ISドライロット~薔薇の騎士の転生録~   作:ひきがやもとまち

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久しぶりすぎる更新になってしまいました……申し訳ございません。
しかも書きたかった話とはいえ、ストーリーとは余り関係のない話になってしまって…。

尚、他の更新止まってる作品も続き書いてる最中ですので、良ければお見捨てなく(謝)


第20章

 歴史には、皮肉がつきものである。

 ありえたかもしれない多くの可能性の中で生き残った、たった一つの可能性だけが現実となって歴史を形作ることを許される。

 

 後の悲劇を防ぐための犠牲が別の悲劇をもたらす切っ掛けとなることもあれば、悲劇の要因となった出来事が起きなかったことで、更に巨大な悲劇が発生していた現在はないとする証明作業は誰にもできない。

 

 銀河の主導権をめぐる二大勢力内部で内乱が発生した折、銀河帝国の門閥貴族勢力との『リップシュタット戦役』が争われる最中。

 

「もし内乱が三ヶ月長引けば、新たに加わる死者の数は1000万を下ることはない」

 

 帝国軍の総参謀長オーベルシュタインは、その論法でもって貴族連合が行おうとしている民衆の虐殺を黙認させ、政治利用することで内乱を早期に終結させることには成功している。

 だが、その結果として主君ラインハルトと盟友キルヒアイスとの間で不和を生じさせ、それが帝国軍の副将を死に追いやる遠因ともなってしまった。

 

 また自由惑星同盟においても、黒髪の魔術師の幕下にいた者たちの間では、幾人もが語りあった『ありえた歴史』の一つに、このような話が存在していた。

 

「ヤン・ウェンリー個人にとっては、惑星エル・ファシルで英雄になどならなかった方が幸せだったのではないか?」

 

 というのが、それである。

 ヤン自身、その可能性は考えないでもない話題ではあったらしく、幾度か口にした記録を残している。

 たしかに、その可能性が実現していたら、難攻不落のイゼルローン要塞は帝国軍の手中から奪われることはなくなり、逆説的に奪取したイゼルローンを橋頭堡とした帝国領侵攻作戦が提案される可能性は消滅し、アムリッツァ会戦での惨敗と犠牲となった兵士たちは可能性上の数字としてだけ存在しうる未来が訪れる。

 

 だが、その場合は帝国の主導権を手中に収めたラインハルト・フォン・ローエングラムが大軍勢を率いてイゼルローン要塞を橋頭堡とした同盟領侵攻作戦を実行されていた未来を阻止する術がなくなっていたかもしれないのだ。

 

 ・・・・・・尤も、『ありえた可能性』の存在と『実現性』とは必ずしもイコールでないのも歴史上の事実であるだろう。

 

 後にヤン夫人となる副官のフレデリカ・グリーンヒルと、ヤンの養子として後に後継者ともなるユリアン・ミンツがこの話題を語り合ったことがあり。

 

「あらダメよ。そうしたらヤン提督自身、帝国軍の捕虜になって収容所暮らし」

「そっか。あの通りの人だから今頃は野垂れ死にしてるかもしれないか」

 

 二人は同様の結論に達して、互いに笑い合い、可能性の話は可能性のままで終わりを迎える。

 

 

 ・・・・・・だが、人の歴史が銀河をめぐる戦いの時代まで語り継がれたように、同様の理屈は未来から過去に遡った当事者たちにとっての現代にまで当然のように当てはまり、笑い話では済まない可能性が避けられてしまった架空の悲劇が生まれていた可能性もあるだろう。

 

 遙か未来の銀河系から、遙か昔に巻き戻った現代の地球。その小さな青い星の極東に浮かぶ島国にある学校で、その理屈が今もっとも当てはまっている人物がいるとしたら間違いなく彼女だった。

 

 

 

 

 

 それは、学年別トーナメントを最終週に控えた六月の、放課後。

 大会参加の訓練用に解放されている、第三ISアリーナ内で偶然の遭遇から始まっていた。

 

 必ずしも宿命的な遭遇という訳ではなく、IS操縦者育成のための教育機関とはいえ広大な敷地を必要とするアリーナを10も20も建てることは不可能であり、トーナメント当日まで一週間以上の日数がある現状で、同じ目標を目指している訓練熱心な生徒たちが放課後に出会う場所としては、それほど低確率というものではない。

 

 とは言え、そういった数字上の確率がどうあろうとも、この様な場面で因縁のある相手と遭遇した際には運命的なものを感じてしまいやすいのが、人の心というものであったろう。

