私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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四十五話

◾️

 

 

 

私がこのゴールドタワーに来てからは上ばかりを見ていたがまさか『地下』が存在するとまでは予想がつかなかった。

 

「あの、芽吹さん……ここって」

「ここは本来有事の際以外は立ち入りを禁止されているところなの。このタワーの機密情報にも関わるから余計にね。さっ、もうすぐ着くわ」

 

言いながら芽吹さんと私は扉の前にまでやってきた。彼女はそのまま開けると中には、

 

『──お待ちしておりました結城様。御役目、ご苦労様でした』

「あっ、友奈様っ! 目が覚めたんですね、良かった……」

「安芸さんに亜耶ちゃん? どうしてここに……」

「私もいる。結城、無事でよかった」

「しずくさんまで??」

 

扉の横で待機していたしずくさんに軽く寄りかかられつつも疑問符ばかり浮かぶ私に亜耶ちゃんは一歩前に出てきてくれた。

 

「ここは神樹様の『根』に近い場所なんです。周りの装飾も奉るためにしてあるんですよ」

「へぇ、そうなんだ……えっと、それで私はなんでこの場所に」

『今回の任務……御役目をここで完遂させるためです。国土さん』

「はい。では、芽吹先輩、しずく先輩もどうかご協力のほどよろしくお願いします」

「えぇ」

「…わかった」

 

亜耶ちゃんの言っている意味が分からないけど、私の隣にいた二人は彼女の言葉に従って前へ進む。そうして並んだ三人は部屋の中央により豪華に装飾された、まるで『奉納場』らしき所で膝を折り曲げた。

 

『只今から巫女である国土さんが祝詞を述べます』

「あそこにあるものって……」

 

あれは任務で手に入れた『花』だった。中央で巫女服に身を包んだ彼女はそのまま祝詞を始める。その表情はいつになく真剣そのもので並々ならぬ気迫さえも感じ取れた。

 

(……花が、少しずつ咲いていく?)

 

どういう理屈かは分からない。しかし目の前の光景には、小さく開いていた花びらが、まるで息を吹き返したように咲き始めていく。まるで植物の成長過程を眺めている気分だ。そうして淡く輝きを放ちながら花はいつしか『満開』を迎え、そして次に『散華』が始まる。ひらひらと、花びらは役目を終えるように散っていく様はどこか寂しさを覚えた。

 

「──これは人の願いを集めたもの。私たちの願いの『結晶』……友奈様」

「はい」

「どうか受け取ってください。私たちの想いと願いを込めた『紡ぎの種』を」

「……紡ぎの種」

 

亜耶ちゃんは両手に乗せたものを私に掲げながら云う。

絹布で丁寧に包まれた『花』から採れた『種』たち。『紡ぎの種』と呼ばれたそれを私に渡してくれた。

 

「これはあの過酷な環境下である『炎の世界』の土で育った植物なの。神樹様に近いこの場所で祝詞を私たちで送り、その種に『加護』を付与してもらったのよ」

「……結城に刻まれている『刻印』の働きを抑制する効果がある」

「種の数は『九つ』。経口摂取によってその効能は発揮されます。友奈様、私たちではこれが精一杯でした。力不足で申し訳ありません」

「そんな、こと……そんなことないよ亜耶ちゃん、芽吹さん、しずくさん」

 

受け取った『種』を両手で優しく包んで胸の前に持っていく。この『紡ぎの種』からはみんなの『熱』が力強く伝わってくる。

この場にいる人たちだけじゃない。きっと上にいる隊のみんなの分も加わっていると理解できた。目頭が熱くなる。

 

「こんな私のために……こんな凄いものを作ってくれるなんて思っても見なかったです」

「……友奈。自分のことを『こんな』なんて言わないの。大切な『仲間』が困っているんだから、手を差し伸べるのは当然でしょ?」

「楠の言う通り。結城、本当は治せればよかったんだけど……」

「ううん。そんなことないよしずくさん。本当に、嬉しい。こんなにあったかいものをくれて、すごいありがとうだよ」

「私の実力不足のせいで、本当ならもっと『種』の数を増やせる筈だったんですけど……未熟者で申し訳ございません」

「未熟者じゃないよ亜耶ちゃんは……ありがとう。みんな」

 

私は三人に抱きついた。今の感謝の気持ちを伝えるのにどうすればいいのかわからなくなっちゃうぐらい強く。そして私はこの人たちから『託された』事実を胸に刻むために。

 

「く、苦しい結城」

「ゆ、友奈……ちょ! まだ喜ぶのは早いんだからね」

「わっぷ……友奈ひゃま!?」

「わかってるよ芽吹さん。でも、でもね! 今はいっぱいのありがとうをみんなにわかって欲しいの!」

 

