私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

43 / 77
四十三話

◾️

 

 

爆風に髪が揺れ私は今一度拳を強く握る。

 

「しずく! 友奈っ!」

「楠さん、しずくさんをよろしくお願いします」

「あなた……どうしてここに…っていうか身体の具合がまだ──っ!」

今は(、、)まだ平気なので。それよりも皆さんを連れて撤退してください。ヴァルゴは私が止めます」

「なに言ってるの! 馬鹿な真似はやめなさい友奈……待って友奈ッ!」

 

楠さんの声を待たずに私は爆弾の中に突っ込んでいく。ヴァルゴは私たちが話している最中にも下腹部から新たな爆弾を吐き出し続けており、少しでもこの数を減らしていかないと皆が撤退できなくなってしまう。

 

こちらに投げつけられる爆弾を私は蹴りを使って蹴り返す。足技ならば筋力が衰えている私でも有利に働いてくれる。

 

「凄い……」

「あの爆弾をもろともしてない……!」

「ひゃー…私はあんな突っ込み方は出来ないよ。死んじゃうと思うし絶対」

「くぉら皆さんっ! よそ見ばかりしてないで手を動かしてくださいまし! 星屑が来ますわよっ!」

 

本当は全てを相手に出来たらいいんだけど、この広範囲では手が追いつかない。だから私は自分の間合いに来たものだけを相手することに集中する。亜耶ちゃんが信じるみんなの力を信じて。

 

「──弥勒さん、友奈の援護をするわよ! 雀はしずくを護りながら後退して」

「待ってましたわ芽吹さん! 弥勒家の実力を見せる時が来ましたわねー!」

「り、了解ー! しずくさん早く逃げましょうっ!」

「待って加賀城……わたしも結城の援護に…」

 

そんなやり取りを他所に迫りくる星屑を私は足場にして上に駆け上がっていく。ヴァルゴは地上から大分高い位置に止まり攻撃をしてきている。移動手段としてはこれしかなかった。

 

「まずは落とさないとだから……上に…上にッ!」

 

蹴り上がりながら私は前進する。しかし上空に上がるにつれ星屑の数が減っていき変わりに爆弾の数が多くなってきた。触れると爆発するこれらには十分な足場にすることができないので造形の似ている星屑を見極めなければならない。そうして意識を割きすぎたのか両脇に接近していた爆弾に対して反応が遅れてしまう。

 

「──しまっ!?」

「友奈ぁ! 気にせずそのまま真っ直ぐ進みなさい!」

「撃ち落としてみせますわっ! ──たぁっ!」

「ありがとう……二人ともっ!」

 

私よりも少し下でタイミングよく両側に接近していた爆弾を楠さんと弥勒さんが同時に銃剣で撃ち抜き落としてくれた。私は感謝しつつ最後の星屑の頭上に乗り上がり思いっきりジャンプする。

 

「これでぇぇーー…!」

 

身体を空中で回転させて左脚を伸ばす。そのままヴァルゴの頭上に目掛けてかかと落としを繰り出した。

 

「──落ちろォォー!」

 

気合を込めて振り落とした左脚はヴァルゴを捉えて空中から地上へと一気に落ちていく。更にはインパクトの瞬間にヴァルゴの頭部が弾け飛び損傷を負わせた。

 

「凄い。あれが勇者の……いえ、友奈の力なのね」

「あ、あれぐらいはわたくしもでで出来ますわよ」

「声が裏返ってるよ弥勒さん」

「──加賀城ォ!」

「ひょわ!? なんすかしずくさんじゃなくてシズクさん?! ってうわっとと」

「そいつを持ってやがれっ!」

 

あぁ。カッコつけたのはいいけどその後のことを考えてなかった。気合を込めた一撃は確かにヴァルゴを捉えたが、反動で私の半身が痺れを覚えて動けなくなってしまった。もともと病み上がりと言うか現在進行形で『タタリ』に侵されている身に変わりはないことを改めて思い知らされた。

 

自由落下によって私の身体はヴァルゴに続いて落ちていく。どうにか受け身をとらないといけないと考えた所で、

 

「──ったく。オマエはいつも無茶しやがるな結城」

「シズクさん? 怪我は……?」

「他人の心配より自分の心配をしやがれってんだ。オマエがどうにかなっちまったらそれまでだろうがよ」

「…ありがとうございます、シズクさん」

「礼はいらねぇ。しずくを助けてくれた借りを返しただけだからな」

 

