ツツジを嫁にするまで   作:呉蘭も良い

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二十三話

……勝った。

……未だに、信じられん。

あの化け物(シュッキング)に、俺達は本当に勝ったんだ。

 

っ~!

やってやったぜこん畜生!!!

ポケモンの性能の差が戦力の決定的な差ではないんだよ!

赤い人の言葉は間違ってなかったぞ!

 

俺があまりの喜びにグッとガッツポーズを決めていると、ツツジがタッタッタと走って来て、ガバッと俺に抱きついた。

 

「やりましたわソースケ! 私達、勝ちましたの!」

 

おおぉぉお、お、おぅ。

え、ちょっ、ツ、ツツジさん!?

……あ、何か良い香りが。

 

混乱の極致の俺を余所に、ツツジはパッと離れ嬉しそうな笑顔を見せて、俺を褒める。

 

「貴方のおかげですわ! 貴方がケッキングを苦しめたおかげで、私が仕留める事が出来たんですの!」

 

「あ~………や、うん。……まぁ、センリさんの手加減ありきだけどな。」

 

ツツジの褒め言葉で、俺は逆に冷静になった。

 

今回は確かに勝った。

勝ちはした。

 

が___

 

それはあくまでセンリが受けて立つ側だから、何とか勝てたに過ぎない。

 

もしも初手が“れいとうパンチ”だったら?

ロトムは耐えられず一撃で落ちて、何も出来ずに終わった。

 

もしも“おにび”を当てられ火傷状態の時に、逃げるロトムを追わずにその場で“ビルドアップ”なんかをして火力回復に努めたら?

“トリック”は成功したとしても、その後が厳しくなる。

 

そもそも初手が“ちょうはつ”だったら?

シュッキングの最大の弱点は補助技だ。

もし初めから“ちょうはつ”をされてたらその時点で詰んでた。

 

他にも色々、センリが安定して勝つ事が出来た場面は多々ある。

 

これらは結果論ではある。

だがこれだけの勝ち筋があるのに、それに至ってないのは偶然ではなく必然だろう。

 

センリは確かに全力だったのだろうが、それは受けて立つ側の全力で、挑戦者としての全力ではなかった。

何が何でも勝ちたいという様な、俺達の様な気迫は感じなかった。

 

それこそ、相手がダイゴさんクラスならもっと違う戦い方になった筈だ。

 

その証拠に、俺達相手にセンリはたった2度しか、補助技を指示していない。

……“ちょうはつ”と“なまける”のみ。

 

2連戦で補助技がたった2回。

自身を有利にする為に存在する補助技をたった2回。

俺達相手にはそれだけで十分と判断したのだろう。

 

それだけで、格の違いがわかるってもんだ。

結果的には俺達が勝ったが、その判断が間違っていたとは思えない。

 

それだけの“差”は確かにあった。

 

ちなみにシュッキングが他の補助技を持っていない、なんて可能性は0だ。

こんな化け物を育てた人物が、補助技を覚えさせないなんてある訳ない。

 

本来ならこの人は連結技だって使えた筈だ。

俺の予想が正しいなら、“なまけながらドわすれ”や“なまけながらちょうはつ”、そして最悪の可能性として“なまけながらあくび”なんて出来た筈だ。

 

……やっぱり、1対1ではどうやっても勝てない。

ってか今回勝てたのも、本当に運が良かった。

 

勝ちはしたが、それでもなお戦慄が止まらない俺を余所に、センリは目を瞑りながら負けの余韻を楽しんでいる。

 

……これじゃどっちが勝者かわかんねぇや。

 

「……本当に、本当に、良いバトルだった。……負けたと言うのに、こんなに心が踊ったバトルは実に久しぶりだ。」

 

センリはニッコリと、穏やかに笑ってそう呟く。

そして自重する様な苦笑いに変わり、俺達に申し訳なさそうに謝る。

 

「すまない、ソースケ君、ツツジさん。 私は君達を侮っていた。……いや、舐めていた。 私の息子とそう年齢の変わらない子供が相手だと、君達を格下だと軽んじていた。 次期ジムリーダーとは言え、たかが子供相手の2連戦だと思い上がってしまった。」

 

……いえ、事実格下です。

 

「何が『バトルには自信がある』だ。……私にあったのは、自信ではなく過信だった。 慢心だった。 ただの油断だった。」

 

いえ、えっと……あのシュッキングを所持しときながら油断も慢心も無かったら、それこそ勝ち目0なんですが。

 

「何と烏滸がましい事か、何と恥ずべき事か。……こんな有り様で、私にジムリーダーが勤まる筈がない。……もう一度、最初からケッキング(こいつ)と自身を鍛え直したい気分だ。」

 

「いやいやいやいや!!! センリさんはジムリーダーに十分相応しいですよ!?」

 

アンタが駄目なら誰がOKなんだ!?

その強さの一点だけでも十分相応しいぞ!