こんなにも素晴らしい仲間に恵まれて私はなんて幸せ者なのだろう。三人は戸惑いながらも私のことをしっかりと受け止めてくれて、安芸さんはそんな私たちを仮面越しだけど見守ってくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

こうして私たちの『御役目』は無事に終わりを迎える。芽吹さんたちからすれば満点といく結果ではなかったらしいけれど、私にとってはこれでもないぐらい嬉しいことだった。『紡ぎの種』、防人のみんなが私に託してくれたもの。手渡された私は大事にしまって地下から再び地上へと戻ってきていた。日は私が目覚めた時から変わらずに夜のまま。そして今日はこのまま部屋に……とはいかなかった。

 

「友奈、もう少し私たちに付き合ってもらってもいいかしら?」

「え? はいもちろん構いませんが……どこにいくんですか?」

「……それはついてからのお楽しみ。ね、国土」

「はい。みなさんの準備も整っている頃かと思います」

「準備って?」

 

何やら意味ありげに示し合わせる三人に首を傾げる。そういえば、先ほどから移動しているのに隊の誰にもすれ違わないことにも疑問を抱いていた。そうしてたどり着いた先はタワーの『食堂』前であった。

扉の前で立ち止まった三人は振り返って私を見てくる。

 

「さぁ、友奈。開けてみて」

「えっ? わ、わかりました」

 

芽吹さんに促され私は食堂の扉を開いた。その直後にパン、パンッと乾いた破裂音が所々から響き渡る。私は驚いて目を見開いた。

 

『友奈ちゃん、初任務達成おめでと〜!』

「ひゃ、な、なにこれ!? み、みんな?」

「おー! いいリアクションするね友奈さん!」

「サプライズ大成功ですわね」

「加賀城さん? 弥勒さん…? あの芽吹さんこれって」

「驚いたでしょ。急ピッチで仕上げたから豪勢にとはいかなかったけどね。みんながどうしてもやりたいって」

「……後は早いけど『クリスマスパーティー』も兼ねてやるつもり。結城、明後日には帰るからちょうど良かったのかもしれない」

「しずくさん……」

 

先に三人には道中で説明は済ませている。けれど他のみんなにはまだ説明していなくて、近くに来ていた加賀城さんがしずくさんの言葉を聞いて凄く驚いていた。

 

「ええっ!!? 友奈さん明後日に帰っちゃうのー!!?!」

『えぇーー!」

「……あ、ごめん結城」

「し、しずくさーん……って、みなさん!?」

「どうしてどうしてっ!」

「寂しいよぉ! 急過ぎるって」

「あ、あの私……」

「わたしたちの癒しがぁ……!」

 

雪崩れ込むように隊のみんなに囲まれてしまう。もみくちゃにされて目を回しそうになりそうだったけど、その中から芽吹さんが引っ張り出してくれた。

 

「こら、あなたたち! 友奈を困らせないの。まぁ、今言った通り友奈にも勇者としての御役目があるのよ。ここでの御役目は先の任務で無事に達成された。友奈には次の御役目に向かわなければならないの」

 

芽吹さんの言葉によってようやく場が収まった。うん、でもみんなの気持ちが感じ取れる。本当に別れを惜しんでくれていることに。だから私は一歩前に出てその気持ちに応えなければいけない。

 

「ありがとうございますみなさん。短い間でしたけどここでの生活はとても掛け替えのないものでした。不甲斐ない自分にこうして沢山の優しさを向けてくれて私はとても幸せ者だと実感できました。それもこれもみなさんのお陰だと私は胸を張って言えます」

 

私の言葉をみんな真剣に聞いてくれている。

 

「これからもお互いに辛いこと、大変なことがあると思います。でもみなさんが……この防人ならば乗り越えられると信じています。戦う場所は異なってもその先に向いている『(こころざし)』は同じだから」

 

最初は何もかも諦めてここに来た。どうしようもない気持ちを抱えたまま勇者部(みんな)の所にいるのは嫌だったから。不安ばかりだったけど、今はこうしてこのゴールドタワーに来て良かったと思える。生まれて半年と経たない私にとってこの『思い出』は宝物のようだった。

 

「だからこれが『お別れ』じゃなくて、その……これからも私のお友達でいてくれひゃらと! ……あぅ」

「きゃー! 最後に噛んじゃうなんて可愛いよ友奈ちゃん!」

「もちろんそう思ってるに決まってるじゃん! ねぇ、みんな!」

「なら今日は飲んで騒いでと無礼講だぁー!」

 

一人の言葉にみんなが湧き立つ。私は最後の最後に噛んじゃって顔が熱いのに……。そんな不甲斐ない私の肩を芽吹さんが叩いてくれてしずくさんが嬉しそうにみんなの輪に引き込んでくれた。

