ツツジを嫁にするまで   作:呉蘭も良い

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三十話

ミナモシティの観光を終えた翌日、俺達はカナズミシティに1度帰還を果たしていた。

 

何故そのまま“そらをとぶ”を使いトクサネシティに向かわなかったかと言うと、それはまだトロピウス先生の“そらをとぶ”の練度が低いからだ。

 

……仮に海のど真ん中で先生が疲れ果てたら俺達は海に真っ逆さまだぞ?

最悪、トクサネじゃなくて送り火山へと(魂のみが)直行だった可能性だってあるんだよ。

……それかサメハダーの餌。

 

この世界じゃ毎年数件、そういった“なみのり”や“そらをとぶ”での遭難事故や海難事故はあるのだ。

特に酷いもので言うと、間違って地方外に出てしまった後にそのまま行方不明___恐らく死んだと思われる事もある。

 

まぁそういう事故を減らす為にも、ポケモンレンジャーが海も空も警戒しているんだけどね。

前世で言う所の海上保安庁的な?

……まぁ詳しくは良くわからんが、とにかくそんな感じだ。

 

じゃあ定期便で行けば良いじゃん。

それなら安全じゃん?

って事に普通ならなるんだが、別にトロピウス先生の練度の不安だけでカナズミシティに戻った訳じゃないんだ。

 

まぁ諸々の用事があるってのも事実だが、そろそろセンリからヨーギラスを貰える時期なのだ。

だから一旦帰って来たってのが、1番の理由だ。

 

それにしても、先生は“そらをとぶ”の練度が低いとはいえ、それでもミナモシティからカナズミシティまで、僅か半日で移動出来るのは素晴らしいな。

 

途中途中何度も休憩を挟んだが、夕暮れには実家の前まで着いてるのだから頼もしいぜ。

……これはもう自転車とはおさらばだな。

移動中に必要な様々な道具も要らなくなるので、荷物が軽くなり更に移動スピードは伸びる事だろう。

 

……まぁ、流石にいつかのダイゴ神みたいに1時間でサイユウーカナズミ間を飛ぶのは無理だが。

そしてやっぱり、もうツツジとのお泊まりキャンプも無理だな。

 

……これからもよろしく先生。

でも俺の自業自得とはいえ、ちょっと悔しいです。

 

ちなみに、ミナモを出る前にしっかりと“まもる”の技マシンは買いました。

……なんだかんだで必要なんだよ。

けど、買った後に残った残金が千円を切って少し泣いたのは秘密だ。

……多分ツツジにはバレてないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……さて、ここで問題です。

ジム巡りというまぁまぁ厳しい旅に出た息子が、実家に帰って来た時に待っているものは何でしょう?

 

それは両親からの温かい愛情。

 

……じゃ、ないんだよなぁ。

 

答えは、新しいポケモンを捕まえた事への説教です。

 

俺は予想通り___いや、予想以上にトロピウス先生を捕まえた事を母ちゃんに叱られた。

 

最初は温かく迎えて頂けたのだが、トロピウス先生の話を始めた辺りから母ちゃんの形相が険しくなり、最終的には般若になった。

 

……まぁ、是非もない。

 

エルフーンやユレイドルまでは、『おめでとう』と一緒に喜んでくれた母ちゃんだが、ロトム辺りで複雑そうな感じになってたからな。

 

俺が必死に弁解を繰り返し、ロトムに庭の草刈りを頼めるという事で何とか納得して貰ったからな。

 

言ってしまえば、母ちゃんにとっては3匹のペットだ。

この3匹も、家庭内カーストは母ちゃんがトップである事を認識しているので、かなり母ちゃんには従順だし。

……あのロトムでさえ家ではイタズラを控えているからな。

 

けどトロピウス先生はそんな事ないからなぁ。

俺がバトルで使う訳でもないし、特に役に立つという訳ではない。

強いて言うなら便利な移動手段のペットだ。

しかも大食い。

トロピウス先生だけで他の3匹分の餌を必要とするし。

 

……そりゃ、まぁ……うん。

ごめんなさい。

 

悪気は無いのだ。

悪気は無いが、あの時は現実が見えてなかった。

 

まさか俺のポケモンの餌代として、お小遣いが月に千円まで減らされるとは思わなかった。

 

……終わった。

月に千円とか、どうしろってんだ。

焼け石に水だが、こんな事なら“まもる”を買わない方が良かったかもしれん。

 

……ディアンシーのダイヤ、売ってた方が良かったかなぁ。

いや、今からでもダイゴ神に買い取って貰おうか?