 

 

「・・・あ」

「あら」

 

 放課後になった直後にアリーナにやってきて訓練を始めるつもりでいた二人の専用機持ちの片割れである、中国代表候補生にして一年二組のクラス代表『凰鈴音』というのが、その人物の姓名だった。

 

 ラウラがシェーンコップとの『馬鹿騒ぎ』によって欲求不満を発散させられ休火山となっていた現在、IS学園内でもっとも不本意な日々を甘受しなければならなかったのは間違いなく彼女だったからである。

 

 鈴はこの時期、不完全燃焼のまま日々を送っていた。

 彼女から見た主観では、想い人をテレビの中で発見し、心躍らせながら同じ学び舎での学園生活を夢見ていたところへ、どこの馬の骨とも知れぬ男により想い人は屈辱的な敗北を強いられてしまい、花園を踏み荒した害獣への怒りと共に仇討ちのつもりで久方ぶりの日本へと舞い戻ってきたのだ。

 

 ・・・・・・だが蓋を開けてみれば、思いを寄せている少年は自身に屈辱的な負け方を強要した相手を恨んではおらず、むしろ兄貴分かなにかのように慕っているように彼女の眼には見えざるを得なかった。

 鈴としては、肩すかしを食らわされたようなもので、振り上げた拳の落としどころが見つからぬまま悶々とした気持ちを今尚、心の中では燻らせながら日々を送っていたのである。

 

「てっきり、わたくしが一番乗りだと思っておりましたのに」

「あんたも意外と早いわね。

 あたしは、これから学年別トーナメント優勝に向けて特訓するんだけど?」

「わたくしも全く同じですわ」

 

 一方で、彼女と対峙し合っている今一人の専用機持ちの女子生徒セシリア・オルコットも、鈴に対しては隔意ある態度と言動を崩さねばならない理由と義理を一切持ち合わせてはいない立場にある少女だった。

 

 シェーンコップとの出会いで思いを寄せるようになり、一夏に対して友情は感じながらも異性としての情愛や独占欲は抱いていない彼女としては、鈴と張り合う理由やメリットは正直言ってあまりない。

 ただ反面、自分が思いを寄せている男性に対して事あるごとに突っかかり、不快な目付きを向けてくる相手の女からのイヤな視線にはセシリアの方は気付いており、普段から『気にくわない女だ』と感じさせられていた。

 

 シェーンコップ本人が気にしていないことや、まるで子供でも相手にするかの如く軽くあしらってしまっていることから普段は溜飲を下げて何も言わずに無視できているものの、互いに二人だけで鉢合わせしてしまった時には本音の一端を隠しきれなくなってしまう。

 

 逆に鈴もまたセシリアが、シェーンコップに好意を持っていることは態度などから丸分かりであり、『嫌味な男に惚れる変な趣味の女』という印象と感情を相手に対して抱くようになっていた。

 

 想いを寄せている対象は双方共に違うものの、互いに同じ相手と強い因縁を持つ相手に好意を寄せている少女たちにとっては、間接的な繋がりであるからこそ当人同士たちの友好関係とは別として複雑な感情を抱き合わずにはいられない間柄になっていたのが、この時期の彼女たち二人の関係性であった。 

 

「あっそ。それじゃ、お互い目的が同じ者同士ってことで、今この場では邪魔し合う理由はないわけね。あたしはアッチで練習するけど、あんたの方は?」

「では、わたくしは逆側の場所をお借りして自主練に励むとしましょう。どのみち決着はつく関係なのですし、それまでは互いに不干渉と言うことで邪魔し合わないし、足を引っ張り合うこともしない。それで、よろしくて?」 

「OK。んじゃ、一時休戦ってことで。それじゃ後はご勝手にど~ぞ」

 

 だが、逆に言えば彼女たちは双方共に、個人的な怨恨や因縁を持ち合っている間柄では全くなく、それどころか互いに思い人を通してしか交流というものがほとんど無かったのが、彼女たち二人の関係性でもあった。  

 

 敵対的というほどではないが、友好的とは決して呼べない態度と視線で接しながらも、最低限の節度は守り合った上で、必要なことを必要な分だけ伝えて了承だけを取り、用が済めば背中を向けて余計な馴れ合いは一切無い。

 時おり、感情が理性の壁を一部突破して皮肉や嫌味を言い合ってしまうこともあったが、それ以上の事態に発展することはなく、今日までやってきたのが鈴とセシリアの関係性だった。

