ISドライロット~薔薇の騎士の転生録~   作:ひきがやもとまち

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更新です。今回のは言い訳しますまい…。
新作アニメに影響され過ぎて、銀英伝らしさから遠ざかってしまいました。
次で挽回できるよう努力しましょ。


第17章

 ・・・・・・シェーンコップが、その言葉を発した時。アリーナ内で声が聞こえる距離にいた者たちは空気が凍結化したかのような錯覚を感じさせられていた。

 当事者であった一夏やシャルロットはもちろんのこと、千冬でさえ鼻白んだ表情を浮かべて黙り込み、顔面蒼白となった少女たちが我知らず後ずさって距離を置こうとする中。

 一人だけ前へ前へと進み続けながら、悠然とした態度を崩すことなく不敵な笑みを浮かべ続けた男の顔を見つめながら、ラウラ・ボーデヴッヒは不快そうな声を不快な闖入者に向けて不快気な口調で唸るように語りかける。

 

「・・・シェーンコップ代表候補か。貴官に私の言動に関して意見を求めた覚えはないが?」

「承知しております。ですが小官は有事の際の防衛力とは言え、今のところ予備役であるに過ぎません。

 小官に対して部下として上官に対する尽くすべき義務をお求めになるのであれば、正式に権限を与えていただかねばなりませんでしょうな。少佐殿」

 

 いけしゃあしゃあと形式論を語ってくる生意気な“格下の存在”を、ラウラは不快そうに片眼を眇めながら睨み付け、悪意のこもった視線を投げつける。

 が、かつて遙か各上の将官達から危険視され、白眼視と偏見と敵意の檻の中で優雅な暮らしを満喫できていた過去を持つ男にとって、『たかが一少佐の佐官』に睨まれたところで恐れ入る理由はどこにも見いだせない。

 容赦なく、相手を挑発するための問題指摘を、悠然とした口調で平然と続けてくる。

 

「まして、現役のドイツ正規軍に所属する士官が、幼気な少年少女たちにまで因縁をかけて回っているとあっては、同じドイツ国の代表候補として見過ごすわけにはいかないでしょうな。

 国の品格が疑われかねません、少佐。まるでチンピラかなにかのような醜態ぶりはね」

「貴様・・・・・・私を侮辱するかっ! 私は直々に第三世代専用機を与えられた代表候補でもある将校だぞ! 軍法会議にかけられたいか!?」

「どうぞ、お好きなように。その軍法会議で、素人同然の男性IS操縦者と第二世代のカスタム機相手に、第三世代機の力を私的に振りかざした将校がいたことも報告されたら如何ですかな? ハハハ」

「くっ! 貴様――っ」

「辞めんか! バカ者どもッ!!」

 

 そこまで事態の展開を傍観していた千冬が、ここに来て鋭い叱責を双方に同時に浴びせかける。

 実際には少し前には我に返って、事態を収束すべきか否かを図っていたのだが、シェーンコップがラウラに対して、言葉だけとは言え『修正』を加えるまで観戦していた方が今後のためかと思い、しばらく放置していたという訳である。

 

 ラウラは自身のことを特別視する傾向があり、それが『ファッション感覚』と揶揄するIS学園一般生徒たちに対する見下しと反感によって増幅されていることは感じ取っており、諸事情あって手が出しにくい元弟子の少女に『したたかな反撃』を与えて思い知らせたのを見たことで溜飲を下げたのだ。

 

 ・・・・・・だが、ラウラのような例を他に知らぬ千冬と違って、シェーンコップの発想は、

 

「ボーデヴィッヒ、それにシェーンコップ。今更言うまでもなく分かっていて当たり前のことだが、ISの私的使用と無許可の戦闘は重大な校則違反だ。

 ましてそれを私の目の前で犯そうというのなら、それなりの覚悟は出来ているものと判断するが・・・・・・それでもいいのか?」

「う、く・・・・・・も、申し訳ありません。織斑教官・・・」

「その点は小官も承知しております。非礼は謝罪しますが・・・・・・小官が馳せ参じましたのは、織斑教諭にある提案の許可をいただきたく愚考したからでして」

「許可?」

 