私の身体はシズクさんによって抱き抱えられて事なきを得ていた。

ぷいっとそっぽ向くシズクさんに「それでもありがとう」ともう一度言うと小さく「おう…」って返してくれた。

 

「──はぁ! ……まったく話し込むのはいいけど二人ともまだ戦場にいることを忘れないで欲しいわね」

「ああ、楠。もちろん忘れてねぇぞ。ただもう目的のモノは手に入れたことだしズラかろうぜさっさと」

「同感ですわね。数がどんどん増えてきてますわよ」

「えぇ、それはもちろんよ──総員、撤退準備を始めて! 陣形は崩さずに下がるわよ!」

「ぁ、ぅ……楠さ、んっ! 後ろッ」

「──っ!?」

 

私の声に反応した楠さんは振り返った。直後に爆発。爆風の余波に私たちは吹き飛ばされてしまう。

 

「──楠ッ! 友奈、弥勒、加賀城ッ」

「わ、私は大丈夫、です」

「わたくしも平気ですわ……それよりもお二人は」

 

煙幕を昇らせながらその隙間の先に頭部の一部が吹き飛んだヴァルゴの姿を捉えた。態勢を立て直す際にこちらに爆弾を飛ばしてきたのだ。

 

「──っ。す、雀?」

 

煙が晴れてくると楠さんが茫然と雀さんを抱き抱えていた。私は目を見開く。みんなもその様子に驚きを隠せないでいた。

 

「雀っ! しっかりしなさい雀ッ?! あなた私を庇って……!」

「……メブが無事なら良かった。雀さんナイスフォロー」

「喋らないで! 傷は!? 身体に異常はある?」

「大丈夫ですの!?」

「正直言うととっても怖かった……けど、メブに何かあった方がもっと怖いって思っちゃったから。そう思ったら身体が勝手に動いてくれたよ」

「馬鹿っ! でもお陰で助かったわ雀」

 

見た目は酷い怪我をしているようには見えないが、ぐったりとしている雀さんを見て私は歯を食いしばって肉体を立ち上がらせる。私の一撃が甘かったせいで雀さんに怪我を負わせてしまったんだ。

 

「──シズクさんッ!!」

「やるぞ結城ッ!」

 

痺れを残す身体に鞭打ち私は一声掛けるとシズクさんも銃剣を手にして一気に走り出す。ヴァルゴは的を近づいてくる私たちに絞ったのかまるで銃を撃つように爆弾を撃ち放ってきた。

 

「任せろ! 走れ結城──オレが撃ち落とす」

「はい!」

 

それだけ言葉を交わすと私は速度を上げて距離を詰めていく。爆弾は撃たれると同時にシズクさんが合わせ撃ちで応対してくれて私はお陰で気にすることなく進むことが出来た。

 

その間にもヴァルゴは無理を悟ったのか再び浮遊を始めようとしていた。

 

「逃がさない、よっ! 今度こそ──捉えた」

 

超至近距離。眼下へと既に接近していた私は拳を握って突きを放とうとしていた。向こうの照準もあと少しの所で私の方が早かった。

 

「これでっ! ──なっ!?」

 

敵も諦めが悪い。土壇場でヴァルゴは二本の布のような触手を私の両手に巻き付かせて拘束させたのだ。まさかの行動に私が驚いている内にヴァルゴの照準は私の目の前に向けられる。

 

──けど私は咄嗟にバク転の要領でヴァルゴの銃口を蹴り上げた。

 

「ハアァッ!!」

「でぇぇいっ!!」

 

爆弾が上に逸れ、直後に私を拘束していた布のような触手が銃剣によって斬り裂かれる。楠さんと弥勒さんだった。

 

「よくも雀に……仲間にやってくれたわねバーテックス・ヴァルゴ!」

「この対価は高くつきますわよ!」

「畳み掛けろォ!」

 

シズクさんの叫びに呼応して私の拳に力が湧いてくる。これ以上攻撃をさせまいと三人はヴァルゴの攻撃手段を手当たり次第に斬り、撃つことによって封じてくれていた。だから私は態勢を整えありったけをこの拳に篭める時間を作ることができたのだ。

 

「勇者ぁぁー……」

 

私は弱い人間だ。一人では何もできないちっぽけな人格だ。けれどこうして同じ志を持ってくれる人たちに支えられて私は進む力(ユウキ)を手に入れることができた。故に進む。また前に進むんだ。

 

「パァァーーンチ!!」

 