 

 本来なら、この日もそうなるはずであった。

 だが今日は、どちらかにとって虫の居所が悪かったらしい。

 

 最初こそ儀礼的に会話を交わして、その後は互いに無視を決め込んでいた二人だったが、どちらからともなく苦情めいたことを言い出し、言われた方はそれに応じ、徐々に互いの舌鋒が鋭くなっていき険悪なムードが場を満たしていくようになるまで、然程の時間を要しなかった。

 

「ちょうどいい機会だし、この際どっちが上かハッキリさせとくってのも悪くないわね。どーせ結果は決まってることなら、トーナメントまで待つまでもないわ」

「あら、珍しく意見が一致しましたわね。よろしくってよ~、どちらがより強くより優雅であるか、この場で決着をつけて差し上げますわ」

「ハン、言ってくれるじゃないの。まぁ勿論あたしが上なのは分かりきってることなんだから、それぐらいの遠吠えは許してあげてもいいんだけどね。負ける前までは!」

 

 互いにプライドが高く、負けず嫌いな性格同士なことも相まって、二人だけで意地の張り合いを始めてしまうと収拾が付かなくなるのが彼女たち二人共が抱える欠点だった。

 本来セシリアと鈴は、人格面でそれほど相性の悪い少女たちではなく、むしろ激情家なところや理屈にこだわる側面など似た特徴を多く持つ似たもの同士と言っていい人格を有してもいる。

 

 だが、似たもの同士であるが故に憎み合うという場面も、人同士の関係においては時として現出しやすい。

 退くことを『恥』と感じるプライドの高い少女たち二人が、二人共に互角に近い力を有して、所属の違う同じ地位身分を与えられ、それでいて僅かな待遇の違いが双方の間で横たわっていることも互いの関係を悪化させていく要因となっていたかもしれない。

 

「フフン。弱い犬ほど、よく吠えると言うけれど本当ですわね」

「・・・どういう意味よ?」

「“自分が上だ”って、わざわざ大きく見せようとしているところなんか典型的ですもの」

「その言葉・・・・・・そっくりそのまま返してあげるッ!!」

 

 相手からの挑発を、宣戦布告と解釈した鈴がISを展開してアーマーを纏わせ、それに一瞬遅れてセシリアも《ブルーディアーズ》を実体化させて応戦しようと試みる。

 

 もはや、ここまで来ると子供の口喧嘩でしかなくなっていたのだが、勝敗の判定基準が『どちらかが黙らされて言い負かされた“と見えること”』という相手側の反応次第でしか勝ち負けが存在しない口喧嘩でしかなかったからこそ、双方共に退きようがなくなってしまっていたのだった。

 

 また互いに、一主権国家の代表候補という立場にある以上、相手国の代表に嘗められたまま引き下がるわけにはいかない国内での序列という問題もある。

 同じやり取りを、子供同士の言い合いとして行っているなら「何をバカなことを」と笑って済ませる大人たちも、それが国家同士の言い合いとなると途端に大儀だの面子だのと言った言葉で行為は正当化され、子供の言い合いは正統議論として大人たちの間でも激しく意見が交わされるようになるのは、今という現代でも遙か未来の銀河系でも変わることはない。

 

 それ故にセシリアと鈴の言い合いも、二人の言い合いとしてだけで済むなら誰も問題視することなく失笑されるだけで終わるかもしれなかったが、誰かが『相手国の第三世代ISに自国の第三世代ISでは勝てぬと思ったから逃げた』とでも言い出してしまえば、『第三世代機同士の性能勝負』から逃げたとされた方は地位を追われかねない危険性があったのだ。

 

 そのような事情を抱えているところまで共通して持ち合わせている二人の少女たちに、もはや自分の方から引き下がることは不可能だった。

 

 もしラウラが、欲求をため込んだまま発散できない状況を維持しつつ、セシリアも鈴もラウラにとって『目障りな男からの寵愛』を奪い合っての戦いという図式であったなら、彼女たちの戦いは横やりによって、結果的に決定的な破滅を免れたかもしれなかったが、シェーンコップとの戦いで一端満足したラウラは大人しく部屋で過ごすため寮へ帰ってしまった。

 邪魔者が入らなくなってしまった状況だからこそ、二人の戦いは最後まで貫くしか道がなかったのだ。

 

 

 ――警告! 敵IS射撃体勢に移行。トリガー確認、初弾エネルギー装填。

 

