私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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感想、評価、誤字報告ありがとうございます。

今話から視点変更が出てきます。基本的には話数の横に視点名を載せておきその者の視点で物語を書いていきます。
何もないところは『私』視点で変更なくいきますのでよろしくお願いします。


三十七話 ※芽吹視点

◾️

 

 

屋内の訓練スペースに私たちは集まる。周りには他の防人の子たちが観戦するべくざわざわと待機していた。本当はこんなはずではなかったのだけれど、何処からかこの模擬戦の情報を聞いたようで『見てみたい』という申し出があったためにこうなってしまっている。

 

(見せ物ではないけど……今更か)

 

なにせ本物の『勇者』がこのゴールドタワーに足を運んでくる機会なんてこれが最初にして最後なのかもしれないのだから気持ちは分からなくもないのが正直なところ。原則として現役『勇者』との接触は禁止だとあの神官からのお達しもあり今日までそうしてきた。ところが『神託』によってその規約を塗り替えて結城友奈がこの場所にやってきたのだ。理由は大まかには聞いてはいるが、腹の底が知れないその人からはまだ何か隠しているようにも思える気がしてならない。だから自分なりに現状を知ろうと動いても許されるはずだ。それに純粋に手合いをしてみたい……という欲求も少なからずあるので丁度いい。

 

「メブがやる気に満ち溢れている顔をしてる。友奈さん大丈夫かなー?」

「あくまで訓練の一貫だから心配しすぎよ雀」

「えー…そういってメブってば勢いが止まらない時があるじゃん? 雀さんはそこら辺が心配だよ」

「そんなわけ…………ないから」

「間が長い。間が長いよメブ」

 

呆れたように隣にいる雀が指摘してくるが、最近になって確かにその節が見受けられると自覚してきたところでもあったので耳に痛い。けど素直に認めてしまえばこの子もまたある意味で調子に乗ってしまう人間なのが難しいところである。

 

準備体操をして身体のコンディションを整えながら私は友奈が来るのを待つ。

『勇者』の実力を知るいい機会でもある。最初は三好夏凜のような人間が選抜されていると思っていたがどうやらそうでもないらしい。『勇者』に選ばれることばかり考えていた当初の自分からすれば納得のいかない事実に頭を悩ませていただろうが、今はそんな思考にはなっていない。

 

「──あっ! 来たみたいだよ」

「おー待ってました〜!」

 

隊の一人を口火に周囲が騒めく。私もそちらに視線を向けると一緒に付き添いに行ったしずくが友奈と共に訓練場に足を踏み入れていた。

 

「お待たせしてすみません楠さん」

「いいのよ別に。それにしても随分と厚着しているように見えるのだけど?」

「あ、いえ! ちょっと肌を見せるのが恥ずかしくて…えへへ。今支度します」

「そうなの? ……しずく、友奈の付き添いありがとう」

「ん。結城の面倒を見るのは当然」

「ありがとーしずくさん。助かります」

 

可愛らしく微笑む姿はどこか亜耶ちゃんにも似ていて、だからだろうかしずくも自然と微笑んでいた。彼女が私たち以外でそういう表情を浮かべる姿は見かける機会が少ないためか私の目には新鮮に映って見えた。

それに友奈がタワーに来て数日と経過していないにも関わらず他の人とも随分親しげに会話するのを見るに、彼女には人を惹きつける才能があるのかもしれない。

 

友奈はしずくが肩に掛けていたバックを受け取って中身を取り出す。中から少し年季の入った、しかし手入れの行き届いた『籠手』が顔を見せると彼女はそれを両手に装着させていく。

 

「自前のがあったのね」

「はい。『わたし』の父親が持たせてくれてたみたいで」

「私も同じスタイルに合わせた方がいいかしら?」

「いえいえ。楠さんは楠さんのやり易い方で大丈夫ですよ!」

「そう? ならそうさせてもらうわ」

 

慣れた手つきで装着した彼女は感触を確かめるべく手を握っては開いてを繰り返している。そんな中でしずくが私の元に近づいてきた。

 

「楠。あんまり結城に無茶はさせないでね?」

「え? それってどういう意味なの」

「…………ぁ。えっと、結城は──」

「芽吹さん! お二人の試合、楽しみにしてますわよ」

「私も私も! なんだかドキドキしてきたよぉーメブも友奈さんもファイトーっ!」

「ちょ、二人とも食い気味に来ないで──!」

「しずくさーん。ちょっとここの紐を結ぶの手伝って欲しいんだけど」

「ん、今いく」

「あっ、しずく……行ってしまったわ」

 

