ISドライロット~薔薇の騎士の転生録~ 作:ひきがやもとまち
本当なら久しぶりに相応しい、アッと驚かれるような戦い方とか書きたかったんですけど、アイデアは都合よく出てくれなくて…。
その分をストーリーで補えるよう努力しました。楽しんで頂けたら嬉しいです。
セシリアと鈴が訓練中の諍いに端を発する私闘がおこなわれた翌日の昼頃。IS学園は執行部から全生徒宛の通達として、『学年別トーナメントまでの私闘一切を禁じる』という宣言を発した。
遅まきながら、精神が未熟な年齢の少女たちに国軍をも相手取れる超兵器の使用権を自由意志だけで委ねてしまっている状況の危うさを少しは自覚したのが、その理由だった。
千冬個人としては、『望むと望まざると与えられた地位と力に責任を持つのは人として当然』という認識を持っていたし、まして『望んで得た力と地位』というなら尚更だとも感じている人間ではある。
だが、感情に流されやすい相手の未熟さを承知しながら、都市をも破壊できる機動兵器を『本人の意思だけで使用するか否かを決定できる権限』を同時に与えておきながら、校則というルールだけで規制し、破った者には罰を与え、その使用にシステム上の制限すら掛けようとしなかった自分たち指導側にはなんのお咎めもなしというのでは、些か無責任すぎるかもしれないと今更ながら自覚したのである。
力と責任を与えるからには、その相手を選別して力を与えると決める側にも任命責任があって然るべきであり、そもそも私的な理由でISを使用することがないよう教育指導して一人前に育て上げることが千冬たち教員側の勤めであり義務でもある。
一方的な責任押しつけは教育者側の怠慢を招くのみと考えた彼女は、限定的ではあるものの今回の決定に踏み切ることで、抜本的な法制度の微調整のための足がかりとしてIS委員会に奏上しようと考えたのだ。
とはいえ、抜本的な法制度の改正が必要となる事案であることから、現時点では今回限りの処置でしかなかったものの、この事件以降トーナメント当日まで問題視される事案は発生することなく、無事に開催当日を迎えられることになる。
――だが一方で、コレとほぼ同時に決定されたルール変更が、主にIS学園女子生徒たちの間で物議を醸すことになってしまい、トーナメント当日まで問題は起きずとも騒がしい日々が続くことになる現実は変わることはなかった。
「・・・『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組む者とする。締め切りは――』・・・・・・って、なんだコレ? いったい・・・」
一夏は手渡された緊急告知を伝える紙切れの内容を、声に出して途中まで読み終えてから、思い切り訝しげな表情と声で疑問を発していた。
今一、書いてある内容の意味が分からなかったからである。
トーナメントの試合方式が変更されたこと自体は理解できたのだが、そうした理由が分からずに首をかしげずにはいられなかったのだ。
ルール変更したという結果だけを一方的に通達され、その理由や意図には一言も触れられていないというのでは彼でなくとも困惑ぐらいするのが当たり前の反応ではあったろう。
だが、シャルルとの訓練後に休憩していた一夏のもとへ緊急告知文を持ってきて「話がある」と言って連れ出した後。
優雅な手付きで手渡してくれた友人は、『上の都合で決まった決定を押しつけられること』には慣れがあり、さほど気にした様子もなくサラリと皮肉気な笑みを浮かべるだけで受け入れてしまったようだった。
「さてね。おおかた先月の一件で危機感を煽られた連中が騒ぎ立て、火消しのため上層部に意見具申した調整屋タイプの幹部でもいたのではないかな?