 鈴の目の前にウインドウが現れ、文章が表示される。

 だが彼女は、それを見ようとはせず、だが素早い挙動で展開したばかりの専用IS《甲龍》を即座に動かし、回避機動を取らせる。

 

 上に、である。

 キュインッ! という耳をつんざくような独特の音が響くと同時に閃光が走るのに併せて、天頂方向へと跳躍することでブルー・ディアーズの初弾を回避してのけたのだ。

 

 だが世界初のBT兵器を有する《ブルー・ディアーズ》を相手に、その選択は愚策だ。

 遠隔操作が可能な自立機動兵器であるフィン型のパーツであるビットを用いて全方向から攻撃が可能なBT兵器にとって、全ての方向に遮蔽物の存在しない空中こそホームと言っていい。

 対して鈴の甲龍がもつ空間圧作用兵器である《衝撃砲》は、砲身斜角にこそ制限無しで撃てるものの射程が短く、遠距離射撃を得意とする《ブルー・ディアーズ》には距離を置かれると不利になる装備を切り札としている。

 

 自分の方が不利になる戦場へと、鈴は初手から飛び込んでしまった愚かな選択。普通であればそう考えるのが正しかっただろう。

 だが――、

 

「ふふん。初撃から開幕直後の先制攻撃なんて、分かりやすいと思ってたけど、あんたの場合は意外に有効な手じゃないの。見直したわ」

「・・・・・・ちッ」

 

 小さく舌打ちをして、表情を歪めて己の不利を悟らされたのは、不敵な笑みを浮かべる鈴ではなく、ライフルを構えて発砲した直後のセシリアだった。

 額と頬には僅かに汗が浮かんでおり、その表情には余裕が乏しい。

 

 続けて、二射目、三射目と撃ち続け銃弾の雨を降らせようとするも、鈴がそれを許さない。両端に刃のついた青竜刀と呼ぶには異形すぎる形状の斬撃武装《蒼天牙月》をバトンのように振り回しながら迫り来る相手に、一時後退を余儀なくされる。

 

「・・・・・・随分と、わたくしの戦い方と機体性能について深くご存じだったようですわね。たしか、ご自分の国以外のことは興味がないと言っておられたように記憶しているのですけど?」

「ええ、もちろん。当然でしょう? 単にあんたの動きがパターン通りで読みやすいってだけのことよ」

 

 鈴は相手からの言葉をはぐらかすように、わざとらしい挑発を返事として返すが、嘘である。

 セシリアは以前、鈴の口から『アンタのことは名前も知らない。自分の国以外に興味はないから』と言われたことがあり、そのときに酷く不愉快にさせられたことを語ったわけだが、鈴の動きはどう見ても『自分と一夏が戦った時の映像』をよく検証した結果としか思いようがない代物だった。

 

 そして事実、鈴はセシリアのこともブルー・ディアーズのことも、出会う以前から知っていた。知っていて知らないフリをすることで、ブラフとして使っただけだったのだ。

 鈴とて、国家代表候補生にして第三世代ISの操縦者に選ばれた身だ。自信もあれば自負もある。

 相手を見下すこともすれば、傲岸不遜とも思える態度で接することも少なくはない。

 

 だが、だからと言って『敵の情報を一切調べない』などという怠慢をしたいと思ったことは一度もない。見下しと油断は別のものだからだ。見下すが故に相手については深く調べる。

 格下の敵と見下すからこそ、思わぬ一撃を食らって格下相手に不意を突かれるのは恥以外の何物でもないのだから当然のことだ。

 

 ・・・・・・もっとも、初見の映像視聴では思い人の活躍にばかり目と意識を持って行かれて、相手の方に頭を向けることが出来たのは幾度かの再放送を見終えてからだった事実は、誰にも知られることなく知らせる気もない鈴だけの秘密として墓場まで持って行くつもりの真実でもあったが・・・・・・

 

 

「あんたの第三世代武装、ビットって言うんだっけ?

