ISドライロット~薔薇の騎士の転生録~ 作:ひきがやもとまち
実は次の話を原作のどの部分にするかで迷いまして……一気にシャルロットの家の事情とかに飛んでも良かったのですが、シェーンコップISということもあって変則的にこうしてみた次第です。
「かつて人類社会は地球という一天体のみで成立していた。
現在は地球と他の少数の天体によって成立している。
将来は地球を一部分とする多数の天体によって成立するであろう。
これは別に予言ではない。時期を未来に設定しただけの、単なる規定事実に過ぎない」
地球統一政府の第5代宇宙省長官カーロス・シルヴァが、この発言を冥王星探査団に当たって演説したのは西暦2180年のことだったと記録は語る。
当時の人々の認識として、シルヴァは有能な実務家として知られていたが哲学的な思索や独創的表現力には乏しいと評されていた人物であり、この時代人にとっての常識を述べていただけだったと認識されていた。
だが、この時代の人々にとって常識でしかなかった認識が現実となるのは、シルヴァの演説から7世紀近くも経過した後のことだった。
そして、地球から他の天体へと政治的中枢を移すという常識の具現化のため数億リットルもの同胞の血を飲み干さねばならなかった時代より8世紀近くが過ぎた頃。
人類社会を二分して150年以上もの永きにわたる覇権争いを繰り広げていた、二大政治的中枢の片割れである銀河帝国の人々にとって、【刀】と【剣術】というものへの認識は、このように表現される時代となっていた。
『剣が実戦用の武器として意味を持っていたのは、人類がまだ地球に閉じ込められていた時代、西暦の19世紀頃までらしい。
今から1700年も前である。
それ以前の東洋のある国では剣術に様々な流儀が発生し、互いに極意を極めるべく競ったという。これは他の地域では見られない特色だ』
そのように過去の地球の「ニホン」という国の歴史を評したのは、後に銀河系を統一した人類初の皇帝『ラインハルト・フォン・ローエングラム一世』となる若者が更に若く、まだ少年としか呼ばれることの無かった時分の話である。
この頃のラインハルトは、まだローエングラム伯爵家の家督を継ぐ事を許されておらず、『ミューゼル』という下級貴族の姓を使い続けており、階級に至っては『少佐』に過ぎなかった政治的に無力な自分が姉アンネローゼのため何か役立てる事はないか?と考えた末に、宮廷内で孤立している姉にとって数少ない友人であるシャフハウゼン子爵夫人の夫を窮地から救うため、決闘の代理人を申し出ることになる。
その時に彼が過去の記録を調べ、『それらの各流派の極意の中に実戦の必殺剣があるのではないか?』と思索したのは帝国歴483年のことである。
この歴史に残らぬ細やかな遙か未来の事件より、1600年近くも昔と思しき西暦21世紀頃の、人類が地球に閉じ込められていた時代。
熱核戦争によって多くの記録が消失したとされる社会の中で、東洋のある島国で剣術の流派の一つを熱心に学び、近い未来に姉への想いから振るうことになる一人の少年がいた。
名を、『織斑一夏』という。
無論、たった一つの類似点のみを根拠として一夏が現代のラインハルト・フォン・ローエングラムになる未来を予想するのは早計に過ぎるだろう。
だが、人類社会の発展と成長に貢献を果たした偉人や英雄のほとんどが、極めて個人的な動機に端を発して社会全体を改革するまでに至ったのも歴史が証明する事実である。
後にラインハルトは、終生のライバルと称されるヤン・ウェンリーと生涯で一度きりの会見で、『人それぞれの正義と真実』について黒髪の魔術師風にアンチ・テーゼを述べられた際、彼は笑いながらこう言っている。
「だとしたら、私の手は卿よりもさらに短い。私は真理など必要としなかった。
自分の望むところのものを自由にする力だけが必要だった。逆に言えば、嫌いなヤツの命令をきかずに済むだけの力がな」
21世紀という現代を生きる織斑一夏も、ラインハルト・フォン・ミューゼルと名乗っていた下級貴族出身の若者も、自らの未来を全て予知してはいない・・・・・・。
「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」
「そ、そうなのか? 一応わかっているつもりだったんだが・・・・・・」
土曜日午後のISアリーナ内の一画で、シャルルの優しく指導する声音と、一夏の困惑した声とが響いていた。
シャルル・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒがIS学園に転校してきてから五日が経過している。
IS学園では土曜日の午後を自由時間として指定していたが、同時にアリーナを全面開放する日にも指定していたため、ほとんどの生徒は午後の休みを自主的に返上して訓練に励むことで、国民の血税を無駄にしていないことをIS企業や有権者たちにアピールするのに貢献もしていた。
「うーん、知識として知っているだけって感じかな。さっき僕と戦ったときもほとんど間合いを詰められなかったよね?」
「うっ・・・・・・、確かに。『イグニッション・ブースト』も読まれてたしな・・・・・・」
「一夏のISは近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないと思うよ?
