アスナは強かった。
普通ならアスナはツツジに惨敗してもおかしくなかった。
弱点タイプのスペシャリストと戦って、惜しい所まで持っていける時点で、彼女は凄い。
勝負に“たられば”は無いとは言え、もしも“いわなだれ”でコータスが怯んでいなければ、……どうなっていただろうか。
……詮無き事ではある。
何れにしろ、今回勝ったのはツツジだ。
「……私が未熟だった。 うん、私は未熟だけど、それ以上にツツジさんが強かった。」
バトルが終わり、呆然としていたアスナが立ち直りそう呟く。
「凄かったよ貴女とメレシー。 コータスの“オーバーヒート”を耐えたのも凄いけど、それを耐えると信じて炎の中にいるメレシーに指示を出す貴女も、炎の中にいながらコータスに技を当てたメレシーも。」
「確信があった訳ではありませんが、メレシーなら耐えてくれると信じていたので……。 それに、最後の“がんせきふうじ”も運良く当たったに過ぎませんわ。」
ツツジとアスナはお互いのポケモンをジムにある簡易回復装置で回復させながら、そのまま和やかに感想戦に入る。
「どうだった? お前達もやってみたいか?」
俺はこの激しいバトルを観戦した、孵ったばかりの2匹にそう尋ねた。
そしたら2匹とも興奮しながらコクコク頷いたので、空いたバトルコートを借りて少し手解きする事にした。
「よしエルフーン、お前は攻撃を受ける事と避ける事だけする様にな。……さて二人とも、まずはお前達がどんな技を使えるのか教えてくれ。 何しても良いぞ、エルフーンに向かって攻撃だ。」
俺がそう言うとエルフーンは仕方ねぇな、と言わんばかりに仁王立ちする。
そして2匹がこの可愛いサンドバッグに向かってそれぞれ攻撃を開始した。
まずはリリーラが___なんだろう? これは、“しぼりとる”? それとも“からみつく”かな?
触手でエルフーンをグルグル巻いて圧をかけようとしている。
エルフーンはただ擽ったそうにしているだけだ。
……“くすぐる”じゃ、ないよな?
お次はアノプス。
先ずは身体に水を纏ってエルフーンにたいあたりする。
が、全く威力は出ない。
エルフーンにモフっと受け止められた。
今のは“アクアジェット”か。
良い技覚えさせるぜダイゴ神。
他にもリリーラは“メガドレイン”や“ようかいえき”を使い、アノプスは“れんぞくぎり”や“メタルクロー”を使用出来た。
ただ2匹とも孵ったばかりで当然弱い。
ぶっちゃけ、エルフーンにじゃれている様にしか見えない。
エルフーンも避けるそぶりは見せず、ずっとどや顔で仁王立ちしている。
「フンス!」
……いや、フンス!じゃないよお前。
これじゃ訓練のくの字にすらならないよ。
次は補助技でも見るか、と思ったらツツジ達が話終えてこっちに来た。
「随分と可愛い光景ですわね。」
「ふふ、バトルした後に見ると和むね。」
やっぱじゃれてる様にしかみえませんよね。
「一応本人達はバトルのつもりらしいぜ。 2人のバトルを観て、自分達もやってみたいんだってさ。」
「成る程、将来
今は可愛いですわね。
「それで、どうした? そろそろ帰るのか?」
「え、……ソースケは戦わないのですか?」
「……戦う必要があるんですか?」
無いよ。
まるで無い。
「おいおいツツジ、俺はバッジに興味ないって言ったじゃないか。」
「えぇ、ですが、……本当にやりませんの?」
「何でそんなにやって欲しいんだよ?」
あのどや顔エルフーンが燃やされる所なんか見たくないんだけどなぁ。
ツツジは神妙な顔で俺に近づき、こっそり耳打ちする。
「実は、アスナさんにソースケの事を優秀な草のスペシャリストと紹介してしまいまして……。それで、その、アスナさんが草タイプには負けないと豪語するものですから、……ソースケならアスナさんに勝てると、つい言ってしまいまして……。」
「勝てる訳ねぇだろ。 せめてリリーラがユレイドルまで進化しないと勝負にすらならねぇよ。」
「……本当ですの?……本気ですの?」
うっ。
ツツジが真っ直ぐ俺の目を見つめる。
それに俺がたじろぐと、俺達の会話が聞こえていたのだろうアスナが会話に参加する。
「いいよいいよ、ツツジさん。 私も流石に草タイプには負けないから。 わかりきった勝負は勝負じゃないしね。」
……成る程、実にわかりやすい挑発だ。
こんな挑発に乗らない事は簡単だ。
けどな、もう自分に対する言い訳は出来てしまったんだ。
ツツジが俺に期待している。
草タイプが馬鹿にされてる。
それになんだかんが、俺もカチーンと来たぞこの野郎。
「わかった。……本気でやろうか。」
「そうこなくっちゃ!」
_____
俺にだってな、自重してる事はあるんだ。
けどな、仕方ないよな?
相手は強いし、弱点タイプだし、馬鹿にされたし。
「やろうか、エルフーン。」
「行くよ! バクーダ!」
……どんなポケモンでも関係ない。
炎タイプの時点で本当は勝ち目がないんだもの。
俺のやる事は変わらないさ。
「エルフーン、“くさぶえ”。」
「!? 不味っ___寝るな! バクーダ!」
お、ラッキー。
一発目から睡眠状態になるとは。
“くさぶえ”は技が当たったとしても眠らない事があるからな。
そういう意味では命中率が低いって事なんだろうな。
「続いて“ゆめくい”。」
「バクーダ! 起きてっ!」
エルフーンの“ゆめくい”にバクーダは強く魘されるが、アスナの声に反応して目を覚ます。
「良かった! バクーダ、“ドわすれ”!」
エルフーンの“ゆめくい”の威力を見て、特殊攻撃技を警戒したアスナは、特殊防御力を2段階上昇させる“ドわすれ”をバクーダに指示した。
……お疲れ様でしたー。
「それじゃ、“アンコール”。」
この技は
……つまり、バクーダを“ドわすれ”で縛った。
バクーダは暫くの間、おおよそ2・3回はずっと“ドわすれ”しか出来ない。
普通の6対6のバトルや3対3のバトルなら、手持ちと交換するなりしてこの縛りから解放されるが、1対1だと対処のしようがない。
……害悪スタイルの俺でもなぁ、自重してる事はあるんだよ。
「……あ、“アンコール”。」
顔を真っ青にさせてアスナがこの害悪さに気付く。
「エルフーン、“どくどく”。」
バクーダが再び“ドわすれ”してる所に今度は猛毒を叩きこむ。
そして___
パン、パン、パン、パン。
「あ、それ! “アンコール”! “アンコール”!」
俺とエルフーンは手拍子しながらバクーダにひたすら“アンコール”をした。
……アスナが泣いて降参するまでずっとやったのは反省している。
「……悪魔ですわ。」
泣いているアスナを横目に、ツツジは俺をゴミを見る目で非難する。
「……正直、すまんかったとは思っている。……けど、他に勝ち方なんて無いんだよ。 まともにやっちゃエルフーンじゃ勝ち目がない。」
「それで
忍耐論者でござるからな!
……すいません、嘘です。
でも忍耐論理とか受けループとか好きだぜ。
そんなこんなでアスナを泣かせてしまった俺は、気まずい状況でヒートバッジを貰ったのだった。
「貴方はいつか絶対ぶっ飛ばす!」
一頻り泣いた後、ヒートバッジを授与する時にアスナは俺にそう宣言した。
……勘弁してくれ。