ISドライロット~薔薇の騎士の転生録~   作:ひきがやもとまち

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久々の更新となってしまいました。
もっと早く予定だったんですが、色々なことが重なってしまい…。申し訳ございません…。

せめて次話ぐらいはソッコーで書きます。(流石にヤバいとは自覚)



第23章

 織斑一夏とシャルル・デュノア。その二人にとっては意外性のある、初戦の相手チームと機体のチョイスが対戦表に表示され、織斑千冬と山田摩耶の教師二人がモニターに映し出された散文的な文字の羅列を驚きの表情で見上げていたのと同じ頃。

 

 人口過密化していた会場の一角で、その場所だけは人気の少ない寒々とした光景が狭い密閉空間内に発生していた更衣室では、ラウラ・ボーデヴィッヒがつまらなそうな口調で鼻を鳴らし、モニターに表示された対戦相手の組合せを一笑に付していた。

 

 

「フン。一戦目で当たれば待つ手間が省けるかと思っていたのだがな・・・・・・そう望み通りにことが運べば苦労はせんか」

 

 もともとプロ意識が高く、幼少期から軍事教練を受けさせられながら今日まで過ごしてきた彼女にとって、『より実戦的な戦闘経験を積ませるためのツーマンセル形式』という今大会のルール変更は、むしろ素人臭さと遊び気分が強調される理由としか思いようがないものだった。

 

 特に『締め切り日までペアが出来なかった者は抽選により選ばれた選手同士で組むものとする』という一文などは失笑ものと言うしかない。

 

 もし学園側が本気で実戦を想定し、そのために他のIS操縦者と共闘して戦う必要性があると考えてのルール変更であったなら、『期日までにペアを得られなかった生徒』は『失格』として参加資格を剥奪するのが妥当だったのだが、IS学園がある日本の教育概念では、その方式を受け入れがたいものとして忌避されている。

 

 そこに配慮した結果として、今回の妥協されたルール変更となった相成ったわけであるが、軍隊育ちのラウラのような生徒から見れば、些か以上に平和ボケした呑気な光景としか映りようがないものだったのも事実である。

 

 

 室内には他に人気はほとんどなく、唯一ペアとして参加が決まってしまった女子生徒一人だけが居心地悪そうにベンチに座り込んだまま身を縮めている。

 彼女は、締め切り日まで共に参加してくれる相手を見つけられなかった一般の女生徒で、ラウラとの面識などほとんどなく、合同授業のときでも名前を聞かされた以上の接点を持ったことすらない。

 

 そんな相手と、抽選の結果としてのペア参加を強要されてしまったのだから、彼女としては胃が痛い思いを我慢して一緒の室内に居続けているだけでも相当な苦痛だ。

 

 よくしたものでラウラの方でも、相方となった少女に興味を示した様子は微塵もなく、声をかけることも視線を向けることさえしようとせず、ただ無言のまま同室しなければならない時だけ共にいる。それだけの相手としか見ていないことは確実だった。

 

「――まぁ、いい。一先ずはお手並み拝見といかせてもらおう。私と当たる前の露払いでさえ、無様に敗退する可能性も多分にある程度の連中でもあることだしな」

 

 そう呟き捨てて、ラウラは日本に来ると決めた日から抱き続けてきた黒々とした感情を発散させられるタイミングが僅かに遠ざかった現状を受け入れる。

 本音を言えば、ルールなど無視して挑みかかりたい相手があり、出来ることなら始末してしまった方が手っ取り早いとも感じている存在でもあったが・・・・・・そこまでしてしまえば流石の彼女でも危うい立場になることぐらいは認識していた。

 それら現実の身分と、我慢せざるを得ない今の立場を受け入れるには、理由付けが必要だったのである。

 

 ・・・・・・この戦いの中で、ラウラの使用を制限していない右目に映っているのは、最初から二人だけだった。

 いや、より正確には一人だけを見つめている視線に、外部から紛れ込んできた余計な羽虫を排除し、元の一人だけを見つめる世界を戻したい。それが彼女の願いであり目的だった。

 

 ラウラにとって重要な人間は織斑千冬一人だけで、一夏は『千冬の弟という立場』を厄介がられているに過ぎず、そこに『織斑一夏』という一個の人格は重視されていない。

 ハッキリ言ってしまえば、一夏はラウラに嫉妬されている“のではなく”ただ『とばっちり』に巻き込まれていただけだったのが、彼女が抱く感情の正体だった。

 

