ISドライロット~薔薇の騎士の転生録~   作:ひきがやもとまち

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昼間に投稿した奴の完全版です。
最近、目が痛くなりやすくて長文が書けず、私が書く短い話はどうにも薄っぺらい。
どうにか解決したいと思って努力してるのですが……。

取りあえず最後まで完成したのを投稿し直しました。
一度読み終えた方は面倒かもしれませんので、途中からお読みくださいませ。


第18章 

 IS学園警備主任を務める織斑千冬公認のもとで行われたシェーンコップとラウラとの模擬戦闘は、奇妙な膠着状態を経た後、ラウラから放たれた砲火によって本格的な戦闘へと移行していた。

 

「ファイエル!!」

 

 今はまだ可能性上の仮説に過ぎない遙か未来で聞き慣らされた、敵国の公用語での号令と祖を同じくする単語を叫びながらラウラは右手にマウントされた《大口径リボルバーカノン》を発砲。

 発砲すると同時に両手を左右に広げ、有線兵器の《ワイヤーブレード》を全弾両翼めがけて射出させた。

 

「――っ、上手い!」

 

 思わず、観戦していた取り巻きの一人に加わっていたセシリアが感嘆の叫び声を上げてしまうほどラウラの動きは同じ専用機持ちとして理に適っていた。

 それは、密かに思いを寄せている異性が新参のクラスメイトと試合をすると聞いて駆けつけてきた彼女であっても(この時点で彼女は相手に自分の想いを気付かれていないと認識している)ドイツが開発した第三世代ISを与えられたラウラの実力は確かなものがあると認めざるを得ないほど合理的なものだったからである。

 

 ラウラの《シュヴァルツェア・レーゲン》に搭載された《大口径リボルバーカノン》は現時点でIS学園に属する各国専用機の中で、一夏の《白式》が持つ《零落白夜》を除いて最大の威力を誇る巨砲である。まともに正面から受けてしまえば、如何な防御力に秀でた打鉄であっても無事ではすまない。

 

 これを回避するには大きく分けて、左右上方の三方向のいずれかしか逃げ道がない。

 カノンを発射するのに使ったため、左手より僅かに射出が遅れた右方向に避けた後、反撃に打って出ようとするなら右手のワイヤーブレードで迎撃して敵の足を止め、左に射出させていたワイヤーブレードの方向を変えて横側面を突かせて挟撃させる。深読みして左に逃げた場合であっても使う戦法自体は同じでいい。

 

 唯一、天頂方向だけが二の手の攻撃からも逃れられる場所となってはいるものの、上下左右いずれからでも攻撃可能な空中への逃避はワイヤーブレードにとっては好都合な狩り場に獲物自ら飛び込んでいくようなものでもある。

 

 ラウラは、大口径リボルバーカノン1発を発射しただけで、敵に対して行動の自由を奪い、選択を強要する心理戦を仕掛けることに成功したのである。

 彼女が強いだけの一兵士ではなく、非凡な戦術指揮官としての能力も兼ね備えていることを見せつけられ、セシリアとしては警戒を強めずにはいられなかったのだ。

 

(どのみち貴様には、私に接近しない限り勝機はない! だが攻撃を回避して私に近づこうとしてくるならAICで絡め取ってやるだけのこと。

 防御特化の近接両用型を選んだ時点で、貴様の負けだ! 後はゆっくり切り刻んでやれば私の勝ちだ一般兵!!)