『これこの通り自衛能力の強化によって警備体制は万全です』と。
予算の消化を気にする官僚どもや、心配性な部下や上司にPRしておく必要性でも感じたのだろうよ」
組織の上層部や中級官僚たちへの偏見と侮蔑を隠そうともせず、学園執行部側の思惑と裏事情について平然と推測を述べるシェーンコップの毒に満ちた見解に、一夏とシャルルは年頃の少年少女らしい僅かに鼻白まされた仏頂面で応じたが、あながち間違った予測という訳でもなかった。
――IS学園は先月の無人IS襲撃に関して、公的には『反政府勢力からの襲撃』と説明している。
この説明に疑問を感じ、敵対国による第三世代機を狙った仕業だったのではないか?と互いに疑惑の目を向け合う者が多くいたのだ。
これは些か皮肉なことに、撃退した無人ISの解析を山田真耶に依頼した、織斑千冬の決定も影響を与えてしまっていた。
彼女は鹵獲した敵ISコアを解析した結果から、敵が無人機であったことを知らされた後、箝口令を敷いて真実を隠すよう後輩の女性教諭に指示している。
人が乗られなければ動かせないはずのISが、機械操作で可能ということになれば、野心を刺激される者が現れても不思議はなく、仮にそこまで至らずとも『そんな物が存在する』と知っただけで良からぬ目的での使用を考える者は大勢いる。
コアそのものは破損して、修復は不可能な状態ではあったものの、コアそのものは未登録のものが使われていた以上は、『無人IS探し』から『無人IS制作者捜し』に目的が変わるだけで、起こりうる事態が同じとあっては千冬としては何の慰めにもなりはしない。
最悪の場合、『女性しか起動できないはずのIS』が無人でも動かせると知られてしまえば現行の女尊男卑社会は根底から崩壊しかねない・・・・・・そうなる危険性を懸念したが故の判断だった。
遙か未来で開発されるゼッフル粒子の貯蔵庫に花火を放り込むが如き事態になるのは避けるべきが正しい対応だったろう。
・・・ただ、その結果として各国を完全に納得させる説明が不可能になってしまったことは、神ならぬ人の身の現界と呼ぶべきものだったのかもしれない。
ただでさえ今年は例年より、第三世代機を与えられた代表候補生たちが多く学園には集まっており、IS学園側は常にも増して警備を万全にする義務が生じている。そこに来て今回の事件である。
たかだか『反政府勢力ごとき』に、学園始まって以来はじめての襲撃を許してしまった学園執行部側の事情説明に、各国首脳陣が納得しかねるものを感じてしまったのは無理からぬ反応ではあったのだ。
そういった裏の事情までは一夏は知らず、シェーンコップもいちいち口に出して説明してやる手間を掛ける気はなかったものの、聞かされた説明だけでも一夏には納得いかない部分が一つあった。
「でも、それならIS学園が警備の先生を増やすなりして対処すればいいじゃないか。なんで俺たちを強くするためのルール変更で対応しようとしてるんだ?」
「それだと、金が掛かりすぎるからだろう?」
またしてもアッサリと答えを返されて、答えの内容から仏頂面になるしかない、苦学生としての過去を持つ織斑一夏。
そんな彼を見下ろし、隣に座って微妙な表情で反応に困っているシャルロットと等分に眺めやりながら、シェーンコップは少しは面白い事態になってきたことを内心では歓迎していた。
正直、今の一夏やシャルロットでは単独でラウラを相手取るのは難しいだろうというのが、彼から見た双方の戦力分析の結果だったからである。
一夏は土壇場での発想力と粘り強さがあるが圧倒的に経験が不足しすぎており、接近戦武装しか持たない愛機で相性の悪い敵との距離を詰めるための引き出しを、今のところ持ち合わせることが出来ていない。
一方のシャルロットも、機体の世代差から来るパワー不足は如何ともしがたい。途中経過の試合運びでは優位に立てる可能性は高いが、最終的に戦場で立ち続けているのはラウラの方である確率が高い。
尤も、この決定によって今は他人のことより自分の問題として悩むべき事案が生じてしまっていたのがシェーンコップでもあったわけだが・・・・・・
「――そういうシェーンコップ君は、ペアを誰と組んで参加するつもりなのさ?
