私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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十三話

 

 

 

 

シズクさんに私の正体を知られて、その中で彼女は話を聞いてくれて理解してくれて……今はご飯を一緒に食べています。

ずるるー、とフードコートで売られているラーメンを今は二人で啜っていた。

 

「なんつーか。同じメニューでよかったのか? てっきりうどんでも食べるのかと思ってたぜ」

「シズクさんの好きな食べ物を一緒に食べてみたいなって思って。うどんも好きですけど、ラーメンも美味しいですねー」

「…オマエあんまり愛想振りまくってると色んな方面で勘違いされるぞ? 自覚あるか?」

「じ、自覚ですか……? なんのこと??」

「いや、やっぱりなんでもない。そうだな……ラーメンをうまいって言うならやっぱ徳島ラーメンに限るってことよ。いつか食いに行こうぜ」

「うん。楽しみにしてるね!」

 

心にのしかかっていた重みが和らいでいたのが分かる。これもシズクさんのお陰だ。

 

「そういえば、この後はどうするんですか? 何か買いたい物でも?」

「特にオレはそういうのはない。呼び出した理由も一度結城の顔を見ておきたかったからだしな。苦労したぜ中々外出許可がおりなくてよー…まったくあの神官は頭が固くてならねぇ」

「わ、わざわざ貴重な外出を私なんかのために……」

「しずくも了承済みだ。あいつもオレを会わせたがってたし、オレの目的は達成できた。ただまぁ、次こうして会えるのはいつになるのかわからねぇからそこんとこは不満だけどな」

「どうしてですか?」

 

せっかく二人とも仲良くなれそうなのに、彼女は会えないと言う。そのことを訊いてみると彼女は渋い顔を浮かべていた。

 

「……悪い、こればっかりは言えねぇんだ。守秘義務ってのがある」

「…なら仕方ないですね。深くは聞かないでおきます」

「そうしてもらえると助かる。ただ、オレもしずくも悪気があってこう言ってるわけじゃないことは分かってくれ」

「念を押さなくても大丈夫ですよ。シズクさんは本当に優しいね♪」

「…ったく、調子狂うぜ」

 

頰をかいてから気を紛らわせるようにシズクさんはラーメンを食べ進めていく。その光景が微笑ましくて余計にラーメンが美味しく感じちゃいます。

 

 

 

 

 

 

白い照明に照らされた小部屋に私たちは入り込んだ。私はアナウンスに従って画面を操作していて、後ろでは居心地の悪そうな雰囲気を醸し出すシズクさんがいた。

 

「なぁーほんとにやんのかよ?」

「せっかくの記念ですから。こういうの初めてなんですか?」

「オレはこういうキラキラ眩しいもんに好き好んでいくわけじゃないからな。そういう結城こそどうなんだよ」

「…実は私もあんまり。東郷さんと一回撮ったぐらいかなぁ。他の人たちともいっぱい撮りたいと思ってます」

「んで、オレはどうすりゃいいんだ」

「もうちょっと待ってください……よし、これで。じゃあ、シズクさん撮りますよ〜!」

「は? おい、ちょ……どうすんだ??」

「目の前のカメラに向かってピースですよ! ぴーすっ!」

「おい、なんでくっつく!?」

「こういうのはノリですよ!」

「ハァ!?」

 

あたふたとしている彼女が面白くて、腕に抱きついてポーズを取った。シズクさんとの最初の一枚はとても楽しいものが撮れて満足です。

終始どうしていいのかわからないでいた彼女も最後の一枚はおずおずとピースをしていて可愛かった。

撮影部屋から出て今度は撮った写真を加工する場所に移動する。

 

「ここにあるペンで今撮った写真を好きにいじれるんですよ。シズクさんもどうですか?」

「……オレはこういうの知らんから結城に任せる。なんかどっと疲れたぜまったく」

「迷惑でしたか?」

「いや。新鮮な感覚で嫌ではなかった。オマエといるからだろーなぁ……あいつ等だと加賀城辺りにからかわれそうだわ」

「シズクさん……うん! 私もシズクさんといるの楽しいから今日の思い出のコレもいっぱいキラキラにデコレーションしちゃいましょう」

「うおい! そんなにハートとかいっぱい描くんじゃねえ!! ああもう貸せッ! 結城に任せるとどうなるのかたまったもんじゃねえな」

「あ、ならシズクさんの横にもペンがあるからそれを使って描いてください。私だけだと時間内に終わりそうにないので」

「……これか」

 

私の言葉に彼女はペンをとって片側の画面で同じように描き始めました。チラッと横目で見てみると真剣な眼差しで目の前の機械と格闘している様子はとても微笑ましく思えて面白いですね。

そうしてなんとか時間内に描き終えた私たちは写真の取り出し口の前に移動して仕上がった写真を取って片方をシズクさんに渡した。

 

「これは裏がシールになってるので切って貼ることもできるんですよー」

「うげ。変な顔で写ってるじゃんかよ。何かに貼るのは小っ恥ずかしいから勘弁してくれ」

「えー……それなら大事に持っててくださいね! 私とシズクさんの記念写真なんですから」

「女ってこういうのほんと好きだよな……ってかオマエが撮る理由は他のヤツとは違うんだろ?」

「まぁ、そうですね……えへへ」

 

次の店に向かいながら私は彼女の問いかけに応える。

 

「勝手な願いなんですけど……いつか戻ってきてくれる『わたし』が私のことを知っておいて欲しいんです。誰の記憶にも残らなくてもいいから、せめて友奈ちゃんだけでも覚えていて欲しいって」

