私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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三十二話

◾️

 

 

最近は眠りにつくのがちょっと嫌だった。

痛みを感じてしまう夢。炎に焼かれる私と大切な人たちが同じような目にあってしまう────ざっくりとそんな夢の世界。

起きてみれば『夢』だと自覚できるけど、夢中ではそうはいかずに魘されてしまう毎日だと思われる。

 

「……っ。は、ぁ…」

 

本日もその例に漏れずに嫌な汗をかいて目を覚ます。知らない天井────というのも当然で、私は昨日から『ゴールドタワー』に安芸さんに連れられて身を置いていた。

身体を起こして辺りを見渡すと生活感のある光景が目に映る。それも当然で、私は相部屋をお願いしてここに居座らせてもらっている。相手はこの敷地内で唯一見知った関係の伏見しずくさんのお部屋だ。

 

「しずくさん……あれ、いない?」

 

急ごしらえもあって敷布団で寝ていた私は、ベットの方に視線を向けるが部屋の主たるしずくさんはそこで毛布を膨らませてはいなかった。

身体の軋みに顔を顰めながら私は時計を見るとまだまだ早朝の時間帯だ。何しているんだろうと、私は洗面所で顔を洗って眠気を覚まさせると上着を羽織って扉の外に出た。

 

「……さむ」

 

やはり人の気配はない。まだ起床時間ではないのだろうこの時間に何処へ行ったのか。冬になりつつある気候に息を白く染めながら私は来た道を歩いていく。

 

『──おはようございます。結城様』

「ひゃう!? あ、安芸さん! お、おはようございます」

『どうかされましたか?』

「えっと……朝起きたらしずくさんが見当たらなかったので探していたんです」

『なるほど。では丁度良かったのでついてきてください』

「は、はい…?」

 

少々思案した後に安芸さんは私についてくるように促した。行くあてもなかったので了承しつつ二人でタワー内を歩いていく。

そういえばこんな朝早いのに神官服を着ている安芸さんは一体何時から起きているのだろうかと小さな疑問を抱いた。

 

「安芸さんって朝早いんですね」

『そうでしょうか。まぁ……日が昇るよりかは早いかもしれませんが。そうなると睡眠もどちらかといえば仮眠に近いですね』

「か、身体に悪いですよ。ちゃんと休んだ方がいいんじゃないですか?」

『お気遣い感謝します。ですが、もう慣れているので──到着しました』

 

受け身ではあるけど会話をしながら着いた場所──というかタワーから出てすぐの所で安芸さんは歩みを止めた。

しかし周囲にはしずくさんどころか人一人居ない。その様子を知ってから安芸さんはとある場所に顔を向けた。

 

『そろそろ……あぁ、丁度戻ってきましたね』

「え、あ……!」

 

視線の先には三人の姿を捉えた。その中にしずくさんがいて、隣に昨日紹介された楠芽吹さん……それとその隣に居るのはー…。

 

(防人隊の誰かだよね? 何か楠さんと競っているような)

 

身なりからしてランニングをしているようだ。けれど私たちを見つけた三人はそのペースを一気に倍近くに上げてダッシュしてきた。

そうして一番にここにたどり着いたのは楠さんだった。息一つ切らさない彼女はとてもカッコよく見えました。

 

『…おはようございます楠さん』

「おはようございます。珍しいですねあなたがここにいるなんて……って思ったら友奈も来てたのね。おはよう」

「…ふぅー。おう結城! 起きたか」

「おはようございます楠さん、シズクさん……あと、えっと」

「ぜぇ…ぜぇ……芽吹さんもシズクさんも速すぎですわ。おや…? 見慣れない顔ですわね」

 

次いで息を整えながら来たのはシズクさんだ。昨日は会えなかったので顔が見れて嬉しくなる。そして最後に息を切らしながら来た人が私の存在に気がついて首を傾げていた。

 

「そういえば弥勒さんに紹介してませんでしたね。昨夜から急ではあるんですが、しばらくこのゴールドタワーで生活することになった結城友奈よ。友奈、この人は弥勒夕海子さん」

「ゆ、結城友奈です。弥勒さんよろしくお願いします」

「これはご丁寧に。紹介に預かりました弥勒夕海子ですわ。さっそくですが結城さんは弥勒家のことはご存知かしら?」

「え……いえ、知りません」

「……やはりもう少し大々的に活動をしたほうがよろしいかしらね」

「ちなみに友奈は現役の『勇者』ですよ、弥勒さん」

「なんとっ!? これは弥勒家の名を世に知らしめるチャンス! 是非わたくし……いえ『弥勒家』のことをお見知り置きをっ!」

「は、はあ? 覚えておきます」

「結城。あんましコイツの言ってることまに受けるんじゃねーぞ? 基本アホだからな」

「シズクさんせめて『おアホ』とおっしゃって下さいまし!」

「いやなんでも『お』ってつければいいってもんじゃねェだろ……」

「あ、あはは」

 

