この話から気付いた人は前の話をお読み下さい。
俺とツツジはカナズミシティーへと帰っていない。
リリーラとアノプスが孵ったので、フエンタウンの滞在を1日伸ばす事にしたのだ。
当然、それぞれの親へは連絡済みだ。
孵ったから帰ってないのだ。
……すいません。
冗談はともかく、ポケモンセンターでの健康診断は無事に終わった。
2匹とも大変元気との事で、午前中には俺達の手元に戻って来たのだ。
その際に、2匹の特性も判明した。
アノプスは普通に【カブトアーマー】だったが、リリーラは何と嬉しい事に夢特性の【よびみず】だったのだ。
……というか、正確には【きゅうばん】ではない事が発覚したのだ。
だから多分【よびみず】ではないかと推測されている。
流石ダイゴ神やでぇ。
ここまで用意周到だったのか!
俺は改めてダイゴ神へと感謝を捧げつつ、リリーラを大切にする決意をするのだった。
そして今はフエンタウンのちょっとした公園で、エルフーンとメレシー、リリーラとアノプスを放して遊ばせている。
エルフーンとメレシーがお兄さんぶって___メレシーは性別不詳だからお姉さんぶってるのかもわからないが、とにかく年上ぶってリリーラとアノプスの面倒を見ている。
何だこの癒される光景。
ここは天国かな?
俺とツツジはニヤニヤが止まらないぞ?
「あ、フエンジムはどうしましょうか……。」
ツツジが本来の予定に気付きそう呟く。
「もう良いんじゃねぇの? こっちの方がよっぽど大切だし。」
「それは確かに。……いえ、ですが、手紙を出して約束してしまいましたし。」
俺達はトウカジムの二の舞を踏まない為にも、今回は事前に手紙を送り、アスナと約束を取り付けている。
本当は午前中に伺う予定だったのだが……。
……流石に約束を破るのは駄目か。
俺は渋々、フエンジムに行く事を了承した。
_____
「待っていたぞ、挑戦者よ! 私こそがこのフエンタウンのジムリーダーであるアスナだ!」
俺達がジムを訪れると、アスナはそう言って決めポーズを取り、俺達を歓迎してくれた。
いや、しかし___
うわぁ、すっげぇナイスボディ。
それがアスナを見て真っ先に浮かんだ想いだ。
出る所は大きく出て、引っ込む所は綺麗に引っ込んでいる。
足はスラッと長いし、顔は端正に整っている。
見目麗しいとはこの事だ。
ま、足に関してはツツジも負けてないがな。
彼女のカラータイツは眩しいからな!
それにしても、わかってはいたが、アスナは大胆にお腹を出すファッションをしていて、……何か、えっちぃな。
ありがとうございます!
何故か彼女に感謝せざるを得ない。
きっと、俺が男だからだろう。
「……何を見てますの、ソースケ?」
俺がアスナのおへそをチラチラ見ていたら、ツツジにシラッとした目をされてそう問われた。
「……や、別に。 どんなポケモンを使うのかな?って、ベルトのボール見てただけだし。」
……俺の声は、決して震えてなんかいないぞ。
「ふーん、そうですの。……ふぅ~ん。」
な、何だよぅ!
仕方ないじゃん!
文句ならあんな格好しているアスナに言えよな!
これが嫉妬ならまだ嬉しいが、ただの軽蔑だったらキツイぞ畜生。
それもこれも、アスナのおへそのせいだ!
俺がアスナに責任転嫁をしている間に、ツツジは今回の挑戦理由をアスナに説明し、本気バトルのお願いをしている。
「成る程ね、わかるわかる。 私もおじいちゃんが四天王だったからさぁ、プレッシャーとか凄いんだよね。……私も今年からジムリーダーだから、ちゃんとしたジムリーダーってどうすれば良いのか、未だに悩むしさぁ___」
……おい、大物2世の愚痴大会じゃねぇんだぞ。
何共感しあってるのあんたら。
バトル前の馴れ合いは好ましくないぞ。
そういうのは終ってからにしろ。
ツツジは俺にはあんな視線を送った癖に、俺のシラッとした目は無視して一頻りアスナと『私達大変だよね』トークをしている。
……知らねぇよ。
だったら断れっつーの。
俺がいい加減呆れて、エルフーンとリリーラを出して戯れていたら、40分経ってようやくバトルをする事に至ったらしい。
……このまま帰っても良かったのに。
今回のバトルもトウキの時と同様に1対1のエースバトルだ。
当たり前だが、孵ったばかりのアノプスは使わない。
俺と一緒に見学だ。
リリーラとアノプスにとっては初めて見るポケモンバトルなので、良い経験になるだろう。
それにこれでバトルに対して消極的になる様なら、バトルはしない方が良いしな。
俺個人の考えだが、例え6Vで、性格が一致していて、良特性だったとしても、本人がやりたくないならさせるべきじゃないと思っている。
甘やかし?
