ツツジを嫁にするまで   作:呉蘭も良い

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2話連続投稿。
今日見た人は前の話を見て下さい。


六話

「メレシー?……初めて見ますが、可愛いポケモンですわね。」

 

そりゃそうだ。

メレシーとはXY(第6世代)で登場する、幻のポケモンディアンシーの前身であるポケモンだ。

決してホウエン地方で出現するポケモンじゃない。

 

「って、感心している場合じゃない! そいつを追って来ているポケモンが来るぞ!」

 

 

俺がそう叫んで、お互いに警戒してる中現れたのは暗闇ポケモンのヤミラミだった。

 

だが、このヤミラミは尋常じゃない雰囲気を醸し出している。

 

左額から右顎に掛けて大きい傷痕があるし、この洞窟で見かけた様な通常の個体よりも一回り大きい気がする。

間違いなく強い。

 

メレシーは俺達が居る場所から数メートル離れた所で俺達を観察していたが、こいつが現れた瞬間に泣いて俺達の後ろへと避難し逃げて来た。

 

くっそ、こんなヤバそうな奴押し付けるなよな!

 

「むっ、良くわかりませんが、とにかくこのヤミラミを追い払えば良いのですわね? それならばイシツブテ、お願いします!」

 

ツツジはそう張り切ってイシツブテをけしかけるが、先制したヤミラミの“シャドーボール”をまともに喰らい、イシツブテは一撃で撃沈した。

 

「……は? えっ、う、嘘。 イ、イシツブテ?」

 

「馬鹿! 呆けるな!」

 

ツツジは一撃で葬られたイシツブテに呆然としているが、ヤミラミは止まってくれない。

続けざまに放たれた“シャドーボールが”今度はツツジ本人へと向かう。

 

不味い!

と思った時には既に遅く、今度はツツジのそばで彼女を守っていたノズパスが彼女を庇い“シャドーボール”が直撃し崩れ落ちる。

 

「ノズパス!?」

 

仕方がない。

本来なら両ポケモンとも【がんじょう】の特性を持っていて、決して一撃で沈むポケモンではないのだが、ここまで来る間に僅かばかりのダメージを負っていて万全の体力ではなかったのだ。

 

……ほんの僅かなダメージならと、キズぐすりを温存していたのが裏目に出た。

 

「落ち着けツツジ! 君は今すぐ戦闘不能になった2匹をボールに戻し、ここから撤退する準備をしてくれ! このヤミラミは俺が相手をする!」

 

「は、はいっ!」

 

ヤバいヤバいヤバいヤバい!

これは滅茶苦茶危険な状況だ。

 

「くっ! 頼むモンメン“ようせいのかぜ”だ!」

 

モンメンが自然に覚える唯一のフェアリータイプの特殊攻撃技だが、如何せん威力が低い。

 

フェアリータイプの技はヤミラミに対する効果抜群のタイプなのだが、このヤミラミは“ようせいのかぜ”をまともに喰らってもピンピンしてやがる。

 

「クソが、マジかよ。」

 

どう考えても石の洞窟に居て良いレベルじゃないぞ畜生!

 

モンメンはフェアリータイプを有しているので、本来ならばあく・ゴーストタイプのヤミラミとはそこまで相性は悪くない。

というかどちらかと言うと有利だ。

 

しかし、まさか、こんな所でモンメンの特性である【いたずらごころ】のデメリットを喰らう事になるとは!

 

【いたずらごころ】は()()()()()()()()()()()()()()んだ!

 

補助技を優先して使う【いたずらごころ】だが、あくタイプはその特性を無効化する。

よって、補助技メインの技構成をしているモンメンはほぼ役に立たない。

攻撃技なんて、一応で残しておいた今使った“ようせいのかぜ”と“メガドレイン”から発展した“ギガドレイン”くらいしか存在しない。

 

石の洞窟程度ならと慢心して挑んだが、まさかここで火力不足を喰らうとは……。

ここまでの階層はこれだけでどうとでもなるポケモンばかりだったのに、まさかこんな化け物がいるなんてな。

 

……笑えないぜ。

 

俺が戦慄し冷や汗を掻いていると、件のヤミラミが“シャドークロー”を放って来た。

 

流石野生、物理技だとか特殊技だとか関係ねぇな!

でもこれなら___

 

「モンメン! “コットンガード”!」

 

【いたずらごころ】の補助技があくタイプに対して効果無しとは言え、相手にかける技ではなく自身にかける技ならば特性は発動してくれる。

 

故にヤミラミの物理技である“シャドークロー”を受ける前に、こちらは対物理である防御力を3段階上昇させられる。

 

よって、ヤミラミの“シャドークロー”はモフッと音を立ててモンメンに対して特にダメージを負わす事が出来なかった。

 

「よしっ! こっちは“ギガドレイン”を喰らわしてやれ!」

 

ヤミラミはムキになって連続して“シャドークロー”をモンメンに叩きつけるが、モンメンはそれを無視してヤミラミから体力を吸い始める。

 

悪くない展開だ。

と、俺が思い始めた時に“ギガドレイン”を軽く喰らい警戒したヤミラミはモンメンから飛び退いて、“シャドーボール”へと攻撃手段を変え出した。

 

ちっ!

