ISドライロット~薔薇の騎士の転生録~   作:ひきがやもとまち

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昼頃に『先行投稿版』を出したヤツが完成したので差し替えました。
とにかく…疲れた! 寝たい…(グ~ZZZ)


第22章(完全版)

 IS学園を国内に有する日本政府は、条約によって学園内で得られた技術を加盟各国に公開する義務が定められており、黙秘や隠匿を行う権利は認められていない。

 一方で学園は、協定参加国の国籍をもつ代表者や専用機乗りたちを無条件で入学を許可する必要がある。

 各国の最新鋭機を有する候補生たちが、データ取りを目的とした生徒として集まりやすいのは、そのせいであるがIS学園内で彼女たちが得られたデータを加盟国全体の共有財産として公開されてしまっては開発国にとり意味がない。

 

 そのためIS学園では、形の上では認められている『治外法権』としての特権を用いて整合性をつけるのが常態化していた。

 半ば有名無実化している面が強いとはいえ、こと『IS新技術における試行』に関しては、ほぼ全面的にデータ提出を自主性に委ねられており、各国がデータ開示を免れながら実戦データを集められる唯一の場として重宝されているのだ。

 また、そもそも開示義務を定められているのは日本国であって、IS学園は治外法権の地ということになっている。

 

 ・・・・・・最初から、抜け穴を作られることを前提として定められた条約。

 遵守されることを前提としない法の制定は、外部からはそれと分からぬよう、複雑に折り重なった複層構造をしているのが常であり、敢えて適用範囲を曖昧にすることで条約逃れをしやすくなることを計算して決められるものだ。

 

 だが、法適用の曖昧化は、悪用する者たちに跋扈する余地と場をも同時に与える危険を孕むことにもなる。

 それがIS学園を世界最高戦力が最も多く集まる場所でありながら、最も犯罪が勃発しやすく隠匿や秘匿が行われやすい地へと繋がっていくことになる。

 

 これら社会上の疾患は時代を問わず間断なく発生し続けるもので、皮膚にほこりが付着するのを完全には防ぎ得ないのと同様に根絶するのは不可能に近い。

 また人類全体を一個の人体に例えるなら、それらは軽い皮膚病のようなもので、適切な治療さえ加えられていれば死因となる事態に至る可能性はまずあるまい。

 

 人の社会というものは、道徳と欲望を練り合わせたパンのようなもので、その形と味を維持するためには、ある程度の愚行という必要悪を内包せざるを得ないように出来ている。

 道徳ばかりが強くなった社会は潤いを失って、社会維持のために存続し続けるようになり、欲望だけが高まれば簡単に崩壊して形すら残せはしない事だろう。

 しかしそれが人の社会がもたざるを得ない宿痾であろうと、社会維持のため必須な必要悪だろうと、それらの社会悪によって犠牲者と被害が生じるのも必然的な事実ではある。

 

 無数の人間たちによって紡がれる社会という名の小宇宙は、初級の数学のように単純明快なものではなく、方程式で全てが解決できるものでもない。

 

 遙か未来の銀河系に築かれた帝国で、一人の男はこう言っている。

 

 

『誠意や愛情が、それを尽くされる者にとっては負担でしかない場合もある。

 “これだけの愛情を注げば”、“これだけの結果が返ってくる”・・・と分かっているなら、人生はなんと単純で明快なものだろう・・・・・・』

 

 

 また、彼の旧友であり裏切り者でもある別の男は、こういう言葉を残すことになる。

 

 

『戦争というヤツは元々、利益になるから存在するのだよ。利益を得る者がいるからこそ戦争が起きるのだ。

 誰一人得をする者がいないのなら、そんな社会上のシステムが存続できる訳もない』

 

 

 彼らの考えの内どちらが正しく、どちらかが間違いであるのか?

 あるいは――どちらの方が、無償の幻想でしかなく、単なるエゴでしかなかったのか・・・?

