待て待て待て待て、いや、待てぃ!
マジか、いや、マジでか!?
「し、正気かツツジ!? 夏休み中にジムバッジ集め!? いや、うん、強さが必要なのはわかるよ? でもだからって、それはちょっと……マジか、いやだがいくら何でもそれはちょっと無謀じゃないか?」
「正気ですの。……大いにマジですの。」
……おいおい、マジかよ。
いや、……うん。
いやいや、……うん。
アリかナシかで言うと、そりゃアリだよ?
夏休み中に2人で旅行とか、そりゃあナイスイベントよ?
でもジムバッジ集め?
いやぁ~、それは現実的じゃないでしょ。
でも本人やる気だしなぁ。
「……仮に、仮に行くとしても、トクサネやルネはどうするつもりよ?」
あそこ等は言ってしまえば離島だよ?
“そらをとぶ”や“なみのり”を使えないと、そもそも行く事すら不可能だよ?
いやまぁ調べてないから俺も詳しくは知らないし、多分定期便とかはあるかも知れないけども。
「多分なんとかなりますわ!」
行き当たりばったりか!
そんなんだから野生に対して準備が足りなくなるんだぞ!
……いや、だからこそ旅に出る必要があるのか。
「っ~!……わかった、俺も行くよ。 でも、もっと事前準備や計画はキチンと立てよう。」
「ソースケ! 頼りにしてますわ!」
満面の笑みを浮かべてツツジは喜ぶが、フォローする身としては笑えないんだよこん畜生。
「それで?……前提条件として、親御さんの了承は得ているのか?」
俺も母ちゃんにこの話を切り出さないといけないのかと思うと気が重いわ。
「あ、それなら大丈夫ですわ。
何でだよ!?
親御さんの俺の評価、変に高くねぇか!?
おいっ、娘の旅路に男が付いて行って良いのかこれ!
親父さんは娘が心配じゃねぇのか!?
俺だったら娘の旅に男が同行とか100%拒否するぞ!?
~っ!!!
もう良いや!
親御さん公認の旅路とか、ポジティブに考えれば親御さん公認のカップルみたいなもんだろ! 多分!
「……まぁ、わかった。 でもポケモンはどうするつもりよ? 流石にメレシーだけじゃ旅をするのは厳しいぞ?……スクールから正式にノズパスやイシツブテを貰うつもりか?」
「う~ん、……そう、ですわね。……決して、あのノズパスやイシツブテが嫌いな訳ではありませが……出来ればメレシーの様に自分でポケモンをゲットしたいですわね。」
俺はその言葉に、額に手を当てて頭痛を抑える。
こいつ、お嬢様らしく我が儘だぞ畜生。
「そう言うソースケだって、エルフーンしか手持ちは居ないではありませんか。……貴方も他に欲しいポケモンとかおりませんの?」
……俺の欲しいポケモン、か___
「そりゃあんた……俺だって、リーフィアやドレディア、アマージョなんかを仲間に欲しいさ。」
「……全て、可愛らしい見た目をしたポケモンですわね。」
「いやいや、カッコいいポケモンだって好きだぞ? ジュカインやダーテング、ゴーゴートなんかも良いよね。」
……そう発言して気がついた。
俺も十分我が儘じゃん。
「ま、まぁとにかく、旅に出る前に、最低でも後一匹は手持ちの仲間が欲しいな。」
「ですわね。」
ツツジは俺の言葉にう~ん、と唸って仲間にしたいポケモンの事を考える。
そして俺も考える。
ホウエン地方には最優秀と言える草タイプのポケモンが存在する。
キノガッサ。
草・格闘タイプのポケモンで、優秀な物理攻撃力を有するポケモンだ。
そしてカナズミシティーの直ぐ近くのトウカの森に存在するので仲間にしやすいと言える。
しかもその本領は“キノコのほうし”という技だ。
この技を喰らえば100%
俺が最初にキノココをゲットしようと思った理由はそこにある。
ゲームですら対策必須と言われたこの技を、この世界で使えたならばどれほど強力なのか興味があった。
ま、色々あって実際に喰らった事がある。
ヤミラミ同様俺のトラウマランキングに入るレベルのヤバさだった。
……トウカの森の最深部は滅茶苦茶ヤバいぞ。
おかげでキノココを仲間にするのを一旦中断している程だ。
他にも、カナズミシティーを北に進み、流星の滝を越えた114番道路に出現するハスボーなんかも魅力はある。
