俺達はバトルコートの両端にお互いに立ち、空気感が合った瞬間にバトルを開始した。
「やろうか、モンメン!」
「お願いしますわ! ノズパス!」
俺が出したのは相棒であるモンメン。
というかモンメン以外はまだゲットした事はない。
そしてツツジが出したのはゲームでも彼女の相棒枠であるノズパス。
この世界ではスクールからの支給ポケモンで別に相棒ではないみたいだが。
しかしまぁこの時点で完全に俺の有利対面なのだ。
モンメンはくさ・フェアリータイプ、対してノズパスは岩タイプ。
そしてどちらも高い火力を出せるポケモンではない。
そうなると大体がじわじわと長期戦染みたバトルとなる訳だが、それはタイプ相性の良い俺が絶対的に有利なのだ。
「モンメン、“やどりぎのタネ”。」
「ノズパス、相手の技を避けてから“たいあたり”!」
そう、この世界は当然『避けろピカチュウ!』が存在する世界なのだ。
現実なのだから当たり前だ。
この世界でポケモンとは数字ではない。
ゲームの様に技は4つまでと決まってないし、技に命中率なんてないし、ターン制の様に技を一度ずつ出し合うなんて事もない。
全てトレーナーの腕次第でどうとでもなる。
良く鍛えられたポケモンなら、4つ以上の技を覚えて使う事は出来るし、命中率の低い技でも必中させる事が出来るし、次々と畳み掛けるように技を繰り出す事も出来る。
勿論生半可な腕では不可能だが。
だからモンメンの“やどりぎのタネ”を避けて“たいあたり”をしてきたノズパスを、こちらが避ける事も可能なのだ。
ゲームなら命中率100だから避けるなんて普通なら出来ないけどね。
「距離を取って、広範囲に“しびれこな”だ。」
俺の指示に従ってモンメンが“しびれごな”を突っ込んで来たノズパスのいる辺りに撒き散らす。
流石にこれを避ける事は出来なかったので、ノズパスは麻痺状態になった。
「くっ、ノズパス! お返ししますわよ、“でんじは”!」
「む、避けれるかモンメン!?」
ノズパスから放たれた“でんじは”をモンメンは必死に躱そうとしたが、広範囲に“しびれごな”を放った後の僅かな硬直時間のせいで、モンメンも避けられずに麻痺状態になってしまった。
この技を出した後の硬直時間を俺は『技硬直』と呼んでいるが、これはポケモンの技が強力な物程硬直時間が長い気がする。
未だに全ての技を確認した訳でもないので、どこまでがそうなのかまだ良くわかってないがな。
「仕方ない、もう一度“やどりぎのタネ”だ。」
「避けなさいノズパス!」
ツツジがノズパスに再び避ける様に指示するが、今度は痺れでノズパスの動きが悪いので“やどりぎのタネ”が直撃した。
こうなったらもう俺の勝ちだ。
「不味いですわね、……こうなったら勝負に出ますわよ! ノズパス、“いわおとし”ですわ!」
「耐えろよモンメン!」
麻痺のおかげでやどりぎが入ったのは良いが、モンメンも麻痺状態なので無理に避けようとして技が直撃するよりかは、耐える覚悟をしてぶつかる方がまだ良いだろう。
こういったわずかな差でも地味にダメージ量が違ったりするから、バトルではトレーナーの腕が本当に試されて面白いわ。
そしてモンメンはノズパスの“いわおとし”を受けきったが、そこまでのダメージは入らず、割と元気に俺の指示を待ってる。
やどりぎの効果もあって僅かながら回復もしているので、これで落とされる事はないだろう。
「よし、切り返しの“メガドレイン”!」
「まだまだ! “がんせきふうじ”からの“いわおとし”ですわ!」
ポケモンの技同士には相性があって、相性の良い技同士ならほぼ同時に使用する事が出来る。
有名所で言えば、“からにこもってこうそくスピン”だったり“まるくなってころがる”とかだろうか。
そして“がんせきふうじ”と“いわおとし”も相性が良い。
“がんせきふうじ”で対象のポケモンの周りを囲み、“いわおとし”でぶっ潰すみたいな感じだ。
これがまともに直撃すると大ダメージだわ、動きのスピードが鈍くなるわ、行動が起こせなくなるだわで、大変嫌な攻撃だ。
ゲーム的に言うと、きゅうしょにあたりやすく、すばやさを一段階下げ、ひるみやすい、みたいな感じだ。
うん、普通にチート技だな。
「モンメン! 相手が技を繰り出す前に吸い付くしてやれ!」
「ノズパス! 耐えて下さい、そして決めるつもりで全力で!」
俺の指示にモンメンが全力でノズパスを吸いに掛かり、ノズパスはツツジの指示で吸われながらも全力を出そうと技へと取り掛かる。
そしてノズパスの目が僅かに光り、ガンガンガンガンと“がんせきふうじ”の岩がモンメンを囲み始めた時に、ノズパスは力尽きた。
俺の勝利だ。
「……ふぅ、お疲れ良くやったモンメン。」
「……はぁ。 お疲れ様ですわノズパス。 また負けてしまいましたわね。」
結局、“メガドレイン”一発で勝負が決まったんじゃねーの?
