ISドライロット~薔薇の騎士の転生録~   作:ひきがやもとまち

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試験的に独立連載させてみた作品です。ダメだったら割り切る予定です。


序章

「・・・・・・そうだ、あの娘だ。ローザライン・フォン・クロイツェルといった。

 ローザと呼んでほしいと言っていたな・・・・・・」

 

 

 ――それが、その男の人生で発した最期の言葉となった。

 勿論、現実の人間は安っぽい三文ソリビジョンドラマのように簡単には死なない。最後の力を振り絞って末期の言葉を口にしたとはいえ、言い終えた次のシーンでいきなり事切れたりしないように形成されている。

 

 それでも、彼が死ぬ前に口から出した最後の言葉がこれだけであり、それから死亡が確認されるまで一言も意味ある単語を発しなかったのだから、死亡時刻がいつであろうと先の台詞が今際の際に残した彼にとっての遺言とされてしまうのは致し方ないこと。

 訂正するため墓の下から這い上がって来れない以上、死人に口なしで生き残った者たちの都合で好き勝手に言われまくる以外に彼が出来ることはもうなにもない。

 

 彼の死が確認されてから数十分後、この戦闘は終結された。

 

 

 遙かな昔、生まれ故郷である太陽系第三惑星のちっぽけな星から飛び出した人類は銀河系の深奥部へ向かって生活圏を拡大させながら戦争と平和と統合と分裂を飽くことなく繰り返し続け、やがて二つの大勢力と一つの中立国家が銀河の覇を賭けて二百五十年以上も星空の海を戦場に争い合うようになっていた。

 

 その長き戦いも、彼が死んだこの会戦を最期に終わりへと向かう。

 この会戦以降に行われた戦闘行為は純然たるテロであり、戦争とは呼べない代物のみ。

 地球教を名乗る復古主義の団体が散発的にゲリラ戦を仕掛けてきただけで、それらも最終的には根こそぎ殲滅させられ歴史の舞台に復活してくることは二度となかった。

 

 

 ――銀河をめぐる戦いは、こうして終結した。それが長期間の平和をもたらすものなのか、それとも次の戦いが始まるまでの短い小休止に過ぎぬのか、その答えを知る者は今はまだいない。未来を知ることができる神は、未来にしかいない。それが宇宙と世界の真実。

 

 

 ――が、この物語は銀河系の“その後”を語った伝説の延長にある歴史話ではない。

 遠い過去にまで遡って、あり得たかもしれないIFの歴史に介入する一人の男の活躍を描いた英雄譚である。

 

 その男、銀河をめぐる戦いの最後を締めくくった戦闘『シヴァ星域の会戦』で戦死した元自由惑星同盟軍中将にしてイゼルローン要塞防衛司令官、そして同盟軍最強の白兵戦部隊と呼ばれた『ローゼンリッター連隊』を率いる第十三代連隊長でもあった過去を持つ美丈夫『ワルター・フォン・シェーンコップ』は、本人も気づかぬうちに戦死しており、気づいたときには暗い暗い深くて冷たい穴の底に広がる世界に――――来ていなかった。

 

 

 

(・・・・・・?)

 

 彼はふと、耳元でやかましく泣きわめく赤ん坊の泣き声が聞こえてきたので薄目を開けて前を見た。

 白い部屋だった。病室のようでもあったが、看護兵を口説くために通い慣れた野戦病院の其れとは違って徹底的に除菌が成された、白衣の天使がよく似合いそうな清潔極まりない空間――俗に言う、『分娩室』とよく似た変わった部屋だった。

 少なくとも、自分には一生涯縁のなさそうな場所だったので、今すぐにしでも回れ右して出て行きたいところであったが、それは叶わぬ夢幻だった。

 

 ――なぜなら、身体が動かないから。

 拘束されてるわけでもないのに、どういう訳だか手足が重たく、動きが鈍い。まるで泥の中を手探りで進んでいるかのように・・・と表現したいところだったが、生憎と『火薬式の軽機銃を手に持って5キロの徒歩と三十メートルの水中歩行』を基礎訓練として課してきたローゼンリッター連隊の連隊長だったことのある自分にとっては泥の中を進むぐらい舗装された道を行くのと大差ないので表現として適切かどうかが判然としない。

 

(やれやれ、それだけ鍛えてやったのに今になって動かなくなるとは、恩知らずな肉体だな。少しは持ち主である俺を見習って殊勝さを身につけてほしいものだ)

 

 この状況下でそのような戯言を、心の中だけとは言え平然と吐ける人間もそう多くはあるまい。銀河中に悪名と勇名を轟かせたローゼンリッター連隊を率いる連隊長だからこそできる豪語であったとも言える。

 

 とは言え、現実は過酷であり勇名を轟かせた最強部隊の指揮官だろうと身体が動かないのでは心だけ不屈でも何もできない。ひとまずは見えている物から状況と現場を推測しようと、目の前に立つ中年男女の二人組から、その背後に見えるカレンダーらしき物へと視線を移して数を読み上げていく。

 

 相手の顔に隠れて後ろの1桁は見えなかったが、誤差の範囲だろうと割り切り数字を言葉には出せず、頭の中だけで数え上げていく。

 

 

(AD、200――――AD!?)

