私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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題材的にはn番煎じではありますが投稿させていただきます。



序章『私の名前は結城友奈である』
一話


 

 

それは唐突に────あまりにも突然の出事だった。

いつからか、ぼうっとおぼろげな視界の中で声が聞こえてきたのだ。

 

 

「──勇者は傷ついても傷ついても、決して諦めませんでした」

 

 

『誰か』が語り掛けている。寂しげに……静かに話していた。

身体が動かない。今理解できるのはその”誰か”からの声だけ。

私は耳を傾ける。

 

「すべての人が諦めてしまったら、それこそこの世がすべて闇に閉ざされてしまうからです」

 

闇。ああ──それは私もよく知っている。なぜなら私はそこから生まれたのだから(、、、、、、、、、、、、)

淡々と語り手は話していく中で私は自身の生い立ちを理解する。でも私はまだ『わたし』をしらない。

 

「勇者は自分が挫けないことがみんなを励ますことだと信じていました」

 

勇者。それがなんのことを指しているのか理解できない(、、、、、、、、、、、、、、、、、、、)

しかし語り手は聞く限りだと私に向けて話しているようだ。

 

────勇者。嗚呼、なんでだろう……とても大事な言葉の気がする。

 

挫けないことがみんなを励ますのだと、語り手は言った。

私は理解できない。けれど『わたし』という存在を問うた時、とても重要なピースとなり得るのかもしれない。

 

 

「そんな勇者を馬鹿にする者もいましたが……勇者は明るく笑っていました」

 

なぜ、笑っていられるのだろう?

 

理解できない。何も分からない私ではあるけれど、その光景は決して笑っていられるような状況ではないはずだ。

悔しいはずだ。悲しいはずだ。苦しいはずだ。痛いはずだ。

 

────なんで、それでも笑っていられるのだろうか。

 

「意味がないことだと言う者もいました」

 

その通りだ。挫けずにいることも、笑っていることも意味のない行動だ。諦めてしまうのが普通のはず、なんだ。

 

「それでも勇者はへこたれませんでした」

 

 

……どうして。

 

 

「みんなが次々と魔王に屈し、気が付けば────勇者は独りぼっちになっていました」

 

当然の結果だ。抗い続けた果てに独りなのだとしたら、それは必然なんだ。

それは勇者も分かっていたはず。

 

「そして勇者が独りぼっちであることを誰も知りませんでした」

 

……なんて哀しいことなのだろう。頑張った成果がこれなのだとしたらあまりにも惨すぎる。

 

「独りぼっちになっても……それでも勇者は…………戦うことを諦めませんでした」

 

……どうして。

疑問が尽きない。なんでこんな仕打ちを受けてもまだ、戦うことができるの?

 

「諦めない限り……っ。希望が終わることが──ないからっ!」

 

すすり泣く声が聞こえてくる。それは語り手からだ。

『諦めない』。

 

────なるほど。『諦めない』ことこそが……勇者の原動力なのね。

 

空っぽの私だけど、何かが注ぎ込まれていくのが分かる。暖かいなにかが。

 

「何を失っても────それでも……ひっぐ……う、うぅ」

 

泣かないで!(、、、、、、) どうしてあなたが泣いてしまうの?

なぜだか私は酷く悲しみを覚えた。

 

でも、身体が意思に反して動いてくれない。動け……。

 

 

「それでも私は…………一番大切な友達を失いたくないっ!!! 失いたくないのッ!!!」

 

語気が強まり、嗚咽と共に吐き出される嘆きに私は頬に熱いものが伝わるのが理解できた。

少しずつ感覚が戻り始めていく。でもまだ何かが足りないのか、動くには足らない。

 

動け……動いてよ!

 

 

「嫌だ……いやだよぉ……っ! 寂しくても、辛くてもずっと……ずっと私と居てくれるっていったじゃないッッ!!」

「────。」

 

 

そうだった。(わたし)は────ずっとそばに居るって誓ったんだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いるよ」

「────えっ?」

 

 

 

 

 

私は唇を小さく動かして音を表出する。

喉の奥が苦しい。だけど、伝えなければならないんだ。

 

 

「……一緒にいるよ。ずっと……あなたと」

 

よかった。ちゃんと言えた。言いたいことを。

私の言葉だけど、どこか『わたし』じゃない言葉だったのかもしれない。

 

でもさっきまでの苦しい気持ちがスッと消えていくのが分かるの。

 

首だけ動かして語り手を視る。可愛らしくも、美しさを兼ね備えた少女が涙一杯に流すその顔を拝むことができた。

そしてその表情を見て理解する。

 

────そうだ。私にも流れているこれは『涙』なのね。

 

「…ゆうな、ちゃん?」

 

信じられないものを見るような、そんな潤んだ瞳に私の姿が揺れて見えた。

赤髪で翡翠色の瞳(、、、、、)

これが……私なのだと。

 

ゆうなちゃん、と目の前の女の子は言った。それはきっと私の名前(、、、、)だよね?

応えてくれる人はもちろんいない……いや、それよりちゃんと言葉を返してあげないと……。

 

 

──この女の子の悲しむ顔は見たくないから。

 

 

「うん……ゆうな(、、、)だよ」

「あ、あぁ……友奈ちゃんッッ!!」

 

 

私の言葉を聞いた彼女は私の手を取ってぎゅっと握ってくれた。

温かい命の鼓動を感じ取った。私も微力ながら彼女の手を握り返す。

 

きゅ、きゅっと。

 

弱々しいけれど、とても非力だけども。私は手を握った。

彼女はそんな私の行いによって更に泣き始めてしまった。

 

ああ、よわったなぁ……泣かせるつもりはなかったのに。

 

「ゆうなちゃん……友奈ちゃん……!」

 

もう……せっかくの綺麗な顔が台無しだよ?