 それらは未来の出来事であり、その時代ごとに生きる人々に判断を委ねるしかないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・それは後に、『標準時』と呼ばれることになる人類発祥の星を基準として定められた24時間制において、夜に当たる時間帯を迎えている地域の一角で起きていた出来事だった。

 

「・・・・・・天災に感付かれただと? 間違いないのか!」

「間違いないっ、すでにラボ内のPCには軒並みトロイ型ウィルスで汚染され尽くしている。今からでは解除など不可能だ。逆にカウンターでハッキングされ、こっちの所在が知られるだけだッ!」

「クソッ! なんてこった! ようやく試作品が組み上がったばかりだというのに・・・!」

 

 嵐に襲われている小さな島の岬で、数人の男女たちが慌てふためきながら声を潜めて語り合い、一隻の漁船に身を隠すようにして乗り込んでいく。

 彼らの言葉は、今いる島とほぼ真逆の位置と時間帯を甘受している島国の言語とは異なるものだったが、言葉が通じずとも彼らの声が苛立っているものであることだけは地域を問わず察せられるものだった。

 

 太陽系第三惑星の小っぽけな青い星で発生した24時間単位での区分けは、実のところ故郷である惑星上でさえ唯一無二の基準に基づいているものではなく、体内時計は自転周期から1時間ずれた25時間単位で機能していた。

 生まれた地域ごとの昼夜に併せて各人が、生活習慣に基づく調整を行うことで適応していたのだ。

 

「どうする? どうすればいい? 騒ぎになれば警察もじきに嗅ぎつけてくるのは時間の問題だ・・・」

「ウィルス汚染された拠点に残っていた連中は、すぐに閉じ込められて出られなくなるのは目に見えている。とはいえ、たまたま警戒に出ていた俺たちだけではどうしようも・・・・・・」

「――ニホンだ。ニホンに行け」

 

 怒鳴りながら出航準備を進めていた数人の男女たちの鼓膜に、一人だけ冷徹そうだが冷静な声がかかる。

 彼らは一様にその人物を見つめ、自分たちと同じく着の身着のままに雨避けのコートだけを羽織った姿で脱出してきた、白衣を下にまとった人物に視線と意識を集中させる。

 

「ニホンにか・・・? だが、あそこは――」

「大丈夫だ。私に考えと当てがある。それにラボ壊滅をすでに確実とした以上、“天災”は逃げ出しただけの我々のことなど眼中にあるまい」

 

 メンバーの一人が口にした懸念への答えによって納得し、周囲の者たちも出航準備を進めるのを優先するため散っていく道を各々で選び出す。

 “天災”は、ことISに関連した施設や研究に関しては、理不尽なまでに無軌道な理由とタイミングで前触れもなく突然に猛威を振るってきては、研究機関ごとデータを抹消してしまうことも少なくない危険な存在ではあったが、過去に因縁のあった業界ではISや自分自身と縁のない事者に対しては極端に無関心だという共通点が経験則として知られている。

 

 たまたま騒ぎが起きた際、近くにいて巻き込まれた業界の者も少なくはないが、それは彼らが騒ぎに過剰反応して近づきすぎたため被害に巻き込まれたというものが多く、事件が発生した直近の場所にいて見逃された重犯罪者や麻薬組織というものも、公にならないだけで一定の数が存在していた。

 

 抗いようのない恐るべき力を持った存在の脅威、“天災”と呼ぶしかない圧倒的な存在は恐ろしいもののターゲットに選ばれる選考基準がある程度決められているならば、少しは安心して対応しやすくなるのが社会で生きてきた人の感性だった。

 また逃亡するにも資金は必要で、自分たちだけしか残っていない組織で再興が望み得るもない以上、どこかで金に換えられるものは換金して準備を整える必要はある。

 その点で、当てがあるというニホンへの渡航は渡りに船だった。

 

 不安がる心から少しだけ解放され、ハイになっているらしい仲間たちが緊急脱出用に隠し持っていた船を大急ぎで拠点のある島から離岸させる作業を進める中。

 

「クソッ! クソっ! 頭のおかしいキチガイ女め! 馬鹿なことばかりしか考えつかない誇大妄想のバカ女め!! よくも私の研究成果を・・・・・・クソがっ!!」

 

 仲間たちに日本行きを提案した人物だけが激しく荒れ狂い、血走った目で失われされることが確定した自身の研究成果を哀惜し、それを失わせた“天災”のガキみたいな屁理屈を思い出しては心からの憎悪にかき回される。

 

 ――人類は宇宙に行く・・・・・・そんな子供じみた妄想を語って、天災がISを世に出してから10年近く。世界中はずっとISに振り回され続けたまま何一つ代わることが出来なくなっていた。