 僅かに首をかしげながら千冬は、シェーンコップに向けて問い直した。

 そんな担任教師の困惑顔に意味深な視線で返しながら、シェーンコップはゆっくりと片腕を持ち上げていきながら一点を指さし、よく通る役者のようなバリトンボイスで高らかに静かな声で宣言した。

 

 第三世代ISシュヴァルツェア・レーゲンを展開したままのラウラ・ボーデヴッヒを指さしながら、誤解しようのない表現を使って誰にも聞こえるようハッキリと。

 

 

「小官は今この場で、ボーデヴィッヒ選手との模擬戦闘を希望いたします。

 ご許可いただけますかな? 織斑教諭殿」

 

 

『なっ、なに!?』

「ほう?」

 

 予想の斜め上を行く発言を聞かされて、一夏とシャルロット、そしてラウラが驚愕したような声を上げ、千冬だけが面白そうな声音で呟きを漏らす。

 

 たしかに千冬はISを使った私闘は禁じるつもりであった。校則としては既に禁止されていたが、それを早速破りかけた未遂犯共が目の前に三人も出た後とあっては、禁止の条件を強化せざるを得ないのは避けようがない。ナニカ切っ掛けがあれば、それを口実に次の大きな大会まで問題を制限できる。

 

 だが一方で、模擬戦闘であれば幾らやったところで問題はないのだ。

 無論、許可した範囲内に留まる攻撃のみを行って、学園の施設などに損傷を与えないことなどの条件付きではあったが・・・・・・今この場でやるなら自分が審判を務め、危なくなったら即座に制止させられるだろう。

 ラウラも自分の見ている眼前で、バカな真似を犯すほどの愚か者ではない。今でこそ感情に振り回されて暴走気味になってはいるが、軍人としては実技だけでなく筆記や座学においても優秀な成績を残した優等生でもある少女だった身でもある。

 

「よかろう。試合を許可する。ただし施設への被害及び、相手の肉体に直接ダメージを与えることを目的とするような攻撃を行った場合には、私が相応の報いをくれてやる。異論反論は一切認めん。いいな? ボーデヴッヒ」

「は、はっ! 了解しました織斑教官ッ」

 

 直立不動の姿勢を取って応答するラウラの姿に目をやりながら、シェーンコップは目だけでニヤリと笑い、偶然にもそれを見た一夏は苦いものでも食べさせられたかのような微妙すぎる表情を作らされる。

 

 

 

 

「・・・・・・やられたぜ、シェーンコップの奴・・・」

「え? な、なに? どういう事なのコレって?」

 

 一夏の呟きを隣で耳にしたシャルロットが困惑したように狼狽えるが、彼女が狼狽するのは無理もなかった。

 何故なら彼女は、『一夏が入学した直後の試合』に参加していない。

 セシリアが一夏に決闘を申し込み、それを一夏が受け入れて、千冬が正式に許可と決定をくだしたことで完全に既成事実となってしまったのが、あの時の試合に至るまでの経緯だったのだ。

 

 シェーンコップはそれに、多少のアレンジを加えて応用してみせたのである。

 

 ラウラは今までの言動から見て、千冬の言うことには絶対服従であると同時に、千冬から禁じられた状況下で違法に当たるレベルの攻撃は避けようとする向きがある。

 彼女自身から自主的に、正々堂々とした対等の試合を挑ませるには、こういう形で行わせるのが一番手っ取り早いのは事実な人選だったと言えるだろう。

 

 またラウラは、自らの強さを誇るが故に、自分から挑んだ戦いから相手が逃げれば無理やりにでも戦闘状態へ持ち込もうとするが、逆に自分が挑まれて逃げてしまえば口先だけの臆病者でしかなかった自分を行動によって証明する羽目になる。

 今し方シャルロットや一夏に対して行った行為と発言は、今この場にいる多くの者たちの記憶に新しいところである。

 それが口の端も乾かぬ内に、自分が挑まれた途端に逃げ出す敵前逃亡や、卑劣な手段で勝てばいいをやるには彼女のプライドが邪魔をする。近日中にコンペテイションで競われる第三世代機を与えられた代表候補としても、量産機相手にそんな勝ち方をすることは立場が許さない。

