ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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ダナンとオーキスとアポロが一緒に祭りを回ってイチャイチャするだけの話です。

明日からの更新は“黄金の空”編になります。一応盛り返してストックが三十話分ぐらいまでいったのでまだまだ毎日更新は続きます。

で、先々の話で申し訳ないのですが、
キャラの容姿とかを書くのに検索したりするんですが、
「グラブル レオナ」で検索していたら次に「グラブル レオナ 嫌い」と出てきたんですが。
そんなにレオナって嫌われてるんですかね。
まぁ確かに精神面が未熟なので二十七歳と考えるとアレなところが目立つような気もしますが。あの時から精神的に成長してないって考えると……って感じですね。
とはいえ調べたら暁の空編にあんまり好きなキャラがいないとか言われてましたけどね。

参考までに、その辺りの意見をいただけると幸いです。


EX:三人で祭りを

 俺がみや里の手伝いをし終わってから自分の屋台に戻るとそれなりに列が出来ていた。どうやら俺でなくとも美味しいという証明はされたようだ。

 

「悪い、今戻った」

 

 店番を任せてしまっていたオーキスとアポロにそう声をかける。

 

「……おかえりなさい」

「祭りに来て、まさか屋台を手伝わされるとは思っていなかったがな」

 

 二人は嬉しさと安心と苦笑いの混じった様子で出迎えてくれる。

 

「悪かったって。土産も持ってきたし、もう屋台を手伝う必要はないから。最終日になっちまって悪いが、約束は果たすよ」

 

 俺はすっかり助けてもらったと思いつつシェロカルテに頼んでついてきてもらった二人の店員に屋台を任せる。

 

「……美味しそうな魚の匂いがする」

「よくわかったな。まぁでもこれは後のお楽しみってヤツだ」

 

 二人と光華大会で食べるためにみや里のスシと限定のスシ、ゴッド・アルバコアを詰めてきたワンセットを持ってきていたのだ。二人に持っていくのになんか容器ないかとシェロカルテに聞いたら用意してくれたのだが、そこから彼女はスシの持ち帰りという商売を思いついたらしく大将と話し込んでいた。あいつの手腕には恐れ入る。というかまだ金稼ぐのか。あいつはそれが趣味というか生き甲斐みたいなところがあるんだろうかね。

 

「ホントは一人ずつと回ってやりたかったんだがな。光華大会まで時間がねぇし、悪いけど三人でいいか?」

「……ん。ダナンとも、アポロとも一緒に回りたかった」

「私もそれでいい。元々、オルキスに土産を買ってくるために来たのだからな」

 

 他の日はずっと手伝わせてしまっていたので、二人共まだ祭りを満喫していない。かく言う俺も客として回るのは初めてだ。

 

「じゃあ行くか。光華大会まで、のんびり店回ってようぜ」

 

 俺は言って、ようやく手伝ってくれたお礼として二人と祭りを回り始めるのだった。

 

「……ん」

 

 オーキスが手を差し出してくる。その手を握ってから、ふともう片方の手はスシ詰めで空いていないことに気づきアポロを見た。

 

「わ、私はいい。人前では少し、な」

 

 流石に気恥ずかしさが抜けないのか遠慮していた。まぁそんな柄でもないか。

 特には気にせず三人並んで祭りを回る。

 

 オーキスが手当たり次第に屋台の食べ物を回っていく。今はリンゴ飴を手にしていた。

 

「……甘くて美味しい。オルキスにも買って帰って」

「ああ、わかっている。ある程度保存の効くモノは買っていくつもりだ」

 

 俺を挟んで並び歩くオーキスとアポロ。オーキスはオルキスと食べ物を共有したいのか、アポロにそんなことを言った。頷くアポロの手には既にオーキスが買ったのと同じ店で購入したリンゴ飴が握られている。自分で食べることはなく、袋に包んだまま持ち帰るようだ。

 

「……ダナンの作ったヤツの方が良かった?」

「あまり贅沢をさせるわけにもいかないだろう。気に入りすぎてついてくるなんて言われては敵わん」

 

 いや流石にそんな子供じゃないだろオルキスは。いくら食いしん坊でも立場を弁えないってことはないはず、多分。

 

「……オルキスは女王として頑張ってる。だから大丈夫。ダナンは渡さない」

「いや別にオルキスのとこ行こうとは思ってねぇよ」

「……ホントに?」

「ああ」

 