特に一夏の瞬時加速って直線的だから、反応できなくても軌道予測で攻撃できちゃうからね」
「直線的か・・・・・・うーん」
同性だと思い込まされているシャルルの説明を聞きながら、一夏は幾度となく肯きを返しながら、そのたび納得していく自分を実感させられていた。
というのも、彼に今までコーチとしてIS操縦の指導を行っていた者たち――篠ノ之箒、凰鈴音、セシリア・オルコット――この三人の少女たちはフィーリングで教える部分が強すぎてしまい、他人を指導する適正には欠けていたのが主な原因である。
現代風の表現を用いるならば、『選手として優秀な者が、必ずしもコーチとして優秀とは限らない』という言葉が該当する状況になるのだろう。
ただ、より公平を期すれば先のコーチたち三人には『教え方が下手な理由』があり、シャルルの側には『教え方が上手くなれる事情』があったことも関係していたかもしれない。
鈴とセシリアは家庭内の事情から、母国内で己自身の地位向上を最優先せざるを得ない立場にあり、篠ノ之箒は実姉である篠ノ之束がIS開発者本人であることが指導する側にも偏見を持たれやすい理由になってしまっていた。
彼女たちに対してシャルルには――――シャルロット・デュノアには、ISの開発と販売を生業としている世界第三位の企業が総力をあげ、組織存続策の一環として英才教育を施してもらったという、教師には恵まれた環境が背景として存在していた。
彼女自身が、会社の存続のため父親に利用されるしかない己の生まれの不幸を過剰に意識しすぎる心理になっていたため気付くことはなかったものの、自らが持つIS学園で過ごすために有効な性能は間違いなく父親に与えられたものであり、そのためには相応の投資をおこなってくれてはいた。
「ああ、そう言えばシェーンコップの奴に負けたときにも、同じような部分を逆用されたのが敗因だった気がするな」
「・・・・・・シェーンコップ君が? 一夏は彼と戦って負けたことがあるの?」
「おう。公式の試合扱いじゃなかったから、放送とかはされてないみたいだけどな。
あの時は気付かなかったけど、後で試合映像見直したら、イグニッション・ブーストで突っ込んでいく白式の軌道を少しずつ横にズラされていて、その事に気づけなかった俺が自分の位置を読み間違えたのが大きな敗因の一つになっていたって、千冬姉から注意されたのを覚えてる」
「ふ~ん・・・」
相手の少年が語る、世界で『三人だけの男性IS操縦者』その内の一人の名を聞くと、どうしてもシャルロットの口調と表情には、やや不機嫌さを混ざらずにはいられない。
別に彼がどうこうという訳ではないのだが、どうにも彼と出会ってから自分の運勢が、今までより更に悪化したような気になってしまって仕方がないのである。
何というか、たとえ悪魔の群れの中に突入していったとしても、被害を受けるのは周囲の人間たちだけで彼自身は平然としたまま、魔女たちを周囲に侍らせながらソファで踏ん反り返って、モテない男たちの不運に同情してやる結果に終わるだけのような気までする・・・・・・そんな印象があるのだ。あの不敵すぎる美丈夫の少年IS操縦者には。
――余談だが、今日この場にシェーンコップは来ていない。
もともと仕事だの公務だの学業だののために、休日を自主返上して学生としての本分を守りたがるほどの生真面目さなど、チリほども持ち合わせていたことが生涯の中で一秒もなかった男である。せっかくの休みを訓練なんぞで潰す奴だとは誰も思ったことがない。
尚、IS飛行時間は自分とほぼ同等なはずの一夏から誘ってはみたのだが、
「訓練をしすぎると、かえって実戦の勘は鈍るものさ。坊や」
「そーか」
一夏でさえ、「我ながら疑わしげな口調で言ってしまった」と後日になってから憮然として表する態度で接せられている『IS学園で一人だけ』な一夏以外の男性IS操縦者。
「――一夏の『白式』って後付武装がないんだよね?」
イヤな記憶を頭から振り払いたい衝動に駆られたシャルロットが、実際に頭を振りながら話題を転換するように口に出したのは、一夏の専用機の特殊性について『自分の任務』とも関わってくる部分についてであった。