 

「その通りですわ、センリさん。 私達も結局は1対1では貴方に勝てるすべはございませんし。」

 

「勝てる勝てないの問題ではなく、私の心持ちの問題なんだが……。」

 

えぇ~、この人ストイック過ぎない?

こんなパパンに育てられたら、そりゃ主人公は強くなるよ。

 

「……そうですわね。 わかりました。 センリさん、勝者として貴方に我が儘を言っても良いでしょうか?」

 

「何を___」

 

「私、貴方のケッキングに1対1で勝てる様になりたいので、貴方にはトウカジム(ここ)で、ジムリーダーとして、私の挑戦を待っていて欲しいですわ。」

 

……うっわ、目標デカ過ぎ。

 

センリは最初ポカンとしたが、次第に笑いが込み上げて来たのか、声を大きくして笑った。

 

「くくく。……ふぅ、了承した。 君の挑戦はいつでも大歓迎だ。……勿論、ソースケ君もな。」

 

あ、いえ、私は結構です。

誰があんな化け物を2度も相手にするかってんだ。

ロトムさんが可哀想だろ。

俺は(自分の)ポケモンには傷付いて欲しくない、愛のある優しいトレーナーなんだぞ。

 

俺は絶対に、2度と、確実に、あのシュッキングと再びバトルなんてしない事を心に誓った。

 

そして俺達はセンリとのバトルが見事だったという理由でバランスバッジを授与されたのだった。

 

……センリがジムリーダーになったら確実にバランスブレイカーなんだけどなぁ。

ホントにこの名前のバッジで良いの?

チートバッジでも良いと思うよ俺は。

 

そんなこんなで俺とツツジはトウカジムから帰る時間を迎えた。

今はトウカジムの前で、センリが見送りをしてくれている。

 

「それでは道中気を付けて帰るように。」

 

「お気遣いありがとうございますの。」

 

ははは、アンタのシュッキングよりヤバい奴なんていないから問題ないぜ。

 

「私は来月から正式にジムリーダーに任命されるだろう。 それ以降なら、先程も言った様にいつでも私を訪ねてくれ。」

 

「はい。 自分の腕が上がったと確信しましたら、訪ねさせて頂きますわ。」

 

「私もそれまでに腕を磨いておくよ。」

 

それ以上はやめてけれ。(白目)

 

「あぁそうだ、ツツジさん。 私は来月に備えて、一度ジョウトに帰るのだけど、……もし興味があるなら、ヨーギラスなんて欲しかったりしないかい?」

 

「まぁ! 興味ありますわ! ヨーギラスを頂けるのですか!?」

 

「それは良かった。 私の知り合いが里親を探していてね。 少々いじっぱりな子だが、バトル向きの強い子だと聞いた。 岩タイプのツツジさんなら或いはと思ってね。 では来月ヨーギラスも連れて来るので、再びここを訪れてくれ。」

 

「はい! 必ず! ありがとうございますわ!」

 

なん……だと……。

ヨーギラスって事は、将来はバンギラスゥ!?

種族値の暴力!!!

 

センリさんアンタねぇ!

自分が670族(ケッキング)使ってるからって、人に600族(バンギラス)与えるなよな!

お前将来は俺が相手しなきゃいけないんだぞ!?

 

畜生!

“おきみやげ”された気分だ!

俺の物理攻撃力(たいりょく)特殊攻撃力(せいしん)が、ガクッと下がった気がした。

 




感想にて、シュッキングが化け物過ぎて、この世界の四天王などの強さのインフレを心配されたので、少し説明をします。
このシュッキングは紛れもなくこの作品の最強格の一匹です。
他のトレーナーが弱い訳ではなく、こいつが純粋に化け物となる様に設定しました。

が___

じゃあ四天王は弱いのか?
と言われると非常に困る。
この作品の目的が最強のトレーナーを目指す事ではなく、嫁を落とすまでの話ですので、正直四天王とか出す予定ないし、強さの設定とかしていないのです。

けども___

流石に弱く設定したくはないので、このシュッキングを基本に立ち向かえそうなポケモンを設定しました。
(本編に出るかは未知数だが)

サマヨール♀
トレーナー フヨウ
性格 のんき
特性 おみとおし
持ち物 しんかのきせき

覚えている攻撃技
ほのおのパンチ
れいとうパンチ
かみなりパンチ
シャドーパンチ
きあいパンチ
かわらわり
かげうち
おいうち
ふいうち
しっぺがえし
すてみタックル

覚えている補助技
にらみつける
かなしばり
おにび
あやしいひかり
のろい
くろいまなざし
どくどく
ちょうはつ
いちゃもん
さしおさえ
みちづれ
ふういん
おきみやげ
スキルスワップ
トリックルーム
いたみわけ
よこどり

……これならやれるでしょう。
火傷にするのが前提条件ですが、これならシュッキングと対等に戦えると思います。
後は“ふいうち”さえ警戒すればいけるかな。

ちなみにホウエン最強四天王のゲンジの場合、相棒がボーマンダなので、どう考えても“れいとうパンチ”で一撃だった。
すまんなゲンジ。


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