 じっと見上げてくるオーキスにしっかりと頷きを返す。

 

「……女王だから、給料もいい」

「別に金目当てで生きてねぇしな」

 

 料理だけの話で言えば、極論俺の料理を食べて喜んでくれる人がいればどこでもいい。ただ今の俺は料理だけが好きなわけじゃない。

 

「……嘘吐いてない?」

「吐いてないって。大体、俺は料理するのは好きだがそれだけに生きるつもりはねぇしな。……お前らと旅すんのも、楽しんでるってことだ」

「……それなら安心」

 

 少し照れ臭かったが正直に告げる。オーキスが嬉しそうにはにかんだので良かったとしよう。

 

 

「しかし、あのオーキスがここまで笑顔を見せるようになるとはな」

 

 アポロが俺の隣ではなくオーキスの隣に移って温かく微笑む。

 

「……一番はダナンのおかげ。でも、アポロのおかげもある」

 

 オーキスはリンゴ飴を素早く平らげると、アポロに向けて空いている手を差し出した。それに少し驚いた様子で、しかし次の瞬間には笑って荷を片手に寄せると空けた手でオーキスの手を握る。オーキスは満足に頷いた。

 

「……ん。三人でも、楽しい」

「それは良かった」

「ああ。今こうしてお前達といられることが、なにより嬉しい」

 

 こうしてオーキスを中心に三人で手を繋いだ格好で祭りを回ることになった。

 

 となると当然、

 

「おっ? 家族でお出かけかい? お父さんとお母さんと手を繋いで、楽しそうだねぇ」

 

 気のいい焼きそば屋のおっちゃんがオーキスに焼きそばを差し出しながら言った。

 

「……むぅ」

 

 案の定オーキスは頬を膨らませてしまい、俺とアポロは顔を見合わせた。……いや流石に俺とオーキスが親子は無理がありすぎねぇか? ギリギリアポロが母親、オーキスと俺は兄妹ぐらいだろうに。

 しかしオーキスは機嫌を損ねてしまい、自棄食いするかのように三つの焼きそばを平らげてしまう。

 

「……私は、子供じゃ、ない」

 

 店から離れてもむすーっとしたままの彼女に苦笑いを浮かべるしかない。

 

「ああ。それに私とオーキスは兎も角、ダナンとオーキスは親子ほど離れていないだろう? あの店主の見る目が間違っているだけだ」

「……ホント?」

「ああ」

「……じゃあ、ダナンと恋人に見える?」

「……」

 

 おいそこで目を逸らすんじゃねぇよ。

 

「……見えない?」

 

 オーキスのトーンが一つ下がった気がした。

 

「い、いやその……」

 

 アポロも感情が一段と見て取れなくなった瞳に見つめられて言い淀む。

 

「……むぅ」

 

 そのせいでオーキスは一層不機嫌になってしまった。……ここは俺から助け船を出すか。

 

「確かにオーキスは子供に見られるよな」

「……」

 

 俺にまでそんなことを言われたからか、オーキスは非難を込めて俺を見上げてきた。

 

「でも周りの目なんて別にいいだろ。オーキスはオトナなんだから」

 

 下げて上げる。詐欺師の手口である。

 

「それに、世界にはハーヴィンっていう身長の低い種族もいることだしな。小さいからって子供扱いする方が間違ってるんだよ」

「……ん。私はオトナ。だから、気にしない」

「そうそう、それでいいんだよ」

 

 普段なら頭を撫でているところだが今は両手が塞がっているのでできなかった。

 

「そういうことだ。オルキスはほとんど変わらない見た目だが、あれで私と同い年だからな」

 

 オーキスの機嫌が直りかけていると見てアポロも続ける。

 

「……大人なら、子供扱いされても怒らない」

 

 いや俺は気恥ずかしくなると思うんだが。まぁオーキスの機嫌が直ったんならそれでいいか。

 周りになにを言われても気にしない、のだが大人なのだと納得してくれたようだ。しかし、

 

「あらお嬢ちゃん、お兄ちゃんと手を繋いで楽しそうねぇ」

「お父さんと一緒かい? ほらおまけしてあげるよ」

「お父さんにしては若い……オジさん? いっぱい奢ってもらうのよ」

 

 とまぁ、どこへ行っても子供扱いのオーキスであったので急に余裕を保ち続けることもできず、結局何店か回った後にはむくれてしまった。

 

「……子供じゃ、ない」

 

