私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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四十話 ※しずく視点

◾️

 

 

────周囲の景色が切り替わるように、世界が一変する。

 

 

肌が感じとるのは熱気だ。暑いではなく熱い。視界に映る全てが炎に包まれたその世界は元は人類が生きていた世界だとはとても想像できないほどの環境が広がっている。

『戦衣』を見に纏っていなければまともに活動できないほどのこの場所に挑むのはこれで何度目だろうか。

 

「護盾隊は盾を展開。次いで銃剣隊は中距離での射撃を開始────!」

 

指揮官型の指示を受けて各所で対応に当たる。目の前には白い体色の異形の怪物──通称『星屑』が私たちを喰らわんと接近してきていた。最初こそはその姿と勢いに気圧されていた防人も、今は冷静に対処できている。私たち個人の戦力はたかが知れているために複数人での戦いに挑むのは変わらないが、おかげで星屑程度では問題にならないぐらいには成長を遂げているのを実感できていた。

 

「──あ、ありがとう山伏さん」

「ん。油断しないで」

 

気を抜けない状況下であっても、やはり接近を許してしまう場面が出てきてしまう。私は星屑が防人の一人に接近するのをいち早く察して手に持つ銃剣を星屑に振り下ろして対処し、尻餅をついてしまったその子に手を差し伸ばして立ち上がらせた。

 

「なんだか最近の山伏さんとっても頼りになるよ。迷惑かけてごめんね」

「迷惑じゃ…ない。お互い頑張ろ」

「うん。今度はわたしがフォローできるように頑張る!」

「ん。その時はよろしく」

 

その瞳に再び闘志を燃やして進み始める仲間の後ろから私も続いていく。視線を前へ向けると皆順調に戦闘を行い、前進できていた。

 

「ひぃぁあ!? 相変わらずおっかないよコイツらー! 殺されるぅ、死んじゃうよぉメブぅ」

「舌噛むわよ。口より身体を動かしなさい雀! 弥勒さん、今度は無闇に特攻しないでくださいよ」

「分かっています! 弥勒家当主として恥じない立ち回りを致しましょう──!」

 

結界の外に出て、そろそろ一時間が経過しようとしている。進むべき進路を阻む星屑以外は相手をせずに、必要最低限に対処していく。遠くの果てまで埋め尽くす『白』は星の如く無数に、無限に存在していた。

 

「楠。目的地までどれぐらい?」

「……あと一、二キロほどかしら。ちゃんと目的の物があればいいんだけど」

「んっ。それは問題ないはず。じゃないと……困る」

「そうね。最初から諦めていたら意味がないものね」

 

銃撃で応戦しつつ二人は会話を交わす。

 

「……前から思っていたけれど、しずくも変わったわね。もちろん良い意味で、ね」

「どういうこと…?」

「以前よりも明るくなってる気がしてたから。それに今だって『シズク』に変わってないでしょ? やっぱりそれは友奈のおかげかしら」

「……うん、そうかもしれない。でも同じぐらい楠たちのおかげでもある、かも。みんなが良くしてくれたから私が今の私になれた……から」

 

誰かに褒められるのは照れるけれど悪い気はしなかった。むしろ嬉しくてそれだけで振るう銃剣が軽く感じるほどに心は満たされているのかもしれない。この気持ちを大事にしていきたい。そういう風にこの頃考えるようになってきた。

 

幸いにも今のところは順調に進めている。見たところ大型は出現しておらず、更に十数分の時間を経過した頃に防人はその歩みを止めた。

 

「──この辺だったわね。周囲の様子は……特に変化はなし」

「どこもかしこも同じ風景だから困りますわね。纏まるよりも手分けして捜索した方がよろしいのではなくて?」

「ええ、そのつもりでいます……指揮官型は作戦の通りに小隊を編成。決して無理な交戦はせずに動いて、目的の物が見つかり次第私に報告すること!」

『了解っ!』

 

