「どういう事ですの?」
「どうもこうも、ヤミラミはそいつを狙っているんだよ。」
「それは、最初に出会った時からそうだったじゃありませんか。」
「いや俺が言いたいのは、執拗に追いかけて来た理由さ。 ヤミラミはな、そいつを食べる為に追いかけて来ている。」
ツツジは俺の言葉に目を開いて驚き、メレシーを見つめる。
「まさか、……本当に?」
「知らないのか? ヤミラミは宝石を食べるんだ。 そしてそいつは宝石ポケモン。……まさに格好の餌だ。」
「そういう、事ですか。」
そしてこの事実に1つの選択肢が生まれる。
「どうするんだ、ツツジ。
メレシーを咄嗟に助けたのは彼女だ。
故に彼女に選択をして貰いたい。
逃がして助かるか、助けてまた襲われるかを。
「……ここでこの子を逃がしたら、きっとこの子はヤミラミに食べられてしまいますわよね。」
「……多分な。 絶対って事はないけど、あの強さのヤミラミだ。 まず間違いなく、殺られると思う。」
「……ですわよね。」
沈黙が場を支配する。
助けたい気持ちがあるのはわかる。
けど、俺達の危険と天秤に掛けて良いのかを迷っているのだろう。
「残念だが迷っている時間はない。……正直、何時またヤミラミが来るのかわからない状況だ。 決断は早めに頼む。」
「……はい。 ですが、その……。」
……まぁ流石に酷か。
仕方がない、ここは少しだけ助け船を出そう。
「……メレシーはな、いわ・フェアリータイプのポケモンで、攻撃能力は高くないが、防御能力には秀でているポケモンなんだ。」
「? ソースケ?」
「まぁ聞け。 こいつはホウエン地方では確認された事のないポケモンで、本来は遠くの地方の1地域でしか未だに発見はされてないらしい。」
「はぁ、そうなんですの。」
俺の語りにツツジは呆けた返事をする。
「まぁつまり何が言いたいかと言うとだな、ホウエン地方で初めて発見されたこのメレシー、
「っ! あ、いえですが、……その、この子を助けたらまたあのヤミラミが___」
「君の決めた事ならどう選択しようと俺は反対しない。……ただし余計な心配で君の気持ちを鈍らせるな。 いざという時は俺が必ずどうにかするから。」
……多分、きっと、メイビー。
「……クスッ、頼もしいですわね。」
言葉だけならな!
思い詰めていたツツジの顔にようやく笑顔が戻り、俺も少し安心する。
そして彼女はリュックから新品のモンスターボールを取り出し、手の平の上でメレシーにそれを見せながら問う。
「私と来る気はありますか?」
そう言われたメレシーは、待ってましたと言わんばかりに喜んで自らボールへと吸い込まれて行った。
「メレシー、ゲットしましたわ!」
「おめでとう、こんな時に何だけどお似合いのポケモンだ。」
いやホント、ノズパスやらイシツブテなんかのゴツいポケモンより可愛らしいメレシーの方が似合ってるぞ。
「さて、早速で悪いが休憩は終わりだ。 これからもヤミラミの襲撃があるかもしれないから、さっさとこの洞窟を出よう。」
「ですわね。 メレシーをゲットしたとは言え、どんな技を覚えているのかもわからないこの状況では、戦力にはなりえませんし。」
流石に俺もそれは知らない。
野生のメレシーをゲットした時に覚えている技とか記憶にねぇわ。
ってかそんなん知ってる変態なんているのか?
とにかく現状は未だに良くない。
まともに戦えるポケモンはモンメン一匹だけだし、そのモンメンもヤミラミに対しての有効手段はなく、既に今日だけで何度もキズぐすりや状態異常回復薬を使用しているので、コンディションは下がる一方だ。
……けどあの発言をした手前、どうにかしなくちゃな。
「道中野生のポケモンが襲って来ても、全部無視して逃げるぞ。 今はこの洞窟の脱出を最優先にしよう。」
「わかりましたの。」
俺とツツジは疲れた身体に鞭を打って立ち上がり、再び警戒を強めながら出口を目指す。
不確かな記憶を頼りにしながらも地下1階を歩いていると、俺達の行く手を阻むように道の先から目をギラギラさせたヤミラミが現れた。
「出たぞ! 走れ!」
俺達はあいつが現れた瞬間に再び走って逃げ始める。
「モンメン! “かげうち”警戒! “コットンガード”は絶やすなよ!」
モンメンが俺の指示に反応し、再びモコモコの毛玉状態を維持しながら殿を務める。
だがヤミラミは俺達の様子をジッと見つめるだけで何もしてこない。
そして数分もしないうちに俺達はヤミラミを振り切り、再び一息ついた。
……おかしい。
急に何もしなくなったのが、不気味過ぎる。
「……また、ここが何処なのかわからなくなってしまいましたわね。」
「……そこまで広くない洞窟だ。 ぐるぐる回っているだけでもいずれは上に登れる梯子を見つけて、出口まで行けるさ。」
気休めだ。
本来ならば迷子になった所で問題のある場所ではないが、この状況では痛手だ。
俺達が少し気落ちしながらもまた道を歩き始めたら、再びヤミラミが暗闇から現れる。
「またか! 逃げるぞ!」
俺がそう叫んで反転し走ろうとしたら、何故か身体が動かなかった。
「ソースケ! どうしたんですの!?」
ま、さか。
「……“くろいまなざし”だ。」
きっと、先程もこの技を繰り出そうとしていたのだろう。
この技を喰らうと、
完全に、してやられた。
「……逃げろツツジ。 洞窟を脱出し、ムロタウンへ行って助けを呼んで来てくれ。」
「出来ません!」
「行け! ヤミラミの狙いはメレシーだ! 俺は残っても大事にはならない!」
「だとしても嫌ですわ!」
最早絶対絶命のピンチで、追い詰められた俺はせめてツツジだけでも逃げて欲しく、声を荒げて彼女に逃げるように叫ぶ。
だが俺達の都合などお構い無しにヤミラミは嬉々として攻撃を始める。
「畜生! 迎撃するぞモンメン!」
「戦いますわよ! メレシー!」
逃げろと言っているのに、戦力になるか怪しいメレシーを出してまで、ツツジは徹底抗戦の構えを見せる。
クソが!