 むすっとした様子のオーキスは口癖のように繰り返す。いや精神年齢としては十歳前後だし、身体もオルキスが人形のようになった時から作られたみたいだからそれよりもっと歳月がないんだが。

 まぁ少なくとも、俺と手を繋いで歩いていたところで兄妹に見られるのがオチだとは思うのだが。実際そう見られたしな。

 

「俺達はわかってるから気にすんなって」

「そうだぞ、オーキス。人は見た目ではない」

「……むぅ」

 

 なんとか慰めようとするが不機嫌そうなのを崩さない。……仕方ない。あれを言うしかない、か。

 俺はそう考えると人混みの喧騒に声が紛れるように、オーキスの耳元に口を寄せて囁いた。

 

「……それに、オーキスは子供にはできないオトナなこともできるもんな」

「……っ」

 

 俺の言葉になにを想像したのか、急激に頬を染める。

 

「……ん。私は、オトナ」

 

 きゅっと俺の手を握る力が強くなった。これで多少は気にせず楽しめればいいんだがな。

 

「……お前、本当は誑しの自覚があるんじゃないだろうな」

「なんのことやら」

 

 アポロにジト目で見られてしまうが、肩を竦めるに留めた。いや本当にわからないんだが。

 

「ほら、もっと回るぞ。光華大会まで時間がねぇからな」

 

 俺は言ってオーキスの手を引く。浴衣は歩きづらいので無理をさせない程度に。

 そうして俺達三人は祭りを改めて楽しみ始めるのだった。

 

「……難しい」

 

 今オーキスが挑戦しているのは金魚すくいという遊びだ。取ってきた小さい魚をポイと呼ばれる道具で掬って捕まえたら貰える、という屋台のようだ。ポイは縁こそプラスチックだが掬う部分に関しては紙で濡れると破けやすくなる。破けたら終わり、というルールらしい。

 オーキスは表情少なくも悔しそうにしている。全戦全敗、金魚を取ろうとしてポイを破きに破ったからだろう。今持っているので五つ目だ。

 

「……糸で釣り上げた方が簡単」

「それは反則なんだろうよ」

「なら次は私がやろう」

 

 不満そうにしながらも、彼女なりに試行錯誤を重ねていたので大人しくアポロにバトンタッチした。

 アポロの荷物をオーキスが代わりに持ち、アポロは袖を捲くってポイを握り金魚の入った水槽に向かい合う。

 

 その真剣な横顔から本気だと悟った。……いや遊びだからそこまで本気にならなくてもいいんだが。でもまぁ珍しい魚ではあるし、メフォラシュに持ち帰ってオルキスに見せたいという気持ちはあるのだろう。

 

「ふっ」

 

 ばしゃぁ、とポイで掬った水ごと取る用の器に放り込もうとする。

 

「このっ」

 

 ばしゃんっ、と水の中に入れたポイを思い切り上に振るって水柱を起こし金魚を飛ばす。

 

「ふんっ!」

 

 どっぱーん、とポイを水面に叩きつけて水飛沫を起こし空中に飛ばした金魚を器でキャッチする。

 

 ……いやなにやってんだこの人。

 

 俺はアポロの大暴れを呆れた顔で見ていた。店主の顔も引き攣っている。

 

「ポイ三つで三匹か。それなりだな」

「……アポロ、凄い」

「「いや待て待て」」

 

 本人はなぜか得意気な顔をしていて、オーキスも器に入った三匹を眺めて褒めているが。俺と店主は声を揃えてツッコんだ。

 

「金魚を掬う遊びなんだから掬えよ。なんで力尽くなんだ」

「わ、悪いが兄ちゃんの言う通りだぜ。ポイで掬ってくれなきゃ取ったとは認められねぇ」

「なんだと……」

 

 俺達の言葉にショックを受けた様子で表情を陰らせ、しかし素直に器に入った三匹を水槽にリリースした。珍しく本気でしょんぼりした様子である。

 

「そう落ち込むなよ。こういうのは俺の得意分野だからな」

 

 二人、というかオーキスや他の客がやっているのを見て大体どうすれば掬えるのかはわかった。正直アポロは参考にならない。なにあの力こそパワーみたいな金魚すくい。

 金魚すくいは一回500ルピ、二回800ルピ、三回1000ルピまである。複数回を一気に頼むほどお得になっているようだ。そうして金を集めるのがこの金魚すくいなのだろう。

 