楠の指示でそれぞれに別れる。私は楠の班に入っていつものメンバーが結成された。

 

「しずく。あなたから見てどう思う?」

「この先にありそうな……気がする」

「向こうね。なら急ぎましょう」

 

私が指差した方に楠は躊躇わずに歩みを進めた。

 

「うぅー…早く手に入れて帰ろうよ。なんだか嫌な予感がするから……」

「なにを仰っていますの。周囲には小型はおりますが、大型や変異種の姿は見えませんし」

「そうだけどさぁ…メブぅ」

「分かっているわよ雀。あなたのそういった時のカンは信用に値するからなるべく早く済ませましょう。こんな場所、一刻も早く撤収するに限るから」

 

楠の言葉に嬉しそうに頷く加賀城は足早に進んでいく。呆れる弥勒も続くように前進していくと直ぐに「あっ…!」という声が耳に届いた。

 

「メブー! しずくさーん! 緑があったよ!! ほら、あそこあそこっ!」

「以前来た時よりもだいぶ様変わりしましたわね」

「……だけど、これは」

 

意外と早く目的の場所は見つけることができた、が……。

 

「……楠。花なんて咲いてないよ?」

「嘘よ。きっとどこかに咲いているはず────じゃないと!」

「あっ!? メブ」

「あんなに慌ててどうされたのでしょうか?」

「…………。行こう」

 

先行した楠に続くように私たちもその場所へと向かう。でも遠巻きからでも分かっていたように、そこには薄い緑がある程度で種が実る『花』なんてものは一輪すらも咲いてはいなかった。

楠は膝をついて手探りで探しているようだが、見つけられずに唇を噛み締めていた。

 

「あの神官が騙した? いや……違う。でもなんで? これじゃあ友奈が────っッ!!」

「落ち着いてくださいまし芽吹さん」

「弥勒の言う通り。少し冷静になったほうがいい」

「そうだよメブ。もっとよく探したほうが───ひょわ!!?」

 

声を掛けながら近づいた直後に、地面が揺れた。その振動は地震というよりも爆発による揺れに近い感覚でみんなは慌てて爆音の方に視線を向けた。

少し離れた所で土煙がゆらゆらと昇っている。あの方角は他の隊の人たちが捜索に向かったところの筈だ。

 

「……なに、あれ? 星屑がやったの?」

「そんなはずないよ! だってアイツらって突進や噛みつきしかしないじゃん。おかしい、おかしいよメブぅ! に、逃げたほうがいいんじゃ──」

「それはなりませんわ。まずは他の人の安否を確認しませんと……っ!? また爆発ですわっ?!」

「楠。みんなを集めないと……なにか、様子が変だよ」

「くっ……指揮官型、応答しなさい。何があったか報告して!」

 

楠が無線を飛ばすがノイズが酷くて何も声が聞き取れない。そういえば先程から星屑の姿も見られないのが気にかかった。そうして考えていると遠くに隊の姿を捉える。

 

「た、隊長…! に、逃げてください!! お、大型のバーテックスが現れ───きゃあっ!?」

「バーテックスっ!? って吹き飛ばされたー!?」

「受け止めないと!」

「わたくしにお任せくださいませっ! うおぉーー!」

 

それは見事に綺麗なフォームだった。

全力疾走の弥勒が爆風に吹き飛ばされた少女の身体を見事にキャッチすることに成功していた。常日頃楠にしごかれた成果が垣間見えた瞬間なのかもしれない。

 

「ナイス弥勒キャッチですわね。お怪我はございませんか?」

「あ、ありがとうございます」

「良かった! けど、今の言葉って本当なの? 大型のバーテックスが現れたなんて」

「そ、そうなんです隊長! 今も他の隊が交戦しています。ですが、状況は不利……これ以上はみんなが保ちません」

「あわわわ!? め、メブやばいって! 撤退した方がいいよぉ!」

「爆発が近づいてくる……」

「どうやら、そうみたいね」

 

