ISドライロット~薔薇の騎士の転生録~ 作:ひきがやもとまち
本当は14話から完全に書き直すつもりだったんですけど上手くいかず、時間も経ちすぎてしまっているため、中途半端と自覚しながらも、やむを得ず投稿してしまいました…。
一度気になり始めると他が手に付かなくなりやすい性癖は、多分どうにかした方がいいんでしょうな…。
このため、一度削除した14話を前話として再投稿しなおしてあり、その続きとして今話の最新話となっております。
前の話を未読な方は、一話前の話に戻って読み終えてから、今話の内容をお読みくださいませ。
シャルル・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒがIS学園に転校してきたこの時期に、織斑一夏に近しい存在の中で最も不遇を囲っていたのは、おそらく篠ノ之箒であっただろう。
人が誰でも心の中に神聖な規範を持っているとすれば、篠ノ之箒の場合、それは子供の頃に幼なじみの少年と過ごした過去の思い出のことだった。
それ故に彼女は、過去の宮殿を現実の現在に再現しようと様々な工作を実行し、それが思うように成果を上げられぬ日々に苦悩するのが常態化していたところに、新たなライバルとなり得る存在が「自分には持ち得ない優位性」を持って自分たちの中に割って入ってきたことから焦りを深めるようになっていたである。
「・・・・・・どういうことだ?」
「ん?」
箒は不機嫌さを隠そうともせず、傍らに座ってのほほんと笑顔を浮かべている幼なじみの思い人相手に言外の非難を込めて問いただし、帰ってきた返答に歯がみする事になる。
「どうもこうも、天気がいいから屋上で食べるって話だっただろ? せっかくの昼飯だし、大勢で食った方がうまいし、それにシャルルは転校してきたばっかで右も左も分からないだろうしな」
「そ、それはそうだが・・・・・・しかし・・・」
完全に正しい相手からの返答内容を聞いて、怒るに怒れなくなった彼女は振り上げかかった拳をソッと下ろして呻き声を上げながら、なんとか怒りを体内に抑え込んだものの、まだ納得するまでには至らなかったのか、持参してきた手作り弁当を抱えたまま食べてほしい相手に渡す事が出来ず視線を左右にさまよわせながら、あらぬ方を見る事しかできなくなっているようだった。
友人に誘われ同席していたシェーンコップとしては、内心で皮肉っぽい苦笑を浮かべざるを得ない。
箒は、さまざまな意味で視野が未だ矮小な年齢であり、自分と同年齢の他の関係者が思い人からどのように遇される立場にあるかまで思い及ばないまま今回のアプローチを行ってしまったらしい事情を自らの行動によって自白したに等しかったからである。
それは自分が認知していない実娘が、初めて正式に対面しに来たときの状況と酷似していた。ラウラだけでなく、今生において友人らしい存在になりつつある少年の関係者までこれとは、つくづく因果は巡るものだと思わざるを得ない。
・・・もっとも、シェーンコップの本心を言えば、十代少年少女たちによる青臭い恋愛ゴッコを観劇する趣味など持ち合わせていなかったから、露骨な幼なじみからのアピールに気づけないクラスメイトからの誘いを受けるような無粋は避けたいところであったのだが、“監視役から脅迫されている立場”としては選択肢を選べる自由などない。
彼にとって、綺麗な女の子がトマホークを振りかざして戦う姿を見たくないのと同様に、たとえ敵国からの亡命者やスパイであっても美しい少女と交わした食事の約束を破棄するような甲斐性なしに成り下がった自分の姿も、見たくない図だと感じる点では等価値だったから。
そして、そんな光景を目にしていたシェーンコップ以外の関係者の一人である凰鈴音は、ライバルの醜態に内心でも現実世界の肉体面においても「ニヤリ」とした笑みを浮かべさせ、すぐにそれを引っ込めると別の感情を表情の下から浮上させ直すと、おもむろに持参してきたプラスチック製の容器を持ちだし。