 

「えっと・・・・・・要するにシェーンコップ君は、一夏とセシリアさんとの試合を流用したって事なんだよね? でも、それが一体どういう―――」

「つまりさ。アイツは声をかけてくるより、けっこう前から来てたってこと」

「あっ!?」

 

 一夏の簡明な解説によって、シャルロットはようやくその点に思い至り、改めて食えないクラスメイトの食えない部分に、苦虫を噛みつぶしたような気分を味あわされてイヤなものを見るような瞳で、食えない策士の美丈夫を見やる。

 

 そう。一夏がシェーンコップのやったことで唯一「やられた」と感じさせられたのは、その点だったのだ。

 シェーンコップは予めアリーナには到着していたにも関わらず、一夏とシャルロットがラウラと一触即発になる姿を前にしても手を出すことなく観戦し続け、ラウラにとって絶対的なセーフティーたり得る千冬の到着まで出番を待ち、タイミングを見計らい満を持して主演男優登場の条件が出揃うのを舞台袖で待ち構えていたのである。

 

 あるいは、千冬を呼び出した張本人もシェーンコップ自身だったのかもしれない。

 何重にも罠を強いて相手の退路を断ち、自主的にコチラの選んで欲しい有利な戦場へと歩を進める以外の選択肢を事実上なくしていく。

 

 ヤン艦隊お得意の魔術の簡易版を、シェーンコップは披露してのけた。

 もはや、この状況下においてラウラに『圧勝』以外の進む道はない。

 ただ進み、ただ前方に立ち塞がる敵を倒して進み続ける以外の選択肢を、自ら閉ざしてしまった後だったのだから・・・・・・。

 

 

「そういう奴なんだ、アイツは。シャルロットも気をつけた方がいいぞ? ちょっとでも油断したら簡単に手のひらで踊らされて道化を演じる羽目になるからな。

 まったく、アイツといると気が休まるときがなくて困るぜ」

「う、うわぁ・・・・・・」

 

 クラスメイトであり、友人のような存在に対して一夏は、苦情めいたことをいいながらも、どこかしら挑むようなものを感じさせる声音で負けん気の強い少年じみた言葉をシャルロットに語って聞かせたが、シャルロットとしては全く喜べないクラスメイト男子の十八番を教えられ今後の不安に苛まれることしかできなかった。

 

 ただでさえ向かない気質のスパイ活動でありながら、スパイ活動に向きすぎているとしか思えないクラスメイトに正体を知られたままで任務を続行しなければならないのだ。

 この条件下で楽しい気分になれるほどシャルロットの精神面は、伊達と酔狂で銀河を統一した巨大帝国相手に革命ゴッコを続けられた物好きたちの集団に感化される事はできていない。

 

 

「なんにせよ、これは見物だな。シェーンコップがどうやってラウラと戦って勝つつもりなのか・・・・・・俺が戦うときがあった時のためにも、参考にさせてもらうとするぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そして二十分後。先と代わらぬ場所の第三アリーナにおいて、先程よりも数を増したギャラリーたちが見守る中。

 

 ラウラとシェーンコップは互いに向かい合って対峙し、互いのISを相手選手と周囲に見えるよう姿を晒させあっている。

 

 

 ラウラの機体は専用機乗りであるが故に先と代わらず、第三世代IS《シュヴァルツェア・レーゲン》

 

 一方のシェーンコップが駆るのは―――日本製の第二世代IS《打鉄》

 

 

 先の試合で一夏に勝利して見せた時と同じラファールではなく、機体を変更してきたことに集まったギャラリーたちの間では賛否両論と様々な意見とヤジが飛び交い、一夏とシャルロットは意外な思いで表情の選択に苦慮し、ラウラは・・・・・・屈辱に身体を震わせられていた。

 

 

「・・・・・・フランスのアンティークですらなく、極東のブリキ人形で、この私に挑むだと・・・・・・?