 

 口元にサディスティックな笑みを浮かべながらラウラは、心の中で勝利を確信して勝利宣言を上げていた。

 それは彼女の傲慢さを示すものではあったが、根拠のない過信であることを示すものではない。

 現に彼女の戦況分析は正しく正確で、接近戦向きの打鉄を乗機に選んでいるシェーンコップには敵に接近して斬りつける以外に勝ち方の持ち合わせがなく、ラウラは近づいてきた時だけ敵を撃っていれば、先に根負けせざるを得なくなるのは勝負を挑んできた挑戦者の側なのは確実なのだ。

 無理して自分から仕掛ける必要は微塵もない。今のままの戦い方を続けるだけで自然と勝利は転がり込んでくる。そういう状況が今のラウラとシェーンコップの模擬戦なのである。

 

 先の先を取りながらも守りに徹する、という戦い方はラウラの好みではなかったが、本命の見ている前で全ての手札を晒すのは避けるのが賢明であり、たかが模擬戦での勝利を得るため力を使い尽くしたとあってはいい笑いものだ。

 

 圧倒的な力の差によって、敵に為す術なく一方的に勝負を決める。・・・それがラウラの方針であり、対シェーンコップのために用いた戦術方針だった。

 油断できる相手ではないが、既存武装しか持たぬ量産型と、特殊武装を前提とする第三世代では条件が異なる。

 AIC搭載機を相手に、一機だけで勝利を得るのは、それほどまでに難しい。その事実を知らしめられれば十分だと、ラウラはこの戦いの勝ちを認識していたのだ。

 

 だが、この敵はラウラの思惑に“途中まで”しか乗らなかった。

 

 ドゥッン!!

 カノン砲が着弾して土煙が生じ、その煙を煙幕代わりに利用したシェーンコップが定石通り、カノンを発砲したばかりの右手がある右方向に回避しながら微妙に角度を逸らして高速移動し、素早くカーブを描きながら右前方から左前方へと進路を変えつつ接近してくるコースを取ってくるのを見て取ると、ラウラは右手のワイヤーブレードを操作して迎撃用の複雑な軌道を取らせながら、左手は大きくカーブを描いて敵にとって右後方から襲いかかるコースを取らせる。

 

 そこまではラウラの計算通りに事が進んでいた。そのはずだった。

 だが、ここで敵は思わぬ行動に打って出る。

 

 突然ラウラに接近しようとしていた足を止めると、接近戦向けの打鉄にとっては補助的な要素が強い武装の《アサルトライフル・焔備》を腰だめに構えると、射撃体勢を取ったのである。

 

「!? ワイヤーブレードを撃墜しようというのか? だが、そんな曲芸ができたところで状況は変わらん! 悪足掻きだ!!」

 

 シェーンコップの動きを、自分に飛来してくる三本のワイヤーブレードをライフルで撃墜することで障害物を取り除こうとする、理論上だけなら有効な戦法を相手が用いようとしている狙いを看破したラウラは、敵の甘さを嘲りながら怒号する。

 確かにそれが可能となれば、ラウラまでの距離を阻む障害はなくすことが可能となる。だが、飛来する小さな飛行物体を射撃で撃墜するのは容易ではない、ラウラが操作する有線兵器ともなれば尚更のことだ。

 また仮に偶然や運も味方して、射撃による撃墜を成し遂げたとしても、状況は差して好転しない。背後から迫り来るワイヤーブレードは健在であり、AICによる絶対防御が敗れるわけではないからだ。

 

 言葉通りの悪足掻きとしか思いようのない行動を取るシェーンコップだったが、自由惑星同盟軍最強の白兵戦部隊を率いて、不良軍人の名を欲しいままにしてきた食みだし者の連隊長でもあった彼の狙いは、軍人としては正道を行くラウラの予測を大きく外れることになる。

 

 自らに迫り来るワイヤーブレードの刃を目前にしても、微動だにせず。

 慎重に狙いを定めた後、彼の指先はトリガーを引いて発砲させた。

 

 そして―――

 

 

「なっ! なにィッ!?」

 

 

 ――ラウラは、その光景を前に信じられないものを見たと驚愕させられることになる。

 彼女の視界で、三本のワイヤーブレードが行き場を失い宙を舞っている。

 