なんだかキャラが濃い人だなぁって思います。そんな二人の様子を隣にいる楠さんは呆れてる様子で眺めていた。

 

「ごめんなさいね友奈。朝から騒がしくて」

「ううん。全然大丈夫です。仲が良いんですね」

「まぁ……うん、そうね。だいぶここでの生活に色々と慣れてきたのかもしれない──っと。ほら、二人とも! じゃれ合うのはその辺にして戻るわよ」

「じゃれてねェッ!」

「ですわっ!」

『では私はこれで。皆さん結城様をよろしくお願いします』

 

いつの間にかヒートアップしていた二人を他所に、安芸さんはそのまま先にタワーに戻っていった。楠さんが手をパン、と叩いて皆の意識を集める。

 

「一度汗を流してから朝食を取りましょう。シズク、友奈と一緒にお願いできる?」

「もとからそのつもりだ。なんせオレら相部屋だもんな結城」

「うん。よろしくね」

「ではわたくしも優雅なバスタイムを──」

「弥勒さん。友奈の紹介もあるので時間厳守でお願いしますね」

「ですが芽吹さん。わたくしのバスタイムは──」

「い・い・で・す・ね?」

「分かりましたわっ!」

 

芽吹さんが低いトーンで釘を刺すとピシッと姿勢を正して敬礼する弥勒さん。

なんというか、ここでの力関係を垣間見た気がした。

 

 

 

 

 

お天道様も顔を出した頃、私とシズクさんは自室に戻っていた。一度解散した私たちは支度を済ませてから朝食に向かうことになっている。

 

「──ふぃぃー。サッパリしたなぁ。友奈も風呂入っとくか?」

「私はまだ着替えとかないから遠慮しておくよ。あとちゃんと服着ないと風邪引いちゃうよ?」

「いいんだよ自分の部屋なんだから。なんだったらしずくの服使ってもいいぞ? 背丈同じぐらいだろ?」

「後で大丈夫だよシズクさん。ありがとね」

 

バスタオルで頭を拭きながら現れたシズクさんはもう少し慎みを持った方がいいと思う。流石に下着は身につけているがそれも下だけで上は着けていない。大雑把に髪を拭いている彼女の行動に私は我慢出来なかった。

 

「シズクさん! せめて髪の毛はドライヤーで乾かしましょうよ。私がやってあげます!」

「いや、こんなのほっとけば乾く──」

「い・い・で・す・ね?」

「……お、おう。なんか芽吹みてぇだなオイ」

 

せっかく髪も綺麗なのにちゃんと手入れしないと勿体ない。私はシズクさんを座らせてその後ろからドライヤーの風を当てていく。

 

「シズクさん、あんまり動かないでください」

「だってよー……どうにも落ち着かねぇんだ。こーいうの慣れてないんだ」

「じゃあ自分でやりますか?」

「……いや。メンドイから頼むわ」

「はい」

 

胡坐をかいて本当はそこも直してもらいたいんだけど、それでジッとしていてもらえるなら仕方ない。私は手早く髪を乾かして服を着させる。うん、いつものシズクさんだ。

 

「──んじゃ行くか結城」

「はい!」

 

私たちは部屋を後にして『食堂』に向かう。日も登ったところでチラホラと防人の人を見かける。確か三十二人の少女たちが集団生活をしていると安芸さんから聞かされている。いきなりゴールドタワーに来たわけだけどうまくこの環境に溶け込めるか心配だ。

 

「なに暗い顔してんだよ結城?」

「その……みんな私を受け入れてくれるかなって思って。ほら、私って急にここに呼ばれたわけで馴染めるか少し不安なんです」

「ンなの心配すんなって。ここにそんな連中は居ないって保証してやる。仮にもし結城に何かする奴がいたらオレが容赦しないからよ」

「嬉しいですけど、暴力はやめてくださいよ」

「ま、色眼鏡で見られるのは覚悟しておくんだな。『勇者』なんてここの連中は誰も見たことがないんだからよ」

「うぅ……プレッシャーを与えないでください」

 

勇者のイメージとかけ離れている私を見てみんなガッカリしないだろうか。そう考えると楠さんやシズクさんのような感じだったら違和感はないのかな。

……

 