 

 それもこれも全ては、単独で国軍をも相手取れる兵器の使用を、『個人の意思に委ねる』というシステムが課せられていることが問題の根源だった。

 人が己の意思で使っていい戦力である以上、その者の意思に気を遣って配慮した決定しか出しづらくなるのは当然のことで、兵器としてのISよりも、その兵器を預けられた個人の方がIS社会となった現在の世界では弊害となっているとしか言い様がない。

 少なくとも、この人物はそう考え、その問題を解決することを目指して研究をおしすすめ、遂に成果を出すに至った。その直後に今回の危難だ。

 何十の意味でも犯人にたいして、恨み辛みが募るのは仕方のない立場にある。

 

「兵器に個人の意思など持たせるべきではなく、背後から撃たれる恐れなく過酷な命令を出せるようになれば、IS社会はさらに発展するはずなのだっ!

 それを理解しようともせず、あのように下らない馬鹿げた話しか考えることも出来ない愚か者のイカレ女のために私の研究が不意になるとは・・・・・・!!」

 

 その呟きは、この人物がIS操縦者をISの一部として考え、ISを動かすためのパーツとして操縦者は存在すればいいと考えている自らの価値観を、過不足なく表現するものだった。

 同時に、その価値観に基づく研究が一定レベルの成果を上げられるまでには至っていたという証明でもある。

 

 

「――穢してやる。穢してやるぞ、タバネ・シノノノ・・・・・・!

 貴様が生み出した、あの無様で馬鹿なシステムを積んだガラクタを、私が産みだしたシステムによって穢し、ドス黒く犯し尽くして穢し尽くしてやる!!

 今に見ているがいい!! イカレタ天災、タバネ・シノノノ! 私の夢を奪った恨みを思い知らせてやる・・・・・・ッ!!」

 

 

 

 嵐の海を行く、外観とは裏腹な高性能さを備えた小舟の中で、体内に嵐を宿した人物が渦巻く悪意と恨みの念を、曇天の空に向かって投げかける。

 それは偶然であったのか、何者かの意図した結果であったのか、あるいは計算が狂った故の齟齬だったのか。

 

 その日は彼らが向かう先にある国で、それまでのシステムを一部変更し、全校生徒たち同士によるトーナメント戦をタッグマッチへと変更して実行される、その数日前の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 地球の反対側から目的を目指して船出した一団が旅立っていたより僅か後。

 日本では六月の最終週へと突入して、IS学園ではタッグトーナメント開催のための準備に当日ギリギリまで追われていた。

 

 最新設備が整い、毎日の清掃も専門業者に委託しているIS学園だが、さすがに機密だけでなく各国の重要人物も多く集まる行事などの際に、外部の業者に校内への入場を許可する訳にはいかない。

 このため常であれば、『IS操縦訓練により多くの時間を割くべき』とされている生徒たち自身の手で、会場整理などの雑務処理や来賓の誘導までをもこなさねばならず、それらの作業が終わって解放された足で、そのまま更衣室へと直行して試合用のISスーツの着用と機体セッティングへと駆けずり回る羽目に陥っていた。

 

「しかし、スゴいなこりゃ・・・・・・」

 

 そのような事情で慌ただしい女子生徒たちの姿を垣間見た上での感想――という訳ではなかったが、織斑一夏は男子更衣室に備えられているモニターに映し出された観客席の光景にたいして、ありふれた短い表現で感想を漏らしていた。

 将来的に数の増加を期待したものか、あるいは相手と同じものを用意するのが平等であると勘違いした結果なのか、現在は3人しか使用者の当てがない広々とした更衣室内で一夏は、相方であるシャルロット――否、シャルルと共に出番の訪れを待っている。

 

 モニターに映し出された観客席、特に来賓席として見物しやすい位置を確保されたスペースには、政治などには興味の薄い一夏でさえ見覚えのある蒼々たる顔ぶれが見て取れた。

 

 各国政府の関係者たち、大手研究所の職員、某有名企業のエージェント・・・・・・それ以外にも様々な顔ぶれが一堂に会している。

 謂わば国ごとの顔となる人物が集まっている状態で、その様子は確かに壮観と言えるものだっただろう。

 