 

 思わず愕然とさせられた。

 ADと言えば、かつて地球で使われていた『西暦』と呼ばれる時代のアルファベットだ。

 北方連合国家と三大大陸合衆国による二大大国が熱核兵器を応報しあった『十三日戦争』と、それに続く長い戦乱と混乱の時代である『九〇年戦争』により記録がほとんど残されていないことで有名な時代に最後を迎えた時代の呼称でもある。

 

 ――では、自分は今、そんな時代にタイムスリップでもしてきたというのか? まるで映画かなにかの主人公みたいに!

 

 珍しく混乱してしまい、そんな愚にもつかない妄想を考えついてしまうほど彼は焦ったものだったが、後にその妄想が事実であったことを知ったときには平静さを取り戻していたため溜息一つ漏らすことなく肩をすくめるだけで事実を受け入れてしまうのだった。

 

 彼は生まれ変わっても尚、そういう男だったから・・・・・・。

 

 

 地球にある主権国家の一つ、『ドイツ共和国』の名士の家に生まれ直した彼は前世と同じくワルターと名付けられ、ドイツ貴族の末裔『ワルター・フォン・シェーンコップ』と名乗るようになる。

 

 彼は死んだはずの自分が地獄に落とされることもなく、タイムスリップして過去の地球上に生まれ変わったことを不思議に思いはしたが、別段それで自分の行動指針を変えてしまうほど殊勝な性格はしていなかったから、前世同様に遊びとスポーツと戦闘とを要領よく狡賢い手段でこなしつつ、同年代の少女たちとの青い話し合いを楽しみながら生きていた。

 

 彼は女好きではあったものの、少女好きな性格はしていなかったから、レディに対しては誠心誠意真心を込めて礼儀正しく紳士的に扱った。

 伊達に、部下の隊員たちにフェミニスト教育を施していたわけではないのだ。有言実行とまではいかないが、言ったことの八割ぐらいはやってのけるのが彼のポリシーである。妥協はできる限りしない。

 その結果、モテない男共から嫉まれる分にはモテる男に生んでもらえなかった両親でも恨んでもらうとして、実力行使に訴えてきた奴だけ徹底的に恥をかかせて口封じをしてから帰してやる。そんな日々が続いていたが、ある時。

 

 その平和で満たされた日々は突然に終わりを告げられることになる。

 テレビに映ったレポーターが慌てふためいて伝える驚愕のニュース内容、『世界中の政府コンピューターがハッキングされ、発射可能なミサイル数百発が日本国に向けて発射されてしまった。その中に核弾頭が搭載されたICBMが含まれているかは現時点では不明』

 

 流石のシェーンコップも、これには慌てた。

 もしやこれが十三日戦争の火蓋を切った熱核戦争の始まりだったのではないか? 二大大国が存在しない世界情勢だったため今しばらく後の時代に起きたことだとばかり思っていたのだが、途中で何かしらの歴史改変が行われていた可能性は捨てきれない。

 

 前世の上司とは違い、彼は政治家共に陰謀による歴史改正は可能だと考えているタイプの人材だ。奴等なら彼のように正しい歴史を伝え残すことによる大局的な利益よりも、目先にぶら下げられた美味しそうな人参に飛びつく方を選ぶに決まっているのだから、と。

 

 だが、幸運にもその予測は外れ、ミサイルは全てたった一機の超兵器によって撃墜されることになる。

 

 ――これがワルターの人生を大きく歪ませた事件。俗に『白騎士事件』と呼称された、ISが初めて世に出て世界を変えてしまった歴史的大事件の始まりだったことをニュースの始まりを見ていた時分の彼には知るよしもない。

 

 

 この事件の後から、超兵器IS――正式名称《インフィニット・ストラトス》を扱えるものが女だけであることから『女尊男卑』が台頭し、女性優遇、男性蔑視の性差別思想が世界中の国家を変質させてゆくようになる。

 その影響は、まだ幼くて大したこともできない少年ワルターの身にも降りかかってきた。

 

「どうもこうもない、くだらない話だ。我が自慢のバカ息子殿が、女尊男卑に媚びを売るため我が家の全財産を奪って献上してしまったのだよ。

 その上、女尊男卑与党を良く思わない男尊女卑原理主義者とやらの逮捕状まで持ち出してきおった。貢ぐ物がなくなった途端に今度は自分の番だと言うことさえ、あのバカ息子には理解できぬらしい。

 まったく・・・本当にどうしようもなく、くだらない息子の教育を失敗した愚かな老人の末路の話だよ、ワルター」

 