 その感情は、やや皮肉なことではあったが、今の一夏にとって敵の立場にあるシェーンコップと終生敵対する立場にあり続けた金髪の覇王が少年士官だった頃、彼の命を『嫉妬による嫌がらせ』で狙い続けた貴婦人のものと酷似するものだったかも知れない。

 

 『シュザンナ・フォン・ベーネミュンデ侯爵夫人』

 

 覇王の姉であり、後に皇太后となったアンネローゼが、旧銀河帝国皇帝の寵姫として宮廷の人となったことで失われた皇帝からの寵愛のみを求め、後に簒奪者となる覇王を若きころから暗殺者をおくり続けた唯一の存在。

 

 理性や利益の問題ではない事柄が絡んだ出来事故に、他者からの理解と共感は得にくい種類の動機に基づくラウラの行動。

 

 それ故に今も昔も、あるいは未来から見た過去でさえ。

 

 

「・・・・・・私が敗北させると決めた、私が唯一自らを重ね合わせてみたいと感じた存在を完全ならざる存在にさせたモノ。

 それが露払い程度のカスに敗れるというなら、断じて許容できる存在ではない。

 あれは、あの男は、私の力でこそ、完膚なきまでに叩き伏せてやると決めたのだ。

 それが、こんなところで敗れるというなら・・・・・・苦しませてやる、貶めてやる。

 教官に汚点を残させた張本人として、犯した罪に相応しい報いをくれてやるまでのことだ・・・・・・ッッ」

 

 

 彼女たちと同じような理由での行動を行う者達は、こう評されることが未来において確定している現在があるのかもしれない―――。

 

 

『たとえグリューネワルト伯爵夫人が失脚したところで、ベーネミュンデ侯爵夫人に陛下の寵愛が戻るというわけではあるまいに・・・。困った貴婦人だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、ラウラの思惑とは裏腹に、彼女が“とばっちり”での私怨を強く抱いている織斑一夏にとって、今もっとも意識して勝ちたいと願っている相手は彼女ではなく彼だった。

 その彼が、予想外の相方と装備で自分たちの前に現れてきたことに、少なからず一夏は驚愕の念を感じさせられずにはいられない心境になっていた。

 

 意識していた相手の装備、それ自体に問題はなかった。

 今一人の相方の装備に問題があり、それが引いては大本になっている意識している相手の装備にも疑問を抱かせる相乗効果としての意外性。

 あるいは、組合せ次第では然したる驚愕はなく、納得の思いだけを胸に落ち着いて試合を始められたかも知れない相手。

 

 即ち、日本製IS《打鉄》と同じ近接戦闘向きの《白式》と、フランス製の機動型IS《ラファール》のカスタム機である《ラファール・リヴァイブ》を使った自分たちと対峙する、幼馴染みの剣士とオールラウンド型の万能戦士。

 

 その二人共が、どちらも機動型IS《ラファール》の量産型を使って、しかも武装まで同じものを共有している、彼らを知る者たちには驚愕に値する意外な光景。

 

 ISに限った話ではないが、本来ペアを組んで戦うチーム戦では互いの短所を補い合うような装備と機体を選びのが一般的な選択方式。

 得意分野で統一して威力を高めるという極端な者もいるが少数派であり、まして一夏の知る限り箒は生粋の剣士。立ち止まって迎え撃つスタイルが本領のはず。それなのに何故――ー

 

「どうした? 坊や。

 こういう場面では、自分から啖呵を切りたがるのが、お前さんの流儀だと思ったがね」

「・・・あいにく、そんな悪趣味をもった覚えはねぇよ。

 相変わらず、人聞きの悪い皮肉を言ってくる奴だなまったく――」

 

 

 意識していた相手と並んで入場してきた、見慣れぬ装備をまとう幼馴染みの意外な姿を見せつけられたことで、数舜の間だけとはいえ茫然自失していた一夏の耳朶に、シェーンコップからの聞き慣れたクセのある嗤いを含んだ声が響いてきて意識が戻る。

 やりかえしながらも、内心でバツの悪い思いを抱かされた彼だったが、試合開始前にこれ以上の機先を制される無様まで晒すほどの未熟者ではなくなってきているのも、今の一夏の特徴でもあった。

 