 撃ち落とされたのではない。シェーンコップが放ったのは一発だけだからだ。たった一発の弾丸で三本のワイヤーブレードを纏めて撃墜できるはずがない。

 

 ワイヤーブレード撃墜を狙って撃っていた場合には、実現できるはずのない状況。

 だが彼が狙っていたのは、最初から自身に迫り来るワイヤーブレードそのものではない。

 

 ワイヤーブレードとシュヴァルツェア・レーゲンとを繋いで操作する有線のワイヤー。

 その射出口を狙って当てられたがために、三本のワイヤーブレードは纏めて方向を逸らされ、行き場を失って一時的にコントロール不能の状態へと陥らされてしまっていたのである。

 

「貴様! あの距離から、射出口のような小さな的を狙って狙撃するなど、正気か!?」

「残念ながら、素面で戦争ができる者たちと違って狂っております」

 

 不敵な笑みと共に白々しい減らず口を叩きながらも、シェーンコップの動きは一瞬だけ生じた隙を全く見逃してくれない猛禽のように素早いものだった。

 

 シェーンコップ的には、それほど大したことをしたという意識もなかったからである。

 かつて自分が連隊長を務めていたローゼンリッター連隊で、副連隊長を努めていた最後の戦いにおいて、帝国軍艦隊の陸戦部隊と同盟軍の後方補給基地ヴァンフリート4=2とを守る守備隊との間で争われた、両軍共にとって不幸な予期せぬ遭遇戦に陥ってしまった際。

 

 部下の一人で、三年後には自分よりは劣るが自分以外全てに勝る勇者となっていたデア・デッケン中尉は、炸裂する敵の砲撃と味方の迎撃火線と金属非金属、土砂に雪、果ては人間の肉片までもが飛び散り視界を閉ざすため協力してくる最悪の混戦状態の中。

 

 味方戦車を次々と撃破してくる帝国軍の有線ミサイル砲車から発射されたミサイルと本体とを繋ぐワイヤーだけを狙って命中させ、味方の基地を守るのに貢献した実績がある。

 

 部下にできたことだ。上官に出来ないはずはない、などと豪語する心の狭い指揮官になった覚えはシェーンコップにはなかったが、あの時より遙かに近い距離で一機だけの敵を相手に猿マネ程度もできないような“格好悪いマネ”ができるほどの冴えない男になった覚えはもっとない。

 

 何より、あの時の戦闘では自分たちの元上官で、先々代の連隊長だった裏切り者『ヘルマン・フォン・リューネブルク』によってデア・デッケンは、現時点では勝てない敵の勇者と戦って勇者になるより先に名誉ある戦死者の一員になる道を与えられている。

 

 その戦闘の結果として、大佐の階級と連隊長の地位を正式に授与されたのが自分なのである。

 別段、部下の分まで自分が代わりに戦ってやるなどと言うような殊勝さは持ち合わせていないものの、ケジメはつけなければならない問題ではあった。

 それがローゼンリッター連隊という、同盟軍最強の札付き部隊の流儀であったのだから。

 

 

「くっ! このザコ如きが! 調子に乗るなっ!!」

 

 想定外の攻撃により、防御策を無力化されてしまったラウラは、左方向に残ったワイヤーブレードによる攻撃と、右手の体勢を立て直して迎撃を再開するか仕切り直すかの選択を迫られたことで判断に迷ってしまい、敵にイグニッション・ブーストでの急速接近を許してしまう失態を犯してしまう羽目になる。

 

 些か慌てながらではあったが、ラウラは自身だけが持つ絶対的な優位性、停止結界による防御を選ぶのを間に合わせることができ、シェーンコップが突撃してくる眼前に右手を突き出し、そして動きを―――封じ“られる”事になる。

 

 

「が・・・は・・・・・・っ。

 なんだ・・・と、ぉ・・・・・・?」

 

 