 金魚は四種類か。

 赤、黒と色は分かれているが小さくあまり特徴のないタイプ。

 赤より黒の方が数は多い、目玉の飛び出たタイプ。

 丸っこい体型に似合わぬ小さなヒレが泳ぐタイプ。

 他と比べるとがっしりしており頭がゴツいタイプ。

 

 値段は不明だが、高そうなのは後者の二種類か。だがアポロの一撃でも舞い上がったのは小さいタイプだけだったし、悠々と泳いでいてなかなか難しそうだ。単純に他の種類より重そうで、ポイが簡単に破けてしまいそうでもある。

 

「とりあえず三回で小さいヤツ二匹捕まえとくか」

 

 まずはウォーミングアップから。店主からポイを受け取り狙いをつける。基本的には上の方に来たヤツを狙うのがいいか。あとできるだけ紙部分を水に浸さないのも大事そうだ。水に濡れると破けやすくなるみたいだからな。

 

 一匹に狙いを定めると左手に持ったポイを手早く水面に少しだけ滑り込ませる。そのままほとんど顔を出した状態の金魚の下に縁を潜り込ませると、手首を返すようにして縁に金魚を引っかけながら掬い上げた。水に浮かせた器の中に放り込む。

 

「……上手」

「器用なモノだな」

 

 二人から褒められるともっとカッコつけたくなる。逸る気持ちを抑えて次は同じ種類らしき黒いヤツを掬う。

 次は目玉の飛び出たヤツだ。一種類目より大きかったがなんとか掬った。ただしここでポイを一つ失う。

 

「……あの丸いヤツ取って」

「おう」

 

 オーキスの要望に応えて丸い体型の金魚をターゲットにする。とはいえ大きいので難しい。泳ぎは遅いので捉えやすいのだがあまり上の方に来ないのも難易度を上げる一つか。

 俺は仕方なく、二つ目のポイを使ってその金魚を上に持ってくる。あっさりと破けてしまったが、まぁいい。

 次に早速三つ目のポイで金魚を掬った。紙の周りの縁は円になっていてそこだけでは足らないかもしれないが、取っ手の方も使えばよりしっかりと縁で捉えることができる――なんとか一発で器に入ってくれた。ただもうポイが水浸しなので最後の一種類は取れないかもしれないな。

 

「次だ。ここまで来たなら制覇あるのみだろう」

 

 アポロの声も僅かに弾んでいる気がする。俺は集中して水槽に二匹しかないそいつの内一匹に狙いを定めた。悠々と泳ぐ様は他の小さい金魚を押し退けて突き進んでいるようにも見える。

 集中しポイを水に入れる。水の抵抗を受けたり金魚の攻撃を受けたりすれば呆気なく破れてしまうだろう。慎重に、他の金魚に当たらないよう気を張ってヤツの近くに持っていき、下から触るように水面近くまで誘導していく。

 そしてポイを身体に添えると一気に持ち上げた。重量感が他とは一線を画す。しかしここ一番の返しが決まりヤツの身体が器へと入っていく。しかし離れ際のヒレの殴打によってポイが破けてしまった。

 

「「「おぉ……!!」」」

 

 周囲からどよめきが上がる。驚いて振り返ると、やけに多くの野次馬が集まってきていた。……あれか。アポロが派手に水飛沫を上げて金魚すくいをやっていたせいで、人が集まってきていたのか。

 

「……凄い。おっきいの取れた」

「ああ。だが直前でポイが破けちまったし、判断は任せるよ」

 

 俺は言って破けた三つのポイと金魚達の入った器を差し出す。

 

「……こりゃ参ったな。流石に兄ちゃんの健闘を見て食い下がるわけにもいかねぇ。いいぜ、持ってきな!」

 

 大勢の目があったことも後押しして、俺は無事計六匹の金魚を貰うことができたのだった。

 

「あ、おっちゃん。悪いがこいつらを飼育する時のコツを教えてくれるか? 知識がないと可哀想だしな」

「おう。大切に飼ってくれるなら言うことないぜ」

 

 というわけで金魚達それぞれの特徴や飼い方を教えてもらい、持っていた紙にメモを取っておく。こいつらは旅に連れていくにはあれなので、オルキスに全てやることにした。アポロに持って帰ってもらおう。

 アダムもいるので世話係には困らないはずだ。

 