「とはいえ、少し驚かされたのは事実だったけどな。一戦目で当たるとも正直思っていなかった。

 だが当たってくれたなら、待つ手間が省けたってもんだ。そっちも似たようなもんじゃないのか? シェーンコップ」

 

 戦い始める前に相手から送られた挨拶への返礼として一夏から放たれ返した、尖端の細い言葉の鏃に対して当然、シェーンコップは無言を返して、無意味な返答をしようとはしない。

 

 戦う者同士による『言葉での言い合いが無意味だから』ではなく、単に一夏が返した切り返しが『返答が無意味になる内容だったから』である。

 

 かつて自分たちが戦死させた帝国軍のケンプ提督が、一方的ではあっても礼儀を守って開戦前の挨拶を送られたときに返答を返さなかったのは、『司令官ヤンの不在』という内情を隠す目的あっての無視だった。

 だが今回の一夏から送られた内容は、ケンプの時とは異なる意味で返答を返さない理由をもつ挨拶だったかもしれない。

 

 ここでシェーンコップが、一夏からかけられた言葉になんと応えようと、その真偽と解釈は、返された側の一夏だけが勝手に決めることしか出来ない類いのものだったからである。

 返答した側がどう返そうと、返された側の一存だけで全てを決してしまえる言葉であれば、返す側には返す必要自体がなく意味もない。

 返された側が、返されなくとも一人で勝手に決めてしまえば良いだけの話ではある。無論その理屈を、返されなかった側がどう評価するかは、人それぞれの問題でもあったが。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 かすかに期待していた相手からの反応が返されぬまま、時だけが静かに流れてゆき、五・・・四・・・三・・・二・・・一。

 短い静寂の時間の後。ISアリーナの1ステージに、試合開始のブザーが鳴り響く。

 

 

「叩きのめす!」

 

 

 先手を取って動き出したのは、今回もまた一夏からだった。

 試合開始と同時にイグニッション・ブーストを使用し、開幕直後の先制攻撃によって一挙に距離を詰めてくる!

 一夏の専用機《白式》が、固定武装の近接ブレード《雪片弐型》だけしか保有していない極端な機体である以上は必然的な戦い方だったが、有効な戦法でもある。

 

 試合開始時における互いの距離と位置は、開始前の時点で既に決まっていて、基本的にイグニッション・ブーストが届かぬほどの遠距離を初期位置として配置できることはないのがISバトルでのルールだからだ。

 

 そのため実戦ではともかく、こと試合に関して言えば開始直後の先制イグニッション・ブーストは、相手の動きと選択肢を大幅に制限させる上では有効な攻撃方法の一つだと言っていい。

 

 ラウラの自信と優位性も、一つには愛機《シュヴァルツア・レーゲン》がもつアンオフ・アビリティ《AIC》が、接近攻撃への迎撃にすこぶる相性がいい特殊武装だったという事情が影響している。

 彼女以外の者にとっては、十分に通用する可能性が高い攻撃方法なのが一夏が多用している一斬だった。

 

 その技能を使って、開幕直後に奇襲用の大技を一夏は用いて勢いよく突貫していく。

 自身の正面に立ち塞がる、シェーンコップが操る量産型ラファールに向かって――ではなく。

 

 その傍らに立つ、同距離から狙える箒が駆るラファールに向かって真っ直ぐに!!

 

「――来るかっ! 一夏・・・っ」

「悪いな! 箒ッ!!」

 

 そう声に出したときには、既に白式がもつ大刀は箒の頭上に迫りつつある至近距離にまで至っていた。

 途中での方向転換が効かないほどの超加速に乗せた一撃こそが《イグニッション・ブースト》の持ち味だ。

 まして一夏の専用機《白式》はスピード自慢の高機動型IS。そうそう出遅れることなどない。

 

 今からのタイミングでは、箒に防御も回避も不可能な距離まで接近に成功してから一撃必殺。

 だが、そこに横合いから阻止するための一弾が放たれてくるのは計算の内でもある。

 

 一夏とシャルルは、今大会優勝のための秘策として『強敵の相方を先に倒す』という方針を決めて、今日まで練習を続けてきていた。

 だが一方で、この秘策は『対ラウラ用』として温存しておく必要があることから、シェーンコップに対しては別の作戦で偽装して応用するという方針を、開始前のミーティングで決してもいた。

 