 やっぱり使っている最中は自分が動けなくなって、自分が動くときにはビットの方は使用できなくなるって情報は事実だったみたいね。

 それだと空中にいて狙いやすい、あたしを撃つため使ったところで急速接近されて切り刻まれるのがオチ。と言って単発銃のライフルだけだと、あたしを捉えきれる程じゃない。違うかしら?」

「・・・・・・」

「ふふん、図星みたいね。だったら、あたしの勝ちは揺るがない。ブルー・ディアーズを使いこなせてもいない今のアンタより、あたしの方が上。それが事実だったってことよ!」

「・・・・・・・・・」

 

 相手に好き放題言われて唇をかみしめながら、それでもセシリアは反論することはない。

 出来なかったからだ。間違いようもなく、相手の言っている指摘は事実だったから。

 

「さぁ、次はこっちから行かせてもらうわよ! あたしをバカにした報いを思い知りなさいッ!! まずはジャブから!!」

「うっ! くぅ・・・!?」

 

 かけ声と共に接近中だった鈴の纏っていた甲龍の肩アーマーがスライドして開き、中心に球体が光ったと思うと、眼には見えない弾丸をブルー・ディアーズに向けて発射され、セシリアは慌てて回避行動を取って距離をできるだけ引き離すため躍起になる。

 

 こうなってしまうと、ビットを使用することは出来ない。今のセシリアでは自らの機動を止めない限りBT兵器で敵を攻撃することはできず、狙撃ライフルだけしか使用可能な装備がないと判っているなら鈴の側には距離を詰めるための引き出しは無数に存在している。

 

(く・・・っ、まさかこうまで今のわたくしと相性が悪い相手だなんて、予想以上でしたわ・・・・・・!)

 

 心の中で呻き声を上げながら、頭の中では必死に理論を構築して勝ち筋を見つけ出すため演算し続け、その間も正確無比な狙撃は実行し続けるセシリア。

 

 鈴からの指摘は正鵠を射ており、今の自分ではBT兵器とブルー・ディアーズの同時使用ができず、近・中距離両用型とはいえ、武装から見て特殊兵装以外は接近戦を重視している《甲龍》を相手に接近戦を挑まれるのは余りにも不利だ。

 最初の数撃は凌ぎきれるだろうが、後が続かない。接近された後で距離を取ろうにも初期ほど遠くに逃げられるとは正直思えない。

 

 また、空中というBT兵器にとっては狙いやすい戦場も、今のセシリアにとっては不利になる条件になってしまっていた。

 全方位から攻撃可能な空間ではあるが、逆に言えば全方位からのトリッキーな射撃を行うようビットたち全てをコントロールしなければならなくなる条件を課される場所だと言い換えることも出来るからだ。

 どれほど選択肢が多くとも、自分に選ぶことが可能な条件により選択の幅が狭まってしまうのでは、実質的に数少ない選択肢の中からしか選ぶことが出来ない貧民たちと大差ない。

 

 結果として、それはビットたちの動きに一定パターンを取らせやすくなる欠点を招いてしまうことを意味している。

 一夏との戦いの中で彼に見抜かれたのは、そういう条件付けがセシリアの操るビットの動きを制限させてしまったことが原因だった。

 

 一夏に対して、得々と自慢のビットとBT兵器についての説明を長々としてやっていたのも、半分は自分の性格故のものであったが、残り半分は『余裕を示して説明してやるために動かない』という偽装目的が混じってのものだった。

 だが、そこまで読まれてしまった後らしい相手に、同じ手は全く通用しそうにない。

 

「へぇ、よく躱すじゃない。砲身も砲弾も目に見えないのが特徴の衝撃砲《龍咆》を、一夏に続いてアンタにまで躱されるなんて・・・・・・ちょっとプライド傷つくわね、本当に!!」

 

 苛立ったように叫び声を上げながらも、攻撃そのものは沈着冷静を極め、出力を下げることで単発仕様の武装をマシンガンのように連射してくる使い方で『ジャブ攻撃』を続行し続ける。

 

 セシリアの側が、ライフルでしか反撃しようがないことを知った上での武装選択だった。

 互いに射撃武装である以上、射線はあくまで直線でしかない衝撃砲だが、斜角が自由で弾丸が見えない以上は一発ずつの単発式ライフルしか事実上の有効打になり得ない相手に対してなら手数で押し切ることが可能になる。まさに、『ジャブ』という訳だ。

 

(世界初のBT兵器を搭載したブルー・ディアーズが、中国製の甲龍ごときに後れを取っていると言うことですの・・・!?