「ああ。何回か調べてもらったんだけど、拡張領域が空いてないらしい。だからインストールは無理だって言われた」
「たぶんだけど、それってワンオフ・アビリティーの方に容量を使っているからだよ」
「ワンオフ・アビリティーっていうと・・・・・・えーと、なんだっけ?」
「言葉通り、唯一仕様の特殊才能だよ。各ISが操縦者と最高状態の相性になったときに自然発生する能力のこと」
淀みない口調でスラスラと説明する彼女に一夏は感心しきりだったが、当のシャルロット自身は内心で、『狙い通りの話題』に持っていけたことに安堵の溜息を吐いていたのが実情だったが・・・・・・これも『与えられた任務』である。
(・・・・・・あんまり気乗りしないし、僕の得意分野でも全くないんだけれど・・・)
心の中で密かに溜息を吐きながら表面には出すことなく、シャルロットは極めて自然な形で『白式の特殊性についての情報』を得ることが出来そうな場面で、さりげなく話題を切り出す。
「でも普通は、第二形態から発現するものだし、それでも発現しない機体の方が圧倒的に多いから、それ以外の特殊能力を複数の人間が使えるようにしたのが第三世代IS。オルコットさんのブルー・ディアーズと凰さんの衝撃砲がそうだよ」
「なるほど。それで、白式の唯一仕様ってやっぱり『零落白夜』なのか?」
「白式は第一形態なのにアビリティーがあるっていうだけで、ものすごい異常事態だよ。前例がまったくないからね。
しかも、その能力って織斑先生の――初代『ブリュンヒルデ』が使っていたISと同じだよね?」
それこそシャルロットの父親が、娘に英才教育を施すため多額の予算を投じたプロジェクトの目的であり、実行役である実の娘に与えた任務の本命でもあったのだ。少なくともシャルロット自身は、そう聞かされて本国から送り出されている。
IS世界大会『モンド・グロッソ』ただ一人だけの優勝者にして、世界最強と名高きIS操縦者ブリュンヒルデが使っていた愛機と同じ性能を持つワンオフ・アビリティー・・・・・・その秘密の全てとまではいかずとも、特殊機能の一端だけでも知ることが叶えばライバル国に後れをとっている第三世代の開発技術競争で勝ちの芽が出てくる―――そう踏んだからこそデュノア社の重役たちも、素人同然の社長令嬢を短期育成するため残り少ない社の予算を大幅に割くことを納得したのである。
シャルロット自身は、仮に白式のデータもしくは現物を盗み出せたとしても、そう上手く事が運んでくれるとは思えない心境になってはいたものの。
(・・・・・・まぁ、いいか。どうせ失敗して困るのは“あの人”で、倒産して潰れるのも“あの人たち”の会社だ。
お母さんに迷惑がかかることがないんだったら、別にいい・・・・・・)
心の中で冷たく突き放す自分の声を聞きながら、シャルロットは表面上の外面として被っていたシャルル・デュノアの優しげな微笑みは微動だにせず、まるで笑うことも泣くことも損失してしまったかのような、鉄の微笑みを顔面にへばり付かせたままの姿で一夏との対話を続けさせる演技を継続していく――。
「まあ、姉弟だからとか、そんなもんじゃないのか?」
「ううん、姉弟だからってだけが理由にならないと思う。さっきも言ったけど、ISと操縦者の相性が重要だから、いくら再現しようとしても意図的にできるものじゃないんだ」
「そっか。でもまあ、今は考えても仕方ないだろうし、そのことは置いておこうぜ」
「――あ、うん。それもそうだね」
一夏にアッサリと躱され、せっかく得たと思った好機にろくな情報も聞き出すことができなかったことで肩すかしを食らわされたような気分になるシャルロットだったが、
(・・・・・・まぁ、いっか。別にどうでも)
そう思い、自分自身の中でも意外なほどアッサリと割り切ると、シャルロットは純粋に一夏へのIS指導へと回帰する道を自然に選んでいた。
今までシェーンコップがいた場所で、望んだ話題に持って行くことが上手くゆかないことに歯がゆく思い続けてきた問題だったはずなのだが、いざ実行できる段になると急激に意欲が低下する自分自身を彼女は実感せざるを得なかった。
元より自分が欲しがっている情報ではないことを、今更ながらに思い出してしまって、やる気が減退するのを押さえられない。