 もともと『ペアの相方を先に倒す』という戦い方は、己一人の強さのみを信じて、力を誇示することに固執している節があるラウラに対しては絶大な効果が期待できるが、作戦そのものは単純明快な伝統的と言っていい代物で、特に意外性のある内容でもないのだ。

 

 本番で使う前にバレてしまったのでは、対策が取られやすいし取りやすい。

 何かしら偽装して用いることが、ラウラとシェーンコップという2人の強敵を個別に相手取らねばならなくなった一夏たちには、どうしても必要だったのだ。

 

 そこで考えられたアイデアが、『先手必勝で箒を倒そうと“して見せる”』という戦法だった。

 これで阻止するため割って入ってくるであろうシェーンコップを釣り、一夏が一対一での戦いに応じている隙にシャルルが箒を正攻法で撃破し、その上で加勢する。

 自然な流れを装うことでラウラの目には、作戦の真意を気付きにくくさせ、かつシェーンコップ相手に2人がかりで挑みかかる体勢をも作りだす。

 

 悪くないアイデアであり、実現性は十分にあるとシャルルからも太鼓判を押している。

 問題点となるのは、作戦中にシェーンコップが箒と合流を果たすのを如何にして阻止するかであり、箒に一対一での決着をこそ望んでもらえるよう促せるなら願ったりだ。

 

 それ故の、開幕直後の《イグニッション・ブースト》を使った箒への先制攻撃。

 試合開始時には両者それぞれの相対距離が決まっている状態からの開幕となる以上、機体性能および実力的に劣る箒に対して、超加速から先制の一撃必殺を繰り出されれば熟練のシェーンコップは阻止するため割って入らざるを得なくなる。そう考えたからだ。

 

 

 だが、この時。

 一夏たちは、ラウラとシェーンコップという強敵たちを意識しすぎる余り、明らかに箒への警戒と脅威度を軽く見積もりすぎている自分たちに気付くことが出来ていなかった。

 

 バリアー無効化能力を備えた白刃が眉間にまで迫ってきた、その刹那。

 箒の唇が、その単語を紡ぎだす呟きを、一夏の鼓膜は捉えることとなる。

 

 

「―――《イグニッション・・・・・・ブースト》ッ!!!」

「なッ!?」

 

 自分自身が心の中で使い慣れ、身体に染み込むまで練習し続けたIS技能の名を耳にした。そう思った瞬間には一夏の身体と心は強い衝撃に揺さぶられ、激痛に顔と眉をしかめる表情を張り付かされることになる。

 

 

 ――ブォッ!!!

 

 目の前に映っていた光景がブレて、刃を振り下ろそうとした相手の顔が残像のように消えてなくなる。

 それを認識して驚愕するより早く、箒の身体は正面から急加速して正面衝突し、一夏は激しい腹痛と呼吸困難に苦しまされる結果を招く。

 

 ――ガツゥッ!!

 

「がっ!? あ・・・ッ」

 

 金属と金属が衝突し合う音を周囲に響かせ合いながら、密着し合った幼馴染み二人の少年少女はそろって呼吸が一旦止まる。

 超加速して接近しようとした相手に、至近距離から超加速で体当たりを食らわされ、原に向かって激突されたのだ。いくらISバリアで肉体損傷は大きく押さえられるとは言え、苦しくないわけもない。

 呼吸が一旦止まり、一瞬だけでも意識が飛んでしまったとしても、一夏を責められる者は多くはあるまい。

 

「ぐっ!? う、ぁ・・・っ」

 

 一方で、ぶつかっていった側の箒にしても、無傷とは到底言えない惨状だった。

 短期日で身につけることに成功したとは言え、一夏ほど扱いに習熟していない大技を確実に命中させるためとは言え、こんな作戦を思いついた助平男の相方への呪い文句を百万通りも心の中で並べ立てることで、飛びそうになる意識を必死に押さえつける。

 

「!? 一夏ッ! 大丈夫!?」

 

 先行して突撃した相手に追いすがろうと、一夏の背中に隠れるように接近しようとしていたシャルルは、自分が追いつこうとしていた相手の背中が逆に背後へと吹き飛ばされていく光景を目視させられ、驚愕と安否を気遣う悲鳴を発するため一時停止を余儀なくさせられた。

 