 ――いいえ、韜晦しても意味はありませんわね・・・。

 わたくしが、ブルー・ディアーズを使いこなせていないから、ビットを上手く操れない・・・それがわたくしにとって最大の弱点・・・・・・そういうことなのでしょう)

 

 セシリアは心の中だけとは言え、自身の未熟さと弱さ、そして『無能』を認めて、深く恥じ入った。

 

『出来もしないことを、やる前から『出来る』と大言壮語して失敗した途端に言い訳を並べはじめる卑怯者にはなりたくないと、常日頃から思っておりますよ』

 

 ・・・・・・そう言って、自分にふてぶてしい態度で教えを請うてきた意中の男性の言葉を、セシリアは思い出す。

 実際、この戦いでブルー・ディアーズが甲龍に劣っているとしたら、セシリアの操縦技術故に『本来の性能と戦い方』を実現できていないこと。それこそが最大のネックとなっている部分だった。

 

 BT兵器に限って言えば、IS本体の射撃と連携して獲物を狩り場へと追いやる戦い方が有効打になりやすいのがオールレンジ攻撃というものだ。

 ビットで狙い撃つため、ライフルで狩り場へ追いやるよう誘導するか。ライフルで撃つためビットたちに敵機を追いやらせるか。どちらかを好きな時に好きなように選べるようになれば選択肢の幅は大きく広がる。

 だが現状においてセシリアの力では、どちらか片方の機能しか使うことが出来ない。

 

 BT兵器専用IS《ブルー・ディアーズ》と、射撃専用IS《ブルー・ディアーズ》の2機を個別に使い分けて戦っている。それが今のセシリアが置かれている状況だったのだ。

 

 操縦者であるセシリアの能力向上に応じて、性能と選択肢を飛躍的に高めてくれるBT兵器搭載機《ブルー・ディアーズ》は、使い手の成長に対応できるよう上限を高く設定されている機体であったが、そのぶん使い手のセシリアが弱いうちは上限の半分にも満たない数字までしかスペックを発揮することができない、未完成の機体だった。

 

 対して鈴の甲龍は『実用性と効率化』を主眼に開発された機体のため、現時点で既に高いスペックを有する第三世代機として完成していた。

 少なくとも現時点では、鈴の甲龍の方が完成度において、セシリアが操るブルー・ディアーズより上回っていた。それが事実だった。どうしようもない。

 操縦者の能力が反映しすぎるブルー・ディアーズと、操縦者の技量が性能面には差して影響しない甲龍。未熟者同士が戦うときに使う機体としては、甲龍の方が上だったのである。それを認める。

 

 認めたからこそ―――もう、躊躇うことは何もない。

 

「ああもう、いい加減に落ちなさいよねアンタ!? いつまでも逃げられないんだから、そろそろ潔く諦めなさいっての!」

「そうですわね―――では、フィナーレと参りましょうッ!!」

「――ッ!?」

 

 突然に動きを豹変させたブルー・ディアーズの挙動に、追撃する鈴が目を見開く。

 動きを止めたからだ。

 完全に空中に停止して、手足こそ動きはすれども機体本体に動く気配は一切見られない。

 

 それは間違いなく――第三世代武装を使う合図ッ!!

 

「さぁ、踊りなさい。わたくしセシリア・オルコットとブルー・ディアーズが奏でる、出来損ないのワルツを、あの人の為にッ!!」

「――っ、正気なの!? 使えば防御がガラ空きになるだけだってのに・・・! ああもう、面倒くさいわね! アンタらって奴らは本当にィッ!!」

 

 相手の行動に訳が分からず、「自棄を起こした」と解釈した鈴は、相手の都合に構うことなく機体を突貫させ、そのまま強引に勝負を決する方向へと持って行くことを決意する。

 今までの戦闘で自機も、それなり以上にダメージを蓄積させられており、下手な回避機動でマグレ当たりさせられるリスクを背負い込むより、多少のダメージを食らってでも確実に勝負を決することを優先すべきだと確信したからだ。

 

「左肩、いただきますわッ!」

「ハァァァァッ!!」

 

 雄叫びを上げながら、大型ブレードを振り上げつつ迫る鈴。

 セシリアのブルー・ディアーズからは、自立機動兵器ビットが本体から離れて発進していたが、それらには構わず敵機めがけて真っ直ぐ自機を直進させた。

 

(警戒すべきなのは、映像で見た本体に残ってる二本のミサイルビットのみ! あれを堪えきって切りつければあたしの勝―――なにッ!?)