 もっとも、それは地位や権威に高い価値を見いだす類いの人物であることが条件でもあり、遙か未来で民主国家救国の英雄と称されることになる黒髪の魔術師が見れば、ギョッとして同席をイヤがるだけだったかもしれない。

 その点で一夏の感性は、彼の英雄と似たものを有していたらしい。

 

「三年生にはスカウトが、二年生には一年間の成果を確認したいって人がそれぞれ来ている立場にあるからね。

 ボクたち一年生には今のところ関係ないとは思うけど、このトーナメントで上位入賞した人たちには、さっそくチェックが入ると思う」

「ふーん、ご苦労なこった」

 

 傍らに立って同じ光景を眺めやっていたシャルルから状況の説明を聞かされたものの、一夏にとって差ほど心動かされる要素はなかったらしく、気のない返事を返すのみ。

 それは対決を望んだラウラとの一戦に意識が集中していたから、という事情もあるが、根本的に一夏は他者からの評価や、他人から与えられた地位といったものに然したる価値を見いだせないタイプの少年でもあった。

 

 己自身がルールを破らぬことや筋通しを重んじる反面、社会規範やルールという規律そのもののを重視しているわけではないのが、織斑一夏という少年がもつ精神的特徴の部分だった。

 基本的に、自分が『人の道を外れた人間にならぬこと』に重点が置かれ、社会が「人の道」として定義している事柄や法律などの社会的ルールを守ること自体には興味が薄い。

 

 良く言えば、『無償の善意』を貫く少年。

 悪く言えば、『自己満足のルール遵守』しか守る気のない人物。・・・・・・そういう評価も一面的には間違いでないのが彼という人格の持ち味だった。

 

 シャルルには、それらの特質が良く理解できたし好ましくも感じていたが、それはあくまで彼女個人の趣味趣向に合致しているという意味であって、客観的に一夏の人格評価がどちらに傾くかは別の問題になる。

 

「一夏にとっては、トーナメント全体の順位よりもラウラやシェーンコップ君に勝てるかどうかの方が重要みたいだね?」

「・・・・・・まぁ、な。否定できないところが、ちと格好悪い部分だけどな」

 

 本心を言い当てられ、照れたように指で頬をかく初々しい少年の反応に、相手は破顔する。

 実際シャルルから言われた指摘は正鵠を射ており、一夏はライバルと考えている二人の同級生に勝てさえすれば、それ以降の試合は全敗でも構わないとまで思っていた。

 もちろん戦うからには勝ちを目指すのが彼の流儀だが、あの二人と戦いながら次を考え余力を残しながら勝ちを収めうると信じれるほど、一夏は自分の実力を過大に見積もってはいないつもりでいる。

 

 あの二人には、次は無いとするだけの覚悟で挑まなければ、おそらくは勝てないだろう。

 ならば彼らと戦うまでは次を考えた戦い方で余力を残しながら、本番で一気に自分の全てを叩き込む。それまでは“隠し球”の披露もなしと、一夏は心に決めて一つ頷きを示した後、

 

「そろそろ対戦表が決まるはずの時刻だね」

「そうだな。しかし一年の部で、Aブロック一回戦一組目に割り当てられるなんて、俺たちも運がいいよな」

「え? どうして?」

「待ち時間に色々考えなくても済むだろ? こういうのは勢いが肝心なんだ、出たとこ勝負、思い切りの良さで行きたいじゃないか。

 それに全力を出して挑まなけりゃ、戦ってる相手に失礼でもあるしな」

「ああ、なるほど・・・・・・一夏らしくていい考え方だね、それって。ふふっ。

 僕だったら一番最初に手の内を晒すことになるからって、ちょっと考えがマイナスに入ってたかもしれないのに」

 

 一見すると正反対な互いのスタンスを語り合い、笑い合う。

 反対のスタンスだからこそ、互いの長所と欠点を補い合い、良いコンビニなれたのかもしれないと互いに思いながら。

 

 無論それは経験者である先達のシャルルが、技術的には初心者の域を出ない一夏の動きに合わせる部分に多く依存して成り立ってはいるものの、本来なら格上が格下に合わせて実力を押さえればチーム力としては低下するのが必然の成り行きではあるのだ。

 それが低下することなく、部分的には上昇している面すらあるのは、シャルルだけの工夫で出来うる事ではない。

 