 空中へとさまよう眼帯をつけていないラウラの瞳に、アサルトライフルの銃身が舞っている姿が視界に映る。

 自分の視力を奪い、一瞬だけ意識を暗闇の世界に閉じ込めて動きを止めさせた犯人こそ、そのライフルの銃身だった。

 

 シェーンコップは急速接近しようとするより大分早く、同じ位置で立ち止まって迎撃するかを悩んでいたラウラに向け、右手に持っていたライフルを投擲してからイグニッション・ブーストを使用していたのである。

 敵機からの接近に対処することばかり考えていたラウラは、頭上の警戒が疎かにしてしまっていた。

 自分の使う武器のスペックを把握しておくことは、一流の戦士にとっての常識でしかなく、やっていて当たり前程度のことでしかない。

 自分のイグニッション・ブーストが、どの距離から使って、どの位置まで、どれくらいの時間で到達できるか0コンマ単位で正確に測れるようになれないのでは、一日に二個艦隊と連戦して連勝するヤン艦隊の過密スケジュールをこなすには生命が1ダースあっても足りぬのだから。

 

 皇帝ラインハルトが自由惑星同盟を征服して宇宙の統一を成し遂げた大新征において、白兵戦部隊はいまいち活躍の場が得られなかった為にポプランの青二才に偉そうな苦労話を語らせる栄誉を許してやる羽目にはなったが、戦場が宇宙ではなく地上を部隊にして宇宙艦隊ではなく白兵戦部隊で同じことをやれと言われた場合には、一日で四個艦隊に匹敵する価値を持つ敵将の首をトマホークに掲げて凱旋してきたのは自分だったことは疑いないのだ。

 

 たかだか、1キロだの1メートルだのといった『至近距離』での計算式を間違える彼ではない。

 ポプランたち戦闘艇スパルタニアンのパイロットたちが、瞬時にして小惑星帯のデブリの位置と軌道と自機との距離を正確に割り出せるように、自分もまた自分の戦場で同じことができる。只それだけのことでしかなかった。

 

 ガシィッ!!

 

「――はッ!? しま・・・っ!!」

「ふ・・・っ!!」

 

 そして、空から飛来してきたライフルによって頭と眼球とを強打され、一瞬の空白が生じさせられてしまっていたラウラの停止結界による防御網を突破し、敵に肉薄したシェーンコップは右手を伸ばし。

 

 ラウラの右手首を掴み取ると、残った左手をラウラの眼前へと叩き込み。

 

 

 

「レディに対して失礼。ですが、子供の過ちを質すのは世間一般では大人の義務と言うことになっているそうなのでね」

 

 

 

 グーで、美しい少女ラウラの顔を殴ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 そう告げられて、自分の顔面に向けて装甲に包まれた右拳を突き出してくる相手の言葉を聞きながら、ラウラ・ボーデヴッヒは心の中で考えていたことがある。

 

 ―――間違いない。コイツは救いようのない阿呆だ、と。

 

 IS同士の戦いにおいて、互いに実銃やビーム兵器を撃ち合いながら操縦者たちが無骨な装甲を纏わず、素肌に近い姿に部分的なアーマーのみを装着して試合に臨むことができているのは、ひとえにISバリアの存在によって支えられている。

 あらゆる攻撃をISエネルギーの消費によって防いでくれる、このバリアの存在によってラウラたちIS操縦者は銃口や白刃を前にして恐れることなく、白磁のような肌を晒し続けて戦うことが可能となるのだ。

 

 その事実を正しく認識してさえいれば、たかだか武器も持たずに殴るだけの拳打など、見た目が派手なだけの見かけ倒しの一撃にしかならぬ事が分かるだろうに。

 父親気取りの格好付けで、ギャラリーたちの見ている前で演出したかっただけなのだろうが、その甘さと現実認識能力の低さが徒となる――。

 

 そう考えながらも、右腕を掴まれた体勢と、拳までとの距離から見て躱しきれぬと割り切らざるを得なかったラウラは、一撃は食らってやることを前提として、攻撃を受けた後の反撃のため姿勢制御の立て直しと武装の実体化のため準備を進め、そして――

 

 ガツッ!!

