私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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二十七話

 

 

 

 

部室には以前と変わらない日常風景が戻っていた。

パソコンの前に東郷さんが座って作業をして樹ちゃんと夏凜ちゃんが楽しそうに飾り付けをしながら談笑する。その中で私とそのっちさん、対面に風先輩がテキストと睨めっこしていた。

 

「むむ〜……むーん。ふむむ」

「そろそろツッコミを入れていいかしら……なにあの丸眼鏡は?」

「視力が落ちたそうです。でも妹的に見てももう少しまともな眼鏡にした方がいいかと思ってたり。例えば友奈先輩みたいな」

「それは一理あるわね。はぁー…まぁどうあれ受験生ってのも大変なのね」

「人ごとだと思ってー! あんたも来年こうなっているんだからね」

「フーミン先輩。口より手を動かしましょ〜」

「あ、はいすみません」

 

そのっちさんに促されて先輩はいそいそと問題用紙に筆を走らせる。

 

「先輩、先週まで勉強どころじゃなかったですからね。そのっちさん私できましたっ!」

「そうなのよー…だから遅れを取り戻さないといけないんだけど……てかなんで友奈はあたしと同じ問題やって早く解け終わるのよっ?!」

「へっ? えっとー……なんでだろそのっちさん」

「ゆっちーは集中して問題を解いていたからだよ〜」

「そっかぁ〜」

「そだよ〜」

「先輩として立つ瀬がないわ……」

 

私は風先輩に混じって今後のためにと同じ問題を解いている。そのっちさんは後から転入してきたのにも関わらず、既に私たちより断トツで勉強ができる状態になっていた。いつのまに、と思う反面流石は乃木家の人間と納得できてしまうあたり凄いよねぇ。

 

「ぐぬ。後輩に負けてられないわ!」

「おー。ゆっちーがいい感じに発破かけてくれたね〜」

「そ、そんなつもりはなかったんだけどね」

 

うおおーっと気合いを入れながらスラスラと答案用紙に書き込み程なくして終わらせる先輩は流石である。

そのっちさんは受け取ってすぐに採点を始めていく。

 

「まる、マル、丸……お〜ゆっちー&フーミン先輩全問正解だー」

「やりましたね風先輩っ!」

「嬉しいやら複雑な気分よぉ……まさか友奈がここまで成長するとは……」

「ならそんなフーミン先輩にアタックチャーンスッ!」

 

デデン、と効果音すらも自分で発するそのっちさんは拳を握って先輩にチャンスを与えていた。

 

「成功すると女子力が二倍になります。そしてゆっちーも参加するならわっしーのラブ力も二倍になるんよ、ブイブイ」

『やりますっ!!』

「ハモんなっ!」

「あらあら友奈ちゃんったら」

「東郷先輩の笑顔が凄まじいです……」

「まぁ取り敢えず今のはこっちに置いておいて〜」

 

ひょいと横に置く動作をとって私のラブ力が置かれてしまった。

隣にいる先輩も「あたしの女子力ー!?」と嘆いている。

 

「これだけ出来てればよゆーっすよ先輩。でもゆっちーはまだ早いと思ったんだけど?」

「いや〜……今後のため? かな。あはは」

 

そのっちさんの問いかけに笑って返す。

 

「ま、乃木が太鼓判押してくれるなら自信持てるわね。来週は樹のショーがあるわけだし!」

「そうなんですか!? 樹ちゃんすごーい」

「ご、誤解ですよ友奈先輩! おねーちゃん、私じゃなくて町のクリスマスイベントの学生コーラス!」

「なら樹ちゃん。風邪を引かないようにコンディションを整えておかないとね」

「…………、」

 

スススー…といつの間にか樹ちゃんの隣に立っていた東郷さんが両手のひらを前に出し始めていた。

何をするのかな、と疑問を抱いていると私の隣に居たはずなそのっちさんが目を光らせて東郷さんの対面に同じような体勢で立っている。いつの間に移動したんだろう?