 アポロがその後本領を発揮したのは射的の時だった。

 射的とはコルクの銃で並んだ景品を撃ち抜き景品を倒せれば獲得できるという遊びだ。少し観察すればわかるが、容易に倒せるようにはなっていない。

 

 だがそこは血筋と言うべきなのか。

 

 本格的に銃を構えた姿にオイゲンが重なるほど本気になったアポロは、結局景品を全て取り切るまで撃つのをやめなかった。とりあえず二度と来るなと言われたのは仕方がない状態だった。

 

「……景品いっぱい貰った」

 

 ただまぁオーキスが普段と違う犬のぬいぐるみを抱えて嬉しそうにしていたので、アポロも満足そうだったが。

 残りはオルキスに持ち帰るらしい。

 

 それからもオーキスが食べ物を巡って回ったり、なぜかくじ引きで豪華景品を引き当てたりしていた。

 カタヌキは俺だけなにもしていないのに禁止されており、二人の様子を見守るだけになった。どうやらカタヌキ屋のヤスに勝ったのがいけなかったらしい。こういう細かい作業はアポロよりオーキスの方が得意なようだ。普段から指から伸ばした糸でロイドを操ったり戦ったりしているらしいからな。指先を動かすことに慣れているんだろう。逆にアポロは細かい作業が苦手なのか、力加減が下手なのか、すぐに型を割ってしまっていた。

 

 時折遊びながら、基本的に食べ物を制覇したいと言うオーキスに付き合って祭りを回り続けるのだった。

 

「……ん。人いっぱい」

「これは座れそうもないな」

 

 いよいよ光華大会が近くなってきたところで頃合いを見て会場近くに向かったのだが。二人の言う通り光華がよく見れるポイントに敷かれたシートはいっぱいになっていた。見渡しても座れる場所がなく、立っている人も多い。俺達の周りにもたくさんの人がいて光華がよく見える場所を探し歩いている。

 

「大丈夫だ。こんなこともあろうかと、場所取りを頼んでてな」

 

 言って俺は二人を連れて大勢の人がいる地点を離れていく。

 俺が向かったのは祭りの喧騒から離れた林の方だ。急に人気がなくなり静けさの漂うこの近くに、

 

「あった」

 

 飲み物の置いてあるシートを見つけた。場所は林を抜けた直後の地点で、夜空がよく見える。他に人もいないのでのんびりできるし。

 

「……ここ?」

「ああ。シェロカルテの見つけた隠れスポットなんだと。他に客も来てないみたいだし、こういう場所で見るのも悪くないだろ」

「またあの商人か」

 

 呆れたような様子で言ったアポロに続き、オーキスも座る。間に一人分空いているのに、なぜかとつける必要はない。

 大人しく空いた場所に座った。

 

「……ここからよく見える?」

「ああ。多分、だけどな」

 

 俺も実際には見たことがないのだ。

 

「アポロは見たことあるのか? アウギュステの出身だし」

「子供の頃に見た覚えがあるようなないような、というくらいだな。こうして間近で見るのは初めてだ。遠目に見たことはあったような気がするが」

 

 まぁアウギュステ列島だからな。その名の通り小さな島も多い。その全てに行ったことがあるかと言われれば微妙なところだろう。それに母親が途中で死んでいるらしいし、病気にでもかかったのかもしれない。となればあまり遠くへ遊びに行くことは少なかっただろう。オイゲンもあんまり帰ってこなかったみたいだしな。

 

「……私は初めて」

 

 オーキスは言ってじっと空を見上げる。狐の面を外してシートの上に置いた。

 

「……楽しみ」

「だな」

 

 オーキスが嬉しそうだったので良かった。かく言う俺も初めてなのでどんなモノか楽しみだ。一応絵や話で知ってはいるのだが、そういったモノと実際に見たモノは全く印象が違う。

 

「スシでも食べながらまったり待ってるか」

「……じゅるり」

「ゆっくりだぞ、オーキス」

「……ん」

 

 俺が握ってきたキングアルバコアのスシを広げて三人で舌鼓を打つ。キングアルバコアの身は引き締まっていて弾力があるのだが、噛むと程好い脂が滲み出て口の中で溶けていくように味わいが広がっていく。スシにつけるのはしょうゆで決まりらしいのだが、しょうゆを平皿に入れてつけてから食べるのが一般的らしい。だが持ち帰りだと難しいのでかける方に変更している。シェロカルテがその場の思いつきで用意した小さなしょうゆ入れでかけて食べている。あいつの手腕によって来年にはきっと持ち帰りのスシが流行することだろう。