 

 ――激しい衝撃によって、“脳”が揺さぶられる景色を目撃させられる。

 

「ぁ・・・・・・が・・・?」

 

 急激に景色が暗がりに包まれたかと思うと、時代がかった白黒の映像に移り変わり、ラウラの頭を混乱させる。

 いったい何が起こったのか? そう考えようとしたラウラは、自分の身体と意識が思うように動かない事実に気付かされ、その瞬間なんの前触れもなく理由と原因に思い至ることになる。

 

 揺れる視界の向こう側で、分身したかのように複数の身体に分かれて見えるワルター・フォン・シェーンコップが「にやり」と笑いながら再び拳を振り上げる姿がボンヤリと認識できていた。

 

「本来であれば、ご婦人にケガ人を出させるのは薔薇の騎士の流儀に反するのですがね。

 ISバリアがあれば殴られたことにはなりますまい? なら今日のところは無礼講と言うことで何卒」

 

 芝居がかった態度で言いながら、言葉を言い終えた時には既に2発目を入れ終えて拳を退いている。

 その情け容赦ない戦い振りに、「よく言う」とラウラとしては内心で苦笑せざるを得ない。

 

 そんな行為に、大した意味や効果などまるでないと承知の上での演出。

 本命は別にありながら、見ている者たち向けの言葉を放つ相手の狡猾さが、いったい誰に向けられたものかは知らないものの、ラウラは相手がしている行為の意味を当事者として誰より正しく理解できていた。

 

 ラウラが、たかが装甲に包まれただけのパンチだけで、ここまで仰け反らされた理由。

 それは彼女がしている『眼帯』が原因で起きていた現象だったのだ。

 

 転入直後から周知の事実として、ラウラの左目は大きな眼帯で完全に覆われている。

 この状態で相手を見ようとするならば、残る片眼だけに負担が集中するしかなく、右目に少しでもダメージを負わされただけで目をつむってしまい、相手を縛るため『意識を集中させる必要』があるAICを完全起動させることは出来なくなるしかない。

 

 先のアサルトライフルによる投擲も、つまるところラウラがAICを使ってシェーンコップの突撃を制止させようと意識を集中させるため、『対象に視線を集中させていたこと』が仇となり、それを阻害されただけで大きく体勢を崩されざるを得なくなってしまった“自滅”こそが実情だったのである。

 

 右目だけでしか景色を見れないラウラが、何かに意識を集中させようと思えば、片眼の視線を目標対象に凝視させざるを得ない。

 片眼で見つめなければ一カ所に意識を集中できない能力ならば、その目だけに注意を配り、能力を使用した瞬間に片眼を狙った攻撃を当てるだけで、その攻撃は無力化することが可能になる。

 

 シェーンコップは、そのように推測して、その通りに実行した。その結果が今の戦況に現れている。

 そしてこの劣勢は、ラウラにも責任がある敗北に繋がりかねない状況でもあったのだ。

 

 シェーンコップは先の実戦訓練の際、ラウラの教師役を仰せつかっていた実績がある。

 あの時にラウラは余りにも相手の見ている前でAICを多用しすぎてしまっていたのだ。

 本人に自覚はなく、使用は制限していたつもりであったが、同じ技を短時間に2度3度と見せられ続ければ、たとえ返し技の考え出しづらい特殊能力であろうと特徴や共通点の1つや2つは嫌でも見いだすことになる。

 

 また、そうでなければ教師役など務まらなかっただろう。教え子が優秀なことに慣れているのがシェーンコップだ。

 ラウラの使うAICが不完全なレベルでしか使うことが出来ないことや、使用時の意識集中時に生じる癖など、全て把握されてしまった後の状態で、ラウラはその事に気付いていない。