「オマエ……それで本当の結城が喜ぶと思ってんのか? しずくやオマエの仲間だって望むとは思えねぇ」

「……それはホントにごめんなさいだけど。私の生きる理由の一つが友奈ちゃんに帰ってきてもらうことだから。未だに方法が見つからないけれど、こればかりは譲れないことなんですシズクさん。その結果私がどうなろうとも絶対に」

「チッ……。んなこと言われたらオレは止められねぇじゃねえか。あークソッ……だけどこれは忘れるなよ結城!」

 

シズクさんに手を引かれて私は強制的に振り向かされると、彼女の顔が目の前にあってその瞳には私の姿が映っていた。

 

「オマエの最期に立ち会えるかは保証できねぇが、オレが結城のことを覚えておいてやる。オマエが確かにこの世に生きていたことをオレは忘れないでいてやる」

「……いいんですか。出会って間もないのにそんなに言ってくれて」

「はっ。オレはな、強いやつのことは忘れない主義なんだよ。オマエは強い……だからそんなオレを失望させないようにその願望に向かって突っ走ってくれ。途中で諦めたら承知しねえからな」

「────はい、諦めません。喝を入れてくれてありがとうございますシズクさん」

 

私がお礼を言うとシズクさんは足早に先に歩いていきました。正直ここまで真摯に向き合って話してくれるとは思わなかったからとても嬉しい。

今の言葉で一層身に染みわたった私の『熱』は全身に巡る。それと同時にもっと彼女のことを知りたくなった。前を歩くシズクさんの隣に居る仲間たちのことも。きっと勇者部の人たちと同じぐらい真っすぐで眩しい人たちなんだろうなぁ。

 

「待ってくださいよーシズクさん! お店そっちじゃないですよぉー」

「それを早く言え結城ッ!!」

「一緒にお揃いのものを買いましょうよ! しずくさんの分も!」

「おい、腕を引っ張るなー! 分かったから離せ!!」

「ダメです。ちょっと疲れたんでエスコートしてください〜」

「なんでオレがそこまでしなきゃならねぇんだよ!」

 

すれ違う人たちが振り返ってしまうぐらい騒ぎながらお店に向かっていく。シズクさんは口では嫌々言ってるけど振りほどかない辺りに優しさを感じました。

 

「なにを買うつもりなんだよ」

「…キーホルダーとか? あ、マグカップとかいいですね!」

「いやいやいや。これカップル用じゃねぇか!? 結城オレをからかうとはいい度胸だなおい」

「からかってないよー。最近はこういう小物をお揃いにするのとか流行ってるんですよ」

「……いや、だったら持ち歩けるキーホルダーでいい」

「残念です」

「そんな笑顔で残念がるヤツはオマエが初めてだよ」

 

そんなことないのになぁ、なんて心の中で思っていたらおでこを小突かれた。痛い。

 

「うぅ…。だったらコレなんてどうですか? ブローチなんだけど」

「なんの花のヤツだこれ。キレーだけどよ」

「ダイヤモンドリリーらしいです。意味は……調べないと分からないけど丁度三つあるし、可愛いからどうかなって」

「……まぁ、それでもいいぞ。さっさと会計して行こうぜ」

「あっ! もうちょっと色々と見てまわりましょうよーシズクさんー!」

 

無頓着なのかシズクさんはあんまり時間をかけて買い物とかするのは好きではないようです。むぅ、せっかくのお出かけなんだからもう少し楽しんでもいいと思うんだけどね。シズクさんらしいっていったららしいけども。

お会計を済ませてラッピングされた二つの小袋を持って彼女の元に向かうと端末を耳に当てて誰かと連絡を取っているところだった。

 

「あぁ。分かった……すぐに行く。おう──ん? 終わったか結城」

「うん。シズクさんもしかしてお友達から?」

「まぁ、な。それと悪い結城、帰らなくちゃいけない用事ができた」

 

通話を終えたシズクさんは私にそう言ってきた。

 

「……分かった。でもこれは受け取ってくれるよね? しずくさんの分もあるから」

「もちろんだ。確かに受け取ったぜ──大事にする」

「また、会えるよね?」

 

何気ない一言。なんてことのない言葉だけど、すぐに彼女の口から返答は返ってくることはなかった。

 

「──約束はできねーけど連絡はいつでもしてきていい。返すのは遅くなると思うけどよ。それで許してくれ結城」

「……うん」

「じゃあ行くわ……またな」

「ねぇ、シズクさん。一つ訊いてもいいかな?」

 

身に覚えのない不安感が燻っている。私は疑問に思っていたものを彼女に訊ねた。

 

「勇者……って言葉知ってる?」

「………………いや。それがどうかしたか?」

「ううん。そうなんだ……ごめんね変なこと訊いて。また連絡させてもらうよ、しずくさんにもよろしく伝えておいてね」

「おう」

 

振り返ることなくシズクさんは去っていった。手を振って見送って姿が見えなくなると私はその手をそっと胸に下ろした。

 

「──私の求めているものはそこにあるのかもしれないね。きっと」

 

『勇者』という言葉。目覚めの時にも東郷さんが言っていた言葉であり、学校では『勇者部』に所属している『わたし』。

そしてシズクさんの私の言葉による反応を考えてみて…。

 

この言葉は私にとって運命なのかもしれない。そう思わずにはいられなかった。

 

「…また、ね」

 

お揃いで買ったブローチを握りしめる。さっきは知らないなんて言っちゃったけど、本当は意味を知ってたんだ。

 

花言葉は──『また会う日を楽しみに』。

 

 


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