落ち着いてもらうためにも私は彼女の手の指の間に私の手の指を絡めてぎゅっと握ってあげる。

 

ハッと俯き気味だった顔を上げてくれた。私は出来る限りほほ笑んであげる。

 

「聞こえていたよ。全部……ちゃんと。だから、泣かないで……ね?」

 

ふと、手のひらに何かが握られているのに気が付く。

ちらっと見てみると短冊のような、小さな紙が握られていた。

 

五枚の短冊……いや、しおりかな?

 

それが何を意味しているのかわからないけど、きっとこれは大事な物なんだ。

視線を再び戻して彼女と向き直る。涙は流れているけど、さきほどとは違う雰囲気に私は内心よかったと安堵した。

鉛のように重く感じる腕を上げて彼女の頭を撫でる。

 

さらさらしてて気持ちいいな。

 

「────おかえり、なさい」

「うん。ただいま」

 

これでいい。

きっと『わたし』はこう言うはずだよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後はというと、冷静さを取り戻した彼女が急いでお医者さんを呼んでくれて、すぐさま病棟にいって精密検査をした。

道中も、検査中も出来る限り近くに居て手を握っててくれたんだ。嬉しかった。

 

あれよこれよとしているうちに日も沈み始めたころ。

案内された病室で私はベットに身体を預けて、その傍らで彼女が座っている状態だ。

 

ばれないように。不自然のないように気を付けないといけない。

 

「……具合はどう友奈ちゃん。どこか痛いところとかはないかしら?」

「ありがとう東郷さん。うん、大丈夫だよ」

「よかった……」

 

心底安堵して胸を撫でおろしていた。…大丈夫だよね?

名前は検査中にたまたま耳にする機会があったので、忘れないように覚えておいたから本当によかった。

さすがにずっと名前を言わないのは違和感がでちゃうだろうから私も安心する。

 

それと自分の名前も知ることができた。『結城友奈』……それが、私の名前みたい。

どうやら私は目覚める今日まで意識がなかったらしい。

東郷さんから聞いた話だといつ目覚めるか分からない状態だったようで、私は一体どうしてこうなってしまったんだろう、という疑問が残った。

そして私には記憶がない(、、、、、)。忘れているというより、無いというほうが正しいね。

 

…私の前の『わたし』は東郷さんとどう接してきたのだろうか。

 

「友奈ちゃん? ぼうっとしてるよ」

「へっ!? あ、ごめんなさい。ちょっと少し混乱してて……」

「無理もないわ。ホントに大変だったものね……でも、ほら」

 

言いながら東郷さんは椅子から立ち上がってみせた(、、、、、、、、、)

……私は正直言って東郷さんがなにをみせてくれているのか分からなかった。その場で足踏みするように動いているみたいだけど。

 

「え、えと……」

「………?」

 

どう反応してあげるのが正しいのか思案に暮れていると東郷さんが不思議そうにこちらを見てきた。

…しまった。沈黙が長すぎちゃった。なにか、なにか……

 

「あ、あの……! すごいね!」

「え、ええ。そうね……自分でもびっくりしちゃうくらい順調に回復していっているのよ?」

 

私の反応が考えていたものと違ったのか懐疑的な視線が送られる。

……ダメだ。こんな調子じゃすぐにばれてしまう。そうしたらまた東郷さんが悲しんでしまう(、、、、、、、)

 

それこそダメ。ならばここまでの反応から察するにきっと、

 

「──わぁ、本当によかったぁ! 東郷さんとこれから一緒に歩いて学校に行けるね!!」

 

精一杯…そして目一杯の笑顔と共にこれまでのパズルを組み立てていく。

彼女の姿が制服姿、立ち上がって脚に触れたことである程度の予測は建てられた。

表情は引きつっていないよね? 口調も、声のトーンもこれで間違ってないよね?

 

瞳の奥で様子を伺う。すると彼女は柔和な笑みを浮かべていた。

 

「うん。でもその前に友奈ちゃんもちゃんと療養すること。安心して、私が毎日お手伝いするわ」

「東郷さん頼もしいよー。ありがとう!」

「友奈ちゃんのためだもの。当然よ」

 

お互い笑い合う。東郷さんは私をこんなにも気にかけてくれて自然とこの言葉は本心から出てくれた。

同時に『わたし』はとても快活で明るい女の子なのだと彼女の反応を見て理解する。

 

この後も継ぎ接ぎながら何とか面会時間一杯まで会話をしていくことができた。

帰り際に明日は勇者部の人たちもお見舞いに来てくれるらしい。

 

勇者、という単語に思わず反応しちゃってここでも不思議がられちゃったよ。

いけないいけない。

 

手を振って彼女を見送り、病室には私一人になる。

 

 

「…明日は東郷さん以外の人がくる。ちゃんといつも通りを貫かないとね」

 

両手をグーにして意気込む。

ちゃんと話せるか心配ではあるけれど、今度は不安はなかった。

それは東郷さんと話していてきっとその人たちも優しい人たちなのだろうと確信めいたものがあったからだ。

 

いつか……いつか本当の『わたし』が戻ってきたときのことを考えてなるべく、自然に受け入れられるように。

その時、私がどうなってしまうのかわからない。

 

私は元々からっぽの存在だった。けど、そこに東郷さんが『熱』を灯してくれた。

せめてこの『熱』が消えてしまうまでは、私は『結城友奈』として生きていく。

 

そう決めたんだ。

 

 

 

 

 




結城友奈として演じ生きていくことを決めた彼女。

分岐点は最初の目覚めるその瞬間。
彼女の目指すその先に待つものは……といった感じでしょうか。


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