ツツジを嫁にするまで   作:呉蘭も良い

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二十八話

「……あれだけ偉そうな事言っといて()()とはね。……ツツジさん、これが油断したトレーナーの末路よ。」

 

ナギさんは自嘲する様な苦笑いを浮かべた後にチルタリスをボールへと戻す。

 

「……“ミラーコート”か、その技は知っているけれどユレイドルが使えるとは知らなかったわ。」

 

……そりゃ、そういう事もあるだろう。

ジムリーダーだって人間だ。

全てのポケモンの、全ての事実を知っている訳じゃない。

 

寧ろ前世の知識がある分、俺の方が詳しいなんて事もそりゃある。

 

だが、俺だって当然知らない事は多くある。

 

俺は___

 

809種全てのポケモンの名前を言えない。

どのポケモンがどのタイプか完全にはわからない。

全てのポケモンの種族値がどうなってるか知らない。

どのポケモンがどんな技を覚えるか全部は知らない。

全ての技とその効果は知らない。

 

他にもまだまだ沢山ある。

俺が前世で強者(廃人)になれなかった理由が。

 

俺が知っているのは精々、前世で有名所だったポケモンやレートで良く使われていた強いポケモン、俺が元々好きだったポケモンに関する事くらいだ。

 

前世の知識という圧倒的なアドバンテージを持っている俺でも、その程度なのだ。

 

それを、前世以下の情報量のこの世界で何でもかんでも知ってる方が寧ろ恐ろしい。

 

……そういう意味では、前世の知識という本来ならあり得ない情報を持っている俺が、戦い方以上に害悪なのかもしれない。

 

……ま、だからどうこうだって話ではないが。

 

結局俺がやってるのは、相手の意識外から横殴りしているだけなので、強い弱いや油断うんぬん以前に全方位に全て対応されたら何も出来ないんだよな。

 

だからきっと、俺と同等以上の知識を持っている人が現れたら、俺は絶対に勝てないだろう。

 

ただでさえシュッキングの様な圧倒的な暴力には手も足も出ないのだ。

そこに種族値や覚える技、ポケモンの型なんかも考慮されたら無理ゲー過ぎる。

 

だから、ナギさんだけじゃなく今まで戦った全てのトレーナーには申し訳ないが、俺は初見殺しの存在なので、あまり俺への負けは気にしないで欲しいと思う。

今回の件で言えば、ユレイドルが“ミラーコート”を覚えるというのが知られていたらそれなりにキツかった。

 

将来的に考えれば、俺の戦い方は知られれば知られる程、対策されて詰んで行くからな。

結局俺は強いトレーナーではなく、面倒なトレーナーなんだろう。

 

俺はナギさんからフェザーバッジを受け取りながらそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……気持ちが良いですわね。」

 

俺達はジム戦終了後にヒワマキシティを後にして、今はトロピウスの背に乗り、ミナモシティへと向かって空を旅している。

ヒワマキジムで予定通り“そらをとぶ”を覚えさせて頂けたからな。

 

トロピウスの“そらをとぶ”は結構ゆったりだ。

スピードを出せばどうなるかわからないが、子供とはいえ2人乗りだし慣れないうちに危ない事をしたくないので、今はこれで良いだろう。

ま、ツツジと密着してる時間が長いのも悪くないからな。

 

とはいえ___

 

「本当にヒワマキシティに残らなくて良かったのか? リベンジとか考えてなかったのかよ?」

 

「まぁ、そうですわね。……リベンジは当然考えておりますが、正直、今再びナギさんと戦っても勝てるビジョンが見えませんわ。」

 

……まぁ、水タイプに対する弱点は一朝一夕でどうにかなる問題ではないわな。

 

「元より、このジム巡りは強くなる為のものであって、バッジ集めではありませんので、そこまで拘っていないですし。 何も今すぐナギさんにリベンジしたいとは思っていませんわ。」

 

「……そっか。 けどよ、ルネジムのミクリさんは水タイプのスペシャリストだぜ? 仮にこのままジム巡りを続けても、やっぱ先行きキツイんじゃないか? 更に言えば、ミクリさんは間違いなくチャンピオン級だぞ。」