「はい一夏。アンタの分」
そう言って、放るように投げ渡すことで「異性として意識していない自分」を表現しつつ、国家代表候補としての絶妙なコントロールによって中身を崩す事なく、ライバルに先んじて手作り弁当を渡すことに成功する。
正直、シェーンコップが相席しているのには思うところが大いにある彼女だったが、だからといってライバルに思い人へとアプローチする機会を独占させるわけにはいかない。
鈴音は、意識的にシェーンコップの存在を視界の外へと閉め出して居ないものとして扱うと、思い人である幼なじみだけに会話対象を限定させると割り切っていた。。
「おお、酢豚だ!」
「そ。今朝作ったのよ。アンタ前に食べたいって言ってたでしょ」
そうした上で、酢豚だけが満載されたタッパーだけを押しつけ、さも自分が食べるために買ってきただけだという風を装って白米を頬張りそっぽを向く凰鈴音。
女性心理のプライドの高さというものを深く理解しているシェーンコップの目には、言外に『ねだれ』と要求している鈴音の本音は一目瞭然であったが、あいにくと彼女の思い人は一夏であってシェーンコップではない。シェーンコップに解ってもらえたところで鈴音には何のメリットも嬉しさも沸いてくることはない。むしろ真相を知れば怒りを感じてしまうのが彼女だろう。
だが、この場に同席しているのは何も、織斑一夏に好意を抱く彼の関係者ばかりではなかった。
彼の関係者の一人でありながら、元上司と後継者にも似た『自分から何もしなくても美人の方からやってくる奇特な体質』の友人らしきものに成りつつあるだけの自分自身という異物が混ざることを許されている時点で、一夏ではなく自分の関係者にも同席する権利と資格が与えられていても何ら不思議ではなかったのだから。
「コホン。―――あの、シェーンコップさん。わたくしも今朝は、たまたま早く目が覚めてしまいましたので、こういうものを用意してみたのですけど・・・よろしければお一つどうでしょうか・・・?」
「ほう? 小生ごときに恐縮ですな」
怖ず怖ずといった調子で、セシリア・オルコットは頬を朱色に紅潮させながら差し出したバスケットの蓋を開くと、綺麗に並んだサンドイッチの列という中身を示す。
一夏とは異なり、同年代でありながら大人の貫禄を感じさせるシェーンコップを異性として意識する気持ちが日に日に強くなっていく己を自覚しているセシリアは、普段は変わることなく傲慢さを交えた言動を常としていたが、シェーンコップに対するときだけは目下の姿勢で接することが多くなってきていた。
「う、うわぁ・・・・・・」
もっとも、愛情の強さと結果とは必ずしもイコールではない。
セシリアの作ったサンドイッチを見せてきている姿を目にした瞬間に一夏が表情と声を思わず歪ませて呟かれた発言内容が、その事実を百の言葉よりも雄弁に表していたと言える。
彼はセシリアがサンドイッチを作る際に、味見役を安請け合いしてしまった直近の過去を持っており、相手の料理スキルがお世辞にも上手いとは言えないことを実体験として知ってはいたものの、自身が過去に苦労した経験と、相手の気持ちを無碍にしたくない拘りによって真相を告げられぬまま今日まで来てしまっていた事情を有してもいた。
「・・・ふぅ~ん」
そしてシェーンコップは、それらの真相を知らずとも、彼らの言動と大まかな性格さえ把握しておくだけで大方の予測はついてしまえる。
それが出来るだけの圧倒的な人生経験の差が、彼と彼らとの間には広がっていたのだ。
「だ、そうだ坊や。どうかね? 一つご相伴にあずからせてもらったら」
「え、ええっ!? な、なんで俺が!」
「ちょ、ちょっとシェーンコップさん!? わたくしは何も織斑さんのために作ったのでは――」