 そこまでしたいと思える相手である事も、支援する側の好みや趣向次第で可能となる部分ではあり。

 必ずしも相手側が、人に好かれる好人物であることとは関係し得ない分野での話になるが、それによって互いの能力を引き出し合える相性の良さを持っていたという事実も、好みとは関係のない分野での話になる。

 

「あ、対戦相手が決まったみたいだよ」

「本当だな。さて、俺たちが戦う最初の対戦相手は、と―――」

 

 そして、モニター内に映し出されていた映像が切り替わり、それぞれに生徒の名前が記されたトーナメント表が表示され、見やすい位置に配されている自分たちの名の隣に書かれた姓名を食い入るように見つめた結果。

 

 

「「―――え?」」

 

 

 と異口同音に出てきた見いだした文字に記されている名と姓を前に、二人は同時にポカンとした声をあげることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏たち、現IS学園で三人しかいない男性IS操縦者“という事になっている者たち”の内2人が更衣室で間の抜けた顔をさらす羽目になったトーナメント表に記された対戦相手の姓名。

 

 それと同じものを同じタイミングで目撃して、同じように衝撃を受けながらも全く同じ反応を返さなかった二人組が、更衣室とは別の部屋を待機場所にして存在していた。

 

「・・・しかし、凄い人のいりだな・・・。

 見に来ているのも重鎮ばかり、錚々たる顔ぶればかりだ」

「確かに、錚々たる記念すべき顔ぶれだ。

 4年後には、何人が入れ替わっているか見比べる楽しみぐらいにはなる」

 

 混ぜっ返すように、どぎつい感想を返されて気分を害された箒は、不快そうな目つきで相方を振り返って睨み付ける。

 相手のセリフが、選挙に落選しての下野やスキャンダルによって失脚する可能性について語っているものだったことは、そういう分野に疎い箒でも理解できるものだった。

 

 諸事情から伝統ある叔母の神社に預けられて育った箒は、自然な流れとして伝統的権威や立場に高い価値と敬意を感じる少女へと成長していたため、シェーンコップの不敬と言うより不遜とでも称すべき言動は自らの価値基準に合わないこと甚だしく、常日頃から不快さを刺激されずにはおられない少年として、彼女の中では位置づけられている。

 

 ハッキリ言って、嫌いな相手であり、相性の合わない事この上ない相手だと、心の底から彼女は考えるようにまでなっていたほどだ。

 同じ無礼な部分を持った少年でも、一夏には箒の好みに合う現れ方をする部分が多く、昔からの馴れ初めが補正となって評価に影響しているようにもなっていたが、シェーンコップにはそれが無い。

 

 ただ純粋に無礼者な少年であり、自分が好むものを否定的に評してくるイヤな相手。それだけだった。

 個人としての評価として、シェーンコップに箒が与えている人格評価の、それが全てだった。

 

 この待機場所に使っている部屋など、それを象徴的に示すものだった。

 

「着替えに更衣室など使っていては、渋滞に巻き込まれるだけさ」

 

 という理屈によって、前日の段階で確保しておいた部屋にISスーツを持ち込んでおき、相方の男を見張り兼門番として用いることで、皆が混雑している間に悠々と着替えと準備ができてしまったのが、今の箒だった。

 合理的な男だと思うし、その発想に驚嘆させられることも少なくはない。

 

 ・・・・・・だが、合わない。

 正攻法を好む性質な箒にとって、こういった抜け道を利用するやり方は、有効性を認めることはできても、どうしても好みに合わない部分を感じざるを得ない。

 

「・・・貴様にはどうでもよい事柄のようだからな、シェーンコップ。

 だが、その傲慢な物言い。少しは改めねば、いずれは後ろから狙われ、身を滅ぼす要因とする者も現れると思うがな」

「ご苦労なことだな。無駄な努力をしたがるヤツというものは」

 

 忠告に対しても平然と返してきて、箒の眉を急角度に跳ね上げさせる。

 シェーンコップの方は平然としていた。

 

 ・・・・・・これほどに個人的な好みでは合わない2人――というより箒が一方的に嫌っている関係でありながら、それでも彼女がシェーンコップを相方としてタッグトーナメントに参加を決定し、その選択自体を覆そうと思った事だけは一度も無かったのは、偏にシェーンコップの『強さ』その一事に尽きると言っていい。