話の途中だったが雀と弥勒先輩に遮られて最後まで話せなかった。彼女の言葉の真意は分からないが、一先ずは目の前のことに集中することにしよう。訓練用の銃剣に似せた槍を持ち私も感触を確かめていく。

 

「──それじゃあよろしくお願いします。楠さん」

「ええ、こちらこそ。いい試合をしましょう」

 

程なくして相対した私たちは槍と籠手をカツン、と軽く当て合う。

 

(武具のリーチ差はあるけれど、さて……どう来るのかしら)

 

ザワついていたギャラリーたちも私たちの纏う空気が変わると自然と静寂に包まれていった。友奈も先程まで柔らかかった物腰も張り詰めたものに変化しているのがよく感じられる。拳の構え方も『型』にハマっていて素人ではないことも分かった。

 

「──ふゥッッ!!」

「──っ!」

 

身体の重心が傾いたところで友奈が攻め込んできた。私は半身を逸らし突いてきた拳を躱していく。そのスピードだけでも並大抵のものではなかったそれらは続けざまに繰り広げられていった。

 

「わ、わー! すご…」

「いけー結城ちゃーん!」

「楠隊長も頑張れーっ!!」

 

沸き上がる歓声。友奈は口角を吊り上げ背中を押されるように握った拳を突き動かしていく。けれど私もただ防戦一方では収まりはつかない。

勢いがある。気迫も同様に。しかし技の合間に僅かな隙が垣間見えたそこへ私は防御から攻撃へと転じた。

 

「ハァッ!」

「…っ!? ぐっ」

 

かつての私(、、、、、)はそこに立つべく錬磨してきた。三好夏凜を越えるために──その時の気持ちをぶつけるように私も技を繰り出していく。友奈も私の攻撃に応対して受けていた。その度に顔を顰めているように見えたがそれでも瞳の奥の闘志は消え失せてはいない。

その『気』に当てられて私も口角が上がっていくのが判った。

 

「やる、わねッ。友奈──っ!!」

「ぜぇ、は、っ、あ……楠さんこそ、ですッ!!」

 

時折に足技を織り交ぜて友奈は自分の展開を作ろうとする。負けじと私も技や動きに緩急をつけて感覚慣れさせないように捌く。お互いに一歩も譲らない試合に歓声もボルテージを上げていた。

 

「っ、ハァ…! ふっうぅーッ」

「──…?」

 

拮抗──しているかと思われたがやはり私は何か違和感を感じた。まだ試合が始まって間もないにも関わらず友奈の発汗が目に見えて多いのだ。

額からは大粒の汗が流れ出て呼吸も整えようとしているようだが荒さが隠せていない。私も多少は乱れていてもまだまだいける。それは『勇者』である友奈も同じはず、なのに……。

 

(まさか本当に具合でも? けどそれはあくまで建前のはず)

 

でもこの様子は明らかに異常だ。周囲はまだ気が付いていない者も多いが……いくら私といえどこの状態では試合も何もあったものじゃない。

それでも突き放つ拳の籠手へ当たるように私は槍を払って友奈の体勢を崩すと、終わらせるべく彼女の首筋の手前で矛先をピタリと止めてみせた。

 

「は、ぁ……!」

「ふっー…これで、終わりね友奈」

『おぉーー!』

 

再び沸き立つ歓声に私は視線を彼女に移した。そこで近くで観戦していた雀が跳びながら、

 

「すごいよメブも友奈さんもー! 相打ち────引き分けだなんて!」

「あの芽吹さんに引けを取らずにお相手してみせた手腕……流石は勇者ですわ。わたくしももっと鍛錬に励まないといけませんわね」

「────え?」

 

二人の声で私はようやく気が付いた。友奈の肘が私の脇腹を捉えていたところを(、、、、、、、、、、、、、、)

ハッとなって私は友奈の顔を見やると、彼女は汗を滲ませながらも不敵に笑っていた。

 

「……楠さん。心配してくれてたのはとても嬉しいんですが、油断しちゃったみたいですね────って、あは。そう言っても楠さんの方が若干早かったから結局は私の負けですけど」