直後に崖の向こうから防人隊の面々が私たちの方に撤退してきていた。ざっと確認したが誰も欠けているようには見えずに一安心するも、その背後からとても大きな影が近づいてくる。

 

────最悪のケースだ。

 

 

「隊長! 少数ですが負傷者が出てます。て、撤退したほうが」

「……それはもちろんよ。だけどもう既に囲まれているわ。あれは確か……バーテックス・ヴァルゴね」

「ヴァルゴ……ということはこれらは全部」

「総員こちらまで下がって! 周辺にあるのは全て『爆発物』よ!! 護盾隊複数人で受けながら下がりなさい!」

『了解!』

 

ゆっくりな動作でこちらに現れたのはバーテックス・ヴァルゴ。

布のような触手をゆらゆらさせ、下腹部からは小型の爆弾を射出する敵。今もなおそこからは爆弾を量産させていた。

 

「どうしますか芽吹さん。この数では逃げ場が……」

「目的の物もまだ採れていない。何とか隙をついて見つけないと」

「そんなこと言ってる場合じゃないよメブ! 来てる、来てるよおぉ!」

「銃剣隊、射撃で爆弾を処理しつつアイツの注意を引いて頂戴。負傷者は中心に集めて護盾隊で固めて。ヴァルゴ自体には攻撃性はないから注意するのは周りの爆弾だけよ!」

 

この情報たちは歴代の勇者たちが遺したもの。そのおかげで初見での対応は随分とスムーズにいくことができる。でもだからといって私たちがヴァルゴを『倒せる』なんてことは話が別だ。ヴァルゴの生み出した爆弾を射撃で撃つと爆発が起こり、周囲の空気を地面を揺らす。誘爆するように近くの爆発も爆発して危ない状況だった。

 

「楠。私が探してみる」

「しずく!? 待ってまだ危険だわ!」

「ん。でも早く見つけないとみんなが危ない。任せて」

「しずくー! ぐっ……銃剣隊、なるべくしずくの周囲に爆弾が近づかないように援護射撃してッ!」

 

応戦できてる今しか時間がない。楠の静止を振り切って私は爆風に煽られながらその先に進んでいく。幸いにも私は探すのは得意な方だからそれに賭けるしかない。

 

私は地面に膝をついて周囲を確認する。

 

(花が地面に咲いていないってことは……恐らく地面の中かも)

 

この環境下だ。よくある綺麗に花を咲かせるなんてことは難しい筈。だとしたら考えられるのはやはりその下……地面の中だ。

確か前にどこかの本で『地面の中に咲く花』があることを目にしたことがある。それに近しいものだと当たりをつけて私は目を細め、地面スレスレから目線を出来る限り低くして辺りを探し始めることにした。

 

「…………ん、あれが怪しい」

 

僅かに地面に盛り上がりがあるのを私は見つけた。私は急いで駆け寄って盛り上がりのある地面の前で再び膝を折った。

 

「…っ。お願い。見つかって」

 

掘る道具がないので両手を使って地面を掘っていく。浅い所に生える根をかき分けながら更に更に奥を掘り進めると指先が血に滲むが、気にせずにやり続けた。するとその先に紫色の花弁らしきものを視認して私はこれだと急いで掘り起こすと、手のひらに収まるほどの『花』が確かにあった。

 

───花びらは螺旋状に包まれており、少しだけ中身を覗くとびっしりと『種』が詰まっていて目的の花はこれだと確信した。

 

「やった……! 楠、あった────」

「しずく!! 避けてーー!」

「えっ……?」

 

決死の表情を浮かべた楠の声に私は振り返るといつの間にか接近していた爆弾が、目の前にあった。

この花を探すことに意識を割きすぎてここまで接近を許してしまっていたのだ。私は目を見開いて片手を後ろにやった。

その時の私はよく身体が動いてくれたと思う。咄嗟に背中に携えていた銃剣を力任せに払い、爆発する寸前に軌道を逸らすことに成功した。

 