 

 その点では、当初の時点で友の少ない箒が相方の候補として、ラウラを考えていたことと形として酷似するものだったが、シェーンコップはラウラと比べて致命的に異なっている部分を多く持ちあわせた少年だったのも事実である。

 

 何より、『見捨てられる』という恐怖心が箒の中にあり、それがシェーンコップを嫌いながらも、彼のしごきに今日までついて来られた一番の要因になっている部分だった。

 

 そうした理由が、相手の態度が悪いから、気にくわないからといった事情に関わりなく、只その成果と訓練する自分自身の姿を見つめ、『コイツは駄目だ』と見なされた途端に損得なしで見捨てられる・・・・・・そういう男であることを箒は、言葉ではなく本能的な部分で理解させられ、必死にしごきについてくることだけに集中し、今日までの一週間と少しの時間を過ごしてきたのだ。

 

 またそれはシェーンコップ自身が、教師として優れているからこそ、しがみつくことに意味が生じる部分であったし、相方として『最強』の存在もおそらく彼だろうと、確信させられるものがあったからこそでもある。

 

 最強――そう、最強だ。

 

 箒にとって、剣士としての理想型で最強と信じて疑わない相手は、篠ノ之流の達人である自らの祖父・鉄心であったし、その信仰は今なお揺らぐことなく抱き続けてはいるものの。

 

 ――この男と祖父が真剣勝負で立ち会ったとき、祖父の必勝を“信じること”は出来たとして、そこに感情以外の『信じる根拠』を語れるかと問われたとしたら・・・・・・明言できる自身には自分には、ない。そう感じさせられるまでに今日ではなっている。

 

「・・・・・・セシリアのことは、あまり気にしていないのだな」

 

 ボソリと、そう言ってしまった後、箒は思わず己の発言した動機が分からず内心で些か困惑してしまった。

 なぜ今この場で彼女の名を自分が出してしまったのか――箒には自分自身でそれが分からず混乱する。

 

 ――トーナメントの前に決闘騒ぎを起こしたセシリア・オルコットと凰鈴音は、大会当日までに機体の修復が終わらず結局、参加を辞退せざるを得ない状況に陥らされたままになっていた。

 一般生徒とは異なり、専用機持ちである彼女たちの立場に悪影響を及ぼすのは避けられない事案だったことは事実だが、どちらも箒にとっては関係のない他人事でしかないはずの問題でもある。

 鈴の方に至っては、完全に利害が噛み合わないのは明白すぎる相手でもあるのだ。

 セシリアに至っては入学直後の一夏に因縁をつけてきた挙げ句、自滅に近い負け方だったとはいえ形としては勝ってしまった相手。その心情を気遣ってやる道理も義理も箒にはないはずの相手だった。それなのに何故・・・・・・。

 

「彼女なら、放っておいても勝手に上がってくるだろうさ。そうそう諦めのいい、素直な性格をしているとも思えんしな。

 才能のある、“気位の高い”“金髪の坊や”というヤツは、現状に不満があれば力づくでも変えなければ気がすまんのが定番だ。多少、小振りだとは思うがね」

 

 そんな箒の内なる青臭い葛藤など、言うまでもなく見抜いているのか「フッ」と一笑だけで済ませると、サラリと話題を進めて流してしまう。

 

「冷たい男だな。凰の方はともかく、オルコットの方は貴様と恋仲のように思っていたのだが?」

「心配ない、彼女の実力と才能は一流だ。十分に他の候補生たちとの模擬戦で通じるだろう。

 今のお前さんより、遙かにものの役に立つ。勝っているのは、リーチの長い武器の扱い方とセックスアピールぐらいなものさ」

「・・・っ!! ああ、そうかい! それは失礼したな、フン!」

 

 またしても予想外で不快な返しに不快さを刺激されて、自分から振った話題を自分から切り捨てて、そっぽを向いて黙り込む道を選んでしまう羽目になる。

 

 ・・・まったく、この男は・・・つくづく人が言われたくない部分を的確にえぐって指摘してくる。

 それでいて、言い返す気にもなりづらいところが本気で厄介な相手だった。

 

 これが一夏であったなら、感情が理由になって引き下がることがどうしても出来なくなるかもしれないのが箒の性格だったが、シェーンコップには「そこまでしたい」と思える感情が沸いてこない。