予想外の反応に慌てふためき色めき出し、青い反応を過剰に返してくる二人のわかりやすい少年少女を前にしても、そっち方面にかけてはイゼルローン要塞で1,2を争うと言われるたび「自分の天下は揺るがない」と豪語して返していた素行不良軍人の前世を持つ男には感銘を与えるほどのものでは全くない。
「スブタというのだろう? その容器一杯に敷き詰められている食べ物は。いや、あまりに辛すぎる見た目が気になってしまってしまい、食事に集中できそうもないのさ。出来れば見栄えも味も良さそうな甘味でスッキリした姿を見せてほしいのだがね、坊や」
「ぐ・・・シェーンコップ、てめぇ・・・」
呪詛のような呻き声を発しながらも、それ以上の反論も異論も反撃さえも封じ込められて、セシリアから睨むような目付きで「さっさと食え」と無言のまま前座を片付けて本命に食べてもらいたい乙女心で脅迫されてしまった織斑一夏は退路を断たれ、泣く泣く前日と同じ苦行の味を満喫する羽目になる。
(く、クソぅ・・・シャルルの時もそうだったけど、何だって欧米人の美男子って奴らは、ああもキザったらしい台詞を恥ずかしげもなくイヤミ臭さもなしに平然と言えることが出来るんだよ! 俺だけ割を食っちまって堪ったもんじゃない・・・)
先だって披露されたシャルル・デュノアによる女子生徒たちからの華麗なスルー話術を思い出し、同じ男性IS操縦者の一人でありながら自分だけができずにいる巧みな話術という特殊技能のなさに内心では落涙しながら、表面上は笑顔を保ったままサンドイッチを1個だけ頬張り、最後まで美味そうな“作り笑顔”を崩さないまま食べ終わった一夏が「できれば不味いとか言いたくはない」という気持ちの問題によって、どう言い繕うべきかと言葉のチョイスを選んでいた矢先。
「――と、ことほど左様に苦い作り笑顔で取り繕わなければいけなくなる程度には、上手い具合に作れてはいないようだ。まだまだ修行が足りませんな、オルコット嬢?」
「え・・・・・・」
「ぶっ!?」
シェーンコップの場をぶち壊すような一言に、思わず全ての努力を無駄にされた一夏が咽り、セシリアは傷ついたような表情で動きを止め、事の部外者でしかない鈴音と箒たちでさえ遠慮や配慮というものが全く感じられない世界で二番目の男性IS操縦者の指摘を聞かされ唖然としたまま凍り付き、鈴音に至っては手に持っていた箸をポロリと落としてしまったことに気づくことすらできていない。
「見た目は良くできているのですがな、中身が伴っていない。見栄えだけ綺麗に整えながら、内実の伴っていない虚飾は、いずれ内側まで腐らせ破滅を招く遠因となる類いのものだ。
小官としては見目麗しい少女方にそうなってほしくはありませんので、心を鬼にして遠慮なく指摘させていただいた」
平然とのたまい、右手に握って目の高さまで持ち上げられた「本と同じように見た目が異様にいい」が「作った当人さえ知らない調味料が多分に入ったサンドイッチ」を細めた瞳で見つめながら、その有り様に遠い未来の果てに生まれて母国を滅ぼす『民主国家を売り渡した男』詭弁と巧言令色と保身の天才を思い起こし、鼻で笑うと齧り付いて一口で飲み下す。
「まっ、受け取り方は各人でご自由に。
俺がどう思ってもらいたくていった言葉だろうと、お前さんらには自由に解釈する権利がある。
俺の言葉を聞いて、お前さんらがどう思うかこそ、俺の決めることではないからな」
「・・・それは、わざわざ作ってくれたヤツ相手に優しくねぇよ」
相手の挙動に如何なる意味が込められていたのか、現在に生きて未来を知らない『気遣いの文化』を尊重している現代日本人の織斑一夏は、相手の考えに多少の反感を感じて苦言を呈す。
自分自身が、全寮制の国立高校で衣食住を世話してくれるIS学園に入学するまで、自分が姉の分まで料理を作って家事を行っていた彼にとって、誰かが作ってくれるというだけでも感無量であり、「文句があるなら自分でやってみろ」という気持ちになってしまう性質の持ち主だったからだ。