自分が望んでいるのは、素性を偽ってまで断行した計画の成功なのか失敗なのかシャルロットには最近よく分からなくなってきていた。
その点で今の彼女は、部下たちの生活を人質に取られて幼帝エルウィン・ヨーゼフの誘拐計画と亡命に参加させられた元銀河帝国軍レオポルド・シューマッハ大佐と近い心境になっていたかもしれない。
だが、彼女と大佐との歴然とした差も存在してはいた。
シューマッハ大佐は、自らが参加する計画に成功の可能性も意義も見いだせない暴挙だとしか思うことができなかったが、共犯者に善良な気質をもつランズベルク伯アルフレットがいた。
現実感覚と乱世を生き抜く才覚という点では、とかく問題点の目立った人物であったのは事実だが、もともと楽観主義にはなりえない性格で、悲観的材料が大杯を為しているような計画の中にあっては、騎士道ロマンチシズムと自らの行為の正義を信じて疑わないランズベルク伯の存在は、一服の清涼剤になってくれてはいたのだ。
・・・たとえそれが、一時の現実逃避でしかなかったしても、逃れられない計画ならば気分転換になる相手がいてくれるだけでも大きく異なる。
だが、シャルロットには誰もいなかった。
彼女は只一人、機密を盗み出す任務を与えられ、遠い異国の地まで父親の組織を存続させるため名と性別を偽って入国し、一人スパイ活動にいそしんでいる。
その孤独が、彼と彼女の決定的な差であった。
能力ではなく出自でもなく、ただ『仲間』がいるか、『一人だけ』か。
それがどれほど人の心理に大きな影響を与えるものなのか、遠き未来の覇王が『親友』を失った後の姿をシャルロットの父親に見せる術があったならば、彼女の現在は今少しマシになっていたかもしれない・・・・・・
「じゃあ、射撃武器の練習をしてみようか――」
そう言ってシャルロットが、一夏に『使用許諾』した五五口径アサルトライフルを手渡し、本来は使用できないはずの銃器を軽火器だけでも撃てるよう調整してやった直後のこと。
――急にアリーナ内がざわめき初め、小さな騒ぎ声がアリーナ入り口から聞こえてくるものであることを察したシャルロットと一夏は同時にそちらの方を向き、そして同時に僅かながら息を詰める。
「ねえ、ちょっとアレ・・・・・・」
「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」
「まだ本国でのトライアル段階だって聞いたけど・・・」
周囲にいた他の女生徒たちが囁き交わす声が聞こえてくる。
そこに姿を現していたのは、シャルロットと同時期に転校してきたドイツの代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。
漆黒の眼帯と漆黒のISを展開し終えた姿で真っ直ぐ一夏を睨み据え、戦闘状態にシフトしてはいないものの戦闘開始寸前の状態にはしてある現状は、平和的解決と無縁な己の立場を言葉より雄弁に主張しているようですらあった。
「おい」
「・・・・・・なんだよ」
距離が離れているためか、オープンチャンネルによる通話機能でラウラが一夏に話しかけてきた。
人間の歩幅に換算すれば五十歩ほど開けて向かい合う一夏とラウラは、声を届け合うのも肉声では困難を極める距離にはあったが・・・・・・大空を飛び交う高機動兵器ISにとっては一瞬にして間合いを詰められてしまえる短距離でもある。
双方供に油断なく相手を見据えながらも、現時点では会話が交わされる。
「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」
「イヤだ。理由がねえよ」
「貴様にはなくとも私にはある」
にべもなく切り捨てようとする一夏に対し、同じ程にはにべなく一夏からの拒絶を却下するラウラ。
どちらも頑なで硬質な声音と表情で言い合う二人には、互いに妥協の意思がないのは明白すぎるほどで、どちらかが退きでもしないことには激発する以外の結末が訪れそうもないのもまた明らかすぎる状況でもあった。
「貴様がいなければ教官が、大会二連覇の偉業をなしえたであろうことは容易に想像できる。だから私は貴様を――貴様の存在を認めない」