 

 ・・・・・・言っている内容自体が正しいからこそ、尚更に・・・・・・。 

 

 事実として箒は、自身がもつIS操縦者としての実力はセシリアに遠く及ばないものでしかないことを、シェーンコップから教えを受ける中でイヤと言うほど思い知らされるようになっていた。

 それは接近戦の腕や操縦技術がどうこうという以前に、絶対的なまでに『IS操縦者との戦闘経験』で劣っているのだ。

 

 ただ素振りをして剣を早く振れる速度で勝っても、敵が斬れるというものでもない。

 戦場における敵は動いており、敵は敵で自分を倒すにはどう動けばよいかと考えながら武器を振るってくる。

 動かぬ的でしかない藁人形を斬るのとも、決められた動きしかしないドローンに当てるのとも違う。

 

 セシリアが一夏に敗れる寸前までいった時の理由も、今なら分かる。

 射撃に慣れた者は、相手が次に行う動きを予測して、先に二射目を撃つ位置を決めてから一射目を放つ。

 それが一夏のメチャクチャな動きに対応しきれず、精密なコントロールを必要とする《ブルーディアーズ》による射撃で変化し続ける一夏の機動に最後まで合わせることを出来なくさせていた。

 

 一夏は弱く、未熟だったからこそ勝利する寸前までいくことが出来ていたのだ。

 自分には、それが無い。もし仮に今の自分が彼女と一対一で戦ったら、百戦しても百敗するのは自分の方だろう。

 

 正直、専用機の有無こそが自分と相手との決定的な差で、それ以外では差して劣ってはいないと考えていたのだが・・・・・・今では甘い想定だったと痛感させられていた。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 そのまま気まずくなった心地で、沈黙し合った時を過ごし。

 やがて、専用機ではないため手元でできる調整の少ない二人が作業を終え、なんとはなしに時計を見上げ。

 

「そろそろ対戦表が決まる時間のはずだが・・・」

 

 箒がボソリと呟くように語って、シェーンコップは肩をすくめる。

 

「できれば、余計なことに心惑わされぬため早い順番に回してくれると有り難いのだが・・・・・・いや、それでは手の内を最初に晒すことにもなるか。とすれば――」

「どちらだろうと同じようなもんさ。勝っている限り、時間はかかり続けるし、負ければ終わる。早いか遅いかなど関係なしにな」

「・・・むっ」

 

 そしてまたしても互いの違いと『差』を見せつけられるような反応を示され、表面上は取り繕いながらも内心ではプライドを傷つけられつつ、自分たちの初戦で戦う相手が誰かを確認しようと、自分と相手の男性名の二つを探すためモニターに表示された中から名前を探し、そして・・・・・・

 

 

「・・・え?」

「ほう?」

 

 

 対照的な反応を同時に示しながら、同じタイミングで同じように同じ2人の名前を見上げる箒たち2人のペア。

 その視線の先に記されていた2人の姓名は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2つの異なる場所で、2組の男女コンビが、同じ対戦表が表示されている無数のモニターの内のどれかを見上げ、それぞれの反応を示していた頃。

 そのどれにも加担せず、全ての生徒たちと異なる部屋の中だけに隔離されながら、IS学園全体を監視している場所から見下ろしている2人の女性が語り合う声が交わされている場所が存在していた。

 

 

「ではやはり、学年別トーナメントのいきなりな形式変更は、先月の事件が原因でのものだったんですね?」

「ああ。表向きはリン――凰とオルコットがやらかした馬鹿騒ぎを再発させないためという事になってはいるがな。おそらくはそうだろう。

 詳しくは聞かされていないが、たかが2人の愚行を理由に全校生参加の一大行事をルール変更させるバカな学園などあるものか」

 

 コーヒーカップを片手に辛口な評価を口にしながら、学園警備主任の織斑千冬はモニターに映し出された生徒たちの姿を見下ろし、後輩で副担任でもある山田真耶に肩をすくめて見せていた。

 

 彼女たちがいるのは、学園内の風景がすべて把握できる観察室と呼ばれる場所で、有事の際には即座に把握して解決に赴ける位置に、『世界最強』と、その後輩の2人が配置されていたのである。

 