 

『健康健康健康健康健康健康健康……』

「ほ、ほんとに効くんですかっ?!」

 

小円を描きながらまるで呪詛のように『健康』を呟く様は側からみれば異常な光景だった。樹ちゃんは怖がって縮こまっていてその姿に風先輩は萌えていた。うん、確かに可愛いけども。

 

「まったく……しゃーないわね」

 

お……夏凜ちゃんがあきれた様子で二人の元に向かっていった。流石にツッコミを入れるのか、と私は考えたが夏凜ちゃんは懐からある物を取り出して樹ちゃんに差し出していた。

 

「樹、そんなのよりサプリキメておいた方が確実よ」

「か、夏凜さぁーん!?」

「イっつんのグッズ展開してもいいかなぁ〜?」

「や、やめてくださいー!」

「なんだかんだ夏凜も面倒見がいいのよね〜……って友奈? どったの?」

「……はい? なんでしょうか風先輩」

 

しみじみしていた先輩がこちらの顔色を伺ってくる。

 

「なんだかボーッとしてた気がするけど?」

「え、あ……いえ。気のせいだと思いますよ!」

「そう? なんだか具合悪そうに見えるような──」

「え”っ!? 友奈ちゃん具合悪いの?! どこ!」

 

東郷さんの形相が女の子のしちゃいけない手前の顔をしてらっしゃった。それで迫られるものだから私は思わず半歩後ずさったその時、

 

「あ──」

「ゆ、友奈! ちょっと大丈夫?!」

「…………ごめんなさい風先輩。ちょっと足がもつれちゃいました……支えてくれてありがとうございます」

「ゆ、友奈ちゃん! 怪我してない!? あぁー…私のせいで」

「東郷さんのせいじゃないから安心して」

「ゆっちーまさかまだこの前の疲労が残ってるんじゃ…」

「そんなことないよ。ほんとに、大丈夫だから! ほら!」

 

私の言葉にみんなは不安そうながら見守っている。私は元気アピールのために両手で拳を作って怪我していないことを示す。

実際は────だけど。

 

そうしていると風先輩が真剣な表情で私の腕を掴んだ。

 

「友奈、無理はしないで頂戴。部長として、仲間として友奈に何かあったら気が気でないの。それはみんな一緒だから……もしこの前の戦闘のダメージやらが残ってたりするならちゃんと療養して欲しい」

「風先輩…」

「そ、そうですよ友奈先輩っ! みんな元気で笑って過ごしていくためにも大事なことだと思います」

「樹ちゃん……っ」

「悩んだら相談──でしょ? 友奈」

「そうだよゆっちー。何も知らされないままなのはお互いに辛いと思うんよ。だから、ね?」

「夏凜ちゃん……そのっちさん」

 

皆の温かな言葉に私の胸は満たされていく。東郷さんも少しだけ気まずそうに手をもじもじさせながら顔を上げた。

 

「友奈ちゃん。元を辿れば全て私の責任だから……どこか悪いなら治るまで看病するから。友奈ちゃんにもしものことがあったら……っ」

「東郷さん……」

 

ああ。みんなやっぱり優しい人たちばかりだ。

こんなにも温かな人たちに囲まれて私や『友奈ちゃん』もとても幸せ者だ。

それなのに私は『私の秘密』がバレて嫌われることを恐れてばかりで……この人たちのことを心の何処かで信用していなかったのかもしれない。

向こうが歩み寄って来てくれているのに、大好きな人が、仲間たちが歩み寄って来てくれているのに……私がそれを否定しちゃってどうするの。

 

私は少し沈黙を挟み、決心する。

 

「夏凜ちゃん……文化祭の時に私が言ったこと、覚えてる?」

「え? ええ、みんなに話があるって言ってたやつ?」

「うん」

「話したい事って……友奈ちゃん?」

 

東郷さんやみんなが不思議そうに首をかしげている。

言う。言うぞ。ここでちゃんとみんなに話をして私はようやくこの人たちと同じステージに立てるんだ。

そうしたらこの胸に刻まれた『紋様』についても相談が出来る。

 

「み、みんな! あのね……実は」

 

心臓がどくんどくんって強く脈打っている。痛いほどに。

 

「……っ。実は私、本当は結城友奈じゃ(、、、、、、、、、)────」

 

果たしてこの結果を誰が予想できたのだろうか。

みんなに私の真実を打ち明けようとした……なのに私の言葉は最後まで口にすることが出来ませんでした。

 

それはなぜか。私を含めた全てのものが止まっていたからだ(、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、)

東郷さんも、風先輩たちも、空間もその全てが停止している。私の思考だけが今視えている世界を認識していた。

 

(な、なにこれ? 身体が動かない!? 東郷さん、みんな!)