「友奈。あなた────」

「はぁ、はぁ……ふぅー……ありがとう、ございました。久々に身体を動かせて楽しかったです」

「え、ええ……私も」

 

友奈が手を差し出してきて私はその手を握り返した。しかしその手の感触からは握られてるというより触れているだけのような感覚だった。

私たちのやり取りが終わると皆が友奈の元に駆け寄ってきていた。

 

「わ、わ……」

「さっすが勇者様だね!! あの隊長と互角に渡り合えるなんて────!」

「可愛くて強いなんて反則だよねぇ。結城さん、改めて記念に握手してください!」

「あっ、ズルいわたしもー!!」

「や、あの!?」

「……おーすごい人気だね友奈さんって。それに比べてメブはまぁー……」

「なによ雀。いいのよ、私はああいうのあまり得意じゃないんだから」

「はいはい、そういうことにしときましょー」

 

つい、とそっぽを向いていると向こう側がざわつき始めた。

 

「おい! その辺にしとけオマエら!! 結城が困ってんだろ」

「……シズク?」

 

人混みをかき分けるように現れたのはいつのまにか人格が入れ替わっていたシズクだった。みんなも彼女の出現に慌てて通路を作るとそこに彼女は歩いて友奈の元へ向かうとその腕を掴んで引っ張っていった。

 

「し、シズクさん?」

「いいからこっちにこい。話はそれからだ────いいかオマエら! 興味本位でもしついてきたら……わかってんだろーな?」

『ひぃ!? りょ、了解!』

「うし、いくぞ結城」

「わひゃー相変わらずおっかないなぁ……いつの間にシズクさんになってたんだろ。ねえ、メブ?」

「ごめん雀。後よろしく頼むわ」

「え、ちょ…っ!? メブどうしたのー!」

 

雀の言葉を最後まで聞かずに私は出ていった二人の後を追うことにした。

 

「……どこに? こっちか」

 

先程から違和感が拭えない。足早に二人の姿を探そうとしたところで、廊下の角から声が聞こえてきた。シズクの声だ。

早る気持ちを抑えながら曲がり角を曲がったその先にやはり二人はそこに居た────のだが、

 

「……ほら、水を飲め結城。ゆっくりだ……そうだ、焦るなよ」

「んく……ふっ、げほ、げほっ───かふ…ごめんな、さい」

「んなこと気にすんな。まずは息を整えろ……」

「なにを、してるの? シズク、友奈」

「──っ!? 楠、か。来ちまったのかよ」

「ひゅー…っ。楠さん……?」

 

眼前の光景が信じられなかった。壁を背に床に座り込んだ友奈にシズクがペットボトルの水をゆっくりと飲ませて落ち着かせていた場面に出会した。

私はシズクの言葉よりも友奈の容態が気にかかった。顔色は青白くなっていて脂汗が滲み出ているように見える。呼吸も不規則でシズクが背中をさすって落ち着かせているようだ。

シズクはバツが悪そうに私を見ると、

 

「ちっ……まぁ、丁度よかったか。手を貸せ楠。友奈を医務室へ運ぶからよ」

「シズク説明して! 友奈はどうしちゃったわけ!? この様子は普通じゃないわ」

「…………それは。いや、それは運びながらでも出来るから取り敢えず手伝ってくれ、頼む」

「……っ。わ、わかった」

 

具合の悪い友奈の両肩を私たちで抱えて起き上がる。あのシズクが間髪入れずに真っ直ぐお願いしてきたことにも驚くが、それほどまでの容態なのだと私は察して手を貸した。

 

「……友奈がこうなるのは知ってたのシズク?」

「まぁ、な。本当は止めたんだがコイツ言う事聞かなくてよ。ったく、意地の張り合いでオレが折れるなんざ楠以外には初めてだぜ」

「……友奈は何か病気でも患っているの?」

「そういうわけじゃねぇ。わけじゃねぇが……」

 

そこで口籠るシズクに私は疑問符が浮かぶ。病気の類ではないのなら一体なんだというのだろうか。

 

「取り敢えず医務室に着いたら防具類を外さないといけないわね。汗もすごいし、あの神官にも声を掛けないと」

「──いや、待て。楠はそこまでしなくていい。着いたらオマエは訓練に戻れ」

「どうして? 人手は必要でしょ? それに友奈がこんなになったのは私の責任でもあるの。手伝わせて」

「ダメだ」

「どうしてよ! 納得のいく説明が欲しいわシズク」

 

