹達にこの写真ばら撒いちゃうよ、と。なんとも脅迫まがいのメールだと思ったがこんな写真が姉妹に渡ってしまったら気まずい以上に立場が危うくなりかねない。大人しく一花に従うことにした。
一花「あ、いらっしゃーい」
風太郎「いったい何の用なんだ?」
一花「まぁまぁ、とりあえず中に入って入って。立ち話もなんだしね」
風太郎「はぁ……」
言われるがまま風太郎は家に入る。
いつも家庭教師に来る家。いつもは狭く感じるのだが今日は少し広く感じた。
風太郎「4人はいないのか?」
一花「うん。今日は私が急遽非番になってねー。みんなはバイトだったり予定があったり」
風太郎「なら俺を呼ぶ必要あったか?たまの休みなら勉強するなり色々あるだろ」
一花「フータロー君?女子が休みの日に誘ったんだからもっとそこは嬉しそうにするとこだよ?」
風太郎「わーうれしいなー」
一花「はぁ……お姉さん先が思いやられるよ」
風太郎「お前に心配される筋合いはないぞ」
一花「フータロー君はもっと女子の対応について勉強しないとダメだぞ?」
風太郎「わかったから。早く用を済ましてくれ」
一花「お?フータロー君てば思ったより欲しがりさんなのかな?」
風太郎「何の話だ……」
一花「あれ?ちゃんとメール最後まで読んだ?」
風太郎「なに?」
風太郎は携帯を取り出し一花から来たメールを再度確認する。
本文には今から家に来ないと写真をばら撒く事が書いてある、が。
余白部分が多すぎることに気付いた。
下にメールをスクロールしていくと……
☆お姉さんが耳かきしてあげるからね☆
という一文が書かれていた。
一花「いやぁ、フータロー君がそんなに欲しがりさんだとはお姉さん思ってなかったよ〜」
風太郎「こんなん気付くわけねえだろ……」
うな垂れる風太郎に対し一花は上機嫌のようだ。
一花「フータロー君も待ち遠しいようだし、さっそく始めよっか」
風太郎「はぁ、もう勝手にしてくれ……」
風太郎は諦めたようで渋々一花に手を引かれ彼女の隣に座る。
隣でどうやら色々準備をしているようだ。
風太郎「……耳かきをするんじゃないのか?」
一花「そうだよ?」
風太郎「そんなに準備することがあるのか?」
一花「私も最初はそう思ってたんだけどね。調べたら結構色んなやり方があって面白かったよ」
一花は正座をして折りたたんだタオルを膝に乗せた。
一花「さ、フータロー君。こちらへどうぞ」
風太郎「お、おう」
両手を広げ笑顔で招く一花。
今まで女性経験なんて皆無に等しい風太郎からすれば断れない誘惑だろう。
一花「生足じゃなくてガッカリしてる?」
風太郎「……そんなことはない」
一花「ほんとに?」
風太郎「……いいからやるなら早くしてくれ」
一花「はーい。じゃタオルをまず乗せますねー。目閉じてね」
一花は柔らかいタオルを風太郎の目が隠れるように乗せた。
風太郎「この状態でするのか」
一花「こうするとリラックス効果が高いんだってさ」
風太郎「ふーん」
一花「あんまり乗り気じゃない返事はお姉さん悲しくなっちゃうな〜」
風太郎「前にも言ったがもっと嘘を上手くしろ」
一花「ありゃ、フータロー君に言われるということは私もまだまだかな」
一花は喋りながらも耳かきの準備を進める。
手にしたのは前もって温めておいた蒸しタオル。
風太郎「うお、なんだ?」
一花「蒸しタオルで耳の汚れをまず拭き取るの。耳の裏側とか結構疎かにしがちでしょ?」
グッグッ……クシクシ……
タオルで耳の周りを包むようにして拭いていく。
一花「あと耳のマッサージも兼ねてるみたいだよ?こうやってマッサージすると血流が良くなって耳垢を取れやすくなる、みたい」
ググッググッ……
グリッグリッ……
風太郎の耳をタオル越しに揉んでいく。
力を入れすぎないように慎重に。
一花「どう?フータロー君。気持ちいい?」
風太郎「まぁ……」
一花「なら良かった〜。大切な私達の先生だもんね。体は大事にしないとダメだぞ?」
風太郎「当たり前だ。お前達を笑顔で卒業させるのが俺の仕事であり使命だ」
一花「うんうん。さすがフータロー君だ。あ、耳拭き終わったけど痛くなかった?」
風太郎「大丈夫だ」
一花「じゃあお待ちかねの耳かきしていくよ」
一花は先日購入した耳かき棒を手に取り風太郎の耳に狙いをつけ、
クイっと軽く耳を摘み中を覗き込む。