 

まさかこんな歳から金策を考える羽目になるとは思わなかったぞ。

この草のソースケの目をもってしても(ry___

 

……まぁ冗談はともかく___冗談ではないが一応はともかく、マジで、本当に、真剣に、何かお金を得る手段を考えなくちゃいけない。

 

この世界じゃ10歳で成人とはいえ、別に子供じゃなくなる訳じゃないんだよ。

前世的に言えば日本の女の子は16歳で一応結婚出来るけど、だからってそれで大人の仲間入りする訳じゃないだろ?

……つまりそういう事なんだ。

 

俺は成人してるけど、別に大人な訳じゃないんだ。

 

……まぁバイトくらいなら出来るけども、そしたらツツジと旅が出来なくなる。

でもこのままじゃ旅を続ける資金も危ない。

 

ポケセンで格安宿泊出来るとはいえ、最低限の飲食料を考えたらこのままじゃかなりヤバい。

 

旅の再開は1週間後だ。

それまでにどうにかせねばならん。

 

俺は頭の中で必死に金策を巡らせながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……あ~、何度食べてもめっちゃ旨い。

 

……………。

…………。

………。

……。

…。

 

あっ、これがあるじゃん。

 

!?

 

いや何で今まで気づかなかったんだ俺!?

そうだよ、これ売れるじゃん!

トロピウスの果実という、そこそこレアな果実は絶対に売れるじゃん!

 

市場に出回らないという事は無いが、それなりにレアなのは事実だ。

逆に言えば、ある程度は市場に出回っているので、美味しい上にレアという事は周知の事実なんだ!

 

幸いにも俺のトロピウス先生は【しゅうかく】型のトロピウス。

1週間もあれば生え揃うのだ。

 

これは使える!

トロピウス先生の顎から自分でもぎ取る実演販売をすれば、絶対にうけるぞこれ!

 

俺とツツジがちょくちょく食べていたせいで、今は残り5本しか生えていないが、明日はこの5本を売ってみよう。

 

【しゅうかく】型のトロピウスがレアなのは事実だが、本気の農家の人はキチンとそういうトロピウスを育てているので、スーパーなどではトロピウスの果実は少数ではあるが売られている。

 

俺はこれを思い立った翌日に、スーパーでトロピウスの果実の値段を調べて、もぎ取り実演販売を人が集まる場所でやってみた。

 

そして売れた。

自分でもぎ取るというのがうけたのか、1つ当たり千円という高額での販売にもかかわらず、僅か1時間で完売し、俺は5千円の資金を調達する事に成功したのだった。

 

ウハウハだ!

そう、俺は非常にウハウハではあるのだが、その分ちょっと大変な事もあった。

 

トロピウス先生が、自分の果実が全部無くなった事で少し不機嫌になったのだ。

……まぁ不機嫌と言うか、『お前これの代わりに甘いもん喰わせろよ』って感じなのだ。

 

仕方がないので手持ちのオレンの実とモモンの実を全て献上したのだが、先生的には全然足りないらしく、俺は先生とカナズミ近辺にある全ての木の実が生えてる場所を巡った。

そしてかなりの量のきのみを喰い荒らし、先生はようやく満足してくれた。

 

いやまぁ、まだ野生にそれなりに残っているだろうとはいえ、結構食べたよ先生。

きのみは天候や四季関係なく生えるけど、それも3ヶ月周期なのだ。

ゲームの様に1日で数個生えてくる訳じゃなく、3ヶ月に1度数十個___多分おおよそ50前後生える感じだ。

 

今日は1日で色んな所を巡って、先生自らが選んだ選りすぐりを10個以上は食べたからね。

……大分申し訳ない事をしたかもしれない。

普段はポケモンフーズでも満足してくれるのに、今日はちょっと我が儘だったな。

多分こういう事をするから全ての果実を取った所で、1週間で【しゅうかく】出来る様になるのだろう。

 

いやしかし割に合わんな。

きのみをあんだけ食べる必要があるとは。

 

それもこれも、きのみが簡単に収穫出来ないせいだ。

一応はポケモン世界なんだから、それ相応にしろよ。

働けアルセウス。

 


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