“僕たちは”そうなった時には、一夏と組むって決めちゃってたけど、君の方はこれからなんでしょ? 組んでくれそうな相応しい相手の人っているの?」
「・・・・・・え?」
やや細めた瞳で横目で見上げてきながら告げられたシャルロットの小声と、それを隣で聞かされた一夏からの意外そうな呟きが印象的であった。
学年別トーナメントが一対一からペア戦へとルール変更された現状、シェーンコップの相方になりそうな選手の最有力候補はセシリアだったが、彼女は先の模擬戦の結果、機体の損傷が激しすぎて短期間での完全修復は不可能と言い渡されてしまっており、今月末のトーナメント出場は諦めざるを得なくなっていたため、候補からは既に除外されている。
「そうだよね? 一夏。僕たち“二人の秘密を知られないため”には協力した方が効率いいし、二人一緒に行動してた方が何かと都合もよさそうだって、昨日言ってたでしょ?」
「え? あ、ああ・・・・・・そうだな、うん。シャルロットの言うとおりだ。俺の方はシャルルと組むって決まってるから、後はシェーンコップの方だけが問題なのか・・・」
異論ありげとまでは言わないものの、やや疑問があったらしい一夏に笑顔を向けて、押し切ってしまったシャルロットの論としては一理ある言い分に苦笑しつつ。
同盟軍随一の色事師としてベッド上での戦場で勇名を馳せ、不良中年としても夜の街で知らぬ者は少なかったシェーンコップは、一夏を通して遠い未来に生まれ来るかも知れない自分自身の血を引く娘と、忠誠を誓った上司の養子となる少年の将来について思いを馳せる。
(・・・存外に、シャルロット嬢はカリンと似たところがあったようだな。坊やも、女の尻に敷かれる夫婦になりそうで結構なことだ。
あるいはユリアンもカリンとの間で、そういう結婚生活を送っているのかもしれん。
提督のときはグリーンヒル少佐だったが、子が親に似るものであっても、妻が義母に似るとは限らん事だし)
そう思いつつ、仮にそうなったとしても悪いことではなかろうと考えた彼は一人納得して反論は差し控えさせてもらうことにする。
――シャルロット嬢の魅力的なヒップラインに敷物にされながら送る夫婦生活というのも、一夏にとっては悪いものではないだろうと、勝手に決めつけられてしまった結果と知っていたならば、流された方としては逆に蒸し返したい欲求に駆られたかも知れなかったが、実際に口に出したのは別の話題に対する答えだけだったため、議論が拡大することはなかった。
余談だが、この件に巻き込まれる形で出場を断念させられた一人いる。
中国代表候補の凰鈴音だ。
彼女の機体は、試合内容の内訳から《ブルー・ディアーズ》よりも損傷が浅かったが、操縦者自身の負傷と、損傷が機体に与えた影響が確認できていないため『絶対確実とまでは保証できかねる』とする本国開発メーカーの主張を取り入れる形で、中国政府から鈴に対して今回の出場は見合わせるよう直々の命令書が届けられてしまったからである。
中国政府としては、世界初の男性IS操縦者が操る機体に勝利したイギリスの《ブルー・ディアーズ》と戦って勝てた時点で面子を守れた形となり、ドイツの最新型である《シュヴァルツェア・レーゲン》と戦って自国の最新鋭機が万が一にも敗れるような『恥』をかくことを嫌ったのである。
イギリスの《ディアーズ型》が棄権となったことで、イグニッション・プランによる次期主力機はドイツの《レーゲン型》でほぼ確定したと言っていい状況。
この段になって、万全でない状態で挑んだことが敗因となって敗北を喫するような事態は、中国として避けたかったのだ。
鈴としては怒髪天に昇る思いであったが、政府の決定に逆らって独断で大会参加を決められるほどには自分の地位権限は高くない以上、従うより他に選べる道がない。
所詮、専用機も代表候補の地位も国が与えたものだ。書類一枚、サイン一つで、彼女たちには自分から与えられた全てを剥奪する権利と自由がある。
憤懣やるかたない思いを抱えながらも、押さえ込んで我慢する以外に鈴にできることは何もなかった。