だけどそれでも近接での爆発であることには変わりなく、私は爆風によって吹き飛ばされてしまった。

 

「あっ、ッ、ぐぅ……っ!?」

 

ごろごろと地面を転がり私の視界も一緒にぐるぐると回っていた。気持ち悪い、と感じた頃にようやく動きが止まる。手に持っていた銃剣は別方向に吹き飛ばされてしまい武器を失うが、でも手にした花だけは手放さずに済んで良かったと思う。

 

「しずく今いくわ! だから起きてッ!! 次がくる!」

「あっ、う……身体が動かな……」

 

視界が揺れていて目がチカチカする。立ち上がろうにも腕に力が入らない。どうやら爆発を受けて脳震盪みたいな状態になってしまっているらしい。このままだと結城にこの花を届けられない。だから早く立て──っ! と自分の身体を奮い立たせようにもうまくいってはくれなかった。

 

「あっ……」

 

そこへ容赦なく次の爆弾が私の目の前に飛来してこようとしていた。

武器もなく、身体も動かない私に回避する手段は残されていなかった。

 

────っ!! ──…!

 

視界がスローに感じられる中で楠たちが何かを必死に言っているようだけど私の耳には届かなかった。私はそれよりも手にしている『花』を無くさないように両手で包んで更に身体全体で丸まるように覆いかぶさった。

 

(これで何とか『花』だけは守れるかな? 楠、ごめん。結城も──シズクも)

 

楠の掲げる目標に泥を塗ってしまうけど、これがあれば結城は体調が良くなってくれる。友達の助けになれるんだ。

そういうことならシズクも納得してくれると思う。だけど、悲しませてしまう人がいるのが申し訳なかった。

 

「……ん。ありがとうみんな。ありがとう結城……私の、友達になってくれて」

 

『死』が近づいている。幼い時にとても恐怖を覚えていた『死』が間近に。でも不思議と怖くはなかった。それは私の胸の中に大切な思い出があるからだろう。それなら受け入れられる、と私は目を閉じて来たる衝撃に備えていた。

 

 

────それはダメだよ。しずくさん。諦めちゃダメだからっ!!

 

 

ふと、そんな言葉が聞こえてきた。この場ではあり得ないはずの友達の、その声で私は下を向いていた顔を上げて前を見た。

 

その視界には淡緑色の、白い花びらが舞い散っている。

その乱花の中に一人の白い少女が拳を握って立っていた。

いつの間にか吹き飛ばされて遠くで爆発するヴァルゴの爆弾があって、急速に近づいていた『死』の気配が遠退いていくのを自覚する。

 

一人の少女が立っている。私の大切な友達がその足で立っていた。

少女はゆっくりとこちらに振り向くと私のよく知る穏やかな、優しい笑みを浮かべていた。

 

「ありがとうしずくさん。私のためにここまでしてくれて……本当に、嬉しかった」

「結城…? どうして此処に」

「友達が頑張ってくれてるんだもん。私も頑張らなきゃって思って医務室から飛び出してきちゃった」

「……でも、結城はまだ」

「うん。だけど任せて。みんなと無事に帰ってくるって約束したから!」

 

私に限らず、遠くにいる楠たちも驚く中で接近してくる爆弾に結城は不調を感じさせない動きで、身体を大きく捻らせて蹴りを放つ。

 

「させないよ。これ以上誰も傷つけさせないッ!!」

 

吹き飛んだ爆弾がまるでピンボールのようにぶつかりながら爆発させていくその様は見事としか言いようがなかった。

 

そして結城は離れた所にいるバーテックス・ヴァルゴを睨みつけて拳を構えた。

 

「私は勇者──結城友奈なんだからっ!」

 




仲間のピンチに颯爽と現れる主人公──うん、彼女はよく頑張って動いてくれました!汗

敵はバーテックス・ヴァルゴ。
このバーテックスにした訳は…分かる人には分かりますね。そういうことです。
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