食い気味に詰める。どうして彼女はここまで頑なに譲らないのか理由が知りたかった。元々の性格を鑑みてもこの様子は友奈同様に普通じゃない。

それでもやはりこの状態にさせてしまった原因の一端は私にもあるのは違いない。それはシズクも分かっているのかそれ以上は何も言わずに歩いていくと程なくして医務室に到着した。

 

タイミングが悪いのか担当医は席を外しているようで室内には誰も姿が見えなかった。

 

「……すぐに呼ばないといけないわね」

「それも後だ。まずは結城を寝かすぞ」

「ええ。友奈、医務室に着いたから」

「………。」

 

呼びかけにも弱々しく頷いて彼女は答える。ベットの毛布を退かして友奈をそっとベットに寝かしつけるとようやく一息つくことができた。

 

「息苦しそうねやっぱり今すぐ外した方が──」

「だから待てって。やめろ楠」

「じゃあ説明を要求するわシズク。じゃないと私はここから一歩足りとも動かないから」

「だからよぉー……だあー! クソッ。ここにも頑固者が居るのを忘れてたぜ」

「……それはお互い様でしょ」

 

まるで自分は違うように言われて納得いかなかったので言い返すと頭を掻いてシズクはジッと私を睨みつけてきた。

もちろん私はその視線に対して合わせて見つめる。しばらくそれが続くとシズクは大きな溜息を吐いてドカッとパイプ椅子に腰を下ろした。

 

「一つ確認させろ。オレは結城とそれなりに接して来たが楠は違う……それを含めてオマエに問うぞ──覚悟はあるんだな?」

「どういうこと? 覚悟ってなんのよ」

「コイツは普通には明かせない、ある秘密を抱えている」

「秘密……?」

 

そうだ、とシズクは話を続ける。

 

「それを知るのは大赦でもごく僅かだ。後はオレもその数に含まれてる。これはしずくもしらねぇがな」

「どうしてあなただけが知ってるの?」

「結城を迎え入れるときにしずくだけ席を外したことがあったよな」

 

確かに友奈をこの防人に迎え入れる際にシズクは別に行動していた。それはただ単に友奈の知り合いとしてあの神官に付き添っていっただけに思えたがそれだけではなかったらしい。

 

「あの神官はオレと話がしたいと言ったんだ。しずくではなくオレにな。そうして表に出て来てみれば告げられたのは神樹の『神託』だった」

「なによそれ……初耳だわ」

「あぁ、今初めて言ったからな。だが、内容まではそう気安く明かせるものじゃねぇんだ。そこで改めて問うぞ……楠、オマエについ最近出会った人間に対して命を張れるか?」

「命……ですって?」

 

その単語を聞いて空気がひりついた。シズクの目はいつになく真剣そのものだった。それは言外に『覚悟がないなら首を突っ込むな』と言われているような。いや、実際にそういうことなのだろうと直感的に察することができた。

私は目を伏せて思考する。

 

(確かにシズクの言う通り友奈とは出会って間もない関係だ。でも、彼女をここに迎え入れた時から……友奈はもう私たちの仲間同然よ)

 

みんなを含めても友奈とは日が浅い関係だ。それでも彼女は隊のみんなに歓迎されて、仲良く過ごして来ているのを私は知っている。例え『防人』と『勇者』という違いはあっても、そこには確かな『友愛』が芽生えつつあることを私は否定したくはなかった。

そこまで考えて、やはりどうあっても考えが変わらないことを確かめた私は伏せていた目を開けてシズクと改めて向き直った。

 

「ええ、張れるわシズク。でもね、その言い方は好きではない。私は己の誓いに則って友奈に歩み寄るの。私の立っているこの場所からは誰一人として犠牲者は出さない────それは友奈も例外ではないわ。だから教えてシズク。友奈の身に起こっている事を」

「………はぁー。そうだ、そうだったなオマエは────いいぜ、連絡は既に入れてあるからよ。それまでに話を済ませちまおうか」

 

溜息まじりに、しかしどこか嬉しそうにシズクは私を見ると、視線を改めて友奈に向けてその口を開いて説明を始めた。

 

 

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