「心配して頂けるのは恐縮だが、そちらは俺の解決すべき問題だからな。坊やたちは坊やたちで改善すべき自分たちの問題に取り組むことを推奨させて頂こう」
「・・・・・・僕たちの改善すべき問題って、なにさ?」
軽く片手を振りながら返された返答に、投じたつもりの爆弾が不発に終わったことを少しだけ残念に思いながらシャルロットは不敵で不遜な同級生に反論する。
彼女としては、これぐらいの反撃はする権利があっていいと思って言った言葉であり、ほとんど脊髄反射レベルでやってしまった行為だったため、後で振り返って赤面することになる状況だったのだが、現時点ではシェーンコップにやり込められてきた過去の蓄積と、己自身の意外に高かったプライドの方が優先順位として上だったことから、こういう返し方になってしまっていた。
「無論、ボーデヴィッヒ嬢と戦って勝てるようになることさ。
相手と戦うべき理由が坊やたちにある訳じゃないだろうがね。“ケジメ”は付けれるときに付けておかんと、後々まで尾を引くものさ」
それだけ告げてシェーンコップは少年たちに背を向ける。
話は終わり、と態度で示したのだ。
一夏たちとしては異論もあったり反論を言いたい気持ちもあったが・・・・・・一方で相手から言われたことの正しさも、本能的に理解させられずにはいられなかったから。
自分たちには確かに、ラウラと戦わなければいけない理由はない。
彼女には事情もあれば自分たちを巻き込むだけの正当な理由があるのかも知れないが、それは彼女の問題であって一夏たちが共有してやる義務がある訳では特にない。それが個人個人一人一人の権利と自由というものだろう。
・・・・・・ただ反面、どう理屈を付けようと、自分たちがラウラと戦って決着を付ける方向の話に持って行きたがっている気持ちも確かにあったのだ。
先に「そうしたい」と望む感情があり、その後に「感情の理由づけ」としての理屈が付与されているだけで、自分たちは彼女と決着をつけたい感情を互いに共有し合っていた。それが今ではハッキリと分かる。他者から指摘されて分かるようになってしまった。
「・・・・・・ちぇ、相変わらず見透かしたように言いやがって・・・。
でもまぁ、なんだかんだ言っても、俺はラウラと決着を付けたがってるんだろうな」
「うん、そうだね・・・・・・僕も別に彼女には恨みはないけど、何となく彼女とは戦っておかなきゃいけない気がする。
戦って勝ってからじゃないと、彼女との関係は先へ進めない・・・・・・そんな気がするんだ」
互いに前を向き合いながら決意を声に出し合って、一夏とシャルロットは対ラウラ戦に向けての特訓を今後の改善すべき自分たちの課題として設定し直した。
そんな彼らの元に、緊急告知文が書かれた紙を手にした大勢の女子生徒たちが大挙して押し寄せ、シェーンコップが「場所を変えた理由」を一夏たちが知るのは、この後すぐの出来事である。
「さて、坊やじゃないがパートナー選びはどうしたものか。
添え物がそれなりでなければ、メインディッシュも引き立たんのだから、なかなかに候補選びは難儀しそうだ」
ふてぶてしく、かつ図々しい言い分を呟きながら廊下を歩んでいたのは、一夏たちと別れた後のシェーンコップだった。
ISアリーナに向かいながら、頭の中に思い浮かべた候補者たちを次々と切り捨てながら、まだ見ぬ逸材でもいないものかと周囲にそれとなく視線を向けることも忘れていない。
彼としては、たかが学生同士の果たし合いゴッコに本気で勝ちたいと思っている訳ではないし、仮に勝てたところで量産機乗りが並み居る専用機たちを連戦連勝するのを不快にならず喜んで放置してくれる慈悲深き政治家たちが専制国家でなければいるはずだと思えるほどに民主主義を信奉しているわけでもない。
『頑張って仕事をするだけ無駄になる』という事実が、今の時点で確定している身分にある者として然程やる気を出す必要性は微塵もなかったが、生憎と現在の地球は女尊男卑のIS社会。
【コーヒーと女にだけは死んでも妥協したくない】というポリシーを持っているシェーンコップとしては、相方となる少女には見た目的にも能力的にも最低水準を超えるぐらいのものは要求したいところだった。