一花「ほうほう、中々やり甲斐のある耳ですな」
風太郎「そうなのか?」
一花「フータロー君あまり自分で耳掃除してないでしょ?」
風太郎「うーん、確かにあまり……」
一花「体は正直みたいだね〜」
風太郎「変な言い方をするな」
一花「はーい。さっそく始めるよ」
スー……ザリッ
カリッカリッ……
耳かき棒が耳に侵入すると同時に風太郎の体が一瞬反応した。
風太郎「冷たい……」
一花「あ、ステンレスの耳かきだからかな〜。細くていい感じに出来そうだからこれにしてみたんだ」
風太郎「色々あるんだな」
一花「そうなんだよね〜。探してみたら種類が多くてビックリしたよ」
カリッカリッ……
お互い喋りながらも耳かきは続けられる。
とはいえあまり動くとさすがにやりにくくなるので小声だが膝枕しているので支障はない。
カリッカリッ……
カリッカリッ……ペリッ
一花「お、いいのが取れそうだよ」
風太郎「いいのと言われてもな……」
一花「なるべく大きなままで取るからね。じっとしてて」
カリカリッ……
耳かき棒を剥がれかけた耳垢に狙いを定めて集中する。
カリッ……コリッ……
カリッカリッ……
一花「うーん、難しい……よく見えない」
風太郎「そ、そうか」
一花は苦戦しながらも耳垢を取っていく。
カリカリ……ガリッ
風太郎の耳の中で大きな音が響く。
風太郎「だ、大丈夫なのか?」
一花「ちょーっと静かにしてて」
風太郎「はい……」
声をかける風太郎を静止して自分の手元の神経を研ぎ澄ます。
カリッカリッ……
ググっゴリ……ガリッ
一花「お、もう少し……」
ガリッ……ガリッ……ピッ……
一花「やった……取れたよフータロー君」
風太郎「お、おう。ありがとう」
一花「これ達成感すごいなぁ。フータロー君よりお姉さんがハマっちゃうかも」
風太郎「なんでだよ……」
一花「ささ、タオルどけるから反対の耳見せてね」
風太郎「分かった分かった」
風太郎は寝返りをし、反対の耳を上にする。
タオルをまた目元に乗せ耳を蒸しタオルで拭いていく。
まだ2回目とはいえ初めの耳より手つきが良くなっているのを風太郎は耳伝いに感じていた。耳を粗方拭き終わり耳の中をチェックする。
一花「ふむふむ。こっちもやり甲斐ありそう。フータロー君はお姉さんを喜ばすのが上手いね〜」
風太郎「変な言い方をするなって……」
カリカリッ……
コリッ……コリッ……
風太郎の反論をスルーして耳かきをしていく。
聞こえてはいるが今はそれ以上に幸せだった。
一花(あぁ、なんだかこういうのって夫婦みたい……フータロー君が旦那さんになったら……こんな感じでゆっくり過ごしたいなぁ……)
手元が疎かにならないよう注意をしつつ妄想に浸る。
カリッカリッ……
カリッ……ガリッ
こちらの耳にも少し手強いのがあるようだ。
一花は一息ついて狙いをつける。
カリカリ……ガリッ
ガリッ……カリッ
カリッカリ……ピッ……
先程のものよりは早く決着がついた。
剥がれた耳垢を匙に乗せ耳の外へ。
一花「見て見てフータロー君。君の耳から取れたのだよ」
風太郎「うーん、こういうのをまじまじと見るのは初めてだな……」
一花「私もだよ〜。いや〜、満足満足。ほんとはもっとやってあげたいけどあまりやり過ぎるのも良くないみたいだし今日はこれで終わりね」
風太郎「はいよ。一応お礼は言っとくわ。ありがとう」
一花「うん。どういたしまして。また今度してあげるからね」
風太郎「え、またやるのか?」
一花「今日出来なかったこともあるし、試したいのもあるからね。またお願いねフータロー君」
風太郎「どうせ今断ってもまたメールしてくるんだろ?分かったよ……」
一花「さすがフータロー君!お姉さん嬉しいぞ!それで今日はこの後どうするの?勉強会は今日はなかったよね?もうすぐみんなも帰ってくると思うけど」
風太郎「なら帰らせてもらう」
一花「え〜?帰っちゃうの?」
風太郎「用事は済んだ訳だしな」
一花「も〜、しょうがないな〜。じゃあまたね!」
風太郎「あぁ」
一花「今日は幸せだったな〜。フータロー君のこと少しの間一人占めしたようなものだもんね。それに結構耳かきって楽しいからハマりそうかも」
風太郎が帰った後、1人呟く。
一花「よーし、もう少し調べてみよっかな。もっとフータロー君に色んなことしてあげたいな」