・・・・・・やはり、その件が理由か・・・・・・。
一夏は相手の発言内容を聞かされ、自分にとってもイヤな記憶を思い出しながら、相手が自分に向かって怒りを抱く理由に多少ながらも共感を感じさせられていた。
もともと相手の地位身分と所属国、そして姉から『素性の秘密』についても僅かばかり知識を与えられていた一夏には、相手が自分に激怒している理由は分かるつもりであったのだ。
だがしかし、其れとコレとは話が別のはずだった。自分とラウラが戦う理由にはならない。少なくとも自分に、その意思はない。
「また今度な」
気がない態度で素っ気なくあしらおうとする一夏であったが、その態度は普段の彼と比べて些か以上に攻撃的で挑発的なものへと変化していることに、冷静さを保っている者がいれば見分けることができただろう。
一夏に自覚はなかったようだが、彼はこの手の話題になると意固地になりやすく、必要以上に相手を挑発するような言動をしたがる悪癖を内包している性格であるらしかった。
それが時に、相手との無用なケンカを自分の方から売らせる結果を招来していたのだが・・・・・・一夏の謙虚を尊びながらも実は非常に高いプライドが、それに気付かせることはなく、この時にもやはり気付くことはなかった。
「ふん。ならば―――戦わざるを得ないようにしてやる!!」
一夏の挑発に応じてなのか、あるいは最初からそうする算段だったのか、ラウラは言うが早いか漆黒のISを戦闘状態へとシフトさせると、即座に左肩に装備されていた実弾砲を発砲した。
だが―――
ゴガギンッ!!
「・・・・・・こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人は随分と沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」
「貴様・・・・・・」
横合いから割り込んできたシャルロットに、シールドで実弾を弾き返されたラウラは、余計な邪魔者に親の敵でも見るような目を向け、殺意のこもった視線で見つめられた側は右腕に展開させたアサルトライフルの銃口を向け返す。
「フランスのアンティーク如きで、私の前に立ち塞がるとはな」
「未だに量産化の目処が立たない、ドイツのルーキーよりは動けるだろうね」
互いに涼しい顔で睨み合い、挑発のセリフを言い合う二人。
――正直シャルロットにとって、この戦いは全くの無関係な立場で、勝っても負けても自分や自分の父親が得をするようなことは一つもない、自分ばかりが要らぬ負担を背負い込むだけな骨折り損の草臥れ儲けでしかない愚行でしかないのが現実的な評価だったのだが。
なぜだか彼女には、この介入を『損だ』とは思えなかったし、一夏を見捨てて自分だけ安全な場所で見ている方が『損している』と感じてしまい、思わず手が出てしまったのである。
上から目線で自分の事情ばかりを押しつけてくるラウラの物言いに、自分の父親を連想させられたのかもしれない。
ラウラの一方的な要求を押しつけられる一夏に対して、シンパシーを感じた故かもしれない。
あるいは―――最期に誰かの役に立って終わりにしたい―――そういう想いが動機として心の内にあったのかもしれなかったが・・・・・・それでも選んで動いてしまった以上は、自分の道を行くことにシャルロットが躊躇う気持ちは少しもなかった。
一触即発。
互いに互いが『本命ではない』という事情を持つ、専用機持ち同士のぶつかり合いは、余計な消耗を強いるだけでラウラにとって何の得もない。
―――引き時か、そう感じていた。
その時のことだった。
気障な口調と仕草でラウラを引き留める男が、今の自分にとっての戦場へ―――IS学園に帰ってくるのが間に合ったのは。
「少女のような少年を相手にケンカを売るとは、情けない限りですなぁ。
誇り高き“はず”のドイツ軍精鋭隊を率いる将校、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐殿」
つづく
本当は、ラウラVSシェーンコップの初対戦まで描くつもりだったのですが、更新までの間も含めて予想より長くなったため、今回はここまでにしといた次第です。