 

 そこに奇策を用いられる、心の隙が生じていた。

 AICでの停止結界に拘るあまり、『相手を凝視しすぎることの危険性』に気付けなくなってしまっていた。それがラウラの失敗理由だった。

 

 この状態になってしまった今となっては、もはやAICは使えない。

 片眼だけで意識を集中させなければ使用できない能力を、その片眼の視力にダメージを与えられてしまった後では、全力使用は望むべくもない。

 ただでさえ細かい狙いが定まらない程度には、視界がブレているのだ。

 おそらく拳を当たる際、当たるポイントを調整して脳を揺さぶる殴り方をしたのだろう。軽い脳震盪脳を起こさせられてしまっている。この体調で意識集中を必要とするAICの使用は負担であるばかりか却って有害になりかねない。

 

 この期に及んでラウラに選べる反撃の手段。それは―――

 

 

「こ、の・・・・・・マネキン野郎めがッ!!」

「むっ!?」

 

 ラウラは目の前で微笑みを浮かべ続ける、いけ好かない色男面に向けて、空いていた左手を使ってデタラメに拳を叩き込むと、相手が仰け反った隙に距離を開き、続いて装甲に包まれた足を突き出すと、猛然と蹴りを相手のIS目がけて叩き込み続けたのだ。

 

 

『『『・・・・・・・・・』』』

 

 見ている観客たち全員が一人残らず唖然とさせられる光景が、目の前では繰り広げられ続けていた。

 ラウラの右手を掴んだまま、自分たちの外側に向けて掌が突き出される体勢を維持しつつ、残された片腕と片腕、片足と片足、蹴りと蹴り、時には頭突きなども交えながら両者は激しく争い合い、互いに相手の身体の上にのし掛かるマウントのポジションを奪い合いながら、原始的な殴り合いの様相を、『既存の兵器では決して勝てない次世代兵器IS』を使って実戦しあう。

 

 一夏とシャルロットでさえ、その光景を前にして言うべき言葉を失っていた。

 彼らの誰もが、シェーンコップ自身でさえ知る由のないことであったが、彼とラウラの戦い振りは銀河を巡る最終決戦場所である純白の帝国軍総旗艦の中で、自分よりも1分遅れて死ぬはずであった同僚が、敵国皇帝の親衛隊長と最後の個人的な決戦をおこなっていた姿と酷似していた。

 

 その戦いの中で、『和平』という小さな成果を得るためだけに膨大な量の味方の血を捧げたことにより、その価値を認めた皇帝が激戦を生き残った者たちに最後まで生きる資格を与え、自分は死に、同僚は生き残った。

 

 その同僚が生き残る資格を得た戦い方を、知らずに再現した結末として。

 シェーンコップは遂に、首筋に当たったプラズマ手刀の刃によって、敗北と死後の世界で生き続ける資格を手にすることになるのだった。

 

 

「参りました、少佐殿。降伏しましょう。流石はドイツ軍最強の代表候補生だ」 

「・・・はぁ・・・、はぁ・・・」

 

 汗みずくになり、土埃に塗れた顔をシェーンコップの顔面に接触するほど近づけながら、息を切らしていたラウラは自分の左手から伸びる刃が相手の首もとに当たっていることを知り、憑き物が落ちたようにストンと腰を下ろして大きく息を吐く。

 

「し、勝負あり。シェーンコップの降伏によって、ラウラ・ボーデヴッヒの勝利とする」

 

 やや気圧されながらも千冬が勝者と敗者の名を告げ、試合終了を宣言した後にも、しばらくの間は声を上げる者は誰もおらず、一夏もシャルロットもセシリアも沈黙したまま、ただシェーンコップだけが立ち上がり敗残兵らしく背を向けて会場内を歩み去っていく。

 