 

叫ぼうとも声が出せない。一体なにが起こっているんだと思考を巡らせていると途端に自分の胸に激痛が奔った。

痛い。裂けそうな痛みが全身を巡り、これがこの紋様……もとい『刻印』のせいだと理解した。

そんな『刻印』からあるモノが姿を見せる。それは人の腕のような歪で不定形なモノだった。赤黒いその色はあの時の火の世界と酷似している。

 

ズズズ……、と徐々に伸びていくその腕は一番近くにいた東郷さんに目掛けて向かっていた。

 

(や、やめ────東郷さんになにをしようとしてるの!?)

 

もがこうとしてもやはり指先一つ動かせない。そうしている間にも腕は東郷さんに伸びていき、ついには彼女の肉体にその腕が入りこんでいってしまった。

そうして私の視える視界が変化する。まるで透過したように東郷さんの肉体の内側が視えるようになって、その腕の指先が彼女の『心臓』を撫でるように指先を這わせていた。まるで私に見せつけるように。

 

(もしかして私が『真実』を話そうとしたから?!)

 

私の思考に応えるように、どうするかと問いかけるかのように東郷さんの心臓を赤黒い腕が握っている。

こんなことをされて、私はこれ以上どうすることもできない。だから……もしそうなら私は『喋らない』ことを誓う。

 

(ダメ。東郷さんに酷いことをしないで! わかったから……喋らないから!! やめてください、お願いします……私の大切な人を殺さないで)

 

強く強く願う。私の肉体から出ているモノならば通じるはずだと願って。時間の感覚も忘れそうになる中、赤黒い腕は東郷さんの心臓を掴むのを止めてこちらに戻ってきた。

安心した。そう思っているのも束の間にその腕は急速にこちらに伸びてきて、今度は私の心臓を握り締めてきた(、、、、、、、、、、、、)

その直後に、停止した世界は元の色を取り戻す。

 

「────か、はッ……う、っぐ」

「……? ゆ、友奈ちゃん!? どうしたの!」

 

私は胸を押さえて嗚咽を漏らす。まるで心臓が潰されたかと思ったその感覚に冷や汗が止まらない。

そんな私の変調に東郷さんは血相を変えて肩を支えてくれた。その様子を見てあの腕の影響はなさそうで私は安心した。

だから出来るだけなんともないように、今更ながらにでも平静を装っていくことにする。

 

「なんでも、ないよ東郷さん。ちょっと眩暈がしただけだから」

「だったら尚更だよ。今からでも保健室に────」

「ちょっと友奈大丈夫なの!?」

「へ、平気です! だからあの……話はまた今度で。そ、それじゃあ」

「ちょ、待ちなさいって友奈!」

 

半ば無理矢理東郷さんから離れて私は逃げるように部室から飛び出す。

みんなが慌てる声が聞こえてくるが、今はまたあのような現象に巻き込まれても堪ったものではないので無理にでも離れる必要があったから。

ズキズキと痛みが尾を引く中で私はみんなに謝り続ける。

 

(ごめんなさい。ごめんなさい!)

 

そして私は保健室などには行かずに、そのまま自宅まで逃げ帰った。最後にチラッと見たときに追い打ちをかけるようにあるモノが頭から離れてくれない。

 

────ボンヤリと、私と同じような『刻印』が勇者部全員に浮かび上がっていたことに。

 

 

 




『刻印』の効力は原作より強くなっている。(幽体への侵食時間が長かったため)
それに伴い『結城友奈』の身に起こっている『真実』を他人に伝えることができなくなってしまった。

『停止した世界』は、御役目開始時のあの停止する場面を想像していただければ。なお、勇者含めて誰も動けないもよう。

『腕』のイメージは某作品の『死に戻り』のあの場面を想像してくれれば近いかもしれません。
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