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シズクさんと別れて私もその足で帰路に着いた。夜に東郷さんもご家族と共に帰ってきたところをお出迎えして、一緒に東郷さんの部屋に帰ると色々と詰め寄られてしまったけどなんともないよって言って安心させます。その代わりにって私はシズクさんと一緒に入ったお店で二人お揃いのマグカップを買っておいたのでそれを東郷さんにプレゼントしました。
これにはかなりびっくりしてくれて、そして喜んでくれたから私も嬉しかったです。
「でもなんで買ってくれたの? 何かお祝いすることあったかしら」
「ううん。もしお揃いで持ってたらなんか仲良しっ! って感じがしていいかなぁって思って」
そう言うとぎゅって抱きしめてくれる。それが凄い気持ちが良くて私も堪らず抱きしめ返しちゃいました。マグカップをプレゼントしたのは、日常でも使えるのと、戻った時に友奈ちゃんにも一緒に使ってもらいたかったから。もちろんお金は自分で稼いだもので買った。パソコンを習っていたのもその一環で、友奈ちゃんの両親に許可をもらった中でやりくりした。勉強した成果を感じられたものの一つである。自分でも短期間でよくここまで身につけたなぁなんて思うけどね。
そうしてその日は終わり、また週が明けて学校が始まります。
人々の日常が始まるように、私の積み重なりつつある日常が幕を開ける。天気も良く、時間にも余裕があるので東郷さんと一緒に歩いて登校しています。
「んー! いい天気だよね東郷さん」
「ええ。とても過ごしやすい気候ね。友奈ちゃん、身体の具合は平気? 車椅子生活が終わってからたくさん色んなところで動いていたから少し心配だわ」
「うん、大丈夫。ときどきクラっとする時があるけど、全然痛みとかもないし……たぶん、夜更かししすぎちゃっているだけかも」
「もう。ちゃんと睡眠時間を確保しないとダメよ友奈ちゃん。あといくらその眼鏡してるからって長時間パソコンの画面を見てたらその内本当に目が悪くなっちゃうよ?」
「はーい…ごめんなさい」
叱られちゃった。でも言い訳ではないけどキチンとそこは気をつけているのは事実だ。帰ってきた時に視力とか落ちてたらびっくりしちゃうもんね。
隣を歩く東郷さんをちらりと見る。私より背が高くてこの瞬間はいつもドキドキしてしまうものがある。こんなこと言ったら東郷さんに笑われちゃいそうなので言わないでおくけど、結構好きな距離感だ。
「……あれ? あの車」
「どうしたの東郷さん? わ、大っきい車だね」
歩道を歩いていた時に一台の車が通り過ぎた。それに気づいた東郷さんはスッと目を細めている。複雑な感じの表情。知り合いの車なのかなと私は思っていると、その車は私たちの少し前で停車した。
流れ的に私か東郷さんあるいは両方かもしれないその車の扉が開けられた。
そこから出てきた人物に東郷さんはとても驚いていた。
「じゃじゃーん。乃木さんちの園子さん登場でーす。おひさだね〜二人とも」
「……っ!? そ、そのっち!」
ふわぁ、すごい綺麗な人が出てきたよ。そしてやっぱり私──というより友奈ちゃんと東郷さんの知り合いみたいだ。そのっちさんって名前なのかな?
目の前に現れた女の子に東郷さんはあわあわしながら近づいていく。なんだか今の東郷さんの反応は新鮮だ。
「え、え……どうしてそのっちがここに? それにその制服姿…」
「これはこれはサプライズ成功ーって感じでやね〜。私も今日から讃州中学に通うことになりましたー。よーろーしくーねー♪」
「……またそのっちと一緒の学校に通えるなんて」
「ね〜♪」
きゃっきゃと手を握り合って賑わう二人を一歩引いて見つめる。むぅ…なんだか胸がもやもやする。私が胸の内で燻っていると、そのっちさんが私の方にニコニコと歩み寄ってくる。
「結城さんもあの時ぶりだね〜。元気してたー?」
「は、はい。そのっちさんも元気そうで…?」
「ん〜?? おー…さっそくあだ名呼びしてくれるなんて感激だよー。それに眼鏡してたんだぁ……かわいーね〜♪」
「あ、ありがとうございます。伊達ですけどね」
「ねえねえ私も眼鏡したらキリっ! とした感じになるかなわっしー」
「え、わし??」
「そのっちは私のことをわっしーって呼ぶのよ。その時の名前が『鷲尾』だったから。キリっとは分からないけど似合うとは思うわよ」
「へ、へぇー……そうだったんだね!」
何気なく言ってるけど、昔の東郷さんは東郷さんじゃなかったんだ…。となるとこの子は東郷さんの幼馴染に近い人なのかな。そのっちさんは東郷さんの言葉にそっかーと言ってぽわわんとした態度に変化していた。声をかけてみても反応がなくなる。
「そのっち、さん?」
「もう、たまにこうなってしまうのよ……懐かしいわ。ほーらそのっち」
「……はっ。またやってしまったんよー。んふふぅ♪」
「なによその笑い方」
「いやぁーこうやってフレームに収めて見てみると……うんうん、お似合いだね二人とも〜!」