 

 相手に切りつけようとした寸前、ウインドウに表示された信じられない表示を見て、鈴は慌てて片腕を下ろして攻撃と止めて、攻撃を防ぐ。

 

「ぐぅっ!?」

 

 キュガインッ!!と、独特な音共にビームを食らい、装甲の一部がはじけ飛ぶ。

 有り得ない・・・鈴は、そう思わざるを得なかった。

 

 たしかに距離は詰まっていたし、自分も攻撃に集中してはいたけれど・・・・・・それでも映像から分析したセシリアの使うビットの攻撃機動は完全に読み切っていたはず!?

 

(なのに何故!? さっきの一撃は過たずに、回避行動を取った左肩に直撃コースを取られていたの!?)

 

「このブルー・ディアーズを前にして、初見でこうまで耐えられたのは、あなたで二人目ですわ。

 正直、短時間でこうも続かれると自信をなくしてしまいそうですけど・・・・・・わたくしにだって意地ぐらいはありましてよ!!」

「くッ!? またかっ!!」

 

 再び発射されるブルー・ディアーズに、再び回避行動を優先させる鈴。

 敵にトドメを刺してしまう方が早い、そういう気持ちも無いわけでは無かったが、もし外れた場合に有利な状況を覆されないためには衝撃砲の存在は必須であり、破壊されるわけにはいかない。

 

 衝撃砲以外のパーツであれば無視して勝利を狙ったところだが、第三世代機持ちに共通する悪癖として、自機だけが持つ特殊な武装を重要視しすぎて特別扱いしてしまいやすい心理的偏向が見られるのだ。それは鈴も例外ではなかった。

 

「またっ!? なんで!? どうして、一体なんで避けられないのよコイツらは!?」

 

 鈴は混乱させられながら、本国のスパコンや解析班も動員して調べ尽くしていたはずのIS学園専用機持ちの同級生が有する能力と戦い方を、常に一歩以上先回りされてしまい、避けきったはずと思っていたところへ射撃が来るという原因不明の現象に理解が及ばず、文字通りブルー・ディアーズの奏でるビームの雨の中を踊るように逃げ回ることしか出来ない状況に陥らされてしまっていたのだ。

 

 

 ――鈴がセシリアの使うビット攻撃の射撃機動を、完全に予測できたつもりで避け切れていない理由は、実は初歩的な誤りがあったことが原因だった。

 

 鈴は、セシリアが一夏に向かって初陣で使用していたビット攻撃の機動から、セシリアの癖を読み取って、解析班も一夏の動きに対応して動くビットの機動を分析して完全にデータ化できていたと思っていたのだが。

 

 そもそも一夏が、あの戦いの序盤でセシリアからの攻撃を幾度も躱し続けることが出来ていたのには、彼自身の技量やISの性能の他に第三の要素が介在した故での結果だった。

 

 

 それは、『既にファースト・シフトされている』という前提でセシリアが放っていた射撃が、実際には最適化途中であった《白式》の反応と操縦者である一夏との間で齟齬があり、予想外の動きをしていたことや一部にデタラメな機動が混じっていたことが原因となって『偶然で外れた弾』も一定数は存在しており、その都度即興で計算し直して操作していたセシリアのビット操作も通常のものとは異なるものになってしまっていたことだ。

 

 

 そのせいで一夏戦におけるセシリアのBT兵器による攻撃は、通常の相手と戦うより命中精度という点では低下していたのが実情だったのだが、機体そのものが『革新型試作機』という意味合いを持つ名を与えられた完成して日の浅い存在であったこともあり、中国側のデータ収集班が回収に成功した資料の多くが一夏戦のときのものばかりに偏ってしまったため、セシリアのブルー・ディアーズを操る能力に関しては低く見積もった数値で試算してしまっていたことに終ぞ気付くことがなかったのが、鈴が今陥っている窮状の真相だった。

 

「く・・・、そォ! この! あたしが! なんで・・・ッ!!」

「ハァ・・・ハァ・・・二十八分、五十六秒・・・・・・よく保った方でしたわね・・・・・・本当に・・・」

 

 必死に逃げ惑いながら致命傷を回避し続ける鈴と、疲れ切った身体でビット操作のみに全ての意識を集中させるセシリア。

 一見すると、最初からブルー・ディアーズを使っていれば相手の予測を超えて勝つことが出来たように思えるかもしれなかったが、そもそも鈴が必死に攻撃を避けなければいけなくなっているのは今までの戦闘で蓄積されたダメージに上乗せされることを恐れてのものであって、当初から見せられていたなら初期の時点でダメージを多くもらっても以降は対応と対処が可能になり、ビットの優位性は失われる。

 