良いんだよ。
こんなのはやりたい奴だけやれば良いんだ。
バトルは二の次、優先すべきは愛でる事だ。
ま、当の2匹はこれから始まるバトルにワクワクしている雰囲気だがな。
「行きますわよ! メレシー!」
「行くよ! コータス!」
お、やっぱりコータスか。
……どこぞのアプリゲームの様に、不当に弱くないと良いが。
「メレシー! “ひかりのかべ”!」
「コータス! “かえんほうしゃ”!」
コータスは非常に遅いポケモンで、一般的には鈍足にあたるメレシーよりも技が後だしになってしまう。
だから先にメレシーが“ひかりのかべ”を展開し、特殊攻撃の威力を半減されたのが痛い。
これでは特殊攻撃の“かえんほうしゃ”でダメージは___
!?
嘘だろおい?
軽くではあるが、きっちりダメージが入っている!
タイプも岩と炎だぞ!?
ツツジが最初に有利になったなと思ったがこれでは___いや、逆にここで“ひかりのかべ”を張れて助かったのか。
「……“ひかりのかべ”。 やるねツツジさん!」
「アスナさんのコータスもお見事ですわ!」
「私のコータスは特殊技の訓練を毎日しているからね! まだまだ行くよ! “ねっぷう”!」
成る程、特攻に努力値を振っている訳か!
そして次手もいやらしい。
“ねっぷう”はフィールドに対する全体攻撃だ。
これ系統の技を避けるのはかなり難しい。
鈍足なメレシーで避けるのはまず無理だろう。
着実に詰みに来てるな。
「メレシー! “いわなだれ”!」
……うーわ。
コータスよりも先手を取ったメレシーが、“いわなだれ”をコータスにぶち当て
コータスはそのせいで“ねっぷう”を撃てない。
いくらコータスの物理防御が高くて、抜群技でもあまりダメージは入らないにしても___
……これは酷い。
ってか30%の怯みを引いたメレシーも凄い。
……ツツジ___いや、ツツジさん、何処でそんな性格の悪い技覚えたんですか?
「コータス! しっかりして!」
アスナが悲鳴に近い叫び声をあげる。
……気持ちは痛い程わかる。
ヤミラミの“あくのはどう”でモンメンが怯んだ時は、そんな感じだったよ俺も。
「今のうちですわよメレシー! “ロックカットでかくばる”!」
コータスが“いわなだれ”でがっつりと怯んでいるうちに、メレシーは悠々と積み技で能力を上昇させる。
ツツジさんの十八番、入りましたー。
そしてメレシーの能力が上昇仕切ると同時にツツジが攻勢に移る。
「行きますわよ! “ストーンエッジ”!」
コータスは怯みから立ち直りはしたが、これを避けられそうにない。
コータスが遅いのはもとより、速くなったメレシーの技を避けるのは厳しい。
「くっ! 耐えてコータス!」
「仕留めなさいメレシー!」
メレシーが全力で地面を叩き付け、ドゴン!という轟音を鳴らし、コータスの真下から尖った岩石を突起させる。
その際に起こる土煙で僅かに視界が妨げられたが、………結果は___
土煙が晴れて行く中、非常に傷付き今にも倒れそうなフラフラしたコータスが居るが、確かに、まだ目に光を宿して立っている。
「コータス、良く耐えたわ! お返しするよ! “オーバーヒート”!」
「!? 嘘、耐えましたの!? くっ、メレシー避けっ___今度は私達が耐えますわよ!」
メレシーは全力の“ストーンエッジ”を打ち終えたばかりで、まだ技硬直中の為に俊敏には動けそうにない。
その事を悟ったツツジは唇を噛み締めて、メレシーに耐える様に頼む。
「行っけぇぇぇ!!!」
アスナの暑い、熱い掛け声と共に、コータスが全力の“オーバーヒート”を放つ。
こちらもブオォン!という轟音を鳴り響かせながら、とんでもない火炎がメレシーを襲う。
……おいおい、これメレシー溶けるんじゃねぇの?
そう思う程の熱量がバトルコートを包み込む。
観戦している俺達にまで、もの凄い熱気が伝わるからな。
この“オーバーヒート”を放ったコータスは、後ろ足も前足も曲げて、地面に膝を着く。
まさにぶっ倒れる前の瞬間って感じだ。
「行けますわよね! メレシー!」
未だに燃え盛る火炎の中に、ツツジがそう叫ぶ。
「後もう一押しですわ! 僅か少し!……お願いしますわ、“がんせきふうじ”!」
「気合いは認めるけど、流石に___」
アスナが勝ちを確信し、ツツジに話かけた時に、それは起きた。
「ッッッ~! シィ~!!!」
火炎の中からメレシーの鳴き声が聞こえ、そこから岩石が飛んで来る。
「っ! 嘘!?」
「メレシー!」
その“がんせきふうじ”は見事コータスに当たり、コータスは沈んだ。
……。
沈黙が場を支配する。
「…私達の、勝ちですわ。」
「……あっ、うん。……負けた。」
悔しいとか、悲しいとかではなく、純粋に驚いたアスナはそう呟くのだった。