『──っ!!?』
そのっちさんは指で枠を作ってこちらに向けてきたと思ったらそんなことを言ってきて隣に居た東郷さんと二人で驚いてしまう。
つ、掴み所が難しい人だ……そのっちさんは。
◇
場所は変わって教室。転校生として彼女が紹介された。
乃木園子さん。今朝は私の早とちりであだ名に『さん』付けしちゃって不躾に呼んでいてしまっていたことをここで改めて知ると恥ずかしくなって顔が熱かったです。
「すぴー……すぴぃーー…」
授業中に見てて思ったのがとにかくぽーっとしてて、そして今みたいによく寝る子だなということ。でもそれで先生に当てられても難なく答えてしまうあたり底知れぬ実力を感じられる、凄い人だと思った。
私と東郷さんがそのっちさんの近くで話していると、夏凜ちゃんが驚いた様子でこちらにきた。自己紹介のときでも驚いていたけど、夏凜ちゃんも知り合いなのかな。
「これってどういうことよ東郷。乃木が転校してくるなんて大赦からも聞いてないわよ」
「私も今朝初めて知ったのよ。そのっちらしいと言えばらしいで済まされるのだけど、連絡の一つでもくれたらよかったのに」
「夏凜ちゃんもそのっちさんのこと知ってたの??」
「知っているというか、大赦では『乃木』と言ったら一番位の高いトコにいる家名なのよ。先代勇者として活躍していたことも聞いてるし」
「す、凄い人なんだやっぱり」
見た目からしてお嬢様って感じがするもんね。それにしても『大赦』か…。
(この世界は神樹様という神様に守られていて、それに密接に関りがあるのが『大赦』という組織……なんだよね)
さっきこっそり調べてみたら乃木家と共に上里家のツートップで『大赦』は成り立っていると言っても過言ではない……という情報を手に入れた。
でも一つ疑問が生じる。それは『大赦』は神樹様を祀っている────ならば神樹様は
日は浅いがこの香川で事件性のあるものというか、そういう非日常というものが何処にも起きていないのだ。耳にしたこともない。
天気が荒れたり、自然による災害は少なからずあるようだが、それ以上のことがない。私はそれがとても違和感があった。
一つ考えられるとしたら絵空事のような、人々の日常の裏で何かが起きているということ。単に信仰によって、と片付けるのには生活の基盤に組織が関わりすぎているからです。
暮らしてきて様々な場所で耳にした『勇者』という言葉。勇気ある者、勇敢なる者。使われ方は多様だけどこの場合……。
「ほらそのっち! 次の授業始まっちゃうから起きないと」
東郷さんがそのっちさんの肩を揺らして起こしている姿をジッと見つめる。腕を組んで寝ているそのっちさんの袖の奥から覗くあるモノがチラつく。
それは『包帯』。怪我をしていたのかな……? ならどうしてその怪我を負ってしまったのか。『わたし』は車椅子姿で病院に居て、東郷さんは私に『脚』の経過を教えてくれた。きっと他のみんなも
(この香川には……世界には秘密がある、と思う。想像だけど、普通の中学生が車椅子になるような…包帯をぐるぐる巻いて学校に登校するなんてありえる?)
手を握っては開いてを繰り返してみる。痛みはないけど、なにか引っかかるものを感じる時がある。もしかしたらその違和感の先の答えが私が求めているものなのかもしれない。
「友奈、なに怖い顔してるのよ?」
「え? 夏凜ちゃん私そんな顔しちゃってた??」
「あんたらしくない
「……ううん。なんでもないよー」
「そう。なにかあったらその……相談、しなさいよね」
いけないいけない。深く考えすぎちゃってたみたい。それにしても今の夏凜ちゃんのモジモジしてる姿、とても可愛いなぁ。
「……夏凜ちゃーーん!」
「ちょ!!? 急になに抱き着いてるのよッ!!」
「……むむっ!! 創作意欲を掻き立てるなにかが起きてる予感がするんよッ!!」
「わ!? 急にどうしたのよそのっち」
「夏凜ちゃんって可愛いですよね~♪」
「撫でるなすり寄るなーー!!」
肌もつやつやしてて頬ずりし甲斐があるよね夏凜ちゃんって。ガバッと目を覚ましたそのっちさんが目をキラキラと輝かせて何かを書き連ねているようだけどなにを書いてるんだろう。
騒がしくも予鈴のチャイムがなって一先ずお開きになりました。
「ゆ、友奈ちゃん」
「なぁに東郷さん?」
「わ、私にはそのえっと……して、くれないのかしら頬ずり」
「へ? ……東郷さんはその、恥ずかしいというか」
私の言葉にがーん、と背後に文字が浮かんでいるように見える東郷さんはなぜか白く燃え尽きていました……?
少しづつぼんやりと方向性が見え始めてきた『私』とそのっちこと乃木園子、参戦。
そのっちは設定よりもだいぶ早く復帰をして讃州中学に入学しています。
なのでまだ『包帯』の類は身体のいたるところに残っていることになりますね。
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