 その途中。

 ようやく沈黙が解かれて、生徒たちがザワメキ始めた頃。

 その喧噪に紛れるようにして、シェーンコップはラウラの耳にだけ意味が伝わるよう、小さな声量で一言だけ告げたのである。

 

 

「―――少しは気晴らしになりましたかな? 少佐殿」

「あ・・・・・・」

 

 その言葉でラウラは、今回の模擬戦に含まれていた本当の意味と目的を、遅まきながらようやく知ることが出来たのだった。

 

 何のことはない。シェーンコップはただ自分の、ラウラ・ボーデヴッヒの堪り続けているであろうフラストレーション発散のため、自分との戦いで思い切り身体を動かす場を与えたかっただけだったという目的をである。

 

 他人の目には傍若無人かつ傲慢としか映りようのない暴挙を繰り返していた、IS学園転校直後から見たラウラの行動。

 それは客観的に見て事実であったが、一方でラウラの側には思い通りに行かない現実を前にして焦りと苛立ちを募らせていた側面があったのもまた事実ではあったのだ。

 

 尊敬し敬愛する織斑教官を取り戻すため遙々日本まで来日したまでは良かったが、その後は中途半端に上手くいかないことばかりが続く日々を送っていたのがラウラだった。

 

 教官を誑かした愚弟に制裁を加えるのは中途で禁止され、自分のターゲットとは考えていなかったフランスの代表候補が愚弟に肩入れしてしまい、大本命である織斑教官への本国帰国願いはすげなくあしらわれ、ラウラの織斑教官を取り戻すという作戦そのものは八方塞がりとなってしまっていたのが実情だったからである。

 

 尊敬し敬愛している教官から、元教え子として他の者と異なる特別扱いされている認識はラウラの中には確かにあった。

 だが一方で、自分の求める一番の願いには全く聞き入れる意思を示さない千冬の対応は、ラウラの中で中途半端な想いだけを熟成させ、不完全燃焼のままチリチリと残り火が灯され続けて、なにか適当な可燃物を求めて発散させたい感情を気付かぬ内に養うよう作用するようになってしまっていた。

 

 

 シェーンコップが、そんなラウラの感情に気付いたのは、同盟政府からの度重なる嫌がらせに不満を溜め続け、いっそ独裁者になってしまえと忠誠を誓った上官を先導し続けてきた自分自身の前世の記憶が教えてくれた経験則故でのものであった。

 

 千冬には、意図的ではなく悪意的でもないものの、自分の態度と言動に対して目下の者たちが抱くストレスという負の感情を軽視する傾向が強い部分を持ち合わせていた。

 

 上から目線で命令を押しつけ、従わされる者にとっても良い結果さえもたらせば納得してくれるはずだ、という無意識の甘えが見え隠れする部分があるのだ。

 

 その結果が、ラウラにぶつけ所のないストレスを溜め込ませるという現状を招いてしまっていた。

 千冬に悪意はなく、優遇してくれている面もあるが、不満も溜めさせ、その為の説明は不足したままで、ただ相手が自分で分かるようになることだけを求めてくる。

 

 そういう、『素直で優秀な教え子だけにしか通用しない教育方法』を無自覚に実践している千冬の足りない部分を、同じ家庭教師仲間だった者としてフォローしてやるのが自分の勤めだと、シェーンコップはラウラに対する己の立ち位置を規定していた。

 

 それ以上はやる気はないが、それ以上になるまでは最善を尽くそう。

 そういうスタンスで自分と向かい合ってきている男だったという事実に、ラウラは今回の勝負によって完全には分からないながらも4割から5割近く程度は理解できたような、そんな気持ちにさせられて。

 

 

「・・・まったく・・・・・・」

 

 去りゆく敗残兵の背中を見送る目には、アリーナに来た直後ほどの険しさは既に消え失せていた。

 

 

「やはりアイツが阿呆なのは間違いないが・・・・・・ただのアホウでないのも間違いはないらしい」

 

 

つづく

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