「特に今年の新入生には第三世代兵器のテストモデルが多いからな。そこへ先月の事件が勃発して、謎の敵が所属不明のISで攻めてきたとなれば警戒もする。

 ・・・・・・まして、敵の正体が不明なまま、単なる反政府勢力の仕業として発表されたのではな・・・・・・」

 

 そう語る千冬の口調も、さすがに苦々しさを帯びたものになってこざるを得ない。

 世界中で開発が進められているIS技術の一つである、遠隔操作か独立可動のどちらかは確実に搭載されていた無人ISによる襲撃。

 ただでさえIS学園がバリアーを突破されて襲撃を受けたとういうだけでも、安全神話を揺るがす大事件だったというのに、それが無人機の仕業と分かれば事態はさらに悪い方向へと進んでいくことになる――そう思ったからこそ千冬も学園側も箝口令を敷いて詳しい情報が外に漏れるのを防ぐことを選択していたのだが・・・・・・その道を選べば、その道を選んだ故の問題が起きるのが人の社会というものでもある。

 

 情報を隠匿して秩序維持を図ろうとする秘密主義は、往々にして猜疑心と流言飛語を生み出す温床となりやすい。

 秘匿する道を選んだことで、IS学園は各国から疑いの目で見られるようになり、危機感を刺激された各国の女尊男卑政権はトーナメントの試合形式にツーマンセルを採用するよう共同して圧力をかけてきたのである。

 

 なにも彼女たちとて、たった一回の実戦形式での模擬戦を経験したぐらいで大した自衛能力の強化に繋がるとは思っていない。

 だが有事の際に、『手を組んでた戦う相手』を選んで確保しておくことは可能になる・・・・・・。

 

 そういった背景が、今回の試合形式変更に影響を及ぼしていた。

 互いの協力が必須のタッグマッチだが、どちらかと言えば、疑心暗鬼と利害損得にもとづく政治的計算によって動機となっている部分が強いのが、今次トーナメントの裏面のようだった。

    

「つまり、学園側が信用しきれなくなってきたから、預けている操縦者自身に自衛できるよう味方を作っておけ、と。

 ・・・生徒同士が仲良くなるのは良いことですけど、警備を担当する側としては気分のよくなるものでもないですね・・・」

「そうだな。もっとも、操縦者はもちろん第三世代兵器も守らなくてはいけない上に、教師の数が有限とある以上、我々の側も確実な安全を保証できるものではないのも事実ではある。

 やむを得ないことでもあるが・・・・・・む? どうやら1試合目が始まるようだぞ」

 

 やがて千冬がモニターに映っている景色の一つに目を向けると、面白そうな声と表情になって話題を打ち切ってしまった。

 もともと先程から、開会式だの責任者からの挨拶だのといった余計な“CM”が続いていたため、暇潰しの雑談を交わし合っていただけだったので、山田としても異論はなく、素直に試合会場の一つを映し出されているモニターに視線を向けて好奇心に瞳を輝かせている。

 

「それにしても意外でしたよね、シェーンコップ君がパートナーとして、篠ノ之さんを選ぶだなんて」

「そうだな、特に篠ノ之はシェーンコップと戦う相手としてなら別として、共に戦うには性格上の相性が悪いと思っていたのだが・・・・・・」

「前回はラファールで、その前は打鉄。使う機体を相手に合わせて変えてくるのが彼の戦い方でしたから、今回はどちらの機体でどういう戦い方を見せてくれるのか楽しみです♪」

「フフ、教師が生徒の戦い方を見て学んでいたのでは、職務怠慢と言われかねんがな。

 しかし、ヤツがどの機体を使うかには私も興味があ・・・・・・」

 

 答えかけた千冬だが、しかし途中で聞かされた解説役からのリポートと、自分たちが目視させられた映像を見た瞬間に声を止める。

 

 

「「・・・・・・え?」」

 

 

 二人の教師たちもまた、同じような言葉で異口同音に同じ反応を返すしかなかった、タッグトーナメント第一回戦、最初の試合での組み合わせ。

 

 その内訳は、

 

 

 織斑一夏:白式

 シャルル・デュノア:ラファール・リヴァイヴ

 

 ワルター・フォン・シェーンコップ:量産型ラファール

 篠ノ之箒:量産型ラファール

 

 

 ・・・・・・という組み合わせで、第一回戦は幕を開ける。

 

 

 

続く

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