憂いを払拭するように私は出来うる限りの一撃をヴァルゴに突き放つ。インパクトの瞬間に私の腕に痛みが走るが気にせずに振りぬくとヴァルゴは周りの爆弾を巻き込みながら弾け、吹き飛ばされていった。土煙が立ち込めて最後に残ったのは拳を突き出した私と息を切らしながら立ち尽くす楠さんと弥勒さん、そしてシズクさんが居た。

 

「や────!」

「やったぁ!!」

 

遠くに避難していた隊の一人が喜びに叫ぶと、たちまち伝播して大きな歓声として耳に届いてきた。思わず顔を合わせる私たちに、

 

「……うっしゃァァ!! ナイスだぜ結城ぃ!!」

「わわ!? し、シズクさんくるし……」

「さすがね友奈。あの大型をぶっ飛ばしちゃうなんて」

「貴方の戦いに敬意を表しますわ」

 

駆け寄ってきたシズクさんに引き寄せられて頭をクシャクシャ撫でられ、ほっと胸を撫で下ろす楠さんはすぐに元の表情に戻ると雀さんの所に走って行った。私は彼女を見届けると途端に足腰に力が入らなくなってしまってシズクさんに自重を預ける形になってしまう。

 

「あっ、っ……あはは。力が入らないです」

「おっと……! 平気かよ結城。ったく無茶しやがってよぉ」

「わたくしも肩を貸しますわ。任務もこれで無事に終わりましたわね」

「あぁ……さっさと帰ろうぜ」

「ふふっ……みんなボロボロですね」

 

私は両肩を支えられながらこの状態がおかしく思えてつい笑ってしまう。一瞬キョトンとした二人もつられて笑ってくれた。

 

「オメーが一番ボロボロだっつーの。それにまだまだオレは戦えるぜ、まぁ今日の所は帰るけどよ」

「わたくしもまだまだいけますわ……しかしこの後にアフタヌーンティーのお時間がありますので今日の所は帰らせていただきますけど」

「くす。じゃあ帰りましょう……私たちの世界に」

 

向こうで待ってくれてる亜耶ちゃんを安心させないとね。

 

 

────

───

──

 

 

私たちの帰路には星屑が居なくなっていた。数ある爆弾によって巻き込まれたせいなのだと楠さんが言っていて、タイミングよく真っ直ぐ元の道を帰ることができた。そうして炎の世界から神樹様の結界内に再び足を踏み入れると世界は一変して見慣れた香川の町並みが視界に映った。

 

息苦しい熱気はなく、心地の良い風が吹き抜けていく。空を見上げれば曇天の隙間から陽の光が差し込んできていた。

 

「帰ってこれたわね。誰の犠牲もなく……」

「みんなメブに鍛えられてきたんだからそう簡単にやられたりしないって。目的の物もほら、無事に確保できたわけだし」

「そう、ね。今は喜んでおきましょうか」

 

楠さんに支えられながら雀さんは懐から『花』を見せつける。そして隣で同じように支えられている私と視線が交わった。

 

「これで友奈を……急いで戻りましょう」

 

隊の人たちに指示を出しながら私たちはゴールドタワーに向かう。私はもうクタクタで身体を預けちゃってて申し訳なかったけど、二人はなんて事ないって言ってくれた。

 

「───ぁ!」

 

と、タワー入り口前で亜耶ちゃんが待ってくれた。みんなボロボロの姿を見て驚いていたけど、誰も欠けていないことを確認すると目尻に涙を溜めながら笑顔で迎えてくれた。

 

「おかえりなさい芽吹先輩、皆さん。任務お疲れ様でした」

「ええ、ありがとう亜耶ちゃん」

「あややの笑顔で癒されるよぉー」

「雀先輩! だ、大丈夫ですか!?」

「この子なら平気よ。唾でもつけておけば治るから」

「ちょっとそれ酷いよメブー! 私はふかふかのベッドに寝転がりたいー!」

 

二人のやり取りに笑いが漏れていた。

 

「……加賀城は相変わらず。でもその気持ちは分からなくはない」

「あら、戻りましたのねしずくさん」

「ん。みんな無事で良かった……結城、大丈夫?」

「……はい。だいじょう……です。しずく、さ──」

「──っ。結城!」

 

名前を呼ばれている気がするけれど、それも遠くに聞こえてしまって自分はキチンと返事ができているのかすら分からない。ちょっと無理しすぎたみたいで、安心したら強い眠気が襲ってきている。

 

抗えずに私の意識はここで一旦途切れてしまった────。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。