 戦いの序盤で追い詰められながらも抵抗し続けたことが、結果論として今に至る布石となることが出来ただけだったのが、今回の戦いの顛末だった。

 ただの偶然でしかない優位性であり、反撃成功だったのだ。どこまで行っても運によって得た結果でしかない。

 むしろ計算と分析という点では鈴の方が上回っていたと言っていい結末。

 

 だからこそ、この結果と決着は必然でしかなかったのだろうな・・・と。セシリアもおぼろげながら思って、受け入れることが出来そうだった。

 

 

「・・・・・・へ?」

 

 ――突然、降り続いていたビームの雨が止んで、ビット達が光と共に消えてなくなり、遠くの方で何かがバタリと倒れた音がしたので視線を向けると、装甲が消えてISスーツだけになった姿のセシリアが地面に倒れ伏したままピクリとも動かず、いつの間にか野次馬達が集ってきていたアリーナ内に静寂が戻ってきたことを、ようやく鈴は知ることになる。

 

 

「えっとぉ・・・・・・もしかしなくても、コレって・・・・・・エネルギー切れで自滅した、って事・・・・・・?」

『・・・・・・・・・』

 

 

 鈴は呟くように聞いたが、残念なことに答えれる知識と状況判断能力を有している人間は、今この場には一人もいないようだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

「う、ぁ・・・・・・」

 

 ぼんやりとした意識の中で、セシリアが目を覚ましたのは夕暮れが迫りつつある時間帯の保健室にあるベッドの中だった。

 

「ほぉ、気付かれたようですな。フロイライン・オルコット」

「・・・シェーンコップ・・・・・・さん・・・・・・?」

 

 ベッド脇の椅子に座して、美丈夫の男が自分を見つめながら不敵そうな笑みを浮かべている姿を見つけ、どうして彼がここにいるのかと疑問に感じ、そもそも自分が今いる場所がどこかも分かっていない自分自身に気付いて質問が止まり、口だけが半開きになったまま寝起きと疲労で上手く働かない頭に、優しげな『父親のような声音』で異性の同級生から声が届いてくる。

 

 

「いやなに、本当は少し前からアリーナには到着していたのですがね。

 あなたが自分の勝負に勝つまで邪魔するのは無粋と思い、観戦させてもらっていたというわけです」

「・・・それはまた、随分と・・・・・・お優しくないんですのね。相変わらず・・・」

 

 疲れた身体でクスリと笑い、助けられたところを助けようともしてくれなかった男に微笑みを返しながら、

 

「・・・格好の悪い戦いを、お見せしてしまいましたわね・・・・・・強さも優雅さもどこにもない・・・ただただ無様なだけの戦いぶりを・・・・・・」

「まぁ、そうですな。あの戦いは決して褒められたものではなく、順当通りにいっていたとしても凰の方が勝っていたでしょう。あなたは只、運に助けれて最後だけ勝負になる事が出来た。それだけです」

 

 容赦なく、社交辞令もなく、気遣いの世辞もなく、哀れみもない。

 いっそ清々しいほどに事実だけを告げてくるシェーンコップの言葉にセシリアは、いつも通りの彼を見いだし微笑ましい気持ちを抱きつつも―――やはり心の中の女の部分は、彼のそういうところに一抹の寂しさを感じずにはいられない。そう思っていた。

 

 そこへ―――

 

 

「とは言え、“今回の戦い”では、ナイスファイトでした。

 次には、期待以上の結果を期待させていただくとしましょう。永遠ならざる栄光のためにね」

 

 

 ―――ああ、まったく。

 こういうタイミングで、こういう言葉を言ってきてくれるから・・・・・・この男は『卑怯なんだ』と、セシリアの年齢と性別では、そう思わずにはいられない。

 

 

 そんな放課後を過ごした翌日の早朝。

 IS学園執行部からの告知として、『凰鈴音とセシリア・オルコットのトーナメント欠場』が決定された旨が全生徒に向けて伝えられる。

 

 『疲労困憊による体調不良』と、理由は説明されていた。

 

 

 

つづく

 




注:最後の決定は面倒事を嫌った学園執行部が口実に使った暗喩です。

特にセシリアは、欧州のイグニッション・プランに候補となってるディアーズ型でしたので、ドイツのレーゲンとフランスが参加する大会に出られると結果によっては面倒くさくなると考え、口実さえ得られたら外したい。
そういう思惑と本人たちの心情が重なった結果と解釈してもらえたら助かります。
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