専用機持ちたちに勝るとも劣らない才能の持ち主を―――などと贅沢は言わない。
だが、専用機持ちたちに勝るとも劣らない『見目麗しい少女』という容姿は期待したい。
どのみち入学から半年も経っていない現状のIS学園1年生たちに、専用機持ちと量産機乗りという違い以外には然程の差はなく、幼い頃から訓練を施されてきたラウラなどの一部例外を除けば、機体性能がもっとも互いの差となっているのが事実でもあるのだ。
先に述べたシェーンコップの、ルール変更に対する推論も、その前提をもとに成立している。
2年生以上の生徒用ルール変更ならいざ知らず、大した実力差もない者同士ばかりが集まっている1年生まで同じルールを適用させて戦わせ合う理由など、政治的PR以外にはほとんど価値があるとは思えない。
(だが、コイツは見物ではある。坊やたちが今からの短期間で優るか、ボーデヴィッヒ嬢が先行ランナーの優位性を確保したまま逃げ切れるか。
どちらにしろ遠くから見物より、近くで見たい好カードだからな。それまでは生き残れるぐらいには心と器の広さを持った女性がいてくれれば有り難いのだが・・・)
再び身勝手極まりない男の理屈を、意識的に弄んでいるが故の配慮から声には出さずに心の中だけで呟きつつ。
シェーンコップは心とは別の頭の中で、一夏とラウラとシャルロットという今大会の優勝候補たちによる戦力分析を暇潰しがてらに考え始める。
――一夏は、ある意味でラウラとよく似た戦い方をしている。
ラウラが《AIC》に頼りがちなのと同様に、一夏は《零落白夜》での一撃必殺に頼りすぎてしまう傾向がある。
それしか武器がなく、姉も同じ武装を使っていたということから拘りたい気持ちは分からんでもないが、『自分がトドメを刺す戦い方』に拘りすぎれば一発逆転を狙える作戦ばかりに終始するようになるだけだろう。
如何に一夏が、『普通の攻撃だけで相手のエネルギーを削りきる』という順当通りの戦い方を会得して作戦に反映させられるか? そこが試合の焦点になるかも知れなかった。
――シャルロットは、今までの訓練風景から見て所謂『蝶のように舞い蜂のように刺す』という戦い方を目指しているものと推測される。
この戦い方は文字通り『蜂のように刺すこと』が出来なければ『蝶として舞っているだけ』になるしかなく、そして『刺す』という作業が、おそらくラウラ相手にシャルロット単独では届かせることはできないだろう。
敵からの攻撃を回避しつつ、順当通りの反撃で削り続けるしかなく、ラッキーヒット1発当たっただけでも大きく影響を及ぼすシャルロットでは最終的な勝利者になるのは難しい。
こちらも如何に『自分本来の戦い方ではない戦い方』が出来るようになるかが注目点になりそうだった。
一方で『ペア戦』となれば話は変わり、勝敗に関わる条件も変化する。
特にラウラにとって『一人が倒れても二人目が生き残れば勝利となる』ツーマンセルの試合方式は最悪なまでに相性が悪い。
彼女は自分の力を織斑千冬に見せることで、認められたがっている。戦ってみて、誰からの視線を意識しているのか察した瞬間に、それが分かった。
ラウラにとっては、『自分が』『千冬から認めてもらえる勝ち方』で勝利しなければ意味がないのだ。
その拘りと、対個人用と思しき《AIC》の性能という組み合わせは、タッグマッチの試合方式では致命的な弱点にもなりかねない。
彼女が『自分流の戦い方』をどこまで昇華し、『一対多』の戦いでも使えるレベルにまで引き上げれるかが勝負の分かれ目となりそうだったが果たして・・・・・・
「やれやれ、そう考えていくと、やはり普通の生徒では華が足りんな。ドラマ性に欠けていかん。
せめて大輪の彼女たちに劣りすぎない程度には、小粒でも味のある少女がいてほしいものだが―――おや」
視線を向けた先に一人の少女を見つけ、シェーンコップは不敵な笑みを浮かべてニヤリと笑った。
見た目の良さでも、戦う理由においても、ラウラやシャルロットたちに勝るとも劣らぬ、だが実力的には大きく目減りしていて専用機持ちでもない見目麗しい美少女が、まだ一人だけ残っていたことに気付かされたから――――