 背後を振り向くと、二機の機体は激しく地面に打ち付けられ、二度、三度とバウンドした後に両者それぞれが左右に散って立ち上がると、体勢を立て直すため傷ついた身体で荒い息を付き合っている姿が視界内に映り込む。

 

 当然の反応としてシャルルは、すぐにも一夏と合流するためラファールに急速後退をかけようとして、寸前で思い止まり機体を停止させる。

 頬に冷や汗を浮かべながら、背後の二人に向かって視線と意識を注いでいるのは彼女に向かって、余裕めいた嘲弄を投げかけてくるのは当然の事として、この男。

 

「どうしたかね、坊や。二人がかりで弱い方の一人を寄ってかかって袋だたきにした後、一人では勝てない相手に数の差で押しつぶすのが、お前さんらの作戦方針なのだろう? 

 そのための連携訓練に精を出しているように見えたのだがな」

「・・・・・・それを分かってて見過ごしてる相手に、背中を晒して助けに行ける人がいるとでも思っているかな? シェーンコップくん」

 

 ニコリと優雅に、だが凶暴なまでの威嚇と威圧を込めてシャルルは、不敵で嫌味な傍観者を気取ったままの男に微笑みを向け、悪意的な表現による評価への返事とする。

 正直に言えば、一刻も早く一夏の加勢に行ってやりたい気持ちはあるのだが、敵に回せば危険極まりない男に平然と背中をさらせる度胸は彼女にもない。

 

 まして、その危険なはずの男が先程から“ジッとしたまま禄に動こうとしていない”となれば尚更だった。

 

「どういうつもりなの・・・?

 さっき一夏が箒ちゃんに向かって先制攻撃を仕掛けたときも、彼女がイグニッション・ブーストで体当たりしていった時にも、君には次の動きが読めていたのに動くことなく見ているだけだった。――それは何故? いったい何の目的でそんなことを・・・」

「流石によく見ているな。戦場観測班としても、食っていけるかもしれん」

 

 悠然と応じた、人を食ったような返答によって間接的に、相手からの疑問を肯定して見せたシェーンコップに、シャルルの眉と唇の端は急角度に変化させられる。

 シャルルは今回の戦いにおいて、またラウラと決着を付ける段になった時においても、自分は相手に合わせることで連携を成立させ、その調整を担うのが己の役割だと想定している。

 これはシャルル自身の性格的傾向や、初めて意識した異性に対する好意によるものでもあるが、その方が効果があると判断した結果でもある。

 

 一夏の《白式》は、標準装備が近接武装一つしかない接近戦特化の機体であり、連携を意識して動いたのでは本領が発揮できるタイプではない。

 逆にシャルルの《リヴァイブ》は、複数の武装を搭載した距離に囚われないオールラウンド型だ。戦況変化に合わせて武装換装しなくては意味がない。

 

 相手に合わせることで意味と効果があるのは自分の方であって、一夏ではない。

 それが分かっているからこそシャルルは、開始当初から敵味方双方の動きに目を配ることを優先して、一夏の背中と敵チームを見ることに専念していた。――だから分かったのだ。

 

 一夏が初撃で狙う相手に箒を選んだとき、シェーンコップは自分を見ていた。

 正面から斜め横の相方へと矛先を変えた一夏ではなく、奇襲をかけられた箒でもなく、一夏の背後から追随して支援するつもりでいた自分だけを。

 

「なかなかに卓見だけど、質問への答えにはなってないよ。君はなんの目的で動かなかったのかな? ついでに言えば、一夏を追撃しようとしない理由も教えてくれると助かるんだけど?」

「男をケツから襲うほど、俺は悪趣味じゃないよ」

 

 再び人を食ったような品のないブラックジョークを交えながら、それでも間接的な答えだけは返してくる嫌味な相手をシャルルは睨む。

 

 箒のカウンター策を知っているシェーンコップには、彼女が初撃でやられる危険を避けるため動く理由がない。一夏からの奇襲に意識を裂く必要もない。

 セオリー通り自分に向かってくるなら当然の結果で、そんなものを予期せず食らわされるマヌケには、存在を意識してやる価値すらないだろう。

 そういう風に考えるのが、この男の価値観というもの。

 