 

エメラルドでもそれは証明されてるし、この世界ではコンテストの実績の方が目立ってはいるが、ダイゴ神が自分と並ぶ実力者って明言してたからな。

 

「……確かに、それは問題ですわね。……ですが、どうすれば良いのか私にはわからないのです。」

 

ツツジは俺にそう弱音を溢す。

 

「ナギさんのペリッパーもそうですが、今の私では水タイプに対してどう対処すれば良いのかまるでわかりませんわ。……アーマルドは勿論、いずれ預かるヨーギラスも当然、今回の事でディアンシーも頼れないとなれば、どうやって対策すれば良いのか……正直、困っていますの。」

 

……確かに、その3匹ではかなりキツイ。

ペリッパーだけならば、ヨーギラスをバンギラスへと育ててから特性を考慮した上で種族値の暴力を振るえば、攻略するのは可能かもしれない。

けれど根本的な水タイプへの対策にはなり得ない。

 

「……やっぱ、1番楽なのは水受けポケモンを加入する事だよなぁ。」

 

俺はついボソッとそう溢してしまった。

 

「水受けポケモンですの?……例えば、オムスターやカブトプスみたいな?」

 

「うん。 水タイプとか、水タイプに対して強いタイプを有するポケモン。 君の言う、岩・水タイプなら他にもサニーゴやアバゴーラ、……えぇっと後は、アバゴーラみたいに亀みたいな奴……そう! ガメノデス、だっけ? そんな奴。……他には……ジーランス? とかもいたっけ?……とにかく、そんな奴らがいたら水タイプ対策には繋がると思う。」

 

まぁ、俺の持つ【よびみず】ユレイドルがいたら一発なのだが。

 

俺は気にしないが、どうなんだろ?

ポケモン被りとかツツジは気にするのかね?

ま、【よびみず】ユレイドル自体が結構希少なのだが。

 

「……成る程。 やはり今は勝てない、という事ですわね?」

 

……そうかもしれない。

 

ポケモンバトルに絶対は無い。

……とはいえ、現状ではキツイのが事実だろう。

 

けど___

 

「……あんまりさ、強い事に拘り過ぎるなよ。……そりゃ、ジムリーダーは強くてナンボみたいな所はあるけど……き、君には俺が付いてる。……君が駄目な時は、俺が補う。……ゆっくり強くなれば良い。 今は2人で頑張ろう。」

 

トロピウスの背中で密着しながら、俺はツツジを後ろから、あすなろ抱きする様に、ギュッと抱きしめた。

 

「……ソースケ。」

 

……ツツジの顔は見えないが、彼女は俺に身体を預け俺の手をギュッと握る。

 

 

……俺も、強くならなくちゃな。

相手を横殴りするだけじゃなく、もっと自分の強みに磨きをかけなくちゃ。

 

俺が好んで使う害悪戦法の本質は、()()()()()()()()()()()()()

 

それこそ“まひるみ”戦法の様に、行動そのものをさせないとか。

複数催眠の様に、相手の手持ちポケモンを殆ど眠らせるなど。

 

ポケモンの体力を削り落として勝つというより、何もさせずに降参させて勝つのが、害悪戦法の在り方だ。

 

……けれど、このままじゃ足りない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

きっとある。

もっとある。

 

相手のマウントを取って、一方的にボコボコにする方法はまだまだある筈だ。

 

……しかも、それだけでも駄目。

 

もっと真正面から戦える様になる、サブウェポンも必要だ。

補助技が封じられました、で詰むようじゃ駄目だ。

 

真正面から戦っても、強いトレーナーにならなくちゃな。

 

今回使用した“ミラーコート”も結局は奇襲の類い。

害悪技と言われれば否定など出来ない。

それこそ、今までの横殴りに相応しい技だからな。

 

……最強なんて目指していない。

 

目指していないが___

 

強くなる事に、これ以上の理由はいらないよな?

 

好きな女の為に、俺は強くなるぞ。

 


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