草タイプのスペシャリストになりたい俺からしたら、水・草タイプのこいつは、炎タイプ殺しとして非常に気になる存在ではある。
他の弱点タイプと違って、炎タイプだけは本当に対策が厳しいからな。
全体的に均一の取れた能力値で、特に突出した強さの無いハスボーの最終進化系であるルンパッパだが、技範囲が非常に優れている。
悪く言えば器用貧乏だが、良く言えばどんな場面でも任せられると言える。
……だが、But、しかし、……なんと言うか、ルンパッパは見た目がちょっと……。
ハスブレロまでは目力があったりやる気を感じて、まだカッコいいと言える範囲なのに、ルンパッパになった瞬間急に能天気な見た目の頭の悪そうな感じになっちゃったからなぁ。
嫌いとは言わないが、欲しいとは思わなくなってしまった。
……まぁいずれは炎タイプ対策に絶対仲間にするけども。
けどこう考えると仲間にしたいポケモンって中々思いつかないものだ。
「まぁポケモンの事は保留にしておくとしても、他にも考えなきゃいけない事は多いわな。」
「例えば何ですの?」
いや、君の提案なんだから君がメインで考えなきゃ。
「旅をするにあたって、食料や水の確保、寝床の安全保障なんかはどうするつもりなんだ?」
常に街のベッドで寝れるとは限らないぞ。
「あっ、……そう、ですわね。」
「他にも、移動手段は? 経路は? 道具は? 経費は?……決めなきゃいけない事、考えなきゃいけない事、ホント沢山あるぞ。」
「さささっ、流石ソースケ! 頼りになりますわね!」
嬉しい事を言ってくれてるが、目が泳いでいるぞ。
「ま、幸い夏休みまで時間はある。 これらは追々決めて行けば良いとして、……やっぱ、自転車と“ひみつのちから”の技マシンを入手するのが先決かな。」
「自転車はわかりますが、“ひみつのちから”? 何ですのそれ?」
まぁ知らないか。
ゲームでもマイナーな部類の技だが、この世界ではとんでもなく有能な技だ。
何せこの技を特定の場所で使用すると、
これだけで夜営の問題は一気に解決する。
旅をするならば、他の秘伝の技よりも重要だと俺は思っている。
俺はその事をツツジに話した。
「はぁ~、成る程。……それにしても、本当にポケモンの技と言うか、ポケモン全てがやっぱり謎に包まれていますわね。」
それな。
大体何でも困ったらサイコパワーで説明しちゃうしな!
「それで、その“ひみつのちから”は
…………。
「さぁ?」
「わかりませんの!?」
いや知らねぇよ。
売ってるものじゃねぇし。
ストーリーの何処でどうやって手に入ったかなんて覚えてねぇよ。
「何故わからない物をそんな堂々と自信ありげに話せるのですか!?」
まぁ簡単に言うと、識ってるけど知らないからだろうなぁ。
「探せばどうにかなるだろ、多分。」
「……そんな適当な。」
大雑把に目標だけ決めて、他はアバウトな君に言われたくないぞ!
「それよりも問題は自転車だ。」
1台100万円だぞ?
親に頼める値段じゃねぇぞ。
この世界の自転車は、前世よりもハイスペックに出来ている。
キチンと整備された道を走る訳ではないので、パンクは基よりチェーンの脱輪やフレームの歪みなんかも起こらない超頑丈。
そして坂道なんかでも負荷は低いし、乗り手次第ではスピードもかなり出る。
……それでも100万は高けぇよ。
俺がどうするべきか頭を悩ますと、
「私の家にあるものを借りますか? 確かお父様がお使いになっていたものが1台あった筈です。」
「良いのか? それはもの凄く助かるが、1台しかないなら君はどうするんだ?」
あ、もしかして2人乗り?
いや~、旅で自転車の2人乗りは疲れそうだが、それはそれで悪くないかもなぁ。
「私は新品を買いますわよ?」
……こいつ悪魔かよ。
何だこの格差社会。
「あ、でも私、自転車に乗った事がありませんの。 ソースケ、よろしかったら乗り方を教えてくれませんか?」
「……仕方ねぇな。」
なんて、ちょっとぶっきらぼうに答えたが、内心はデレッデレだった。
だって幼なじみと初めての自転車うんぬんとか、何か少女マンガでありそうな展開だもの!
もう旅なんかよりもこんな毎日で良いんじゃないかな!?