賢いじゃないか、この野郎!

 

「避けろモンメン!」

 

俺の指示に“ギガドレイン”を中断したモンメンはヤミラミから放たれる“シャドーボール”を避け始める。

 

……じり貧。

 

このままでは勝てない。

俺がそう思った時にツツジから声が掛けられる。

 

「撤退準備、完了しましたわ!」

 

「よしっ、逃げるぞ!」

 

俺はツツジの側まで駆け寄り、リュック等の荷物を背負い、地面に置いてあったつるはしを拾って、ヤミラミに向かって投げる。

 

当然、ゴーストタイプを有するヤミラミには意味なんてない。

一種の威嚇に近い行為だ。

 

が、ヤミラミは飛んで来たつるはしを“シャドークロー”で迎撃して撃ち落とし、完全に破壊して逆に俺達に対して恐怖心を掻き立ててくれた。

 

マジでヤバいぞコイツ!

 

「くっそ! モンメン“ようせいのかぜ”だ! ツツジ、今のうちにヤミラミの脇を抜けよう!」

 

「わ、わかりましたわ!」

 

俺とツツジはモンメンがヤミラミを抑えている間にその横を走り抜け、戦闘から脱出しようとする。

 

モンメンも“ようせいのかぜ”を放ちながらゆっくりとヤミラミを迂回し、ある程度俺達が離れた段階で技を中止し、俺達を追いかけて来た。

 

「順路は覚えているかツツジ!?」

 

「す、すみません! 詳しくは覚えておりません!」

 

俺達は走りながら会話をし、ヤミラミから逃げる。

だが、奴は俺達を逃がしてはくれなかった。

 

ぬるりと嫌な影が俺達へとじわじわ詰め寄り、俺達を捉えた瞬間に影からヤミラミが這いずり、腕を振りかぶる。

 

「不味っ___」

 

ヤミラミの攻撃目標は俺で、今この瞬間に攻撃されようとした時に、モンメンが俺を庇ってくれた。

 

モンメンは未だに“コットンガード”の効果が切れてないので、大したダメージは入らなかったが、一瞬死ぬかと思った。

 

「助かったモンメン!……今のは、“かげうち”か。」

 

優秀な技ばかり使いやがって!

 

俺達は尚も走り続ける。

出口への順路など、最早わからない。

 

だが人間の足とポケモンの足、いくらヤミラミが鈍足な方だとは言え、俺達よりかは明らかに速い。

俺達は何度も何度も捕捉されてはヤミラミから追撃される。

 

「何でこんなにも執拗に追いかけて来るんだ!」

 

通常、餌を追いかけるとかでもない限り、野生のポケモンはここまで執着はしないのだが。

 

と、考えながらも何度目かの追撃でヤミラミはモンメンに“おにび”を放って、モンメンが火傷状態になってしまった。

 

「最悪だ。 これじゃモンメンの体力がじわじわ削れてしまう!」

 

物理技を使わないので、物理攻撃力が半減になってしまうのは別に構わないが、外に出しぱっなしのこの状況じゃ、火傷ダメージのせいで、長くは保たない。

どこかでやけどなおしとキズぐすりを使用したい。

 

「あれっ! 梯子ではありませんか!?」

 

「でかした! 上の階に逃げるぞ!」

 

俺とツツジは発見した梯子を急いで登り、地下一階へと避難する。

ヤミラミもそれを追おうと梯子を登り始めたが、俺がそれを許さず、モンメンに指示を出して上から“ようせいのかぜ”を叩きつける。

 

ダメージ目的ではなく妨害目的で放ったこの技は見事に嵌まり、ヤミラミは梯子の途中で落ちて行き、諦めたのか姿を眩ませた。

 

「ふぅぅぅ。……一先ず、危機は去った。」

 

「こ、怖かったですわ。」

 

俺とツツジは安心感からか、壁にもつれ込み座り込んで一息ついた。

 

とにかく、先ずはポケモンを回復させないと。

そう思った俺がモンメンにやけどなおしとキズぐすりを使用したら、ツツジが声を掛けて来た。

 

「あ、申し訳ありませんが、私にもキズぐすりを使用させて下さいな。」

 

「? イシツブテとノズパスは瀕死状態だから、キズぐすりではどうにもならないぞ?」

 

「いえ、そうではなく、()()()に使いたいんですの。」

 

……洞窟の中だから薄暗く気づかなかったが、ツツジはメレシーを胸に抱えていたのだ。

 

ようやくわかった。

何故ヤミラミが執拗に俺達を襲うのかの理由が。

 

()()()()()()()!」

 

暗闇ポケモンヤミラミ。

その食生は()()()()()()事だ。

 

……俺達の受難は未だに終わりそうにない。

 


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