 

 

「皆さま! ケーキをお持ちしましたよ。たくさん召し上がって下さい」

「きたきたぁ! ナイス亜耶ちゃんー!」

「ケーキ、ケーキ♪」

「これはわたくしの秘蔵のティーセットが火を吹きますわね」

「言ってること意味わかんないけど、わたしも食べる食べるー!」

「まったくもう雀ったら、これぐらいの元気で訓練に挑んで欲しいものだけど……」

「…結城、一緒にケーキ食べよ」

「うん!」

「友奈様、私がお取りいたしますね」

「ありがとー亜耶ちゃん」

 

私にとって二回目のパーティーだ。わいわいと活気付いた食堂には沢山の料理と、ちょっと早めのクリスマスケーキ。私は身体の違和感も忘れるぐらい楽しい時間を過ごすことができました。

 

 

────

───

──

 

 

 

夜が更けてもみんなのテンションは下がることを知らずに楽しんでいたが、彼女たちには明日も訓練はあるためにお開きとなった。連絡先を交換したり色々と親睦も深めることができて私も満足できた。

 

「…………。」

 

今はしずくさんの部屋に戻って夜の天井を寝ながら見上げる。流石に入浴に関しては一緒に……とはいかないのでそこはそれとなく事実を知る人たちが配慮してくれた。お風呂から上がってしずくさんに髪を乾かしてもらって、お返しに私がしてあげる。いつのまにか二つ用意してあった寝床も、今は一つのものを使って肩を寄せ合って寝ていた。

 

「──結城、起きてるの?」

「…うん。まだちょっと興奮しちゃってるみたいで……起こしちゃった?」

「……私も同じ。今日のパーティーは今までで一番楽しかった気がする」

「ですね」

 

ごそごそとしずくさんが動くと私の横でぴょこっと癖っ毛が跳ねていた。まるで猫の耳みたい。

 

「……結城、まだ『種』は飲まないの?」

「今は気分がいいので大丈夫だと思います。それに数も限られているのでもったいなく思っちゃって」

「でもそれで結城に何かあったらとても心配……遠慮なく使って欲しい」

「……そうですね。はい」

 

安心させるように笑いかけると、しずくさんは私の腕に抱きついてきた。

 

「……しずくさん、どうしたんですか? もしかして寂しくなっちゃいましたか」

「……ん。つぎに結城と会えるのはいつになるのか分からないから」

「ふふ、またきっと会えますよ。ううん……私から会いにきちゃいますから」

 

日々の中やたまにお忍びやらで会うことは出来ていたが、大赦の方針でそもそも『防人』と『勇者』は本来接触することは出来ないんだ。私がここに来たのも例外でしかなく、表の舞台で活躍する私達が裏で活躍してくれている人たちにこうして会うことは、御役目が終わらない限り出来なくなる。でも私はこれで『お別れ』なんて微塵も思っちゃいない。

 

「結城…?」

「私ね、ようやく自分の手で何かを掴めた気がするの。自分がどうしたいのか、何をしていきたいのか」

「何をしたいか……?」

 

うん、と微笑みながらしずくさんを見る。

 

「私ね、友達と……大切な人と幸せに暮らしていきたい。そのためだったら天の神様にだって立ち向かえる」

 

だからこんな悲しい戦いは終わらせないといけない。私は『勇者』でこの戦いを終わらせることのできる可能性を秘めているんだ。だから諦めない。『託されたもの』を次に繋げるために。

 

「だから一緒に戦って欲しいの。しずくさん、みんなでこの戦いを終わらせようよ。それでしがらみも何も気にせずに楽しい思い出を作って行こう?」

「……結城」

 

きゅっと腕に込められる力。俯いたしずくさんは再び顔を上げて、

 

「──やっぱオマエはつえーな。さすがオレが見込んだヤツだよ」

「シズクさん……」

「やりたい事が見つかったんだな。結城……」

「うん、おかげさまでね」

「……はっ。ならしゃーねぇな、似たもの通しの馴染みだ……力になれるならなってやるよ。それがしずくの幸せに繋がるなら、戦ってやる」

「ありがとうございます。シズクさん」

 

あぁ、と素っ気なく答える彼女は寝返りを打って反対側を向いた。それ以上は何も言わず夜の静寂とともに沈黙が広がっていった。

 





『紡ぎの種』。
こちらはゆゆゆいで使用されているものを使わせてもらいました(名前だけを借りただけで用途としては別物ですが)
所謂、痛み止めの役割を担う薬種。

さて、ようやく『防人編』を終わらせられますね。自分の意思で見つけた『願い』を持って私は勇者部に戻っていきます。
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