だが一方で、「多少の」反感という微妙な苦言を呈するだけになってしまったのは、結局のところ嘘でしかないという自覚があるからでもあった。
彼自身、どちらが正しい対応なのか判断できていないまま行動している、流されやすいところが彼にはあり、それが対応をやや曖昧なものにしてしまっていたのだった。
「そうかもしれん。だが、解っていて言わないでやるのも優しくはないだろうな。
“言った本人には優しい”とは思うがね」
『・・・・・・・・・』
シェーンコップの言葉に、少年少女たちは一様に黙り込くと、気まずそうに沈黙する。
痛いところを突かれてしまった・・・そう感じざるを得ない事情が、この場に集っていた全員にはある。
特に、表面的な『昔通りの再現』を求めてしまっている篠ノ之箒は、ストレートに心を直撃されてしまっていたが、残る一人にとってはそれどころではなかった。
「――どうやら余計な諫言をしてしまったようですな。貴重な会食を邪魔する気はなかったのだが・・・邪魔者は馬に蹴られて殺される前に退散した方が良さそうだ」
そう言って立ち上がると、自分の“もう一人の反対側に座る少女”の肩をポンと叩くと、癖のある意味深な笑みを浮かべながら短く簡明に――そして事情を知るものにだけ伝わる符牒を使ってアドバイスを送ると全員に対して背を向けた。
「そら、“坊や”。今回の主賓が出るべき出番がきたようだ。期待に応えられるよう頑張るんだな」
「―――っ、ありがとうシェーンコップくん。努力してみるよ・・・」
引き攣り気味な笑みを、唇の端に浮かべ直しながら会話に割って入るタイミングを計っていたシャルル・デュノアという名を持つ、「実在しない少年IS操縦者」を演じることで相手から信頼を得なければいけない少女シャルロット・デュノアは、気を取り直して彼らの輪の中の一員に入るため積極的に一夏へ話しかけるよう鋭意努力をし始めていく。
正直に言って、ただでさえ慣れていない企業スパイ役に加えて、もっと自分には慣れがなければ適正さえあるとは思えない余計なことを言わないよう監視する役目は彼女の心を疲弊させており、それらと二足の草鞋でニコヤカに会話の中へと入っていくのは気遣い上手な彼女をして動きが阻害されていたからだった。
「ええと・・・本当に僕なんかが同席していいのかな? シェーンコップくんほど上手くしゃべれる自信はないんだけど・・・」
「い、いやいや、シャルルも男子同士で仲良くしようぜ。色々不便もあるだろうけど、協力してやっていこう。分からないことあったら聞いてくれよ。IS以外では答えられると思うからさ」
「――ありがとう。一夏って優しいね」
「い、いや、まあ、これからクラスメイトになるんだし・・・ついでだよ、ついで。アハハ、ハ・・・・・・」
美少女が変装した、同じ同性の美少年に笑顔を向けられ、そこに下心が何もないと信じ込んでいる純情少年で経験不足な未熟者でしかない一夏が乾いた誤魔化し笑いを響かせるのを背中で聞いたシェーンコップは前世の上官に対する想いも込めて、彼が戻りたがっていた遠い昔の現代にも同じように「覚悟が不徹底」な目的のための演出が下手な少女に激励の言葉を小さく小さく呟き捨てるのだった。
「もともと同性の気安さで油断するのを期待しての男装だったのだからな。せいぜい愛想良く手でも振ってやることさ」
皮肉な表情で、皮肉な言い方を用いた皮肉な語調で皮肉を呟き捨てた直後、ふと今の彼らと似たような場面で、元僚友が言っていた言葉を思いだすと、ついでのようにこう付け加え、
「――もっとも、俺にやられていたならば、独身主義を放棄しようとまでは思えそうにもないだろうが、その点では良い人選だったと評価すべきか」
そして今度こそ、それ以上は何も言わずに去って行く。
シャルロット・デュノアが演じるシャルル・デュノアという少年にとって、生み出されてから最も長い一日は、まだ半分が終わったばかりだった―――。
つづく