 そんなことを考えていると、むぎゅっと太腿を抓られた。

 

「……他の女のこと考えてた」

 

 なぜわかる。というかシェロカルテはいいだろ別に。どちらかというと仕事仲間なんだから。リーシャとかなら兎も角。

 

「……今は私だけ見て」

 

 オーキスは俺との距離を詰めるとじっと見つめてきた。

 

「おい、オーキス。独り占めはいただけないな」

 

 しかし反対側のアポロが俺の身体を引っ張って阻害する。

 オーキスは俺越しにアポロを睨みつけるが、アポロは真正面から受け止める姿勢だ。……とりあえず俺を挟んでやらないでくれねぇかな。気まずい。

 

 と思っているとピュ~という甲高い音が鳴り、三人揃ってそちらに顔を向ける。

 光の玉が尾を引いて空に上がっていくのが見えた。自然と身体をそちらに向けて腰を落ち着けてしまう。

 

 少し顎を上げるくらいの高さまで昇った光の玉が大きく弾けた。正に光の華。赤の火花が夜空に大輪を咲かせた。今いる場所は少し離れているため、光華の全体がよく見える。

 左右から息を呑む気配がした。若しくは自分のモノだったかもしれない。

 赤い光華を皮切りに続けて光華が花開いていく。

 

 島中に響き渡りそうな光華が弾ける音と光華が描く光景に目を奪われ、魅入ってしまう。姿勢を直し正面から光華を眺められる座り方に変えた。

 

 しばらく眺めていると、右腕になにかが当たった。視線を落とすとオーキスが俺の肩に寄りかかっている。それに対抗するように、シートに着いていた俺の左手と指を絡めるように上から握る手があった。アポロだ。ただ光華を見ているフリをしている。とはいえ光華に照らされてもわかるくらいには顔が赤かったのだが。

 

 光華は前半と後半に分かれている。一度五分ほどの休憩を挟むのだ。怒涛の光華ラッシュが終わって、ぽつりとオーキスが呟いた。

 

「……次は、スツルムとドランクも一緒がいい」

「そうだな」

「……仕方ないから、リーシャとナルメアも」

「そうか」

 

 別に誰かを仲間外れにしようと思っているわけではないらしい。

 

「その時は、オルキスも一緒に連れてくるか」

「あいつは女王だからな。来年だったとしても、多忙なんじゃねぇかなぁ」

「……ん。でも、オルキスは絶対来る。逆が私だったらそうする」

「なら、そうなるな」

「……ん」

 

 オーキスが言うなら間違いはない。……しかし次あるとしたら来年になるのか。じゃあ俺の騎空団も出来ていて、仲間ももっと多くいるかもしれないな。だったらだったらで、その全員で光華を見にこよう。だが俺は賑やかなのよりこういう静かなのがいい。

 

 だから絶対にあいつらには会いたくない。

 

 とそんなことを思ったせいだろうか。

 

「はわぁ! 光華大会の前半が終わっちゃいましたよ!」

「ルリアがはしゃいでいっぱい食べるからじゃねぇかよぅ」

「ち、違います! ビィさんだってリンゴ飴を食べ歩いてたじゃないですか!」

「あ、あれはグランが屋台ある度に指差すから……」

 

 ……うわぁ。

 

 後ろの方からがやがやと騒がしいやり取りが聞こえてきた。聞き覚えのある声に振り向くと、思った通りの一団がある。“蒼穹"だ。

 

「あ、オーキスちゃん! ……あ」

 

 ルリアはオーキスに気づいて顔を綻ばせるが、俺とほぼ密着した状態と見て頬を染める。オーキスはそんなルリアを見てなにを思ったのか、膝を立てて身を乗り出すと俺の首に手を回してより身体を密着させてきた。

 

「……ルリアとイオは、お子様」

 

 そしてオーキスにしては艶然と微笑む。二人は彼女の言う通り顔を真っ赤にしていた。……なんでそこでグランも顔赤くしてんだか。

 

「……お、おい。アポロお前……」

 

 そういえばまだここに来て会ったことがなかったが、茶色いユカタヴィラを着たオイゲンがわなわなと震えてアポロを見つめている。

 

「……アルテミシアがそこにいるのかと思ったぜ。俺と似た仏頂面じゃなきゃそんなに似てたんだな……っ」

 