的な終わり方をしたが、別にそうではない。
初っぱなから“メガドレイン”を繰り出した所で避けられる可能性は結構高いし、地味に“やどりぎのタネ”が良い仕事をしている。
それにノズパスが“しびれごな”で痺れて動きが鈍った所に、体力を少しずつ削る“やどりぎのタネ”が当たったので、ノズパスは後々の為に技を避けて戦局を有利にするという長期戦の構えが不可能になったのだ。
だから“メガドレイン”の直撃を許したので、このような結果になった。
そもそもの麻痺とやどりぎがなかったら、まだまだバトルは長引いていただろう。
まぁ最初に言った通り、タイプ相性はこちらが良いので長期戦では有利だけどな。
とは言え___
「最後のコンボが決まっていたら、中々危なかったな。」
「むぅ、あれさえ決まれば勝算はまだありましたのに。」
ツツジの言うとおり、あのコンボが決まれば流石に一撃でモンメンが沈むとは思わないが、それなりに危険な状況ではあっただろう。
有利タイプでありながら、今回の様な際どい勝負になるのだから彼女とバトルするのは面白い。
しかし勝ちは勝ちだ。
「さて、残念ながら今回も俺の勝ちなので授業には参加しない。……よって、ツツジにも罰ゲームとして一緒にサボって貰おうかな?」
「なっ!? な、何故ですの?」
「いやなに、俺が負けた場合の罰ゲームはしっかりあるのに、君には何のリスクもないなんて不公平じゃないか。」
バトルにはリスクが付き物なのだよ。
本来ならおこづかいな所を、授業のサボりで済むのだから安いものじゃないか。
それにいつも忙しく大変なツツジには良い休息になるだろう。
「むむむ、……授業への参加は当然の義務であって、決して罰ゲームなどでは無いのですが。」
「まぁ良いじゃないか。 お互いのポケモンも疲れているだろうし、先ずはポケモンセンターへ行って休ませようぜ。」
スクールにある簡易回復装置を使うのも良いが、あれはあくまでも簡易なので、しっかりと回復させてくれるポケセンの方がポケモンにとっては良い。
折角トレーナー資格を取って、無料でポケセンの本格的な回復装置を利用出来るのだから使わない手はない。
それにポケセンにいるラッキーの“いやしのはどう”はポケモンが喜ぶのだ。
体力の回復だけではなく、精神的にも気持ちが良いらしい。
「……はぁ。 先生方には申し訳ありませんが、今回はソースケに従いますわ。」
「はは、今回
「むぅ、いずれ毎日ソースケを授業に連れだって見せますわ!」
「それは楽しみだ。」
「馬鹿にして! 絶対ですわよ!」
こうして今日も俺はツツジと共に街へと繰り出し、ポケセンの後にショップなんかを見回りつつ放課後デートを楽しむのだった。