どうにかしなくちゃ行けないけど、どうしろってんだ!
「モンメン! “シャドーボール”を避けて“ギガドレイン”だ!」
「メレシー! とにかく貴方の全力で攻撃して下さい!」
もう何度目になるかわからないヤミラミの“シャドーボール”を避けて、モンメンは“ギガドレイン”を放つが少ししか効いてない。
逆にヤミラミは技を避けられる事を嫌がり、“ギガドレイン”を受けきる事で、その技の最中を狙い“シャドーボール”を叩きこんできやがった。
ここで決着をつける気だ。
今の一撃でモンメンも多量のダメージを喰らい、持たせておいたオレンの実を使用している。
……“シャドーボール”一発でモンメンの体力を半分以上は持って行ったって事か。
特殊防御力は決して低くはないのに。
だがヤミラミがモンメンに集中している横から、メレシーがサイコパワーで浮かび上がらせた岩をヤミラミへと直撃させる。
今のは___
「“げんしのちから”か! 良いぞ! 運良く能力も上昇している!」
“げんしのちから”は技の威力は高くないが、10%の確率で、攻撃、防御、特殊攻撃、特殊防御、素早さの能力全てを1段階上昇させる追加効果がある。
勝ちの目が出て来た!
「ツツジ! “げんしのちから”の連打だ! メレシーの能力を上昇させる事でヤミラミを上回るぞ!」
「はい!」
申し訳ないが、ここは野生。
お前みたいな化け物相手に、2対1を卑怯なんて言ってくれるなよ!
「よし、モンメン! “ようせいのかぜ”で徹底的にヤミラミの邪魔をしてやれ!」
「メレシー! ヤミラミがモンメンの相手をしている隙に“げんしのちから”を叩き込んで下さい!」
俺達が見つけた僅かな希望。
運さえ良ければ、あるいは時間をかけて何度も“げんしのちから”を使用したら、俺達はきっと勝てる。
……そう、思った。
ヤミラミが“ようせいのかぜ”に抗いながら、
“あくのはどう”あくタイプの特殊攻撃技で、その威力は“シャドーボール”と同等だが、追加効果がやっかいだ。
技を喰らった相手を20%の確率でひるませる。
ここに来てまだこんな技があったのか!?
ヤミラミのこの技は“ようせいのかぜ”を出し続けているモンメンを確実に捕らえ、モンメンを打ち倒す。
「モンメン!」
タイプ相性的に得意のタイプだったので、なんとかモンメンはギリギリ耐えたが、地面から顔を上げた時にはヤミラミに怯んでいて行動が出来そうになかった。
「撃ち抜いて下さいメレシー! “げんしのちから”!」
ツツジが慌ててメレシーに指示を出して技を放つが、ヤミラミはそれを軽く避ける。
そして返す刀で今度はメレシーに向かって“シャドーボール”を放ち、追撃に“シャドークロー”まで叩きつけた。
「メレシー!」
ツツジの叫び声が洞窟に響く。
最早モンメンもメレシーも戦闘不能になる一歩手前。
動きは鈍く、次の技を避ける事など出来そうにない。
俺はモンメンを胸にかかえ、メレシーの側で顔を青ざめさせるツツジを背に隠し、必死に状況の打開をすべく頭を回転させる。
だが地獄の死神よろしく、ヤミラミはそんな俺を嘲笑うかの如く、両手にオーラを溜めて全員まとめて吹っ飛ばすべく“あくのはどう”の準備をしている。
逃げる事は出来ない、戦う事も出来ない、助けを求める事も出来ない。
どうしようもない状況で、俺が“あくのはどう”を喰らう覚悟を決めた時に、救いの声は聞こえた。
「メタグロス、“バレットパンチ”。」
突如現れた鈍い鋼色をした色違いのメタグロスが、ヤミラミをぶっ飛ばす。
……驚いた。
それは心底驚いた。
「何とか、無事だったようだね。」
そう声をかけて来たのは、洞窟の中で場違いである綺麗なスーツを身に着けた薄い水色の髪をしたイケメン御曹司。
……あえて言おう。
こんな事、良い意味で大誤算だ!