 かと思ったら涙ぐんでいた。いやお前の登場のせいで仏頂面に戻っちまったよ。

 

「……ふん」

 

 アポロはつまらなさそうに鼻を鳴らすと、これ見よがしに俺との距離を詰めた。ぴしりとオイゲンの身体が硬直する音が聞こえた気がする。

 

「……て、てめえ」

 

 こんな時でも睨まれるのはなぜか俺だ。

 

「あんたに文句を言われる筋合いはねぇな。なぁ、アポロ」

「ああ」

 

 わざとらしくアポロの腰に手を回してやった。

 

「……仲間外れはダメ」

 

 それに対抗するように、オーキスが俺に抱き着いたまま胡座を掻いている上に座った。

 

「わかってるよ」

 

 オーキスに笑みを返して、

 

「わかったら邪魔しないでくれ。折角の祭りなんだしな」

 

 ひらひらと空いている右手を振って一団に言った。

 

「てめえ……! 俺の目が黒い内は――っておいラカムなにしやがる!」

 

 オイゲンは睨みつけてどしどしとこっちに歩いてこようとしたのだが、それをラカムが羽交い絞めにして止めていた。

 

「いや流石に人の恋路に手ぇ出すのは良くねぇよ」

「俺はあいつの父親だぞ」

「でも煙たがられてるんじゃなかったっけ?」

「うっ……」

 

 ラカムが諭すように言い、金髪ツインテールの女性がキツい意見を述べることで言葉に詰まってしまう。

 

「そろそろ打ち上げも再開するよな。早く座った方がいいと思うぞ」

「あっ、そ、そうですよ。早くシェロカルテさんに取ってもらった場所に行かないと見れなくなっちゃいます!」

 

 俺の言葉にルリアが思い出したように言った。そうか、あいつのせいか。こいつらに遭遇しそうだとわかってて同じような場所にしやがったな? なにが狙いか知らねぇが、やってくれやがる。

 

「そうだアポロ。余ってるスシ食っていいぞ。オーキスは試食でもいっぱい食べてたしな」

「……ん。アポロにももっと食べて欲しい」

「そうか? なら貰うとしよう」

 

 オーキスの了承も無事取れたので、アポロは柔らかく微笑んで残り三貫のスシを摘まんでいく。

 

「……アポロお前……」

「今はやめておきましょう。これ以上は印象が良くないわ」

「……ああ、そうだな」

 

 オイゲンは彼女の表情を目にしてかがっくりと俯き、ロゼッタに諭されて光華を見るポイントにとぼとぼと歩いていった。流石に可哀想な気がしなくもない。だが温厚で知られる俺とはいえ三人だけの時間を邪魔されたとなれば手を出さないわけにはいかなくなる。そうなればあいつらと全面戦争になってしまうが、オーキスもロイドを置いてきているし勝負にならない可能性はあった。

 

「……やっと行ったか」

「……ん。これでゆっくりイチャイチャできる」

「さっきまでと変わらない気もするんだが?」

「……ならもっとオトナなことする?」

 

 そう尋ねるオーキスの口元には小さな笑みが浮かんでいる。……ロゼッタに悪影響を受けたせいだろうか。

 

「ルリアやイオに見られるかもしれないぞ、こんな外でとか」

「……別にいい。むしろ見せつける」

 

 オーキスはなぜこうなってしまったのだろう。

 

「わ、私は流石に恥ずかしいぞ?」

 

 おう、アポロの方がまともなことを言っている。

 

「……なら、アポロだけ見てればいい」

 

 オーキスは少しだけ不敵に笑って言った。加えて自分の顔を俺の顔に寄せてくる。

 

「そう言われれば私も引き下がれないな」

 

 ほら、アポロが挑発に乗っちゃったじゃん。

 

「二人共、いいから今は光華見ようぜ。折角来たんだしさ」

「……ん」

「ああ」

 

 とりあえず妙な話の流れは断ち切っておいて、後半の更に盛り上がっていく光華を三人水入らずで眺めていた。

 結局その後“蒼穹”の連中と会うことはなかったが、おそらく気を遣ってくれたのだろう。私情を抜きに祭りの客として邪魔するのは忍びないと思ってくれたらしい。相変わらずのお人好しっぷりだ。

 

 そのおかげで久し振りに二人とゆっくり過ごせたし、今回ばかりは感謝だな。

 

 一応、カタヌキの時の借りはなしにしといてやるか。


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