「────あ! シズク先輩、おはようございます」

「おう国土」

「……? そちらのお方は」

 

食堂の手前で一人の女の子と鉢合わせになる。私より小さい……とても可愛らしい女の子だった。

 

「あ、えっと私は──」

「聞いて驚くなよ国土。こいつは『勇者』なんだぜ。名前は結城ってんだ」

「──っ!? ゆ、勇者様! あ、あわわ……これは失礼致しました。無礼をお許し下さい」

「えぇ!? そ、そんな頭を下げないで……こ、国土さん」

 

シズクさんが私を紹介したところで、国土さんはいきなり床に膝を折って土下座をし始めた。それはもう綺麗な土下座だった……じゃなくて!?

私がどうしていいかアタフタしている横でシズクさんは口元を押さえて笑いを堪えていた。

 

「し、シズクさんっ!」

「あっはは! わりぃわりぃ……国土、結城は畏ったのは嫌いなんだとさ。楽にしてくれていいと思うぞ」

「そうなんですかシズク先輩? で、でも勇者様に会ったらきちんとした礼節を持って応対するようにと言われているんですが」

「わ、私は普通に接してくれると嬉しいかな。そんな大層な人間じゃないから」

「勇者様……ですが…」

『なになに何の騒ぎ?』

 

と、そこで国土さんの後ろから別の防人隊の方が何事かと顔を覗かせてきた。それはぞろぞろと列をなして次々と集まってきた。

 

「あれ、見ない子がいる!」

「可愛い子だねー。新しい隊員?」

「え、なになに雀さんも見たいみたい!」

「ちょっとわたしにも見せてよー!」

「そういえば今朝隊長と神官が何か話してたのみかけたよ私!」

「亜耶ちゃんと一緒にいるってことはもしかして新しい巫女だったりして」

「し、シズクさんなんだか人がいっぱい集まってきたよ!?」

「こらぁオメーら! こんなところで集まんじゃねーぞっ!」

「み、みなさん落ち着いてください。そんなに騒いでしまうと芽吹先輩が──」

 

 

場が騒然としだした直後、食堂とは反対側から妙な威圧感を感じ取った。

 

「────あなたたち。ここで何をしているの?」

『──ひっ!?』

 

誰かの小さな悲鳴によってこの場にいた全員の視線が一斉に向けられる。もちろん私もシズクさんも国土さんも同じように視線をそちらへ──楠さんが見下すように、冷徹な声と共に腕を組んで立っていた。

 

「大体の状況は把握したけど……雀!」

「は、はいぃ!」

「こういう時止めるべきあなたが一緒になって騒いでどうするの!」

「だ、だってぇ〜メブ。私だって気になっちゃんだもん!」

「言い訳は聞きません。これは訓練のメニュー量を増やす必要がありそうね」

「や、やだやだぁー! メブぅー許してー!」

「他の人もこれ以上騒ぐなら……分かっているわね?」

『り、了解!』

 

楠さんの一言で言葉を揃えた防人の人たちは一斉に散り散りに解散していった。残ったのは雀さんと呼ばれた少女が楠さんに泣きついているのみでその姿にシズクさんが呆れていた。

 

「加賀城ォ! 朝っぱらからぴーぴー鳴くなよ」

「ひぇ!? シズクさん?! なんで朝からしずくさんはシズクさんに──っ!」

「芽吹と朝のランニングしてたんだよ。オメェも明日からやるか? いや、それとも今からするかぁ?」

「あ、朝はゆっくり寝てたいのでー……ご遠慮しますぅ!」

「あ、コラァ待てやぁ!!」

 

まさに脱兎の如く、涙目のまま彼女は逃げていってしまいシズクさんはそんな雀さんを追いかけていってしまった。

私は困惑しながらも見送るしかできなかった。

 

「と、止めなくていいんですか?」

「恥ずかしいけどいつものことだからいいのよ。亜耶ちゃんおはよう、朝から騒がしくてごめんね」

「おはようございます芽吹先輩。いえいえ、賑やかなのは好きなので大丈夫ですよ。皆さん元気なのは大変喜ばしいことです」

「亜耶ちゃん……」

 

あ、楠さんの顔が綻んでる。確かにそうなってしまうのも無理もない魅力が国土さんにはあるよね。

 

「ここで立って話すより中に行きましょう。そこで改めて友奈を紹介させてもらうわね」

「よ、よろしくお願いします!」

「勇者様、こちらになります。一緒に行きましょう」

「ありがとう国土さん」

 

こうして私は防人隊のいる中に足を踏み入れていった。

 

 

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