「そういうのはポプラン――出来の悪い後輩がやるべき領分だからな。

 俺としては嬢ちゃんを倒した後、坊やたち二人まとめて相手にして問題なかったのでね。どうせ倒す相手だ、一人増えようが二人増えようが大差はない。

 お嬢ちゃんが坊やとの優劣に拘りたがっていたようなので尊重してやったまでさ」

「・・・・・・」

「もっとも、男のケツを襲うオカマ野郎になる気はなくとも、魅力的な女性がヒップ振って誘うのを無視するのは礼儀に欠けるかもしれんがね。

 まっ、アンタも大人になれば分かる話さ。“坊や”」

「~~~ッ!! ホンットうに嫌な人だねッ! キミって奴は!!!」

 

 思い切り犬歯をむき出しにした凶暴な作り笑いを浮かべながらシャルルは――シャルロット・デュノアは最大限の威嚇を叫んで、頬肉とこめかみとを同時にヒクつかせる。

 珍しく冗長な相手からの返答内容が、自分への威嚇と恫喝とを“分かりやすく”伝えてきたものだと理解させられて二重の意味で苛立たされたのが、その原因だった。

 

 『男と女の痴話げんか』に過ぎない一夏と箒との一騎打ちでしかない現時点において、シェーンコップは傍観に徹する意思を示した。

 『男のケツ』を襲う気のない彼には、一夏だけでなくシャルルの加勢を阻止するため追撃する意図もない。

 

 が、しかし。

 もし一夏が箒に追い詰められた時、シャルルが『男を助けるため』飛び出しに行くリスクを背負ったときには話は別になる。

 

 

 ――自分の加勢を阻止したいシャルルに対し、受諾する条件として“シャルロット”にも二人の戦いを邪魔しにいく野暮はやめるよう要求を突きつけてきたのが、シェーンコップが発言に込めた真の意味だった。

 

 相手が女であることを隠している男だという秘密を知り、相手の男には自分の秘めたる感情を“まだ”知られたくないらしい事情まで把握している『男の他人』だからこそ思いつける意地の悪い言い様。

 

 あまりに遠回し過ぎる婉曲な表現を用いた、皮肉めいた条件交渉。

 相手が気付かなければ、それまでの内容だが――その時には、“その程度の相手だった”というだけで済む話。

 

 シェーンコップにとっては、どちらだろうと損をするような話ではないのだ。

 どちらの道も、彼の動きを制限するため『一夏とシャルルから求めた条件』でしかない。別にシェーンコップが求めた選択肢ではなかった。

 

「・・・・・・ずいぶんと箒ちゃんのことを高く評価してるんだね」

「なに、俺の弟子だということで甘えることのないようにしているだけさ。弟子の成長の妨げになるからな。

 俺は美人の弟子を嫌ったことは一度もない。気の強いジャジャ馬娘の愛弟子なら特にね」

「きびしい師弟の愛情には恐れ入りそうになるね。

 建前だって分かっていても本当に」

 

 それら相手の意図を過たずに理解できた“自分の事情”まで理解していたわけではなかったものの、相手の要求を聞き入れることでしか自分たちの作戦を成立させる術を奪われてしまったシャルルとしては愉快な心地になれるはずもない。

 

「でも本当に助けにいって上げなくても大丈夫なのかな? 専用機なしで勝てるほど一夏は弱くないと思うけど。――ボクなしでも一夏は勝つよ、必ずね」

 

 皮肉の一つや二つや、三つ程度は言ったところで罰は当たらない立場にあるのが今の彼女だ。

 だが最後に述べた一言には、異なる確信が込められているシェーンコップには感じられた。

 そんな『青いケツの春』を間近で見せつけられて、「ニヤリ」と笑い返した男の方はと言えば、まるでグラスでも掲げるように銃口の先で指し示しながら、底の知れない思いがこもった言葉を紡ぐのみ。

 

 

 

「経験が浅く怖いもの知らずで、偉そうな奴には見境なく噛みつきたがる猟犬に、嫉妬の尾を踏まれた雌虎が挑みかかって、感情を満たそうとしている。

 要は、一人の男と二人の女のさや当て合いだ。

 『第三の間男』としては、絡んだところで面倒事にしかなりようもない事案だろうさ。

 それはアンタにも、ご理解いただけると思っているのだがね? “シャルル”・デュノアくん」

 

 

 

 言われた側のシャルルは無言のまま、ニコリと笑って銃のロックを外すのみ。

 『一人の男と二人の女の面倒事』による結果として、唇の端をヒクつかせながら。

 

 

つづく

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