 私など、その程度の機体で十分だと言うつもりかシェーンコップ!!」

「あなたなど、この程度の機体で十分だと言うつもりなのですよ、ボーデヴッヒ少佐殿」

「貴様ッ!!」

 

 

 もはやラウラの怒りは臨界に達しつつあった。

 少なくとも周囲の者たちには、そう見えるだけの怒りようと表情、怒声に彼女の剣幕でギャラリーたちには怯える者もいたほどに。

 

 

「両者、位置につけ。これより試合を開始する」

 

 大音量の機械アナウンスの代わりに千冬が双方の中間に立って宣誓し、互いに等距離で機体と機体を向かい合わせた状態で待機するのを確認した後、試合開始を告げるため厳かに手を振り上げる。

 

 

 

「たかが、下らん馬鹿に勝った程度で思い上がった貴様程度では、この私は倒せん。

 一瞬で勝負をつけさせ、実力の差を思い知らせてやるッ!!」

 

 

「フ――ッ」

 

 

「始めッ!!!」

 

 

 

 ラウラが戦闘開始寸前に勝利宣言を叫びあげ、シェーンコップは不敵に一笑のみを返事として、千冬の腕が振り下ろされる。

 

 その瞬間。

 シェーンコップVSラウラの模擬戦闘は開始され、両者は互いに剥き出しの怒気と、鋭く洗練された戦意とをぶつけ合うため機体を加速させ、片方が敵へと向かって突っ込んでいく!!

 

 

 

 ―――――ような事にはならなかった。

 

 

 

「・・・・・・あれ?」

 

 誰かが意外そうな声を上げ、試合開始前から同じ場所に立ったまま動くことなく、ただ相手と向き合ったままの両者を不思議そうな目でパチクリと見つめ。

 

 そして試合開始から1秒が経ち、2秒が経過し、3秒が過ぎ去って、最初はなにかの策かと思っていた生徒たちにも徐々に動かぬ両者への疑問の声が上がり始める頃になり。

 

 その時になって、ようやく。

 両者の片方に変化が生じた。

 

 

「ふぅ・・・・・・面倒だな」

 

 

 冷静で落ち着いた声音で、ラウラが呟いた愚痴という形によって。

 

 

 

「挑発に挑発を返して、のったフリをしてやれば、油断しきった開幕直後の攻撃を逆手に取り、簡単に勝負が付くかと思ったのだがな。

 どうやら、そこまで考えなしのアホウではなかったようだ」

「性格が悪い同僚が多かった者でしてね。俺以外に真人間のいない空間で長年生活をすると、多少は朱に交わって赤くなるのはやむを得んでしょうな」

 

 

 互いに苦笑しあい、感情的な部分など一切感じさせない軍人らしい読み合いと、相手の策を逆手にとって化かし合いを披露して、そして―――

 

 

 

「本命の前で、手の内を晒したくはなかった。だが、貴様相手にはそうもいかんようだ。

 ―――悪いが、手加減してやることはできそうもない」

 

 

 

 一切の感情を省いた冷徹氷の如き声音で、ラウラ・ボーデヴッヒが駆るシュヴァルツェア・レーゲンは動き出す。

 

 なんの縁故もなく、なんの私怨もなく、憎しみは遙かに勝る本命の眼前に晒されながら。

 ただただ機械のような冷徹な、戦闘機械として育成された兵士が両腕を広げ、猛禽の翼の如く獲物を見据える。

 

 

 その姿と、何より相手が自分を見つめてくる瞳を見つめ、シェーンコップは不意に過去への郷愁を誘われる。 

 

 

 

「やれやれ、ロイエンタール提督と戦った時には、あの高名なヘテロクロミアを抉り出し、盾に飾ってやろうなどと思ったものだが・・・・・・この相手には、そうもいかんか。

 女性として色々とボリューム不足ではあるが、見目麗しい少女を傷つけるのはフェミニストとは呼べんのでね。

 悪いが、手加減させてもらおう。少佐殿」

 

 

 

 

つづく

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