「・・・・・・で、なぜ私が貴様の訓練に付き合ってやらねばならんのだ? シェーンコップ」
不機嫌であることを隠そうともせず、篠ノ之箒は鋭い視線で相手の男子生徒を睨み付けながら問いを発する。
並の男なら、視線だけで震え上がって恐怖してもおかしくはない箒からの凶眼だったが、生憎と目つきと視線の鋭過ぎる敵や味方に慣れ親しみすぎてしまっていた、曲者揃いの艦隊に属していた過去を持つ男にとっては差して気になるほどのものでもない。
『視線だけで人が殺せそうな眼光を持った民間人』と『視線だけで人が殺せそうだが、トマホークを持てば更に多くの敵を殺せる装甲擲弾兵』となら、シェーンコップとしては後者の方の首を刎ねて盾に飾り付ける眼球に使いたい。
そんな原始時代の勇者が如き趣向を戦場では発揮するのが、シェーンコップという男の過去なのである。
彼から見て箒の鋭い眼光が、弱い自分を必死に守るため強がっている子供の防護壁モドキとしか思えなかったとしても、それが箒の責任になるものではなかったろう。
「いやなに。――アンタが力を欲してそうだったんでな。少し教育してやろうと親切心を抱いてやったのさ」
「・・・・・・なんだと?」
「“強くなりたい”のだろう? アンタは。“他の女たちに劣っている今の自分は捨てられる”、そういう不安に怯えている。だから力を欲して、こんな所で一人訓練していたのさ。どうだ? 当たらずとも遠からずと言ったところだったろう?」
「!? 貴様――ッ!!」
敢えて挑発的な言い回しのみを使って挑発したシェーンコップに対して、箒は当然の如く激高して身にまとっていた打鉄が持つ《接近ブレード葵》を掲げて斬りかかろうとする。
注文通りの反応に、相手からの攻撃を誘ったシェーンコップの方が思わず苦笑させられてしまうほど、素直で実直で正直すぎる情熱的な少女だった。
あるいは軍隊生活で擦れることを覚えたカリンよりも、真っ直ぐで素直なまま成長してしまっていたのが篠ノ之箒という少女なのかも知れなかったが・・・・・・人格的未熟さと剣士としての技量は必ずしも比例するものではない。
箒の打ち込みは確かに鋭く、そして速い。
また、完全に冷静さを失ったという訳ではなかったのか、防御型IS《打鉄》の特徴とも言うべき実態シールドを展開しながら突撃してくる。
おそらく、前回のラウラとの模擬戦、前々回の一夏との戦いなどを見てシェーンコップからの予想外な死角からの反撃を警戒してのものだったのでろうが・・・・・・これで防御策として充分と考えているようでは甘すぎる。
ガキィィッン!!!
互いの刃が交錯し合って鍔迫り合いが生じ、互いにの身体が至近距離で接近し合う!
今のシェーンコップがまとっているのは箒と同じく《打鉄》であり、装備も同様。同じ機体を使っている者同士での戦いならば必然的に技量で上回っている側が有利。・・・・・・少なくとも箒は、そう思っていた。
(そうだ! “相手よりも早く抜き放ち、その一太刀をもって必殺とする最速の瞬き”!!
私が理想とする剣の奥義!
『女が男を倒す』という精神の最終的ゴールさえ実現できれば、必ずや私は他の誰にも負けな―――なにッ!?)
鍔迫り合いからブレードの反りを活かして受け流し、相手の左側へと回ろうとして箒の眼前に信じられないものが出現したのは、その瞬間でのことだった。
砲だ。
打鉄に標準装備されたアサルトライフル《焔備》の砲口が、至近距離まで迫っていた自分の顔面めがけて発射態勢のまま構えられている。この距離では実体シールドも頭部を守る役には立たない。
「くっ!?」
カキィィッン!!
慌てて剣を弾いて距離を置き、仕切り直しを図ろうとする箒。
向き直った時には、相手の男はさっきまでと同じ場所に立ったまま自分のことを見つめてきており、その顔には不敵な笑みが浮かんだままだった。
――バカにされている!!
そう感じさせられた箒は、今度こそ一撃必殺の想いを込めて、手加減も躱された時のための二の手も気にすることなく、ただただ全力で自分に出せる全てのを一刀に込めて相手に向かって叩きつける!!
―――だが、しかし。
ガギィィィィッン!!!