 そう言って今生での彼の祖父は、優しい笑顔を浮かべながら息子と違って聡明に育ってくれた孫の頭を軽く撫でる。

 祖母からの「これからどうするのですか?」という質問に対しても、祖父は小揺るぎもしない。

 

「なぁに、臆することはない。我々は日本国に亡命する」

「日本へ?」

「そうじゃ。あの国は今まで、外国からの移住者に厳しい審査と条件をつけていたが、この前のIS条約締結に伴い、大幅な法改正が行われる運びとなったと聞く。

 とは言え、法の内容を変更しただけで制度がすぐ現実に追いつけるというものでもない。今頃は現場の人間と議会で数値だけを基準に怒鳴り合う政治家共との間で混乱しておることだろう。その混乱に乗じれば存外簡単に許可が下りるかもしれんからの」

 

 そう言って笑った祖父の予言は的中する。

 この頃の日本は建設されたばかりのIS学園と、そこに入学してくる外国人留学生および、彼女たちの生活を支える娯楽施設や衣食の提供をもくろんだ外国資本と社員の家族などから要望が殺到しており、現場監督に派遣されてきた官僚育成大学での若手女性官僚たちは偉そうに指示するばかりでお荷物にしかなっていないという惨状にあったため、とても一人一人に細かいところまでチェックしていられる余裕はどこを探しても存在しなかった。

 

 

 こうしてワルターは、晴れて日本国への移民として日本国籍を与えられたわけだが、時代や状況がどう変わろうとも日本人が持つ『民族病偏執的な村社会』まで変えられるわけがない。

 

 女尊男卑の世であろうとなかろうと、日本国籍を取得しやすくなろうとなるまいと。

 シェーンコップは外国人であり、日本に生まれた時から済んでいる髪と目が黒くて肌が黄色い日本人から見れば『見た目が変な俺たちとは違う奴』でしかない事実に変わりなどないのだ。

 

 こうしてシェーンコップは、高校受験が可能となる歳までの間、絶え間ない差別と虐めと偏見の目に晒され続けたが、そもそもがローゼンリッター連隊自体、帝国からの亡命者子弟で構成された爪弾き物部隊だったため大した痛痒も感じなかったのは良いことなのか悪いことなのか判断が難しい。

 

 確かなのは、高校受験を間近に控えたその年の初めに祖父が病死してしまったと言うことと、移民であり日本人ではないから制度の保証外な部分が多すぎるワルターに入学可能な日本の高校がほとんどなくなってしまったと言う二つの事実だけだけだった。

 

「やれやれ、まさか俺が提督と同じ境遇に立たされる嵌めに陥ろうとはな。あの頃は考えもしなかった事態だ。やはり生きていると退屈しなくて済むというのは真実だったようだな」

 

 そう言って肩をすくめながら微苦笑を浮かべたシェーンコップは、こういうとき真っ先に頼るべき相手『役所』を訪問して相談した。

 如何に普段から助けてくれていなかろうとも、子供であり未成年でしかない今のシェーンコップにできることなどほとんどない。よしんば在ったとしても将来を生け贄の犠牲に捧げて今ささやかすぎる小金を手に入れられる・・・その程度の碌でもない境遇だけだろうという事実を、彼は前世の知識でよく知っていた。

 

 伊達に公務員はやっていなかったのだ。たとえ軍人だろうと、国家の軍隊に所属している以上は公務員であり、階級に伴って相応の法律知識を教え込まれる受講制度も存在していた。

 外国人であっても、法律に興味のない一般の日本人よりかは国と制度と法律について詳しい部類に入れるのである。

 

 

 ――そしてここで、彼にとって第二の人生ターニングポイントが訪れた。

 

 係員が彼の話を聞き、いくつかの部署に連絡した後、改めてシェーンコップの身体検査をさせてほしいと申し出てきたのだ。

 

「身体検査・・・ですか?」

「ええ。実は最近、法改正が行われていて一定の年齢に達した子供に限り簡単な検査を義務づけることになったのよ。大した時間や手間はかけさせないから、お願いできなかしら?

 ああ、一応政府から無茶を聞いてくれるお礼としてジュースとかお菓子が配布されるんだけど・・・」

 

 シェーンコップとしては元公務員として色々と聞いて確かめたいことがあったが、検査内容を聞く限り悪用できそうなものは一つもない。ここは聞いておいた方が、少なくとも損はないだろうと割り切り了承する旨を相手に伝えた。

 

 係員が若い女性で、豊満な肢体の持ち主だったことはこの場合関係ない。あくまで彼なりのお礼である。やはり久しぶりに美女を見ると目の保養になっていい・・・。

 

 

 こうしてシェーンコップは、世界で二番目に発見されたIS適正を持つ男の子としてIS学園に入学する運びとなるのだが。

 

 それはまた、別のときに語る話としておこう・・・・・・。


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