再び互いの刃と刃がぶつかり合って、鈍い金属音を響かせ合った。その時には。
「・・・・・・なん、で・・・・・・」
再び箒の眼前には、アサルトライフルが構えられたまま鎮座されていた。
自分の一撃を受け止められて、その次の瞬間には片手だけでアサルトライフルが実体化されて至近に迫った箒の顔へ向けられてしまう。
・・・・・・これでは射撃が苦手で、接近戦でしか己の力を発揮しきれない箒に勝ち目などない。どう足掻いてもシェーンコップに勝てるヴィジョンが想像できなくなってしまった箒は膝を落とし、ガクリと地面に座り込みそうになってしまったが・・・・・・そこに声がかる。
「とまぁ、このように今のアンタは戦い方が、IS戦闘とまるで合ってない。
剣術の試合かなにかで腕を磨いてきたようだが、IS戦闘用に応用することが出来ていないのでは勝負にならない。今のアンタが彼女たち専用機持ちに決して勝てない所以だな」
そう言われてハッとなり、顔を上げる。
皮肉気ではあるが、無意味に悪意的ではまったくない映画俳優のようにハンサムな男の笑顔がそこにはあった。
「おそらくアンタの戦い方は、“ひたすら速さを磨いて敵より早く相手を斬ること”を目指したものだろう。
その為に、ひたすら“相手より速く抜くこと”、“相手の剣より速く相手を斬れること”その二つを極めるため重点的に訓練を行ってきたとみたが・・・・・・違うかね? お嬢ちゃん」
「・・・・・・その通りだ。どうして分かった? 名匠・明動陽が至った結論の一つを、なぜ・・・・・・」
「なに、似たようなことを考えつく奴は結構いるものさ。
まして『女が男に勝つ』を実現しようと思えば自ずと手段は限られてくることでもある。予想するのは大して難しいことでもない」
今度こそ箒は、自分がこの男に完敗させられたことを悟らされていた。
自分にとっての理想であり、特別な存在だったが故の名匠・明動陽が至った結論、その一つは彼女にとって神聖視されるほどに尊い教えであったが、それをこうも簡単に看破されてしまったのでは自分としては立つ瀬がない。
考えてみれば当たり前の結果ではあったのだろう・・・・・・明動陽はたしかに刀鍛冶としても剣豪としても一代の偉人であったが、『江戸時代の人間』であり、その後も数百年の歴史が今の自分たちが生まれるまでには流れている。
彼と同じ目標を目指し、彼と同じ結論に達した人間が他に出てきたとしても不思議ではない時間が流れた後が現在なのだ。
まして、箒たちが生きる現代日本にとっての江戸時代は、約250年以上前の古い時代だ。
帝国歴457年、宇宙歴766年に生を受けたシェーンコップにとって、自分自身や箒が生きている現代地球社会は1000年以上も時を遡った大昔の記録なのである。
彼が率いて不吉と言われた【第13代ローゼンリッター連隊長】という数字も、現在では世界的な三大宗教の一つと数えられている宗派の教えに絡んだ数字だが、シェーンコップにとっては【滅び去った古い宗教の開祖が13番目の弟子に裏切られた数】あるいは【不死身の化け物が出てくる伝説があった日】として伝わっているだけなのだから――。
「アンタが尊んでいる教えは、必ずしも間違いじゃあない。ただし、IS戦には通用しづらい。
人を斬る分にはそれでもいいが、ISには装甲があり、エネルギーを削りきる必要がある。パワーアシストもあるしな。
まして相手の方が出力が上だった時点で、押し返すだけでも精一杯になってしまい、速さがどうこうと言っている余裕すらなくなってしまうだろう。
坊やの《零落白夜》でもあるなら別だが、普通の機体でアンタが生身でやってる戦い方を再現しただけなら負けて当然だ。押し切れない」
そう言い切られ、箒は頭をガツンと金槌で殴られたような衝撃を受けた。
今まで考えたこともなかった思考法だったからだ。師の教えを守ること、師の教えを実践していくこと、師の教えを完璧に実現できるようになることが強くなれることだと、そう信じて今まで生きてきたのが彼女だったから・・・・・・しかし・・・・・・
(・・・考えてみれば私は今まで一度でも、ISを使った戦い方は、生身で使う剣術と違うかも知れないと考えたことがあっただろうか・・・?
“千冬さんは勝てた”只それだけを理由にして、今まで私は同じに出来ない自分の未熟さばかり責めてきたが、それこそ己が未熟を認められない自惚れと呼ぶべきものではなかっただろうか・・・?
“専用機さえあれば”と思うことは劣等感を感じていたからではなく、むしろ『道具の優劣以外に差はない』と断じる私の驕り高ぶりが言わしめた考えではなかっただろうか・・・?)
無数に去来する過去。今まで固執しながらも努力し続けてきた記憶。強さを求める飽くなき渇望。
様々に生じては流れ去る感情の渦が吹き荒れる中。・・・・・・最後に箒の中で生き残った一つの感情。
「・・・・・・頼む、シェーンコップ・・・・・・」
拘りはある。蟠りもある。
好いた男を叩きのめした相手に対する女としての悪感情は拭いがたい―――しかし。
「私に、IS操縦での勝ち方を・・・・・・・・・教えてください・・・・・・ッ!!!」
―――今は学ばなければいけない時だと。そう箒は理解した。
理解しなければ強くなれない。夢に届かない。
あの人の隣に並ぶことはできない!!・・・そう思ったから・・・・・・
学年別トーナメントに、篠ノ之箒がワルター・フォン・シェーンコップと組んでのペア登録をおこなったのは、この数日後のことだった。
つづく